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蜘蛛の大群

開いて下さってありがとうございます

 前回、〈フラウニア〉に訪れた時と同じように、森に移転魔法で移動する。

 若干、ジンが砂まみれになっているが、気にしない気にしない。


「気にしろ!」

「起きないジンが悪いわ!何で、立ったまま寝てるのよ!あと、うるさいわよ!」

「昨日寝れなかったんだよ!潰されたら叫ぶだろ!普通!」


 寮の前で立ったまま寝ていたジンに、いつも通りツバサが着地したのだが、寝ていたために受け身が取れずに転がった。

 ギャンギャン騒ぐジンを、ラングとムウが黙らせた。力任せに。

 ラングとムウが、朝早くに騒ぐジンにブチ切れたようだ。


「………頭に響く」

「毎回、避けないお前が悪い」


 ラングは頭を抱えて、ムウは刀に手をかけている。


「避けれねーよ!」

「毎回同じ所だよ~」

「嘘!?」

「「「「本当」」」」

「俺、バカだ…」


 落ち込んだジン。


「一度、王都で情報を確認しましょう」

「そうだね~」


 門の前まで移動する一同。

 門番がこちらに気付いて、背筋を伸ばして声をかける。


「申し訳ないですが、ギルドカードを見せていただいても?」


 腰が引けているが、ちゃんと仕事する門番は素晴らしい。

 一応、〈レジェンド〉は国からの信用が高く、疑いを持つ事はないが、外見を変える魔法が有るので確認する。魔法が使える者なら、少し鍛えれば見破れるほどに脆い物だが。


「…は!確認しました。どうぞ!」


 分かっているので、黙って取り出した一同に、素早く門を開けながら礼をする門番。重そうな門なのに、一気に開いたので少し驚いた。

 裏では、休憩中の門番や近くに居た兵が緊張しながら門を支えている。皆、報告を受けて、門を開けるのを手伝ったようだ。

 あんまり気にして居ないアヤメとツバサの後ろに、ちょっと引きながらジンとラング、ムウが続いた。


「有る意味、凄いな」

「……学生なのに」

「重要人物扱い…」


 ただの学生が、この状況で気後れしないなど有り得ないだろう。

 アヤメとツバサはともかく、固まる訳でも、引き返す訳でもなくついて行けるジン、ラング、ムウも普通ではない。

 迷わず酒場に入ったアヤメとツバサ。

 ジン、ラング、ムウも不思議に思いながらついて行く。


「何故酒場?」

「冒険者が居るからよ」


 ジンの質問に、簡単に答えるアヤメ。


「…ガキの来る所じゃねえ」


 多分、マスターだろう男性が一同を睨み付ける。顔の古傷が痛々しい。

 何故だか、斧を背負っている。


「そう」

「おじゃま~」


 完璧にスルーして奥に進むアヤメとツバサに、少し遅れてついて行く3人。


「おい!聞いてんのか!?」

「人を外見で判断しない事ね」

「はい!取った~」


 マスターの眼前に迫ったアヤメと、マスターの後ろに回り込んだツバサ。

 一瞬の出来事に、マスターが声を失った。周りの冒険者も固まっている。


「「文句有る?」」

「いや!無い!」


 無言の殺気(かなり抑え目)に冷や汗が止まらないマスター。ちょっと可哀想。


「マスター、相手が悪すぎるぜ」

「……良かったね。死ななくて」

「実力を見誤ったな…」


 容赦ないジン、ラング、ムウ。


「俺も鈍ったな…」

「「「…そう言う問題?」」」


 天を仰いで笑うマスター。


「お嬢ちゃん!強いねー」

「うちらと組まない?」

「酒飲めるか?旨いぞ」


 周りの冒険者が我先にと、2人に群がっている。


「組む気ないわ」

「制服見えない~?」


 2人は制服の上にコートを羽織っているだけなので、一目で制服が確認できる。


「強いのに?もったいねえな!」

「今の子供はどうなってんだ?」

「流石は大陸一の学園だ!」


 後ろの方で、カウンター席に座るジン、ラング、ムウが無言で首を横に振る。


(((凄いのは2人だけだから!)))


 3人をカウンター席に招いたマスターは、おもむろにグラスを取り出した。


「あの嬢ちゃん、何者だ?」

「さあ?」

「……こっちが聞きたい」

「師匠ですから」

「…そうか。飲め」


 マスターはジュースを出してくれた。

 大陸では、20才までは飲酒が禁止されている。特に、魔法師には厳しい。

 魔法師が飲酒すると、魔力の循環が良くなり、魔力酔いを起こして暴走する事があり、最悪の場合死に至る。

 20才過ぎると、魔力を支える器と耐久性が上がるので、魔力酔いは起きにくい。絶対に無い訳ではないので、飲み過ぎない事が大事だ。

 魔法師でも、安心して飲める魔法酒も存在する。魔力に反応しない、特殊な技術で作られた最高級品。錬金術師の貴重な収入源だ。王族、貴族に大人気。

 普通に100万もするが…。材料がかなり希少で、高い技術力も求められるので、仕方ない。


「学生ならジュースだな!」

「俺が出すぜ!マスター!」

「おい!抜け駆けすんな!」


 マスターは急いでジュース(高級品)を差し出した。

 マスターも人が悪い…。


「高級品!?」

「出せねーの?」

「舐めんなよ!」

「マスター!軽食!」

「ここは甘い物だろ!」

「デザート持って来い!」


 知的なアヤメと、妹みたいなツバサに、冒険者達が良いところを見せようと白熱し始めた。

 意外と器用なマスターが、クッキーやワッフルを持って来た。自家製だ。


「何で酒場に?」

「魔物の情報が欲しいのです」

「強いやつ?」

「タランチュラだよ~もしゃもしゃ」

「Aランクだろ?大丈夫か?」

「Sランカーですから」

「すげー!弟子入りしたい!」

「まだまだ、修行中~はむはむ」

「あれで?Sランカーで?」


 アヤメは真面目だが、ツバサはワッフルを口に頬ばっている。小動物みたいでかわいい。


「まだまだです…情報ありますか?」

「最近、やたら増えたらしい」

「いきなりな。森はそいつだらけ」

「精霊の涙…湖だが、水に触れないほうが良い。毒が染み込んでる」

「川も、土もヤバいな」

「毒の霧まで発生しているらしい」

「雨にも気を付けろ」

「ポリッ!へ~予想以上に深刻だね~今まで、あの湖に魔物は出なかったと聞いたけど~カリカリッ」

「精霊の加護があった筈なんだ」

「噂では、精霊が狂ったらしい」

「おかしいわね」

「慎重に行こうか~」


 ギルドでは、精霊の事は何一つ情報は無かったが、ギルドの受付の話しで、あの湖に魔物が住み着いた前例が無いと聞いたので、一応地元の人や、他の冒険者に確認する事にしたが、正解だったようだ。


「親切にありがとうございます」

「助かったよ~」

「困った時はお互い様だ」

「俺達も情報集めに来たしな」

「〈ニーファ〉の依頼がな…」


 皆、同じように情報を集めに酒場に来たようだ。


「いきなり入れなくなってな」

「どうなってんだ?」

「まあ、前からおかしかったが…」

「お礼の変わりに、知っている事を話しましょう」


 アヤメとツバサが学園での騒ぎを説明していく。

 法家が対立した事に、皆衝撃を受けたようだ。


「そんな事に…」

「あいつが王だしなぁ」

「なるほど…」

「俺、〈ニーファ〉出身なんだよな…」

「僕の両親が〈ニーファ〉だ。圧政から逃れる為に、〈フラウニア〉に逃げ込んだらしいがな」


 意外にも、身近に〈ニーファ〉から逃れた者達が居た。

 数代前の王の時代から、だんだん圧政が酷くなっていたらしい。

 先代の王は比較的民に優しかった為、民も安心していたが、スヴェートの代で前例を上回る圧政が民を苦しめ始めたようだ。逃げ出した民も多いらしい。


「先代は、婿養子だったらしい。優しい人だった」

「〈ニーファ〉は女王が認められないからな。珍しく、女の子しか生まれなかったらしい」

「王妃様、お可愛そうに散々文句を言われてたらしい」

「近衛で、法家の出だった先代は、王政を繋ぐ為に選ばれたらしいな」

「お飾りかよ!」

「あそこはそんな考えだ」


 公にされていない事が次々に発覚していくので、他国の冒険者達は戸惑い始める。

 ジン、ラング、ムウは居ないふりをしている。

 身勝手な追放処分に、ついに不満が爆発し始めたようだ。


「中流貴族が大きな顔しやがって」

「法家に楯突き始めたしな」

「まあ、長年中流貴族から抜け出せねぇからな。勘違い野郎ばかりだが」

「法家は皆自由人だからなぁ…引っ張ってくれると嬉しいがなぁ…」

「ネーヴェン家はともかく、他家は個性的過ぎるだろ。個性的じゃなきゃ、魔法は追求出来ないかもしれないがな」

「皆、魔法にしか興味ないからな…民にも優しいけど」

「いろいろ、ぶっ飛んでるよな」


 他国の冒険者は、どういう国なんだと思い始めた。


「〈フラウニア〉からの援助は、無いのですか?」


 逃げ出した民が居る事から、〈フラウニア〉が知らん顔している筈はないと、アヤメが疑問を口にする。

 受け入れているなら、対策はされているのだろう。


「王家が受け入れねえ」

「他国を格下だと思ってやがる」

「あと、逃げ込んだ民は、商人として隠れるか、冒険者になってる。見つかったら、親族から友まで処刑されるからな」

「冒険者はギルド制度に保護されるからな…でも、弱い者には無理だ」

「なるほど…」


 何も出来ない自分達に、腹立たしい気持ちを露わにする〈ニーファ〉に関わる冒険者達。


「でも安心した。法家が動いたのか…」

「情報感謝する」

「いえ」


 しばしの間、他愛のない会話を続け、酒場を後にする〈レジェンド〉一同。


「暗い!」

「長居をしたわね。宿を取りましょう」

「………うん」

「城に上がり込む~?」

「それはちょっと…」


 駄目だと思う…。

 一泊二食5000の安い宿屋を見つけ、早々と夕食を取って明日に向けて体を休めた。








◇◇◇◇◇


 朝早く、目的地に向かって走る一同。

 アヤメとツバサが呼び出したバイコーンに乗っている。五頭も並ぶと迫力満点だ。

 黒く艶のある体毛、赤い瞳、二本のごつい角の獣。

 魔物とされる事もあるが、軍馬にする事も多いので獣と認識される事が多い。

 あまり、分ける意味は無いが。


「速い!」

「……揺れる!」

「むう…!」


 召還術師が調教する事が一般的で、調教が難しい事から高級な軍馬である。

 当然、乗った事が無いジン、ラング、ムウは悪戦苦闘している。

 普通の馬と比べてはいけないが、とても速く力強いので振り落とされそうになる。体毛がすべすべして滑るのも厄介だ。


「跳ぶわよ!捕まって!」


 ぎょっとしながら、慌てて手綱を握りしめる3人。

 崖から崖へ跳び移るバイコーン。

 速いのは嬉しいが、物凄く怖い。


「もう着くかな?」


 森の中に入ったので、少しスピードを落としたバイコーンの上で、もうくたくたな3人が居る。


「何故…バイコーンを?」

「襲いかかって来たから、やり返したの。そうしたら、懐かれたの」

「タフだったよね~吹き飛ばしても起き上がって来るし~」

「……バイコーン、凄い!」

「素晴らしい…」


 自慢げに鼻を鳴らすバイコーン。


「世間では、あまり良い印象がないみたいだけど、案外かわいいわよね」

「ユニコーンが一般的だね~」


 軍馬で一番人気なのはユニコーン。美しく、優しく、強いからだ。

 バイコーンは、気性が荒く、乗りこなすのが難しいので少ない。伝承では、ユニコーンの反対で、悪い印象が強いのも理由である。


「速さと強さ、精神力はバイコーンが上なんだけどね」

「黒くて綺麗なのに~」


 嬉しそうなバイコーン。

 ちょっとかわいいなと、思い始めたジン、ラング、ムウ。


「発見~」


 ツバサが叫んで、バイコーン達が立ち止まった。賢い。


「うお…」

「……うわぁ」

「大群…」


 大きな蜘蛛が、溢れるように森を埋め尽くす光景は、物凄く気持ち悪い。


うごうごうごうご


「まだ遠いのに…」

「はっきりと見えるね~」


 緑色の森の筈だが、今は黒く染まって所々に赤い点が混じる、不気味な森と化していた…

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