湿地帯で泥だらけ
普段、静かな人が怒ると、予想外な事が起きる事がありますね
川が近く、雨が多い場所にある〈フラウニア〉西部の湿地帯に向かう。
途中までバイコーンに乗って来たが、足元が悪くなってきたので、ひたすら歩く事になった。
ぬかるみにはまって、既に泥だらけのジン、ラング、ムウ。
アヤメとツバサは、器用に木を渡って移動している。
湿地帯に入る前に、例の解毒薬を飲んだので、キリキリ草の毒の心配はない。
時々現れる猿のような魔物に苦戦しながら進んでいる。賢いらしく、遠くから石や枝を投げつけてくるので厄介だ。
「ぬお!抜けねー!」
「……無理。頑張って」
「………」
助けを求めるジンたが、ラングもムウも自分の事で精一杯だ。
足首程度まで埋まるので、抜くのに苦労する。
「とう!…ふべっ!」
なんとか抜け出したジンたが、勢い余って前にずっこけた。
ジン、ラング、ムウは木の上での戦闘に不慣れな為、地道に泥と格闘している。
木の上には、羽を休める鳥型の魔物や、すばしっこい猿型の魔物、擬態しながら獲物を待つ爬虫類型の魔物が沢山いる。
アヤメとツバサには、足止めにもならないようだが。
ケケケ!
猿型の魔物がジンを見ながら笑う。
「このやろう…」
必死に起き上がって、笑った魔物を追うジン。
見事に石や枝を当てられ、足元が愚かになり転倒する。留めと言わんばかりに、果物の種が投げられる。
「こいつら…」
怒りを抱えながらも、何も出来ないジン。涙目になっている。
「………うわ!」
今度はラングが尻餅をついた。
ウキー!
楽しそうに木の上を飛び交う魔物達。
「………風切り舞!」
どうやら堪忍袋の緒が切れたラングが、風の刃を飛ばしまくる。
狙いも何もないので、ジンとムウにも襲い掛かる。
何体か、魔物を切り裂いた風の刃を、文字通り転がってかわすジン、刀ではじきながら闇で消すムウ。
以外にもアヤメとツバサの所まで飛んできたので、その辺の魔物を盾にする2人。魔物哀れ…。
「………光の盾!」
突然起き上がったラングが、盾を横向に並べる。
そして、その上を走るラングに、呆気にとられる一同。
「って!ええっ!」
「有りか?それ?」
そう言いながら、ラングの作った道(?)を走るジンとムウ。
アヤメとツバサは、木の上で爆笑している。
新しい発想だ…。
「助かったぜ!」
「………便利」
「そうだな」
ご満悦の3人。
「自由な発想だね~」
「有る意味、天才よね」
「「「!?!?」」」
思わず二度見するジン、ラング、ムウ。
それもそのはず、アヤメとツバサは飛んでいたのだ。
大陸全土、どの国にも飛行魔法は存在しない…筈だった。
「と、ととと…」
「………え、ええっ!」
「夢か?これは…」
一瞬、浮くとか、物を飛ばすとか、そういった魔法は存在しないのが常識として教わった3人は、ただただ驚くしかない。
「どうした~?」
「ん?」
「いやいや!飛行魔法!?」
「風魔法の応用だよ~ちょっと難しいけどね~木を渡るの面倒になってきたし~」
「一歩間違えたら、即落下するからね」
「………そういう問題?」
「あと~莫大な魔力を使う事かな~」
「想像の難しさじゃない?」
「いえ…まあ、師匠ですから…」
思いっきり違う方向に問題を持っていった2人に、言葉を失うジン、ポカーンとしたラング、無理やり自分を納得させたムウ。
2人に常識を当てはめてはならない。
「?…まあ、古代魔法の一種だから~」
「驚いても仕方ないかな?」
古代魔法は、現在の技術で再現が不可能な現状(時空など)や、古代の人々の魔力量と現状の人々の魔力量の違い(飛行魔法など)などによって、失われた魔法であり、人類の憧れでもある。
魔力量の平均が下がっただけで、一部の魔法師(校長、アヤメ、ツバサなど)の魔力量は桁違いだ。
「とりあえず、このまま行こう~」
「奥まで行くわよ」
なんでもないように飛んでいくアヤメとツバサ。
今更、普通に話せたと喜ぶジンとラングを、暖かく見守るムウ。
襲い掛かる魔物を蹴散らしながら進む。
魔物の干からびた死骸を見つけ、足を止める一同。
直ぐ近くには、意識は有るが動けない魔物がいる。
「毒ね…キリキリ草では無いけど、毒草から神経毒が撒き散らされてるわね」
「もう一度、解毒薬を飲んでおこうか~」
眠そうなツバサの一言に、直ぐに反応して皆解毒薬を飲む。
昨日の夜、情報以上に毒が強かった精霊の涙の一件から、今回も一応多めに持って行く事にしたアヤメとツバサが、夜中まで作っていたので寝不足らしい。
寝不足でも、この位なら2人にとっては何も問題ないらしい。
「獲物の栄養を吸い取るタイプの魔草ね…干からびてるわ」
「さっさと抜けようか~」
少し、ペースを上げる一同。
ペースを上げた直後、木に隠れて本体は見えないが、刺だらけの蔦が飛び出し襲い掛かり、とっさに避けながら、切り落としたり燃やしたりしながら進む。
「蛾?蛾だよな?」
でかい蛾に行く手を阻まれた一同。
気持ち悪い…。
「鱗粉が毒。針を獲物に刺して、体内に卵を植え付ける魔物よ」
「燃やしちゃえ~」
アヤメの言葉に思わず一歩下がったジン、ラング、ムウだが、突然隣りで炎をぶっ飛ばし始めたツバサにぎょっとする。
「いきなりね…」
「この魔物嫌い~」
群がる魔物を焼き尽くすツバサ。
相当、嫌いなんだろう。
「気持ち悪いから消えろ~」
見た目が駄目らしい。
「なんか…凄い」
「……豪快」
「でも、燃え移らない…」
魔力操作で木に燃え移らないように、器用に魔物だけ燃やすツバサ。
瞬く間に魔物は燃え尽きていく。
「終わった~」
すがすがしい笑顔のツバサ。
「…行きましょう」
とりあえず先を促すアヤメ。
灰になった魔物に心の中で合掌するジン、ラング、ムウ。
ご機嫌良く飛んでいくツバサ。
「見つけた…」
アヤメが一本の蔦を指差した。
何も特徴の無い蔦だが、良く見ると少し動いている。
触らないように、辿っていく一同。
「…デカくね?」
細かい粉を撒き散らす、背丈ニメートル程の魔草を指差すジン。
鋭い刃物のような葉っぱが、等間隔に並んでいる。
「薬になるのは、葉っぱの付け根の青い部分よ」
一体で極僅かな量しか採れないらしい。
しかも、刃物のような触れただけで切れそうな葉っぱを取り除く必要がある。
「なる程…Aランクに納得した」
「………うん」
「難しそうだ…」
葉っぱは案外しなやかに動くようで、避けるのも一苦労だろう。
蔦も長く、先が鋭い。
「気を付けるのは、魔草だけでは無いわよ…上見なさい」
キリキリ草の一番高い所に、青い色の大きな花があり、そこに蜂の型の魔物が群がっている。
キキリ蜂と言い、キリキリ草のある所に必ずいる蜂で、唯一キリキリ草の毒が効かない魔物。大きさは人の頭位。キリキリ草以外の花には興味を示さないらしい。
「キキリ蜂は、素早い上に羽に触れると切れるから。針には毒もあるけど、今は気にしなくて良いわ」
「燃やして良い?」
「採取対象が燃えたらどうするのかしら?ん?」
「ごめんなさい…」
バカなジンは放って置いて、さっさと切りかかるアヤメ、ツバサ、ムウ。
ラングは援護射撃しながら、皆の死角からくる攻撃を防ぐ。
遅ればせながら大剣を振り回すジン。
「うおっ!」
とっさにしゃがんだジンの頭上を、数匹のキキリ蜂が通り過ぎる。
曲がる事が得意ではないようだ。
「ちっ!」
予期せぬ動きで襲い掛かる葉に苦戦するムウ。
急に曲がるので、予測出来ない。
アヤメとツバサは、真っ直ぐに根元に向かって走る。
迫りくる葉と蔦は切り捨て、キキリ蜂は全て避ける。
根元には大きなキキリ蜂が待ち受けている。
ヒュンッ!ヒュンッ!
キキリ蜂と蔦、葉が見事な連携プレーで襲い掛かる。
太い蔦が根元を覆い隠した。
「ツバサ、行って」
「了解~」
ひょいとキキリ蜂と蔦を避けながら、ツバサが駆け抜ける。
ツバサを追おうとした葉や蔦を、アヤメが切りながら、急降下してきたキキリ蜂を風の矢で牽制する。
かすりはしたが、素早い相手に葉と蔦を相手にしながら狙うのは難しい。
「うわ!」
蔦に捕まったジン。
ラングの風の刃がジンを掴む蔦を切り、なすすべなく落ちるジンを狙うキキリ蜂をムウが切り裂く。
大剣を振り回す事で葉の脅威から逃れ、無事着地したジン。
「悪い!助かった!」
「良いから、前見ろ」
迫る葉を大剣で弾くジン。
腕に切り傷が出来たが、深くはない。
「下がれジン」
黙って従うジンに、駆け寄ったラングが治癒魔法を発動する。
傷が塞がったのを見て、直ぐに大剣を構えるジン。
冷静に攻撃を避けながら、刀を振るうムウ。
直ぐにラングが援護射撃を再開する。
いきなり葉と蔦の動きが止まって、力なくしなだれる葉と、地に落ちる蔦。
混乱するキキリ蜂を叩き斬るジン、切り捨てるムウ、撃ち取るラング。
一番大きなキキリ蜂に線が走り、少し遅れて二つに分かれる。その先に、レイピアを構えるアヤメが居る。
ゆっくり倒れるキリキリ草の根元で、頭上から迫る葉や蔦を避けるツバサ。根元の茎は、横に蔦ごと斬られている。
「最後!」
最後の一匹のキキリ蜂を、ジンが仕留めた。
「採取手伝って」
アヤメの言葉に頷いて、ジン、ラング、ムウが駆け寄る。
対象部位を持ってきた袋に入れて、急いでその場を離れる。
騒ぎを聞きつけ、魔物達が周囲に集まって来ている。毒に耐性が無い魔物は立ち止まり、様子を窺う。近くのキリキリ草の所にいたキキリ蜂が、倒れたキリキリ草へ近づいてくる。
「これだけで足りる?」
「ギリギリ足りるわ。ちょっと大きな個体で助かったわ」
「ラッキーだったね~」
「………出口どっち?」
「師匠、来た方向が分かりません…」
「太陽の位置からすると…こっちね」
飛んでいくアヤメとツバサを、ラングが慌てて光の道(?)を作って後を追うジン、ラング、ムウ。
いきなり飛び出してくる魔物に苦戦しながら、足早に退散する一同。
湿地帯を抜け出してから、バイコーンに跨がって街を目指す。
昨日とは違う街のギルドに入った一同。
受付で依頼の報酬を受け取って、学園に提出する書類にサインを貰う。
ついでに報酬をギルドの銀行に預けて、近くの椅子に座って一息つく。
「早めに課題終わったな」
「良かったわね」
「………ほっとした」
「………zzZ」
「師匠?」
突然机に突っ伏して寝始めたツバサに、どこから取り出したのか分からない膝掛けを肩に掛けるムウ。
流石に驚いて二度見するアヤメ。
悔しそうなジンとラング。
「最近、ムウがツバサに似てきた?」
アヤメの言葉に、静かに頷いたジンとラング。
なんでもいきなり取り出す事で、びっくり箱と評された(?)ツバサ。
そんなツバサに似てきたムウ。
「びっくり箱二号だな」
ジンの言葉に、小さく頷いたアヤメとラング。
自然と笑顔になる一同。
「ラングの家は遠いの?」
「………ここからだと、馬なら5日」
「バイコーンなら2日と少しね。全力だともっと早いけど」
馬と違って、休む時間も少なく、夜目も効くバイコーンなら、半分の時間でたどり着ける。
人間に合わせず、全力ならもっと早いのだが、アヤメとツバサはともかく、普通の人間には体が持たない。
「ゆっくりで良いから…」
顔を引きつらせながら言うジンに、凄いスピードで何度も頷いたラング、冷や汗を流しながら頷くムウ。
「分かったわ。テントや食料を鞄に入れといて良かった」
もちろん鞄とは、あの異空間魔法がかかっている国宝級の鞄だ。
移転魔法で王都まで来た一同だが、ラングの家の場所は知らないので移転魔法では向かえない。
ジン、ラング、ムウの中では、元々は街を転々としながら進む予定だったが、予期せぬバイコーンと言う乗り物のおかげで予定が狂った。
更に、テントや食料は不要と言われて疑問に思ったが、どうやらそんな心配は無用だったようだ。
簡単に道を確認してから、通る道の情報を集め、準備を終えた頃に起きたツバサを連れて宿に向かった…
文才が欲しい今日この頃
難しいなぁ…




