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今、守れる物を

 森の奥、どこから現れたのか不思議に思う程の数の敵に、〈麗牙〉は手当たり次第にねじ伏せていく。

 〈風牙〉もイライラしながら、風を纏い飛び回る。


「邪魔だ……」

「うっとうしい!」


 これだけイライラしても、高威力の攻撃をぶっ放さないだけ、素晴らしい。

 二匹が暴れたら、村なんて跡形もなく消し飛んでしまう。

 森は半壊状態だが。


「数だけは多い……」

「だが、弱い……」


 二匹にとって、気にもならない程に弱い攻撃だが、これだけ群がってくると、精神的に辛い。

 ひたすら自分との戦い(目の前の敵よりたちが悪い)を繰り広げていた。









「多すぎる……焼き払うか?」


 双剣を振るうツバサ。

 圧倒的な実力差で、次々と片付けているが、まだまだ終わりそうにない。


「ん? 仕方ない。合流するか」


 〈スピネル〉が低空飛行を始めたので、何かあったと判断したツバサ。

 村に向かって走り出す。








「減らないわね……」


 いくら倒しても終わりが見えない。

 アヤメの周りは血に染まっている。


『アヤメ! 村に戻って』


 通信用魔法具で、いきなりツバサに呼ばれたアヤメは、とりあえず村に向かいながら説明を求める。


「何故?」


『〈スピネル〉が高度を下げた。何かあったんだと思う』


「分かったわ。皆にも言った?」


『呼び掛けても、応答がない』


 それを聞いて、走るスピードを上げるアヤメ。


「聞こえる? 村に今向かっているから、聞こえたら来るか、無理なら連絡して」


 ツバサとの通信が切れたので、急いで他のメンバーに呼び掛ける。

 それでも出ないので、更にスピードを上げて走る。









 庇いながら戦うのは難しい。

 〈ファング〉は苦戦しながら、決してジンから離れぬよう、防御に徹する。


「戦え! このままでは、やられる」

「聞いてない……こんな子供が……無理だ……人は切れない!」

「く! 仕方ない!」


 ジンをくわえて、全力で跳躍してその場を脱出する〈ファング〉。

 その時、通信用魔法具からツバサの声が聞こえてきたが、話す余裕がない。

 次にアヤメの声が聞こえてきたが、周りの音で魔法具から聞こえる小さな声はかき消される。

 だが、その声から焦りを感じたので、とりあえず結界内へ逃げ込む事にする。

 敵が来れない結界内なら、落ち着いて話が出来ると判断した。









「どうした? ムウ?」


 ムウが握る刀は、人型の敵に触れる寸前に止まっていた。

 何度も斬ろうと刀を振るうが、どうしても寸前で止まってしまう。

 良く見ると、少し震えている。

 一度距離を取るムウ。


「斬れない……頭では分かっている……だが、どうしても斬れない」

「……敵だぞ?」

「だが、人なんだ……」

「あれがか?」


 ムウはもう一度敵に意識を向ける。


「だずげ……まものじゃ……ない……じにだぐ……ない」


 涙を流しながら手を伸ばし、じりじりと近寄って来るそれに、恐怖を感じて出来るだけ距離を取るムウ。

 仕方なく、ムウを掴んで飛び上がった〈スピネル〉に、通信用魔法具からツバサの声が聞こえてきたが、今は話せない。

 今度はアヤメの声が聞こえてきたので、風の音で聞こえにくい中、集中して耳を傾ける。


『き……いる……村に……』


(村?)


『い……むか……いる……』


(村、むか、いる……村に向かっている……だろうか? 何が? とりあえず村へ向かうか)


 なんとか繋げてみたが、自信が無いので躊躇するが、とりあえず村へ向かえば分かるだろうと判断する。

 しっかりと落ちないようにムウを掴んでいるか確認してから、もう一度力強く羽ばたいてスピードを上げる。









「主様? どうしたのです?」


 くるりと振り向いた〈スカイ〉が、心配そうにラングを見つめる。


「今まであれほど正確だったのに、先ほどから外していますけど……どこか悪いのですか?」


 ラングの魔法が、少しずつ外れるようになってきたのだ。

 今まで、こんなに外した事はない。


「……だって……あんな小さな子供に、当てられないよ……」


 狂っているとは言え、人の姿を留めている敵に、どうしても魔法を当てられないのだと、伝えるラング。

 まだ小さな子供の姿の敵、赤ん坊を抱いている女性、やせ細った老人など、様々な人間だった生き物がいる。

 まだ意識がある者、涙を流す者、助けを求める者、そんな彼らを傷つける事が出来ないのだ。


「もう、戻れません。苦しむだけです」

「…………見たくないよ」


 俯いてしまったラングを、どうしたら良いのか分からず、ただ見つめるだけしか出来ない〈スカイ〉。

 ラングの持つ通信用魔法具から、ツバサとアヤメの声が聞こえたので、とりあえず待つ事にする。










「なるほど……」


 集まったメンバーを見て、ツバサはため息を吐き出す。


「ぬるい。覚悟が足らん! 冒険者として生きるならば、これくらい覚悟しておくべきだ」

「悪い……」

「……ごめんなさい」

「申し訳ありません」

「もう良いでしょ? ツバサ?」


 うなだれるジン、座り込んだラング、頭を下げるムウ。

 見かねたアヤメが、3人を睨みつけるツバサを止める。

 不満げにアヤメを見つめた後、直ぐに思考を切り替えるツバサ。


「手当たり次第、倒していくしかないな。数だけ多い」

「そうね。見渡す限り、敵だらけ」

「吹き飛ばすか」

「止めて……冗談でも笑えないから」


 全く笑えない。


「終わらないではないか」

「だからと言って、山を消しても良い訳ないじゃない」

「少しの犠牲は仕方ない」

「少しなの?」


 どう考えても、天変地異です。


「殲滅は無理だけど、数を減らしてしまえば、避難位は出来るわ。何発か、高威力の魔法を放つだけで良いと思うけど?」

「どこに避難するつもりだ? これだけの数が、小さな村に押し寄せてきたんだ。他の村や街も同じだろう」

「国の軍も動いているでしょう? いくらなんでも、国の全てが壊滅状態ではないでしょう。せめて防壁のある街まで行きましょう。力任せでは、他の村を巻き込みかねないわ」


 いつまでも、ラウザの結界に頼ってはいられない。


 強固な防壁が囲む街に避難をしたい。

 だが、素人を大人数引き連れ、魔物と戦いながらの長距離移動は、無理がある。

 冒険者だけでの移動なら、ある程度の被害は仕方ないが、可能ではある。


 村での籠城戦は論外だ。

 ラウザの身が持たないのは勿論、食料も足りない、いつ終わるのか分からない、そもそも結界が何処まで持つか分からない。

 大きな魔物の一撃で、結界が一瞬で破られる事は、珍しくない。


 殲滅は不可能。

 いくらアヤメとツバサが強くても、人の身では限度がある。

 もし、大陸中の冒険者全てが動いたとしても、何年かかるのか分からない。


「詰んでないか?」

「だよね……」


 完璧に詰んでいる。


「とりあえず、移動が一番現実的だな」

「あえて選ぶならね……」

「どこまで被害があるのか、全く情報が無いと困るな……どちらに逃げる?」

「うーん……いっそのこと、私達だけで逃げる?」

「面倒になったな?」


 アヤメが見捨てる事を提案するので、苦笑しながら指摘するツバサ。

 まあ、2人だけなら確実に生き残れるのは確かだ。

 青ざめる村人達。


「まあ、他人だしな。関わりも無いから、どうでも良いがな。魔法師に頼る事しか、出来ないみたいだし。危機感を持たなかった奴が悪いか」

「情報は有ったのにね」


 ツバサの自身も、わざわざ他人を守りながら逃げるより、自らの身を優先して逃げる事の方が現実的だと思う。

 ラングの家族が居るから、たまたま此処に居たから、出来る事をしたに過ぎない。

 本来、関わる事もない。


「それでも人間か!?」


 村人の1人が叫んだ。


「人間だから、自分を第一に考えているだけだが?」


 無表情でツバサが答える。

 何も感じられない相貌に、本当に自分達がどうなろうと関係ないと考えている事が分かった村人は、震えながらも叫ぶのを止めない。


「あ、悪魔だ! 血も涙もないのか!? 世話になっておいて!」

「なった覚えはない。恩を押し付けるな。守ってもらえなければ、悪人にするのがこの村のやり方か? 身勝手だな。自らは高みの見物を決め込んで、労いもせず非難するとは、良い御身分だな」

「力が無いんだ! 仕方ないだろう!」

「世界は弱肉強食だ。いつまでも、強者に守ってもらえると思うな」


 自然界で弱者に生きる道は無い。

 生まれて直ぐから立ち上がる動物達は、子供でも必死に戦い生き抜いている。

 生ぬるい箱庭で、甘える事に慣れた人間は、どんな生き物よりも弱い。

 ただ、数が多く、頭が回るだけだ。


「ツバサ、私もう此処から離れたい。こんな都合の良い奴らを守る気は無いわ。私達は、聖人君子ではないもの」

「そうだな。聖人君子でも、限度があるだろうがな」


 そそくさ帰る準備をするアヤメ、今一度装備を確認するツバサ。


「我々も行こう」


 黙って見ていた〈ファング〉が、見かねた様子でジンを促す。

 〈スピネル〉は村人を睨み付け、〈スカイ〉は主を自らの影に隠す。

 神獣達も、わざわざ他人を守る気は無いようだ。


 慈悲と自己犠牲は違う。

 自らの事も大切にしなければ、何も守る事は出来ない。

 自らの身が安全でなければ、他人を気遣う事は出来ない。

 人を助けて、自らが犠牲になっても、自らは救われない。

 それでも良いと言う者は、ただの自己満足を追い求めて、自らに酔いしれているだけだ。


 自らが犠牲になって、何を感じられようか?

 死したら何も感じぬ。助けた者の安否を知る事も出来ぬ。安心する事も、賞賛を浴びて喜ぶ事も、感謝の言葉も、成した事の責任も、自らの残した体の処理も、何一つとしてやれる事は無い。

 それは、本当に良い事なのだろうか?


 例え死なずとも、その後の事は考えているのだろうか?

 助けられた者が、責任を感じる事もあるだろう。

 動かない体を、恨めしく思う事もあるだろう。

 助けた者がすがりついてきた時、責任を取れるだろうか?


 本当に善意で助けたいなら、自らの考えを全く変えない、強い意志が必要になるのではないか?

 様々な覚悟も必要ではないか?

 全く変わらない意志など、存在するのだろうか?

 ころりと変わるなら、単なる気まぐれではないのだろうか?


 自らに余裕が無い限り、優しくもなれなければ、助けを求める者に気付く事も出来ない。


 自らが生きる道を考えられないならば、人を生かす道も考えられない。


 尊い物だとは思う。

 凄い事だとも思う。

 有り難いとも思う。


 だが、同時に悲しいとも思う。

 もっと、そんな自分を大切にして欲しいとも思う。


 神獣達は、自らの事を棚に上げて、勝手な事を考えていた。

 生き物なんて、皆自分勝手なのだと、良く分からない言い訳をして。

 人の考えは分からないのだから、自分の考えを押し付ける気も無いが、押し通す覚悟だけは有る。


 自らに必要な者を、生きて欲しいと思う者を、自らの我が儘で守り抜くと。


「行くぞ」

「〈ファング〉!? でも……」

「我の我が儘だ。お前を助ける事しか出来ぬ。余裕が無いのだ。嫌なら、自分の力だけでやれるようになってから、我が儘を押し通せ」


 ジンは止めようとしたが、自らの身も守れなかった先ほどの自分を思い出し、押し黙る。

 〈ファング〉は、黙ってしまったジンを複雑な思いで見つめる。


「ムウ、これ以上は……」

「弱い自分が悪い。そんな自分を助けてくれる〈スピネル〉に、何も言う事は出来ない。素直に従おう」


 ムウは、見た目は怖いが、心は優しい神獣の内心を察した。

 助けられる者を、全力で助けようとしているだけだ。

 神獣にも限界が有るように、自らの師匠も限界を感じたのだろうと、なんとなくだが感じた。

 壊すのは簡単だが、直すのは難しい事も理解している。

 そんなムウの成長を、嬉しそうに目を細めて見つめる〈スピネル〉。


「申し訳ありません。力不足です……」

「…………ううん……僕には、限界を見極める事も出来ないから……教えてくれて、ありがとう」


 ラングは、誰かを責めるつもりは無い。

 自らの力が、皆より劣っている事を理解しているからだ。

 足手まといになる自分を、見捨てる事をせずに心配してくれる〈スカイ〉に、これ以上の我が儘は言えない。

 〈スカイ〉は、ただ頭を下げ続けた。


「もし、勝手についてくるなら……止めないぞ。責任は持たないが」


 村人が諦めかけた時、ツバサが思わぬ提案をしてきた。

 移転魔法で帰れば、一瞬で帰れるアヤメとツバサだが、使うつもりが無いらしい。

 勝手についてくる事を、否定する事は出来ない。

 行動するか、しないかは、その人の勝手な行動だ。


「面倒も見ないわよ。自分の身は、自分で守ってね」


 勝手にしろと、言外に告げるアヤメ。


「私はついてくぞい! まだまだ、死ねんからのぅ!」

「先生、何年生きるつもりですか? 仕方ないから、世話係として、何処までもついて行きますよ」

「守らんぞ」

「勝手に生きます」


 いつ用意したのか、ちゃんと身支度を済ましてあったラウザと、呆れ顔で付き従うガル。

 後、百年は生きそうだ。

 慌て始める村人達。


「私も行く!」


 レイナが勢い良く手を挙げて、両親に向き直る。


「行こう? 生きてれば、なんとかなると思う。身支度してくる!」

「そうさな! なんとかするか!」

「うむ!」


 シーナとロックも、急いで荷物を取りに行く。

 周りの村人も腹を括り、荷物を持ち出し馬車に乗せる。

 狩りをする者は、武器の確認をして握り締める。


「お人好しよね」

「アヤメこそ」


 アヤメとツバサは、お互いの我が儘な性格を指摘し、笑い合う。

 ジン、ラング、ムウは、そんな師匠を誇りに思い、静かに頭を下げる。

 神獣達は、主人を守る誓いを胸に、主人達の成長を見守る。


 我が儘な生き物達が、我が儘に生きる為に、生き残る為の準備を始めた…

長すぎますかね?

これでも減らしたんですが…

困った事に書きたい事だらけなんです

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