逃げ足には自信が有る!
〈レジェンド〉の一同を先頭に、ぞろぞろと村の出口に向かう。
神獣達は、皆(村人含む)を囲み、周りを確認する。
お人好しで、我が儘で、規格外なアヤメとツバサが、全力で呼び出した召還獣が目を光らせる。
とにかく多い。
「バイコーン、ヒポグリフ、フェンリル、ドラゴン、フェニックス、龍蛇、猛禽類などなど……多くね? てか、凄くね? 魔王もびっくりだよね?」
「まだ居るけど? 足りないかしら?」
「もう十分だと思う! 何で今まで出さなかったんだ?」
「被害が大きいからよ。神獣だけで、大概なんとかなるし」
「後、いたずらに見せびらかしたくない。面倒事に巻き込まれる」
アヤメとツバサの説明に、先ほどまでの村人の様子を思い出し、納得してしまったジン、ラング、ムウ。
「揃ったな? もう待たないぞ」
「……ちょっと待って」
何が積まれているのか分からないが、荷物で一杯の一台の馬車が遅れている。
初老の男性が馬を急がせているが、馬も限界のようで、嫌々引っ張っているように見える。
この状況で、何を考えているのやら。
「多すぎる。出来るだけ減らせ」
「無理じゃ。全財産じゃぞ!」
「強欲な奴だな。死にたいのか?」
「魔法師なら、この位なんとかせい!」
「……知らん。行くぞ」
呆れ顔で皆を促すツバサに、周りの村人達も素直に従う。
皆も分かっているのだ。
この状況で、くだらない欲など捨てるべきだと。
村人達は家すら捨てる事になったのだ。
今更、物に執着する必要はない。
「ケチ! 悪魔! ラウザ様、お願いしますじゃ」
「知らんぞい! 魔力の無駄遣いだ」
「な!?」
ラウザにも断られ、渋々荷物を下ろした男性は、尚も諦めきれず、魔法師を順に睨み付ける。
見かねた村長が、男性をひっつかんで馬車に放り込んだ。
村人達は手際良い村長に拍手する。
「なんだかなぁ……」
ジンの一言は、魔法師皆の心情を表している。
「道を開く。ラング、ラウザさん、衝撃を盾で防いでくれ」
「何するか分からんが、任せておけ」
「……頑張る」
アヤメとツバサが、結界に遮られて尚群がる魔物達を見据える。
とりあえず吹き飛ばさなければ、村から出る事も出来ない。
アヤメとツバサの合図で、ドラゴンとフェニックス、フェンリルが身構える。
「視界が晴れたら、直ぐに出発する」
ツバサの言葉に、皆も頷いた。
アヤメが数え切れない程の聖なる矢を放ち、ツバサが幾本もの雷を落とす。
道を塞ぐ骸を、ドラゴンとフェニックスが焼き払い、道を開く。
出来上がった道の両脇から新たに現れる敵は、フェンリルの氷で阻まれる。
凄まじい衝撃波が皆に迫るが、全力で盾を張るラングとラウザによって防がれる。
衝撃に押されるラングとラウザを、ジンとムウが支える。
「〈麗牙〉! 上空の敵は任せた」
「〈風牙〉もお願い!」
「「御意」」
フェンリルの氷が届かぬ上空から次々と魔物が押し寄せるが、〈麗牙〉が力任せになぎ倒し、〈風牙〉が皆の上に落ちぬように風を操り吹き飛ばす。
〈スピネル〉が視界を塞ぐ土煙を吹き飛ばした。
「行くぞ! 前だけ見ろ」
「振り返らないで! ジン、ムウは一番後ろへ! 龍蛇と共に後ろを警戒して」
「分かった!」
「はい!」
最後尾の馬車まで走るジンとムウ。
龍蛇が頭上で目を光らせる。
常にアヤメとツバサが先頭を歩き、群がる敵を蹴散らしていく。
ラングとラウザは盾を張りながら、怪我をした村人に治癒魔法を施していく。
後ろから襲い掛かる敵は、ジンとムウが対応する。
庇いきれない分は、召還獣と神獣達が対応する。
村人達は、出来るだけ足を引っ張らないように、必死に足を動かす。
「大分、暗くなってきたぞい」
ラウザが杖の上に光を灯しながら、周囲を見渡す。
まだまだ、街は見えない。
「野営しましょう。出来るだけ集まって下さい」
少し開けた場所に出たので、野営する事を決める。
冒険者だけなら、徹夜で走ってもなんとかなるが、一般人を夜通し走らせる訳にはいかない。
フェンリルの氷で、野営地の周りに防壁を作り、テントを張る。
召還獣は近くの森で待機するようだ。
「まあ、少しならもつかな?」
アヤメが氷の壁を見上げて、小さく頷いた。
疲れ果て地面に座り込んだジンは、火照った体を氷の冷気で冷やす。
ラングは腕を痛めたムウに、僅かに残った魔力をひねり出し、治癒魔法をかける。
ラウザは、村人や馬を見に行っている。
ガルは、村人達に混ざって夕飯の準備をしている。
「ふむ。盛大に魔法をぶっ放したおかげなのか、狂った生き物も警戒しているな。たとえ理性を失ったとは言え、本能は残っているのだな」
「まあ、流石に見れば分かるし……」
周りをうろうろしている気配はするが、襲ってくる事はない。
あれだけ盛大にぶっ放されたら、本能が働かない訳がない。
更に、本来ならば関わる事さえ躊躇するような上位の魔物や、居る事がおかしい筈の神獣や幻獣が居るのだ。恐れない方がおかしいだろう。
「あれでも、控えめだぞ」
「なんだけどね……」
……控えめなのか?
「おーい! 夕飯出来たよ!」
ガルに呼ばれて、皆焚き火のある方に振り向く。
「頼んでないのだが?」
「あ、うん! 勝手に用意した!」
「なら呼ばれよう」
また勝手に恩を押し付けられたくないので、一応聞いておくツバサ。
ガルもなんとなく理解して、慌てて付け足しておく。
あからさまに胸をなで下ろすジン、ラング、ムウ。
全く表情を変えないアヤメとツバサ。
苦笑するガル。
「行こうか」
アヤメに促され、皆夕飯を貰いに行く。
食べ終わった後は、疲れに負けて直ぐに眠ったジン、ラング、ムウ。
こういう時、全く寝ないのが癖になっているアヤメとツバサが見張りについた。
数日間、ひたすら歩き続けて、やっと街が見えた時、最大の敵が現れたとしたら、どう感じるだろうか……。
人型の敵を葬る事に、ようやく気持ちを吹っ切れたジン、ラング、ムウは、また試練が現れたと、天を仰ぐ。
人型の敵に、驚き嘆いた村人達は、今度は自分達の番かと思い、身を縮める。
ラウザは、口ではボロクソに言うが、本心では息子のように愛する弟子を、自らの背後に庇う。
ガルは、顔も知らない両親の代わりに、親として、師として慕うラウザを見上げ、不甲斐ない自分を責めるように唇を噛み締める。
そんな彼らを背後に、一歩も引かないアヤメとツバサ。
「ある意味、凄いわね」
「だな。現実離れし過ぎだ」
眼前の敵を睨みながら、今の状況を確認しあうアヤメとツバサ。
「今まで、Bランクの魔物だけだったわよね?」
「ああ。あと、人間な」
「何故、いきなりSランクまで跳ね上がるのかしら?」
「知らん……気分だろ?」
「そんなバカな……」
いきなり現れた高ランクの魔物。
サイクロプス、キメラはまだ良い……良くないが、その後ろに三首の黒いドラゴンが居るのだ。
なら召還獣で大丈夫じゃない?……なんて思ったら大間違い。
元々強い上に、強化(狂化?)されており、普通(?)の魔物でしかない召還獣とは比べ物にならない強さとなっている。
「だから、やられるわよね……」
アヤメがチラッと横を見る。
果敢に挑んだ召還獣だったが、それなりに傷は負わせたが、ほとんど意味なく逆に倒された。
死んではいないが、戦えはしない。
「皆さん、街まで走って下さい。時間を稼ぎます」
レイピアを構えてアヤメが叫ぶ。
「な!? 無理だ!」
ジンが慌てて抗議するが、聞き入れてもらえない。
「軍に報告したら、避難しなさい」
「……でも」
「早くしなさい」
敵が待ってくれる筈もなく、巨大な岩が飛んできたが、ツバサの火弾が弾き飛ばした。
「後ろを良く見ろ。騎馬隊、魔法騎士が待機している」
振り向いて確認すると、騎士が整列してこちらを見ている。
キメラの突進を、風の槍を放ち牽制するアヤメ。
迫り来る炎の塊を、水砲で打ち消すツバサ。
「邪魔だ……失せろ」
低く呟いたツバサを見て、ぎょっとして下がったジン、ラング、ムウ。
「やべー! 一番怖い事に……」
「……あ、アヤメもだ」
「全力で逃げるぞ! 走れ!」
遂に、2人が怒ったのだ。
2人の周りを、溢れ出した魔力が渦巻いている。
有り得ない光景に、ラウザとガルは二度見する。
魔力が溢れるなど、どんな魔力量なのだろうか……。魔王でも出来ない事だと言えば、どれだけ凄い事か分かるだろうか?
我に帰り、慌てて村人達を引き連れ街に向かうラウザとガル。
村人達は、もうどうにでもなれ状態で促されるまま街に向かう。
異常な魔力を感じて、サイクロプスは一歩下がり、キメラは凝視し、ドラゴンはうなり声を響かせる。
騎馬隊、魔法騎士が村人達と入れ替わるように前に出る。
「何したら良い?」
恐る恐る口を開けたのは、ユニコーンにまたがったテルテル。
ちょうど、王命で見回りに来ていたら、この異常事態に鉢合わせたので、部下を率いて街から出たら、見知った顔を見つけ、怯える部下を引き連れ駆け付けたのだ。
意外と度胸がある奴だ。
「サイクロプス、キメラは任せた」
「え? 2体も?」
「戦って死にたい? 今すぐ死にたい? 選んで良いわよ」
「勿論、戦います!」
ツバサに睨まれ、アヤメの絶対零度の微笑みを向けられ、冷や汗を流しながらガクガクと頷いたテルテル。
頷いたのを見て、直ぐに走り出した2人は、あっという間にドラゴンの元へ。
流石は騎士。直ぐに陣を組み、魔物と向き合う騎士達。
騎士達に加勢する〈ファング〉と〈スピネル〉。〈スカイ〉は後ろから援護しながら、騎士の手当てをする。
黒いドラゴンに、白銀の光となって連続攻撃を仕掛ける〈麗牙〉と、素早い動きで錯乱する〈風牙〉。
街まで走る中、飛び出してくる魔物を蹴散らすジンとムウ。
援護するラングとラウザ。
驚くべきスピードで逃げる村人達。
ジンとムウに加勢する、偶然ギルドに居た冒険者達。
応援を呼ぶ、ギルド職員達。
逃げてきた村人を、何も言わず受け入れる街の住民。
習ったばかりの治癒魔法を必死に使いながら、戦いを見守る見習い魔法師達。
終わりが見えない戦いに、皆が一つに纏まった瞬間だった……
惜しげもなく、高ランクの魔物を出しますが、まだまだ終わりませんからね。
これでも、序章に過ぎませんよ。




