走る走る
開いて下さってありがとうございます
久々に電源キーを押してしまった…
早朝、簡単な朝食を取り、バイコーン達に跨がってひた走る。
時折飛び出す魔物を、馬上訓練を兼ねて片っ端から討伐していく。
危なっかしい手綱さばきで必死に戦うジン、ラング、ムウを、後ろから見守り、援護するアヤメとツバサ。
「ハラハラするね~」
「そうね」
度々落ちそうになる3人に、肝を冷やす2人。
バイコーン達が苦労しながら、落ちないようにフォローしている。
おかげでかなりスピードが落ちた。
「情報通りね。魔物が多い。異常な数だわ…」
「繁殖期でもないのにね~」
ギルドで集めた情報は、異常発生した魔物の情報がほとんどだった。
繁殖期ではない魔物まで、数を増やしている。
魔草もあちらこちらに生えているので、解毒薬を飲んでおいた。
「魔草の毒粉で、森も被害が大きいわね。所々、枯れてるわ」
「早く抜けたいね~解毒薬にも数に限りが有るし~」
早く抜けたいのだが、未だに苦労しているジン、ラング、ムウに合わせているバイコーン達にはそんな余裕が無い。
「しょうがない。これ使うか~」
ツバサ特性魔物除けの液体が入った小瓶を取り出し、戦う3人と魔物の間に投げるツバサ。
バイコーン達も素早く下がり、魔物達も怯んで距離を取る。
合図を送るアヤメを見て、バイコーン達がその場を後にする。
「訓練はこの位で良いでしょう?魔草の毒に長い時間触れたくないわ。前に進みましょう」
「また、飛び出してきたら頼むよ~」
「お、おう」
「………うん」
「分かりました」
慣れない事に、いつも以上に疲れた体を必死に奮い立たせる3人。
ひたすら走る走る。
昼食を取る為に、木陰に腰を下ろす。
朝食の時に作っておいたサンドイッチを頬張る一同。
「あと、どれくらいかしら?」
「だいぶ遠くまで来たよな」
「かなり飛ばしたからね~」
「………助かった」
「ちょっと、体が痛いですが…」
ジン、ラング、ムウは腰をさする。
「あと1日位、頑張ってよ」
「馬や馬車なら、もっと大変だよ~」
「魔物に怯えて、立ち止まるしね。馬を守りながら戦うのは疲れるし」
「だからと言って、空飛んで行く訳にもいかないしね~空に逃げ場はないし~」
上空には、沢山の魔物が飛び交っており、そんな状態で飛び立てば真っ先に標的にされ、慣れない上空での戦いに追われる事になる。
休む場所も、見つけるのに苦労する。
神獣は目立ちすぎるので論外だ。目撃者達に、次から次へ面倒事に巻き込まれるのは勘弁だ。
そんなにお人好しではない。
「おう…頑張る」
「………まだ、大丈夫」
「頑張ります」
ほんのちょっと回復した3人が、身支度を終えたのを確認してバイコーンに跨がって走り出す。
時折現れる魔物をバイコーン達が蹴散らし、吹き飛ばしていく。
急な岩場も軽々と乗り越え、ひたすら走る走る。
夜、そろそろ休もうかと野営地を探す一同は、木々の間から光が漏れている場所を見つける。
小さな話し声も聞こえてくるので、人が居るのだろうが、何故こんな森に居るのか不思議に思い、遠くから様子を見る。
こちらに来る気配はないので、気付いていないのだろう。
「魔法師なのは分かるけど…」
「2人かな~?」
魔力探知で探るアヤメとツバサ。
「どこに向かってるのかしら?」
「ん~うろうろしているし~何か探してるのか、迷ったのかな~?」
どうするか迷う一同。
「!ヤバい!魔物が囲み始めた。まだ気付いてないな…行くか?」
探知に優れたツバサが、臨戦態勢に入り皆に警戒を促す。既に、のんびりした雰囲気はかき消えている。
アヤメも臨戦態勢に入り、周囲に神経を張り巡らす。
一瞬迷った後、武器を構えて頷いたジン、ラング、ムウ。
「行く!」
「………うん」
「行きます」
アヤメとツバサを先頭に、皆森の中に突入する。
グガァ!
「痺れろ魔物共!」
横から勢い良く飛び出したハイウルフに、素早く反応した1人の魔法師が電気の矢を飛ばす。
長い杖を持ち、三角帽子にマント姿の老婆。まさに、魔女と言った姿だ。
「害なす者の自由を奪え」
もう一人の魔法師、〈レジェンド〉のメンバーと同じ位の男子が、木の根を操り魔物を捕らえる。
動けない魔物に、老婆が魔法を打ち込んでいくが、数が多く間に合わない。
「「!?」」
2人の魔法師に飛びかかったハイウルフが、横に吹き飛んだ。
ツバサが宙でくるりと回転し、音も無く着地する。
木の上に居たロックリザード(体が岩のように堅く、頭に一本の角が有るトカゲ型の魔物)を、岩のような皮膚をものともせずに真っ二つにするアヤメ。
「間に合った!おりゃあ!」
「ふん!」
ジンとムウがハイウルフに迫り、ラングの身体強化魔法が力と速度を底上げする。
木に隠れて確認出来ないが、周りを囲まれてしまったようで、あちらこちらから魔物のうなり声が聞こえる。
少し離れた場所で、待機していたバイコーン達も参戦し始めた。どうやら、かなり数が多いらしい。
「バイコーン達が参戦したか…自己判断に任せていると言うのに、逃げずに戦うとは相当多いな」
主人から待機を言い渡された時、状況を見定め判断するのはバイコーン達に任されている。
足となり、切り札となるバイコーン達は、むやみに戦わず、体力を温存して待機または、撤退する事が多い。
彼らも自らのやるべき事と実力を、しっかり理解しているからだ。
それでも参戦すると言う事は、彼らが主人の身を案じる程に強い敵か、逃げられない程の数が居る時だけだ。
待機と言う命令なので、自らの住処に帰ると言う選択はない。
「ハイウルフ、ロックリザード、ソードバード…普段共闘しない魔物達ね」
頭上を飛び回る、羽に刃がついた魔物を見上げ、アヤメが呟く。
ソードバード…羽に鋭い刃があり、尾に長い針が隠れている魔物。視力に頼らず、音で獲物を見つける夜のハンター。
ハイウルフは同種族で群れを作り、自分たちの獲物を狙う多種族は排除する習性があり、ロックリザードは単体で物陰に隠れて徘徊する魔物であり、ソードバードは奇襲を得意とし、簡単に姿を表す魔物ではない。
そんな魔物達が、これだけの数で同じ獲物を狙うなど、普通なら有り得ない。
たかが、数人の人間でこれだけの魔物の腹が満たされる訳がないのだ。
ここまで集まる理由が分からない。
「誰じゃ?」
老婆が訝しげに問うが、今答える事ではないので、目の前の敵に集中する。
「話しは後です」
「…そうじゃな」
アヤメとツバサは目に見えないスピードで、次々と敵を葬る。
「大刀・刃煌一閃」
ジンが大剣で敵を追い詰め、固まった敵をムウが光で覆った刀で斬り伏せる。
光で出来た刀は、刀身を二倍に伸ばし、返り血を弾き刃の切れ味を守る。
維持するのは難しく、魔力も大量に使うので一振りが限界だが、それでも十分威力がある。
避けやすい事が難点だが。
「言えよ!俺が危ないだろ!」
なんとか避けたジンが、冷や汗を流しながら抗議する。
「ふむ。忘れていた」
何も気にしていないムウ。
「………風刃乱舞」
魔物に風の刃を撃ちまくるラング。
次々と放たれる風の刃は、的確に動き回る魔物を切り裂く。
正確に、物凄い速さで放たれる刃に、反応すら出来ずに魔物は息絶える。
狙う時間と、隙が出来る為に自らの周囲に敵が居ない事が条件なので、一人では出来ないのが難点だが。
あと、見方が動くと危ない。
「だから、言えよ!」
「………ごめん。…集中してた」
「集中する前に言え!」
すぐ近くを刃が飛んでいき、肝を冷やしたジン。
生きた心地がしない…。
バキャ!ドザァ!
何かがぶつかる音に、恐る恐る振り返ったジン、ちょうどそちらを見ていたラング、驚いて顔を上げたムウ。
木にハイウルフが突き刺さっている。
その近くには、切り刻まれたハイウルフだった物が落ちている。
「うおぉ…」
「………わぁ」
「………」
双剣で斬り、邪魔な敵を蹴り飛ばすツバサと、どけるのが面倒なのか細かく切り刻むアヤメ。
背後に回った魔物は、見もせずに魔法で吹き飛ばす。
早い早い。
「魔物がゴミクズみたいだ…」
「………良く飛ぶね」
「師匠…流石です…」
いくら低級の魔物とは言え、こんな簡単に吹き飛んで良いのだろうか…。
突っ込んでも無駄だと、既に理解しているジン、ラング、ムウは自分の戦いに集中する事にした。
老婆と、多分弟子だと思われる男子は、目の前の光景に固まっている。
「私は…もうボケたか?」
「なら…俺もです先生」
やはり、弟子だったようだ。
先生と呼ばれた老婆は、まじまじと弟子の顔を見る。
「いや、お前はアホじゃ」
「酷いです!」
騒ぐ弟子を無視して、近くの魔物に魔法を放つ老婆。
現状を思い出し、慌てて自らも加わる弟子。
相変わらず、圧倒的な力で敵を葬るアヤメとツバサ。
連携プレーで次々と魔物を倒していくジン、ラング、ムウ。
「助かったぞ。若いの」
逃げ出した魔物は放っておいて、周りの魔物を片付けた一同。
老婆の言葉に、一同は振り向き、老婆の元に集まって来た。
「って!ラング!?」
「………ガル!?」
お互いに指差し、驚く2人。
「知っとるのか?」
「先生、同じ村の幼なじみです!久しぶりだな!槍使ってんだな!」
「………うん!大切にしてる」
老婆に簡単に説明する弟子…ガル。
再会を喜ぶ2人。
「槍?」
疑問を口にするジン。
「……入学が決まった時、ガルから貰ったんだ」
「俺、狩りやらないからな!魔法師になるって決めたし」
「魔法師でも、武器は使うわバカ弟子」
「………苦手なだけでしょ?」
先生の言葉と、ラングの指摘にしおれたガル。
「ラング…お前変わったな…」
「………そう?」
「容赦なくなった…」
多分、ラングが学園に通い始めてから一番変わったのが、これだと思う。
天然だからこそ、グサッとくる。
「………そうかな?」
「おう…」
「そろそろ良いかしら?」
完全に置いていかれたアヤメが声をかけると、改めて〈レジェンド〉のメンバーを見渡すガル。
「どちら様?」
「バカ弟子!」
「あでっ!」
「聞く前に名乗らんか!…私はラウザ。魔法師じゃ。ラングとやら、名前位聞いておろう?」
「………村の外れに住む魔法師?」
「そうじゃ。村を守るかわりに、いろいろ貰っておる」
村に居る魔法師とは、この老婆…ラウザだったようだ。
「………遠くから見ただけだったから、分からなかったです…」
「だろうな。私も知らんしな。挨拶にも来んとは…恩知らずめ」
「………ごめんなさい。親から、あの家の窓から煙りが出て来て、偶然通りかかって倒れた人が居るから、近付いたら駄目って言われてましたから…」
「…そうだったかの?」
「先生、俺も倒れましたよ…」
「暴露せんで良いわ!」
ラングの謝罪と説明に、惚けるラウザだったが、ガルがすかさず指摘する。
ガルは根に持っているらしい。
「俺は、ガル・カージ!ラウザ先生から魔法を教えてもらってる」
ちょっと気が済んだらしいガルが、改めて名を名乗る。
「私はアヤメ・シラギ」
「ツバサ・シラハネ。よろしく~」
「ジン・ラインブルグだ!」
「ムウ・サラード」
皆の名前を必死に覚えるガル。
「同じ学園かの?」
「はい。ギルドには、このメンバーで登録しています」
「あんた達は、学生に見えんがの…」
「学生です」
「学生だよ~」
アヤメとツバサが学生に見えないのは、皆同じらしい。
ガルも不思議そうだ。
「なあ…本当に同い年?」
「………の筈だよ」
「いや、見た目はそうだけど…」
「………なんだけど」
「実力がさ…」
「………規格外だよね」
ガルの問いに、自信なさげにラングが答えるが、納得出来ないらしいガル。
「野営地を探すかの?」
ラウザの一言に、とりあえず引き下がったガル。
広い道に出て、バイコーン達に鉢合わせたガルがとっさに構えるが、ラングからアヤメとツバサの召還獣だと聞いて、またも驚いたガルとラウザ。
適当な場所で夕食をとり、テントに入って寝るまで、ガルとラウザの質問の嵐に追われた一同だった…。
携帯の限界を感じる…




