授業より現状把握が大切です
生徒達は朝早くから教室に集まって、情報を交換していた。
分からない事だらけで、皆気が休まらないようだ。
ようやくエリナ先生が表れ、教室が静まり返った。
「おっはよー♪ 久しぶりだね☆」
いろんな意味で静まり返った。
「皆気になるだろうし、HRは先日の事についての情報交換の時間にします♪」
「先生、正直に言って下さいね? こんな戦い、生き残れる筈ないよね?」
1人の女子生徒が、恐る恐るエリナ先生に質問する。
もはや、確認に近いものだ。
「うーん……強くなれば大丈夫♪」
「無理です。あんな化け物……」
大半の生徒が、その言葉に頷いた。
「だいたい、学園長って誰なんです? 信用出来るんですか?」
それは、この場の皆が気になっている事だろう。
「知らないわ。校長先生も見た事無いらしいけど、学園の歴史では、学園の設立時より、学園長は変わっていないみたいね。信用するかは、皆が判断する事よ。学園なのに、校長先生って呼び方も不思議だったけどね」
確かに、判断するのは自分であるとは言え、判断材料が少な過ぎる。
校長先生も知らないとは、予想外だったようで、エリナ先生も内心首を傾げる。
そして、正確な年数は分からないが、少なくとも学園は数千年も前に作られた筈なので、学園長も数千年生きている事になってしまう。
「まあ、ただの冒険者が、いきなり学園を作ると言って、国が認める筈もないけれどね……それなら、不死だかなんだか知らないけど、長寿で力も信頼もある者が作ったと言われた方が、しっくりくるよね」
確かに、普通の冒険者が各国から土地を譲ってもらう事など、出来ないであろう。
しかも、各国の未来を担う子供達を預けるような学園を、勇者とは言え、元々は荒くれ者の冒険者であった者に任せるだろうか?
答えは、否である。
「あは☆ あんな校長が最高責任者なんて止めて欲しいわあ♪」
意外と酷いエリナ先生。
まあ、そうだけど。
「でも、最後まで足掻くのは賛成よ☆ 何もやらずに死ぬのは、つまんないし♪」
「そういう問題か!」
「久しぶりに、ジンに突っ込まれた♪」
「嬉しいのかよ!」
「誰も相手してくれないもん♪」
寂しい人ですね。
「言われなくても、足掻くけどな!」
「……うん」
「いつもだろうが」
頼もしい言葉に、エリナ先生の目が細められる。
なんだかんだ言って、自分の生徒の成長が嬉しいようだ。
「生きるかは別にして~うるさい敵には黙って(死んで)貰うけどね~」
「なんか、違う言葉に聞こえた……」
「多分、ジンが聞こえた通りよ。良くある事じゃない。小説とかで」
「リアルに聞きたくねえ!」
「まあ、暴れないように抑える(殺る)のは当たり前でしょう?」
「まさかの二回目!」
ジン、いちいち反応していたら、生きていけないぞ……。
「だよね♪ もちろん私も(殺す)よ☆」
「別バージョン!? 聞こえてはならない言葉が聞こえた!?」
お前、変な才能あるな……。
「とりあえず、魔法ぶっ放してれば、なんとかなるんじゃない~?」
「やられる前に、殺るのね」
「殺り尽くす♪」
「隠すの止めたよね!? 面倒になったよね!?」
「「「黙れ」」」 にっこり
「…………」
ジン、相手が悪過ぎる。
魔王も、ドラゴンも、死に神も逃げ出すメンバーだと思うぞ。
「実際、Sランクの魔物なら問題無かったよね♪ ベヒモス、結構しぶとかったけどさ、何回か蹴飛ばしたら黙ったし」
「三首の黒龍は強かったよ~サイクロプスとキメラなら、騎士がなんとか相手出来るみたい~」
「ドラゴン!? 天災級じゃない! しかも三首!? SSランクでも良さそうな強さじゃない? それに比べたら、ベヒモスなんて、おもちゃだわ♪」
「いえ、Sの上級程度です。元々一頭だったのが、いきなり三首になっただけです。おかげで分かりやすい弱点が有りましたから」
「それでも強いよ♪ ドラゴン単体で、ベヒモスなんて倒せるからね☆ 魔法が効かないし、打撃攻撃も弾かれるし、私打つ手無しだわ……」
「衝撃波で倒せるよ~」
「達人級の技なんて無理♪ どれだけの力と速さが必要なのよ?」
「ちょっとしたテクニックですよ」
見事に周りを置いていった3人。
どうやら、Sランクのベヒモスと、Sランク上位のドラゴンの話しらしい……としか、周りは理解出来ない。
ベヒモス一頭で、街がひとつ消える程、恐るべき強さを持っていると言うのに、そんなものでは、納得しないらしい。
勇者が、どれだけ他の冒険者とは力の差があるのか、ようやく理解出来た。
天災クラスでない限り、真価を発揮出来ない程の強さ――臨界点を突破した者のみがたどり着く事が出来る“並ぶ者の居ない孤独の世界”で生きる住人。
強さの代わりに失うものは、とてつもなく大きいのだと。
「でも……不謹慎だけど……ようやく満たされたんだよね……全力を出せるって、張り切っちゃった♪」
「まだ、足りないかな~」
「乾いたままよね」
「2人共、飢えてるね☆ 私もだけど☆ 疑問だったんだよね、どうして必要以上に力が有るのか」
「必要とされない力ね……考える事も無かったな~ただの人間の力なんて、たかが知れてるからね~」
「弱い体が耐えうる力の限度以上の力なんて、諸刃の剣よね」
それが本心なのだろう。
強者にしか分からない事だが、言葉に含まれた孤独感だけは読み取れる。
強い事は、必ずしも良い事ではない。
出す事が出来ぬ力に、どんな意味が有るのだろうか……。
理解されぬ力に、どんな価値が有るのだろうか……。
「皆は逃げて良いのよ☆ 私達が勝手に暴れまわるだけだし♪ 逃げた方が、血生臭い光景を見なくて済むし♪」
エリナ先生は、この戦いに“普通の”冒険者達を巻き込みたくないのだろう。
強さを持って生まれてしまった自分達の戦いだと、そう言いたいのだろう。
今まで以上の地獄を、見なくて良い存在に見て欲しくないのだろう。
生まれた意味が違うのだと、そう言いたいのだろう。
だが……
「逃げねー! 弱くても、足掻くぜ! それしか出来ねーからな!」
「……初めて見つけた唯一価値ある僕の力だから……この力で一緒に戦いたい」
「逃げたくありません。二度と……大切な物を見失いたくない」
ジン、ラング、ムウは腹を括った。
“共に”孤独の世界に行く事を……。
「私も戦いますわよ! 逃げ惑うなど、私のプライドが許しませんわ! 辛い事は、乗り越える為に有るのではなくて?」
「エレミアを守る事が使命。でも、それ以上に大切なの。エレミアの友として、肩を並べる事は」
「私は、怖いです。でも、もう守られるだけは嫌です。私も、私の大切なものを守る為に戦います」
「戦闘から逃げたら、戦闘狂じゃないね。良いじゃん、周り敵だらけなんて最高じゃねえか!」
「男なら戦いで死ぬが本望。それが勝てぬ戦でも」
〈ミラージュ〉の一同も、戦う事を決意する。
そんな彼らを見て、周りの生徒も自らの考えを改める。
逃げ場などないのだ。
今までも、冒険者として死地へと向かっていたのだ。
今度は死地からやってくるだけだ。
逃げる為の力ではない、戦う為に磨いてきた力なのだ。
迷いが消えた生徒達を見て、良い笑顔を浮かべるエリナ先生。
「良い答えね♪ これから特訓しなくちゃいけないね☆」
またも、教室は静まり返った。
「他には質問有るかな?」
そんな空気も感じないらしいエリナ先生の質問に、生徒達は非難の視線を向ける。
効いてないが。
「あのー」
とりあえず話しを進めようと、男子生徒が手を挙げる。
「なあに?」
「帰り道、山が焦げて……あれ? この表現で良いのか? とりあえず、凄い事になっていたんですが、あれは?」
「ああ♪ 校長先生と親友が、ガルーダと遭遇した所ね☆ ガルーダの炎で、山が焼き払われちゃったの♪ もちろん、校長先生と親友が倒したから、何も心配要らないわ♪」
「なるほど……」
驚くのも面倒になってきたので、素直に納得しておく男子生徒。
「他には?」
「有り過ぎて、質問出来ません」
一番前に居た女子生徒が、皆の胸中を代弁する。
「だよね☆」
エリナ先生も分からない事が多いので、気持ちは分かるのだ。
気にするか、気にしないかの違いがあるのだが。
もちろん、エリナ先生はあまり気にしていないタイプだ。
「んじゃ、質問タイム終わるね☆ 次、課題提出してね♪ こんな時でも、成績はつきますよ☆」
空気読んで欲しいと、思いながらも生徒達は課題を提出する。
半数は課題どころではなかったのか、座ったまま動かない。
普通、そうなるだろう。
「出来なかった子は、ガルーダに焼き払われ、校長と親友に破壊された村の復興を手伝ってもらいます♪ 拒否権無しです☆ 苦情殺到なのよ……」
ご愁傷様です。
何故、教師の尻拭いを生徒がやる必要があるんだよ……。
「次、これからの授業は、全て特訓に使う事に(今)決まりました♪」
「今決めたな!」
「鋭いねジン♪ 面白い才能だね☆」
「嬉しくない……」
うなだれたジンを放っておいて、テキパキ話しを進めるエリナ先生。
「そうそう、外部の方々が避難して来てるから、困っていたら助けてあげてね☆ 此処に居る間は、雑用をしてもらう事になったから♪ 言っておくけど、貴族とか、関係ないからね☆」
緊急事態に、避難先として受け入れてもらうのだから、当然だろう。
元々、身分を気にするような所でもないし、特別扱いをしても何の利もない。
王族ですら、適当に扱うような学園なので、分かっている事だ。
「学園の購買で、魔法具の仕入れも強化したから、足りない子は買いに行ってね☆ 逆に、買取もしてるわよ♪ 安いけど」
購買と言うより、商店街と言った方が良い位の規模であったのに、更にレベルアップしたらしい。
ギルドとの繋がりが強いからこそ、出来る事だろう。
ほとんど一方的に校長が提案を押し切るのだが。
「忘れてた☆ 実技教師に、魔王軍から有能な子借りたから、いろいろ教えてもらってね♪」
借りれたの?
魔王もお人好しですね……。
「案外、強かったよ☆」
力試しと言う名の、ただの決闘を行ったのだろう。
血の気の多い奴らめ。
エリナ先生の様子から、一方的に勝ちまくったのだろう。
「どんな奴?」
ラザックが興味を示した。
ガナンも期待しているようで、静かに耳を傾ける。
「リザードマン、ケット・シー、ワーウルフ、ワーキャット、ラミア、ワイバーン、ロック鳥が来たわね☆」
心当たりが有りすぎる……。
「皆、仲良くしてね☆」
簡単に言ってくれる……。
これまで以上に、大変な学園生活になりそうだ……。
◇◇◇◇◇
「のう〈才希〉や」
「なんだ?」
被害報告の書類で山積みとなった机を無視して、のんびりお茶を飲みながら〈才希〉に話し掛ける校長。
日向ぼっこしていた〈才希〉は、首だけ起こして耳を傾ける。
「学園長とは、何者じゃ?」
「悪いが、言う事が出来ぬ」
「ほう?」
「直ぐに、会う事になるだろう。それまで待って欲しい」
「会えるものなのか?」
「……なんだと思っていたんだ?」
「幽霊?」
「……んな訳あるか! 物凄く失礼ではないか」
「しかしのぅ……幾年生きておるのじゃ? 常識から考えて、そう思うじゃろ」
校長にも常識はあるのか……。
「アホか。人間の常識で考えるな」
「いやいや、人間じゃし」
「いつから、人間が支配するのが当たり前になったのだ……おこがましい」
「いつからじゃろかのぅ?」
「言っておくが、人間が居なくとも世界は困らんぞ。居る方が厄介だ」
「酷い言われようじゃのぅ……」
全く気にした様子もなく、文句を言う校長に、にやりと笑う〈才希〉。
「わかりきった事だろう?」
「そうじゃな」
それっきり、言葉を交わす事もなく、今まで通り、好き勝手に時間を潰す。
居るだけで安心するかのように、適度な距離を保ち続けた……




