生徒の思い
開いて下さってありがとうございます
あれから2日間、ひたすら片付けに追われた一同。
ようやく終わって、明日から冬休みに入るので、教室に集まっている。
「喜んで☆明日から休みよ☆」
エリナ先生が嬉しそうに宣言するが…
シーン…
〈レジェンド〉、〈ミラージュ〉のメンバー以外の生徒は机に突っ伏している。
皆、青い顔で苦しそうにしており、返事をする元気もないようだ。
「あれ?どうしたの?お休みだよ☆」
分かっていないエリナ先生。
「えっと…皆、体調が優れないようです」
とりあえず、アヤメが答える。
今日聞いたのだが、クラスの皆は昨日まで寝込んでいた者が大半らしい。
原因は、教師陣営の店に行った事で、倒れたらしい。ほぼ、強制的に連行されて、出された食事に撃沈したようだ。
「あら!大変ね!冬休み中に治して来るのよ☆」
あなたのせいですが…。
「冬休みの課題は、チームのメンバーのランクより、一つ上の依頼を二件完遂する事です☆」
笑顔で追い討ちをかけるエリナ先生。
少ないと思うかも知れないが、一つ上になるだけで、難易度が跳ね上がるので、完遂するには二件が限界だろう。
出身国が異なる者が多いのも、きちんと考慮されている。
「ん?俺達、どうすんだ?」
ジンが手を上げて質問する。
4人がSランカー、1人がBランカーなので、どちらに合わせるのか分からない。
Sランクより上の依頼は、SSランクの世界規模の大災害位なので、不可能だ。
「んーAランクで良いんじゃない?☆」
「適当だな!」
「不正は無理よ☆全ギルドに通達されているからね♪」
「スルー!?」
見事にジンは無視された。
「依頼完遂したら、証明書が貰えるから提出してね☆じゃあ、解散♪」
簡単に説明(?)して、教室の外に置いてあった荷物を背負って去って行ったエリナ先生。
遊びに行くようだ。
「…とりあえず、生徒会室に行きましょう?」
寒気がするような笑顔で、アヤメが皆に話しかける。
今日も仕事が有るので、皆も黙って頷いて、荷物を纏める。
初めから寝ていたツバサを、起こすか悩んだ後、とりあえず揺すってみたジンが吹き飛ばされた。
「…おはよ~なんか、ぶつかった?」
「その程度の認識なんだ!?」
「ああ、ジンか~なんだかイラつく雰囲気だったから、はねのけちゃった~」
「理由が酷い!」
「生徒会室行くの~?」
「本日二回目のスルー!?」
そそくさ移動し始めるツバサ。
筆記用具位しか荷物も無いので、皆も直ぐに支度が終わって追いかける。
ツバサは手ぶらだ…。
◇◇◇◇◇
「って事だ!」
会議室に到着して早々に、会長の怒鳴り声が聞こえて来たので、皆がそーっと中をのぞき込んだ。
「良く来たわね…」
副会長に招き入れられたので、恐る恐る足を踏み入れる。
「何事ですか?」
「〈ニーファ〉から、いきなり無理難題を言われてね…」
「何です?」
「今までの資金を返すように…って」
「なるほど…無理ですね」
「あと、帰れない生徒の対応がね…」
「追放処分ですからね…」
「寮があって助かったわ…でも、衣類などの日用品の調達、就職先の問題、他国の生徒への説明など、問題が山積みよ」
「困りましたね…」
覚悟をしていたとは言え、子供の力で出来る事には限りがある。
貴族や冒険者はともかく、稼ぐのが難しい農業や鍛冶や、仕事が限られる文官候補は、金銭的に余裕が無い。
「とりあえず、会長が学園に問い合わせているけど、まだ分からないわ」
「スーウェン!まだ、売れる魔法具は残っているか?」
「難しいわ。ほとんど使っている物だし、壊れている物も多いわ」
「お待たせっす!買い取り不可っす!」
チャカが慌てて飛び込んで来た。
「不可!?」
「旧型なので使われていないらしいっす!傷が多すぎるって言われたっす!」
「金属は?」
「小さな町では買い取れないっす!」
「ギルドは?」
「〈ニーファ〉の依頼が取り下げられた事で、金銭的に辛いらしいっす!」
「なんとかしろ!」
「んな無茶な!?」
学園の魔法具では、お金にならないらしい。
ギルドも被害を受けているようだ。
「どうしてそんなに?」
「皆無一文に等しいからね…いろいろ国に置いて来ているから…」
皆も協力しているが、学生が人を養うのは無理だろう。
「半数の教師から、資金の提供が出来ると言われたよ!」
ルクスが喜びながら飛び込んで来た。
「助かった!」
「校長は国の対応で難しいって!一国の資金を賄うだけで限界だって!」
「それは分かっていると伝えてくれ!残りの教師は?」
「現役を退いてかなり経つから、難しいみたい。売れる物を売ってから、対応するって!」
「了解!」
「当面はなんとかなりそうだね!」
ちょっとホッとした一同。
「監視局の事だが」
ゼファが早足で入って来た。
「既に、話しはついていた。意外な事に、平民しかいなかったようだ」
「え?」
国から派遣された人員が、貴族ではなく平民だと知って、皆も首を傾げる。
「非戦闘員である諜報活動は、貴族がやる仕事ではないらしい」
「目立たない仕事だから?」
「薄汚いかららしい。裏の家から派遣されている、捨て駒らしい」
なんとなく納得した一同。
「あの手紙が出回ってから、直接監視局の者から、校長に止めると言ったようだ」
「止める?」
「国の為に動きたくないそうだ。単に、他国に引けを取らない為に、しぶしぶ送り出された人員らしい」
「元から、頼りにされていないと?」
「一度も口出しした事も無いと、教師も言っていた。お飾りらしい」
「なるほど…」
「今は事務作業を手伝っている。彼らも帰れないようだ」
皆が一瞬殺気を放つが、直ぐに気付いて気を静める。
「今日、残った生徒が会議を開くようですわ!」
「残った監視局の方も参加するようです」
エレミアとクリスティアが報告する。
「頼めるよね?」
「もちろんよ」
会長の言葉に、副会長が頷いた。
エレミアとクリスティアも頷いて、シディアとリーゼを見る。
2人も覚悟を決めたようだ。
「アヤメさん、ツバサさん、手伝って下さいね」
「ええ」
「はいよ~って、この前も手伝ったよね~今更だよ~」
「そうだったわ」
多分、一番素早く対応したのはツバサだろう。
国王を欺いて、1人で情報を集めて見せたのは、ツバサしか居ない。
見送りの時も、副会長だけでは見抜かれていただろう。
「アヤメ、いつもの役割で行こうか~?」
「そうね」
表はアヤメが、裏はツバサが受け持って、ツバサが作戦を練り、アヤメが実行するのがいつものスタイルだ。
アヤメには、ツバサを隠す事が一番の役目となるので、動じない姿勢が一番求められる。それに関しては、アヤメの得意分野なので問題ない。アヤメが取り乱すのは、ツバサの身に何か有った時だけだ。
ツバサも、アヤメの身に何か有った時以外では取り乱す事は無い。
「いつもの?」
「秘密~」
会長が問うが、ツバサに笑顔ではぐらかされた。
普段から、アヤメもツバサも本来の性格とは真逆の行動をしているので、こうした時にとても役立つ。
2人にとっては、神族として生きてきた時からの癖なので、罪悪感はない。
長い間、共に生きてきたからこそ、互いに言葉を交わさずに出来る事だ。
「シディア先輩には、記録をつけて貰っても良いかな~」
「は、はい!あ、後で見直せますし、そのつもりです」
「よろしく~」
「会長、今から行っても?」
そろそろ移動する必要が有るので、副会長が確認する。
「うむ。念のため、これを」
録音出来る魔法具を取り出した会長。
使い捨てタイプの物で、安いので人気が高い物だ。会長の物らしい。
「良いの?いくら安くても、数万はするでしょう?」
「良いよ。今が必要な時だから」
礼を言って受け取った副会長。
副会長を先頭に、エレミアとクリスティアが続いて、後ろに従えるようにシディアとリーゼが続く。
その後から、あくまでお手伝いとして静かにアヤメとツバサが続く。
◇◇◇◇◇
「良くいらっしゃいました」
人数が多いので、体育館を貸して貰っているので、十分余裕がある。
多分、ここを仕切っている生徒だろう、赤髪の男子生徒が出迎えた。
「対応が遅れました。申し訳ありません。スーウェン・レイシア・ネーヴェンと、クリスティア・ウォル・ガーデン、エレミア・ミラ・サウエラン以上が法家、リーゼ・スコット、シディア・モノリス、以上が〈ニーファ〉の出身です」
「ご丁寧にどうも。俺は、魔法科三年イグニス・アグニ・カリエンテ」
副会長が礼儀として、家名を順位が上の者から伝える。貴族にも順位が有るので、これが決まりとなっている。
法家とは、魔法の才が国に認められ、国から名を賜った家の事だ。法家にのみ、ミドルネームを名乗る事が許される。
出迎えた生徒は、法家である炎の名家のカリエンテ家の次男だった。
「ここでは身分は気にしないから、もう少し力抜いて良いよ。男も女も気にしないし、生まれた順番も気にしないから」
「分かりました」
「で?後ろの2人は?」
空気のように佇むアヤメとツバサ。
視線を感じて、丁寧に一礼する2人に、軽く頷いて挨拶するイグニス。
「生徒会からのお手伝いです」
「信用は?」
「出来ます」
断言する副会長に、一瞬たじろいだイグニスだが、警戒心は解かない。
「他国の者が居るのにぃ、安心して話し合いなんてぇー出来ないわぁ」
椅子に座って、机の上で頬杖をつく女生徒が口を挟んだ。くるくる巻いた金髪で、2つに結んでいる。
「エクレール、久しぶりね」
「そうねぇ」
独特の間延びした口調の彼女は、雷の名家レビン・トレノ・エクレール。魔法科二年。彼女には貴族の自覚はほとんど無いが、一応エクレール家の長女だ。
そこで一度周りの生徒を確認して、驚いた副会長。
「法家が全て集まっている!?」
「皆ぁ、思いは同じよぉ」
「スーウェン!俺様を忘れるなよ!てか、今無視したろ!」
「うるさいわよタービランス」
目が合ったにも関わらず、完璧にスルーされた男子生徒が叫ぶ。
金髪が所々跳ねている。
「寝坊したのね」
「してない!」
彼は、ラファーガ・バリヂ・タービランス。風の名家の三男。魔法科二年。
代々、自由奔放な性格の持ち主が多い家で、彼も例外ではないようだ。
風魔法も有名だが、召還術師としての方が有名だ。鳥型召還獣を扱うのが得意で、国からも重宝されている。
「落ち着いてくれ。話しを戻すが、皆も他国の者が居る場所での話し合いは落ち着かないだろう」
「…何が気になるの?」
「疑う訳ではないが…」
「他国は敵かも知れないわぁ」
「スーウェンを信じない訳ではないからな!一応な!一応!」
言いよどむイグニス、キッパリ言い放つレビン、副会長を気遣うラファーガ。
困り果てる副会長。
後ろで顔を見合わせるエレミアとクリスティア。
とりあえず小さくなったシディアとリーゼ。
無表情で様子を見るアヤメとツバサ。
「あの!」
一人の男子生徒が立ち上がった。
「自分は商家のドゥーネ家の、ブラン・ドゥーネです。差し出がましいかと思いましたが…」
「どうした?身分は気にしなくて良いから、意見を聞かせて?」
「はい!自分は国王が帰国する際、呼び出しを受けた者です」
副会長がはっとする。
見送りの時に集まった貴族だと、ようやく気が付いたからだ。
「自分の他にも、商家のナイン家、ミラネ家、武家のロット家、ヴァロン家、カール家の者も集まりました。その際、指示を出したのがあそこに居る…」
「あっちかなぁ?」
レビンがアヤメを指差した。
知らない人からしたら、アヤメの方がそれらしいのだろう。
「いえ」
「え?あっちぃ?」
「はい」
レビンがツバサを指差したので、頷いたブラン。
「副会長からのお使いです」
すかさずツバサが口を開いた。
「そうなのぅ?」
「…ええ」
いきなり自分の指示にされて戸惑う副会長だが、後ろからプレッシャーを感じて素直に頷いた。ツバサだろう。
「信頼出来るので、任せました」
「一応、大丈夫そうねぇ」
「生徒会の皆も味方です。そうでなければ、欺けなかったでしょう」
「そうだな!俺様は気にしないぜ!」
皆も頷いたのを見て、とりあえずホッとした副会長。
「法家が集まっているのはぁ、どうやって知らせたか分からないけどぉ、タービランス家にネーヴェン家の伝達があったってぇー連絡があったからよぉ」
「召還獣が書簡を持って来たんだ!」
もう、実家が動いてくれているのを確認して、少しホッとする副会長。
同時に、内心苦笑する。
知らせたのは、アヤメとツバサの幻獣だからだ。
「元々、残るつもりだったけどね」
「まあねぇ」
「帰る気無いな!」
イグニス、レビン、ラファーガがお互いに笑い合う。
「そうでしょう?アゾットさん、アップグルントさん?」
話しを振られた生徒は、地のテラ・アゾット家、闇のアウシ・アップグルント家の者だ。
濃い茶髪の青年が口を開いた。
「一応、挨拶しようか?…院生のドライ・テラ・アゾット。一生帰る気無いよ。はい次!」
院生とは、学園の上の機関で、卒業後に任意で入る事が出来る。より、専門的な事を学ぶ場だ。
ドライの言葉に、聞き捨てならないセリフを聞いて、皆が思わず凝視する。
「穴開きそう」
本人は気にしてないようだ。
「一生帰る気が無い?」
「あー、家出たから。何も言ってないけどな。貴族面倒だし」
変わり者らしい。
関わるのが面倒(アゾット家の面倒事に巻き込まれそう)なので、放っておく事にした一同。
もう一人の法家に向き直る。
「クククッ…面白い…」
こいつにも関わりたくない。
「自己紹介?くくっ…くだらない…だが、仕方ない…魔法科一年、ダンケルハイト・アウシ・アップグルントだ…」
気にしたら負けだ…多分…
「あーえっと、良いかな?」
気まずい空気の中、たまりかねてイグニスが皆に確認する。
皆も一斉に頷いた。
「確認するけど、帰国した貴族は、いずれも中流貴族だ。最近、王家と繋がっている事が分かった」
「重税から、おこぼれを貰っていた貴族よねぇ」
「ああ。後は、何よりも階級にこだわる貴族だな」
「くだらねー!」
「随分前から、法家を疎んでいた貴族ね。王家も法家を煙たがっていたわね」
「法家は財力が有るから、手懐けられないからな!誰が金で釣られるか!」
「国民からもぉ支持されているしねぇ」
兵力として居なければ困るので、権力でつなぎ止めたが、大きくなりすぎて良いように手懐けられなくなった。
王家は国を乗っ取られる事を恐れ、徐々に他の貴族に手を回していった。
良好だった関係は崩れ、法家はひっそりと独自の道を歩み始めた。
王家に見放された下流貴族は、国民を思う法家についた。法家はそれをひたすら隠し続けた。
法家はそれぞれ違う道を歩んでいたので、纏まる事はなかった。成り立ちも、歴史も違うので仕方ない。
誰も表面上には出さなかったので、国の異常にはほとんどの者が気付かなかった。魔法の名家は、技術の流出を恐れ閉鎖的だったのが、拍車をかけた。
王家も自分たちの力に酔い、疑う事もしなかった。
力をためる為に、法家はひたすら王家に頭を下げてやり過ごしたので、王家も勘違いしたのだろう。
だが…
「これ以上は限界だ」
「皆同じ考えなんだしぃ」
「お互い拒む理由は無い!」
「立ち上がりましょう」
「十分、力は溜まりましたわ!」
「初めてひとつになれますね」
「まあ、付き合うよ」
「ケケケッ…面白そうだ」
忘れてはならない
法家は力が有るからこそ、法家として成り立つのだと言う事を…
ご感想お待ちしております




