学園に戻りし者達
慌ただしい誕生祭を終え、しばし羽を伸ばした一同は、冬休み最終日に学園に戻ってきた。
久々に移転魔法で移動して、各自寮に荷物を置いてから、現状を把握すべく職員室に向かった。
「何故、倒れているのですか? エリナ先生?」
「暴れすぎたのよ☆ 疲れているのに、説教をされたのよ☆」
「何をしたんですか?」
「ベヒモスを蹴飛ばしたら、周りの人も巻き込んじゃった☆」
おい!
「死者は?」
「居ないわよ☆ 重傷者は居たけど☆」
バリッ!
「痛い痛い! 止めて〈才希〉ちゃん☆」
「反省しろ!」
「してるしてる♪」
「どこがじゃーー!」
完全にキレてる〈才希〉に、思いっきり引っかかれるエリナ先生。
あの素早い〈才希〉の攻撃を、かすり傷は負いながらも、ひょいひょい避けるエリナ先生も凄い。
「ベヒモスって、蹴れるのか?」
「……もう、突っ込んじゃ駄目」
「常識は通用しない……」
ジンの疑問に、遠い目で答えるラング、着実に悟りを開いていくムウ。
とりあえず頷いておくジン。
「エリナ先生、生徒の無事は確認しましたか?」
「ああ、一週間ほど駆けずり回って回収して来たわよ♪」
「か、回収……」
多分、見つけ次第攫って来たんだろう。
人騒がせな……。
「ただ、〈ニーファ〉には入れなくてね……凄い被害なのよ」
「そんなにですか?」
「半壊ってとこかな? あんな所に下手に近付いたら攻撃されちゃうわ☆」
「行けよ! それこそ蹴散らせよ!」
いつもの突っ込みが出たジン。
言ってから後悔して、口を押さえる。
「え? 良いの!?」
「ジン~?」
「悪い……分かったから、睨まないでくれない? ツバサ?」
「余計にややこしくなった~」
本当に蹴散らしに行こうとするエリナ先生を、アヤメとツバサが捕まえる。
ツバサに睨まれ、即ムウの後ろに隠れるジン。
迷惑そうにムウがジンをつまみ出す。
「落ち着いて下さい。そんな事したら、生徒まで吹き飛びます!」
「忘れてた☆ 流石アヤメちゃん♪」
「誰でも分かります……」
「なら、どうしようか♪」
一気に疲れが襲い掛かり、その場にへたり込んだアヤメ。
ツバサは〈才希〉を抱いて、むにゅむにゅ弄りながら現実逃避中。
自然とエリナ先生の視線は、ラングとムウに向けられる。
ジンは素通りされた。
「……え? ……ムウ」
「俺か!? の、乗り込む?」
悩んだ末に、ムウに丸投げしたラング。
困ったムウは、とりあえず一番早そうな解決方法を口にする。
「よし、乗り込もう~!」
「ツバサ!?」
意外な事に賛成したツバサに、思わず叫びながら振り向いたジン。
愛くるしい動物を抱え、微笑みを浮かべるツバサに、普通なら和むであろう光景だが、その抱えられた動物が力無く伸びている事により、薄ら寒い光景となっている。
弄られ過ぎたらしい。
「貴族連中だけでしょ~? 一カ所に纏めて、移転魔法で解決じゃない~?」
「どうやって纏めるのよ?」
「召還獣を飛ばそう~」
「見つかったら、撃ち落とされるわよ」
「普通の召還獣ならね~鳳凰がそんなに弱いと思う~?」
「まあ、鳳凰なら問題ないけど、目立つわよ?」
「行くだけで目立つでしょ~」
まあ、そうだろうね。
まだ混乱状態が続いている国に、わざわざ向かう物好きな人間は居ない。
他国を寄せ付けない国なら尚更だ。
どっちにしても目立つなら、もはや悩む必要もない。
直ぐに行動に移すアヤメとツバサ。
鳳凰に簡単に説明を書いた手紙を持たせて、窓から飛び立たせる。
急ぐ必要があるので、アヤメとツバサの強化魔法が掛けられた。
◇◇◇◇◇
「ちょっと! あれは!」
エレミアが、魔法を避けながら飛ぶ金色に輝く鳥を見付け、慌ててリーゼを呼ぶ。
リーゼも驚いて、そちらを凝視する。
一羽は此方に、もう一羽は違う場所に向かっている。
飛び交う魔法に阻まれ、スピードが出せないようだ。狙いはむちゃくちゃで、手当たり次第に放たれた魔法だろう。
「あちらは……副会長が居る方向ね」
「来た来た!」
此方に気付いて急降下する鳳凰。
魔法が当たるのも無視して、必死に此方に向かって降下する。
「お嬢様!」
「大丈夫ですわ! 見方ですわよ!」
「はい、私も見覚えが有りますので、分かっております。何か出来る事は御座いますか?」
駆けつけた執事に、クリスティアを呼ぶように言いつけるエレミア。
ようやく降り立った鳳凰は、持っている手紙を差し出す。
直ぐに受け取ったエレミアは、鳳凰の傷を見る。
あれだけ当たったにもかかわらず、かすり傷程度の傷しかない事に、驚いて思わず鳳凰を見つめる。
ご心配なくと言うように、優しく見つめ返す鳳凰。
ちょっとほっとして、改めて頭を下げるエレミア。
急いで手紙を開けて、ついつい笑みがこぼれたエレミアに、不思議そうに内容を聞くリーゼ。
「急いで集まるわよ。迎えに来るみたいだから」
「え? 本当に!?」
「ええ」
急いで駆けつけたクリスティアにも手紙の内容を話すと、嬉しそうに飛び跳ねるクリスティア。
いつもおしとやかなクリスティアが、こんなにも子供のように飛び跳ねる姿を見たエレミアとリーゼは、お互いの顔を見合わせる。
家族に学園に戻る事を告げ、既に準備をしてあった荷物を持ってネーヴェン家に向かう。
それを見届けた鳳凰は、主の元へ急いで飛び立つ。
「皆を呼んで下さい!」
皆を迎えに行くよう、執事達に指示するスーウェン。
幸いにも、貴族の子供はネーヴェン家の近くの避難所に集まっていた。
これなら直ぐに集まるだろう。
一番離れた場所に居るエレミア、クリスティア、リーゼには、此方より先に連絡がいっているようだと、もう一羽の鳳凰が居ない事から推測する。
「問題は、王家か……」
少し考えるスーウェンだが、今更気にする事ではない事を思い出す。
王家の方も、権力だの、見栄だの、それどころではないのだ。
それに王家の力も、この戦いでかなり衰えた。
王城が、内部の睨み合いによって麻痺したせいで、騎士の連携が乱れ、押し寄せる敵すら阻めず、城は半壊した。
王家についた中流貴族は、王家の有り様に愛想を尽かし、好き勝手に自分達の為に走り回っている。
ネーヴェン家に避難してきた貴族は、元から王家を良く思っていない家だけ。
既に分かっている者だけだ。
「お嬢様」
執事に呼ばれて振り返ると、ほとんどの法家の生徒と、下流貴族の生徒が集まっていた。
此方に向かってくるエレミア、クリスティア、リーゼも見えたので、胸をなで下ろしたスーウェン。
それぞれの両親、家族は民を守る為に残る事を決めている。
ただ、まだ幼い子供をどうするか、皆決めかねていた。
「集まったわね」
「とりあえず集まったが、どうやって帰るんだ?」
イグニスの質問に、どう説明するか悩むスーウェン。
だが、答える前に目の前に居た鳳凰が光り輝く。
そして、鳳凰の後ろの魔法陣が表れ、〈レジェンド〉一同と、エリナ先生が表れたので、皆が押し黙る。
分かっていたエレミア、リーゼ、クリスティア、スーウェンは説明の手間が省いて安堵し、知らなかった周りの生徒は驚き、固まった。
「副会長、お久しぶりです」
「ええ、久しぶりねアヤメ」
本来、行った事の無い場所には行けないのが移転魔法の欠点だが、召還獣を目印にして移転する事により、知らない場所にも行く事が可能になった。
更に精密にする為に、一羽の鳳凰に戻ってもらい、同じ種族で、対となる存在の現在地を教えてもらい、残った鳳凰が戻った鳳凰に向かって呼び掛けてもらう事で情報を確固たるものにして、適地に放り出される……なんてアクシデントを防いだのだ。
まさに、神業である。
「なんか、凄い被害だね~」
周りを見渡したツバサが、緊張感なく感想を口にする。
「そりゃあ、こんな時だもの」
「久しぶりエミー。吹き飛ばせば良いと思うけど~?」
「無理言わないでちょうだい」
「無理ではないよ~」
まあ、普通は無理ですね。
「騎士が居るでしょう?」
「アヤメさん、残念ですが、王城があんな状況です」
遥か後方に見える煙りを指差し、スーウェンが肩をすくめる。
城が無傷なら、ネーヴェン家からでも小さく屋根が見える筈だ。
それだけ王城が大きいのだ。
が、今は煙りが見えるだけである。
「良く見えないね~ちょっと見てくる」
見てみたいらしいツバサが、防壁を自身の周りに張り、飛行魔法で飛んでいく。
自重する気は無いらしい。
流石に驚いて、アヤメに問おうとしたスーウェンだが、アヤメも見に行ってしまった。
「えっと……飛行魔法?」
とりあえず、残されたジン、ラング、ムウに確認すると、3人共一斉に頷いた。
「あらま~半壊どころじゃないね~」
「王城がこんな状態で、今後どうするのかしら?」
戻ってきた2人は、全く気にせず城を見た感想を述べるが、周りの人間にはそれどころではない。
「何故、飛行魔法が使えるのかしら?」
「質問無し~置いてくよ~?」
「聞かないわ。だから置いてかないでちょうだい」
エレミアの質問を、にこやかに拒否しつつ脅すツバサ。
なら見せるなよ!
「帰ろうよ☆ 疲れたし♪」
何もしていない筈のエリナ先生が、疲れたと言い帰る事を提案するので、冷たい視線がエリナ先生に集中する。
「エリナ先生、あなたは残って下さい」
「何故? 酷いよ☆」
「なら、黙って下さい」
直ぐに静かになったエリナ先生。
「あの、良いでしょうか?」
「クリス? どうしたの~?」
「幼い子供は、避難させたいのです。一時的で構いません。学園の近くの宿でも良いです。国の状況を考えると、幼い子供を置いて行くのは……」
「エリナ先生、どうします?」
「良いと思うよ♪ 校長先生には説明しとくから☆」
「了解です」
急いで子供達を集め、世話する人も一緒に帰る事になった。
あまり大人数だと、移転魔法でも無理があるのかとスーウェンが気にしたが、魔力が足りればいくらでも移転可能だと答えが返ってきた。
その魔力量が計れないので、限界が分からないらしい。
可能かどうかはほっといて、出来る限り負担を減らす事にしたスーウェン。
「ジン、ムウ、敵が後方から来る。任せるよ~」
「おう!」
「はい」
「ラング、結界を張って。副会長、避難する人を急いで連れてきて下さい」
用意していると、避難所を守る結界が破れ、敵がなだれ込んできたので、ジンとムウが武器を構え突っ込む。
ラングが見える範囲に簡易版の結界を張って、時間を稼ぐ。
急いで子供達を連れてくるスーウェンとクリスティア。
「後で、あいつら連れて帰るから、アヤメは先に帰って~やっぱり、見て見ぬ振りは出来ないや~」
「お人好しね。分かったわ。嫌いなのは、王家だけだし」
「そういう事~まあ、減らすだけね~」
「ええ」
アヤメが移転魔法を使う為に、集まった避難民の元へ向かう。
「大丈夫なの?」
「1人でも、この位可能です」
「違う違う。残して大丈夫なの?」
「副会長、なら少し見てみます?」
輝く魔法陣の中の、避難する人々が心配そうに、残ると言うツバサや、戦うジン、ラング、ムウ、そして、国に残る事を選んだ家族を見ていたので、少しなら良いだろうと判断したアヤメ。
気になるのは仕方ない。
「ごめんなさい。我が儘を……」
「いえ」
戦いを見ると、ツバサの指示で後ろに下がってツバサの攻撃からすり抜ける敵を倒すジンとムウ、容赦なく敵に雷を落とすツバサ、衝撃を受け止めるラング、皆まだまだ余裕が有りそうだ。
「分かりました?」
「心配要らなかったわね……」
皆が安心したのを見て、移転魔法を発動し学園に戻るアヤメ。
◇◇◇◇◇
ちゃっかり移転魔法で帰って来ていたエリナ先生は、アヤメに脅され校長室に報告に向かった。
避難してきた外部の方々は、食堂に連れて行って休ませる。
生徒達は荷物を部屋に置いて、また食堂に戻ってきた。
自国の者達故に、少し位自分達で出来る事をしたいようだ。
食べる暇もなく、お腹を空かせていた子供達は、食堂のおばちゃんが出してくれた食事に夢中だ。
「ちょっと、様子見て来ます」
そう言ってその場から消えたアヤメ。
スーウェンはただ頷くしかなかった。
しばらくして、騎士達だけでなんとかなる数まで敵を減らしてから、何事もなかったように戻って来た〈レジェンド〉一同。
ようやく静かな夜が来た……




