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何が出来るか

開いて下さって、ありがとうございます

 主が居なくなった湖。

 精霊が最後の力で猛毒を薄めてくれたようだが、完全には消えていない。


「報告するしかないな」


 すぐには新しい主は現れないだろうが、いつか現れるだろう。

 人間に出来る事は無い。


「近くのギルドに向かおう」

「何か、出来ないか?」


 ジンが問うが、ツバサは首を横に振る。

 湖を見詰めたまま、動かないラング。


「行きましょう?」


 アヤメが声をかけると、ようやく振り返ったラング。


「………何か…無いの?…ここ直せないかな?」


 ラングが縋るように問う。


「…ザガンから受け取った書類、覚えているか?」


 皆が黙って頷いたのを見て、話を続けるツバサ。


「あれには、大陸全てで起こっている異常事態が記されていた。ここの精霊だけの問題ではない。例えば、毒を消すとか木を植えるとか、そんなその場しのぎをしても、失った物はどうにもならん。もう、終わった事だ。それに、世界規模の問題を、たった5人の人間がどうこう出来ると思うな。…それでも何かしたいなら、今苦しんでいる者を救え」


 容赦ない言葉に、固まって動けないラングを見て、ジンが口を開く。


「そんな言い方ないだろ!それでも人間かよ!」

「人間だから、何も出来ん。ここを直しても、単なる自己満足だ。自己満足の為に、猛毒に触れるような危険な事に、他人を巻き込むな」

「他人だと!?」

「………仲間だよ?」


 ジンとラングが叫ぶが、鋭く睨み付けるツバサ。


「お前達、仲間を危険にさらす事を良しとするのか?見損なった。後先考えず突っ込むばかりか、その場の感情で仲間を危険にさらすとは…馬鹿者が」


 くるりと向きを変えて、去っていくツバサ。


「お前に言われたくねえ!お前の問題に巻き込んだだろ!」

「………そうだよ」


 ジンとラングが怒鳴るが、一切振り向かず去っていくツバサ。


「…ツバサは後先考えずに、他人を巻き込んだりしないわ。全て、最善の手を尽くしても不可能な時、安全策をとってから協力してもらうのよ」

「忘れたのか?師匠は1人で王を動かし、更に学園が動くまで待てと俺達に釘を差したのを。あの時、俺達が何をした?実際、ついて行っただけだ。行ったのは自分達の判断だ。一言も、来いと言われてない。むしろ、俺達が突っ込まないように、混乱しないように、先に伝えられたのだろう?」


 アヤメの言葉に噛み付こうとしたが、ムウの言葉に戸惑うジンとラング。


「ジンは頼られたらちゃんと実行する。ラングには荷が重い。ムウはあの頃は今ほど落ち着いてなかった。私は論外ね…」


 最後に遠い目になったアヤメ。

 落ち着きの無かった昔の自分を思い出し、恥じるムウ。


「あの頃は…多分、喧嘩売ってましたね。世間知らずだったので…」

「成長したわね」

「おかげさまで。そろそろ、解毒薬がきれます。念の為一瓶取って置きたいので、ここから離れましょう」

「そうね。薄まっただけで、十分致死量の毒が残っているし。解毒薬も数が限られるからね」


 一度ジンとラングを見てから、アヤメとムウはツバサの後を追う。


「…行くか?」

「………うん」


 頭が冷えたジンとラングは、どう顔を合わせるか心配しながら後を追う。









 一言も言葉を交わさず、魔法を使って軽く毒を落としてから、アヤメとツバサが呼び出したバイコーンに乗り走る。

 …とても気まずい

 バイコーンをちゃんと人数分呼んでくれて、ちょっとホッとしたジンとラング。

 だが、話しかける勇気は無い。

 ようやく、この辺では一番大きな街が見えたので、バイコーンから降りる。

 あまりにも目立つからだ。

 小さな村ではギルドが無い所もあるので、少し離れた街まで移動した。面倒なので王都まで戻る気は無い。

 ギルドの場所を門番に聞いて、物凄く怪しまれたのでギルドカードを見せ付け、尚も怪しまれたので、上の人間を呼び出し案内してもらっている。


「いやー!失礼しました!最近、冒険者が騒ぎを起こしまして、皆ピリピリなんですよー!」


 悪いと思っているのか分からない喋り方の騎士だが、一応名誉ある騎馬隊の五番隊隊長。ユニコーンに乗れる、国に選ばれた騎士。

 あの悪魔騒動の時、王宮で仕事(雑用)していたので顔見知りだ。

 テルニア・テルハイドと言うので、ツバサはテルテルと呼んでいる。因みに、頭もつるんとしたスキンヘッドなので、たまに照る照る坊主と呼ばれる。


「テルテル、とりあえず王を一秒で連れて来い。そうしたら、命だけは見逃すか考える」

「無理だよ!しかも、考えるだけ!?姉御モード怖いねー!」


 嬉しそうに怖がる(?)テルテル。

 一度ふざけて王宮でアヤメとツバサをからかった前科持ちのテルテル。その際、姉御モードになった2人に地獄の特訓を受けた後、屍のようにのびていた。

 良くそんな事を経験しても、恐れず軽い調子でふざけられるな…。


「今、死にたいかしら?一秒で逝けるわよ?」

「やだよん!あと100年生きるもん!」

「そうか。残念だな。100年も寿命が縮んだな」


 怖がりながら、はしゃぐテルテル。

 有る意味、勇者だ…


「自由を愛する騎馬隊第五番隊には、そんな攻撃効かないのだ!」

「長い名前ね…」

「良い名前だろ!俺が付けたぜ!ユニコーンに乗って駆ける姿は自由そのもベボッ」


 テンションが高くなったテルテルは面倒だと知っているアヤメとツバサは、早めにぶっ飛ばしておく事にした。


「痛いよん!」


 復活早!


「黙って案内しろ」

「ふざけすぎたかな?あいよー!ギルドツアー発進!」


 懲りてない…


「勇者だ…」

「……凄い」

「単なるバカだろう」


 話しかける勇気の無いジンとラングには勇者に見えるテルテル。

 ムウから見れば、単なるバカらしい。


「バカは自由の象徴ー!」


 聞こえたらしい…








「何用かな?」


 ギルドに着いて、受付嬢(どう見ても騎士っぽい)に迎えられた一同。


「精霊の涙について、話しがある」

「…カードを」


 訝しむ受付嬢。

 ジン、ラング、ムウからギルドカードを奪い取って、自分のと合わせて渡す(押し付ける)ツバサ。

 背筋が凍りそうな笑顔で受付嬢に渡す(突き付ける)アヤメ。

 ジン、ラング、ムウは自らの師匠(同年齢だが)が怒り出さないか心配する。

 情報を読み取る機械で確認する受付嬢。


「…確かに。お返しします」


 自分のを鞄に入れて、返されたカードを纏めてムウに渡すツバサ。

 アヤメも自分で受け取った。


「奥でお話を聞きます」


 ギルドの奥に通された一同。

 何故だかテルテルまでいる。


「何故居る?」

「勢い!良いでしょ?騎士だし」

「口挟んだら、斬る」


 冗談とは思えない殺気が場を支配する。

 流石に黙るかと思ったが…


「俺の自由だな!」


 勇者だ…


「…湖には行ったか?」

「いや。普通の解毒薬では意味がなくてな…遠目で確認しただけだ。騎士殿は?」

「無理だねー。ユニコーンの力でも、毒を完全に消す事は出来なかった!行ける所まで行ったけど、タランチュラに阻まれてねー。竜騎隊も上空の毒で無理!」


 竜騎隊は、召還術師と調教師が人間の言う事を聞くように、卵から育てたワイバーンに騎乗する騎士団。

 数が少なく、なかなか懐かないので、乗れるだけで優遇される。

 最近、上空に魔物が溢れているので、ほとんど出番が無い。ワイバーンは一応ドラゴンなのだが、万能とは言い難い。


「だろうな。タランチュラは殲滅した。湖の精霊は死んだ。狂って暴れていた。猛毒や、タランチュラの増殖は狂った精霊の仕業らしい」


 森の様子、湖の精霊から聞いた話しなどを分かる範囲で報告する。

 受付嬢も、テルテルも黙って聞いて、考え込んでいる。


「…なる程!俺じゃ無理だわ!」

「狂った精霊は、倒すしかないと言われていますからね…一般人には知らされていませんけど」

「最近、他国でも聞くよな?確か…〈ニーファ〉以外の国の王が団結したって?学園祭の時期、俺達魔物討伐に出かけてたから良く知らねーけど」


 〈ニーファ〉の名前を出す事を躊躇したテルテル。

 ギルドには、他国出身の者もいるので気にしたらしい。


「ここの職員は〈フラウニア〉の者だけですので、お気になさらず」

「…そうかい。王様から、いろんな武器や魔法具を渡されたが、全部凄かったなー!うちは、あんまり戦い得意じゃねーし」

「ギルドにも来ましたよ。驚きました」

「同時に情報を貰ったけど、どの国も精霊は手に負えんらしいな」


 精霊は、元々力が桁違いに強く、周りの自然を自由に扱えるので、人間が簡単には近付く事が出来ない。

 何人かのSランカーが精霊の所までたどり着いたが、自然そのものと言って良い精霊を傷つける事は出来なかったようだ。

 時間稼ぎ程度が精一杯らしい。


「普通に倒せる訳ないだろ。核を見つける必要がある。核だけ、どこかに隠されている事も少なくない」

「簡単に言うなよ…ん?核?」


 どうやら、知らなかったらしい。

 受付嬢も首を傾げている。


「問題が出てきたな…」


 うなだれるツバサ。


「精霊の命の源です。魔力の塊と言っても良いでしょう。小さな精霊は体全体が核だと言って良いですが、中級レベルの精霊だと、体のどこか、あるいは守っている土地のどこかに、結晶のような形状となって隠されています。核が無事なら、どれだけ傷ついても直ぐに再生します」


 ツバサが沈黙したので、アヤメが変わりに説明する。

 あんぐりとしたテルテル、真剣に聞いている受付嬢。


「魔力の塊なので、普段は魔法で傷つく事はありませんし、吸収されてしまいますが、淀んだ魔力に染まった場合、攻撃性が増し吸収能力が失われるので、魔法で破壊が可能になります」


 精霊は自然を守る為に、自らの核から魔力を作り出している。

 生き物なら魔力を作る事は可能だが、自分の魔力を補うので精一杯なので、他者に渡す事は出来ない。使えば失われ、無くなれば命に関わる。

 精霊の核は使われた魔力の残滓を集め吸収、復元再利用出来るので、魔力を使った攻撃は自動的に吸収される。と言うより、力が増す。

 つまり、逆効果なのだ。

 だが、淀んだ魔力に染まった場合、本来の役割を放棄し、逆に魔力を破壊しながら力を放出する。その副産物として、周りの生き物を強化してしまう。

 その力も淀んだ魔力に染まっているので、与えられた方も狂ってしまうが。


「まあ、人間が狂うよりましですが」

「確かに」


 説明を終えたアヤメの呟きに、ツバサが同意する。


「何故です?」


 受付嬢がとっさに問う。


「精霊は他の領域に干渉しないから。人間よりは、大分長い時間耐えられるし。狂う寸前に、自らをその場に縛り付けて、被害を軽くしようとするし」

「現実を、死を受け入れますから。人間みたいに、助けを求めて歩き回って、暴れ回って被害を増やす事はありませんし」


 ボロクソに言われた、周りの人間達(2人も一応人間だが)は小さくなった。容赦ない。


「なる程…」


 受付嬢は、とりあえず話しを終わらせる事にしたようだ。


「毒は時間に任せるしかないだろう。国の対応をお願い出来ますか?」

「見張りを立てたいねー…王に言ってみるよー!」

「直談判ですか?」

「俺を何だと思ってる?自由を愛する騎馬だぶへっ!」

「長い!うるさい!」


 ツバサに蹴られて椅子ごとひっくり返されたテルテル。


「………」


 見なかった事にした受付嬢。


「ちぇー!最後まで言わせてよ!まあ、ちゃんと伝えとく!」

「ガキかお前は…」


 さっそく飛び出して行ったテルテル。

 落ち着きがない…


「報告ありがとうございます。報酬を用意いたしますので、少々お待ち下さい」


 報酬を受け取った一同は、近くの安い宿の場所を聞いて、ギルドを後にした。


 結局、この日はジンとラングは話しかける勇気は出なかった…

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