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開いて下さってありがとうございます

 朝、寒さでかじかむ手先をこすりながら歩く、〈レジェンド〉と〈ミラージュ〉の一同。


「早くしろ」


 ムウが、ぼんやりした顔でゆっくり歩くジンを急かす。

 まだ、他の生徒は夢の中。

 朝早くに来るようにと、昨日の夜会長に言われたので、生徒会室に向かっている。各国の代表の見送りの為だ。

 いつもの事だが、ジンは朝に弱い。

 ツバサは必要な時にはさっさと起きるので、苦労しない。

 今日はいつもより寝起きが悪かったジンを、ラングとムウが起こそうと叩いたり、蹴ったりしたが意味なく(有る意味凄い)、ラザックとガナンを連れて来て、文字通り叩き起こして支度させたが、今も尚寝ぼけまなこの状態だ。

 のろのろ歩くので、ラングとムウが引っ張ったり叩いたり、後ろに居るラザックとガナンが押したり蹴ったりして歩かせている。

 ものすごく、手がかかる。


「有る意味凄いわね…」

「このまま、代表に会うのはね~」


 駄目だろう。絶対に!

 起こしてくれと、目線で訴えるラングとムウ。ラザックとガナンも、そろそろ限界らしい。堪忍袋の緒が…。

 どうしようかと悩むアヤメに、ちょっと黒い笑みのツバサが頷いた。任せろと言う事らしい。


「ジン~起きないと、見捨てるよ~?使えないなら必要無いし~」

「待って!起きた起きた!」


 目を見開くジンに、苦笑するツバサ。

 ジンは捨てられる事と、必要とされない事が一番怖いのだ。

 それを言われると、反射的に反応するようで、必死に皆に叫ぶ。

 エレミアとクリスティアが他人のふりをしているのが、更に不安を感じる材料となったらしい。2人はただ、面倒事に関わりたくなかっただけだが…。


「これから代表に会うのだから、しっかりしてよ」


 アヤメが注意すると、いきなり立ち止まったジン。


バッチーン!


 自らの両頬を思いっきり叩くジンに、呆気に取られる一同。

 両頬が腫れ上がったが、ちゃんと眠気が去ったらしい。涙目だが。


「って!腫れ上がった顔で見送れないわよ!」


 立ち直ったアヤメが、ジンの両頬の腫れを治癒魔法で治す。赤みが残ったが、応急処置なので仕方ない。


「ごめんなさい…」

「お前、感情の起伏が激しいな」

「ラザックに言われたくないぜ!」


 急に静かになるジンに、爽やかな笑みでラザックが突っ込んだ。

 戦闘時、性格が大きく変わるラザックには言われたくない事だ。

 普段は爽やかで理性的で人気だが、戦闘時は狂ったように暴れまわるのが、ラザックの特徴だ。


「戦闘時は狂人のくせに!」

「あれが素だが?」


 思わず離れる一同。

 あれが素だと知れば、誰でも引いてしまうだろう。


「まじ?」

「暴れてこそ男だ!」

「男なら拳で語れ!」


 普段、物静かなガナンだが、静かなだけで外見は暑苦しい。

 妙にキラキラした瞳と、何故だか必要なくても着用している鎧がより暑苦しい。

 とりあえず静かなので放っておくが。

 時々、ラザックとガナンが男について語り合い、相容れないと実力でぶつかり合い始める。本当に、暑苦しい。

 黙って睨んで来るツバサに、今回は手を引く2人。普段のんびりしているが故に、黙って睨むツバサは怖い。こうした時は、本当にキレる兆候だ。

 しかも、何故だか気温が下がる。


「何でチームを組んだの?」


 アヤメが小さくエレミアに訪ねる。


「あの2人が余っていたからよ…」


 余っていたらしい。

 なんとなく、納得してしまったアヤメ。

 ツバサの無言のプレッシャーで、黙って移動するジン、ラザック、ガナン。

 元々大人しいラング、ムウ。

 ラングが騒いだ所は見たことが無い。と言うより、騒がしいのが苦手らしい。

 ムウは口より先に手が出る方なので、察知するのが難しい。いきなり抜刀して切りかかるのだ。無言で。

 普段、ジンが無鉄砲で、危なっかしいので目立たないが、他のメンバーも個性的で纏まっていないのが〈レジェンド〉だ。

 皆の中では、アヤメとツバサが一番怖いのだが…。いろんな意味で。


「もう着くわよ!」

「はい…」


 後ろに回ったツバサから感じる殺気で、びくびくしながら時々振り返るジン、ラザック、ガナン。

 アヤメの一言に、ほっとしたように顔が緩む。

 扉を開くと副会長が出迎えた。


「おはよう」


 皆も挨拶を返して中に入る。


「また、チャカが居ないな…」


 呆れたように会長が呟く。

 風紀委員長だが、いつもギリギリになってから来るのだ。マイペースなのは良いが、しっかりして欲しいと、風紀委員の皆が思う。


「ギリギリっすか?…セーフ!」


 飛び込んで来たチャカに、びっくりした一同が振り返る。

 ドアの近くに居た風紀委員が、可哀想な程に細くなっている。


「腕は良いんだがな…」


 会長の一言に、一斉に頷いた風紀委員一同。もちろん〈ミラージュ〉も。


「確認するぞ」


 気を取り直して会長が本題に入る。


「一番最初が〈ニーファ〉の方々だ。しっかり頼む」


 皆が喜んで頷いた。早く帰って欲しいのが良く分かる。


「帰国する者は、学園に居る〈ニーファ〉の生徒の半数だ。予想より少ない」


 大半が去るだろうと思われたが、サウエラン家、ガーデン家はともかく、筆頭貴族のネーヴェン家である副会長が学園に残った事が、他の貴族の生徒にかなりの影響を与えたらしい。

 生徒にとっては、女だとか生まれた順番などは関係ないようだ。

 面倒事が減ってなによりだ。


「これが意外なんだが…」

「どうしました?」

「残った貴族と、一般生徒が纏まって話し合いをしている。しかも、対等の立場としてだ」


 流石に驚いた一同の視線が、会長に一気に集まる。

 会長が居心地悪そうにしながら、落ち着くように促す。


「スーウェン、知らなかったのか?」

「仕事が忙しく、気が付きませんでした。申し訳ありません」

「いや、謝らなくていい」


 生徒を監督する立場から、責任を感じて謝る副会長。

 会長が慌てて止める。

 あわただしい中、気付けないのは当たり前だ。座る時間すらなかったのだから。


「こちらは後で対応して欲しい。どうすれば良いのか分からん」

「私も分かりませんが…アヤメさんと、ツバサさんを貸してくれるなら…」

「「え!?」」


 いきなり名前を出された2人が、揃って副会長を見つめる。


「もちろん。2人の仕事は、皆でなんとかしよう」


 会長の言葉に、周りの皆まで頷いた。


「何で、ですか?」

「適任だから」

「お願いします」


 アヤメがとりあえず訪ねると、会長がキッパリと理由を告げて、副会長が深々と頭を下げる。

 良く見たら、周りの風紀委員一同まで頭を下げている。


「分かりました。分かりましたから、頭上げて下さい」

「ツバサさんも良いですか?」

「構わないよ~」


 全然気にしていないツバサに、拍子抜けした副会長。


「あくまで、補助だけどね~立場的に」

「ええ、そうね」


 生徒会、風紀委員の一同は分かっているが、一般生徒は2人の実力を知らない。

 副会長で、ネーヴェン家のご令嬢であるスーウェン・レイシア・ネーヴェンを差し置いて、2人が前に出る訳にはいかない。それは反感を招くだろう。


「一応、エミー、クリスにも付き合って貰うよ~」

「他人事では有りませんもの。微力ながらお手伝い致しますわ」

「はい。少しはお役にたてると思います」


 貴族のご令嬢として、他人事ではない2人も頷いた。

 貴族がこれだけ居ると心強い。


「なあ、会長の出番無いよな?」

「諦めるっす!仕方ないっす!」


 こそこそ話す会長とチャカ。

 聞こえたルクスとゼファも頷く。


「か、会長、話し戻して下さい」


 シディアが小さく話しかけ、会長も皆に向き直る。


「あー、おほん!次にお帰りになられるのは〈フラウニア〉の方々だ」

「ゲイルか~まあ、適当で良いや~」

「良くないから!ツバサ君に言わせたら、皆そうでしょ!」


 呼び捨てを注意する事を忘れて、即座に突っ込んだ会長。

 流石は会長。良く分かっている。


「で、次は~?」

「流された!?…はあ。〈トウゴク〉の方々だ。人数も多いので荷物も多い。皆も手伝って欲しい」

「それこそ、放っておけば~」

「自分でやるわよね」

「アヤメ君まで!?」

「「そういったお国柄だし」」

「そうなの!?」


 自分の事は自分でやるのが当たり前の国なのが〈トウゴク〉。

 人に頼るのが苦手なので、自然とそうなったようだ。


「それでも、手伝って!お願いだから!学園の顔だし!」

「はい」

「はいよ~」

「大丈夫かな?…えっと、次は〈ガイス〉の方々」

「よし!放っとこう~」

「何がよしなの?」

「お土産くれなかった~」

「ツバサ、お昼はおごって貰ったわよ」

「あ~そうだった~」

「おごっ!?」


 びっくりし過ぎて死ぬんじゃないかと、思える程に会長が驚く。

 因みに、副会長はなんとなく分かっていたようで冷静だ。

 ルクス、シディアは小さくなっている。

 ゼファは外見上は変わらないが、手を握りしめているので、緊張しているようだ。

 〈ミラージュ〉の一同は、もはや慣れてしまったので気にしない。

 チャカは神経が図太いらしい。いつもと変わらない。

 風紀委員は直立不動。多分、固まっている。

 ジン、ラング、ムウは当然のように頷いている。2人が頭下げる方が怖いと、良く知っている。


「頼むから、外見上だけで良いから、丁寧にお願い」

「ん~」

「分かってますよ」


 ツバサは適当に、アヤメは真顔で頷いたので、とりあえず良しとした会長。

 時間的に門で待機する必要が有るので、皆が急いで向かう。

 ツバサが副会長に何かを小さく呟いた。









「来た」


 会長にゼファが知らせる。

 〈ニーファ〉の一行が近付いて来るので、皆も身構える。

 来た時より随分と増えた人数に合わせて、馬車も増えている。

 皆が一列に並んで一礼する。


「止めよ」


 スヴェートの一言で馬車が止まった。

 馬車から顔を出すスヴェート。


「嘲り笑いに来たか…」

「え?」

「隠さずとも良い。我が国を侮辱するような者の学園だ。裏切り者も居るようだしな…」


 戸惑う会長を無視して、副会長を睨み付ける。

 列の中に居たエレミア、クリスティアを見つけ、2人を睨む。


「今、何と?」

「分からぬかネーヴェン!」

「今、ネーヴェン家を侮辱しますか…」

「む?」

「貴族が揉めている状況で?」


 小声で告げる副会長に、国王が目を見開いた。

 今、ネーヴェン家を敵にするのは、王家にとっては不利だ。

 王家の歴史と共にある、筆頭貴族が敵になれば被害が大きい。

 負けは無いが、痛手となる。

 敵がネーヴェン家だけなら…。


「私は、国の方針に従い、学業に励んでいるだけです」

「ほう?」

「国の方針が変わり次第、素直に従いましょう」

「国として、か?」

「はい。公になり次第です。いきなり手を引くのは、国民に不信感を抱かせるでしょうから」


 小さく、「今は危険でしょう?」と言って、エレミアとクリスティアに振り返る。目線で合わせるように告げる。

 貴族として、常に空気を読んで来た2人はしっかりと読み取って、頷いた。


「あの2人も承知の上です。他の貴族も承知しております。報告するには人の目が多く、不可能でした。申し訳ありません」


 またも小さく、「一般人が聞き耳を」と告げる副会長。

 しばし、沈黙が流れ、スヴェートが目を細める。


「ほう?だが…」


 周りの生徒を見渡したスヴェート。

 何が言いたいか、気付いた副会長が緊張を悟られぬように、慎重に口を開く。


「幸い、〈ニーファ〉の一般人はここには居ません。他国の言葉を信じる者など、居ますまい」


 平民のシディアとリーゼだが、スヴェートが知っているとは思えない。

 シディアは絶対に知らないだろう。

 裏の家の娘であるリーゼには気付くかもしれないが、長年貴族に仕えて来た家だ。ごまかせるだろう。


「あの者は…」


 やはり、スヴェートはリーゼに気付き、訪ねてくる。

 リーゼは視線に気付き、一礼する。少し引きつっているが、緊張しているようにも見える。


「ご心配なく。サウエラン家の者です。初めて陛下にお会いして、緊張しているようですが、ご容赦を」

「ふむ…」


 訝しむスヴェートに、今バレてはならない副会長は冷や汗を流す。

 そこに、意外な助っ人が現れた。

 離れた場所だが、目視出来る所に貴族達が集まっている。いつの間に呼びに行ったのか、ツバサがそこに居る。

 手で合図して、消えるツバサに驚きながら、従う副会長。


「陛下、後ろに皆が集まっています。周りに気づかれぬように、ご覧下さい」

「ふむ。皆の者、心配要らぬ。武器を下げよ」


 皆に声を掛けるふりをして、後ろを確認するスヴェート。

 6人の貴族が一列に並んで、最高位の礼をする。

 胸に手を当て、片膝を付き、地面に付きそうな勢いで頭を下げる。

 これは、国王に命を捧げると、戦前に向かう騎士がする礼。つまり、命をかけて国王に仕えます、と言う意味だ。胸に手を当てるのは、わざと急所を教える事で信頼を意味し、頭を出来るだけ下げるのは、首(命)を捧げると言う意味だ。

 礼の仕方が地面に這うようで、頭を投げ出し無防備になる姿が貴族のプライドを刺激するので、本気ではないと出来ない。

 そう常識として認識されている。

 皆が武器を下げたのを確認したように見せかけて、首を正面に戻すスヴェート。


「あれで全てか?少ないな」

「全て集まれば気付かれます。不自然にならないように、少数にしました。お気に触られたのでしたら、申し訳ありません」

「ふむ。良い。理解した」


 満足げに頷いて、馬車に向かうスヴェートに近衛が話しかける。


「何を?」

「あやつらは見方だ」

「嘘やもしれません」

「長年仕えた貴族だ。やはり、有り得ないだろう。向こうに貴族が居てな、最高位の礼をした」

「なんと!疑うとは申し訳ない」

「今は平静を保て」

「は!」


 最高位の礼は、それだけで信頼を得られる程の物。

 最近では、ほとんどの貴族がやらない事故に衝撃が強い。

 その礼を、6人とは言えやって見せたので、信じる気になってしまった。

 僅かに疑ったが、皆の目が真剣そのものだったので、元から人を見下す王であるスヴェートには高揚感が勝った。


「皆に伝えよ。ネーヴェン家には密命が有ると。もちろん、騎士だけにな」

「は!」


 スヴェートが馬車に乗り込んで、馬車が動き出した。

 一番奥に居た校長が一礼するが、皆見向きもしない。

 馬車が見えなくなってから、皆が力を抜いて座り込んだ。


「良く、あそこまで言えたな」

「今バレては、早馬にて知らされてしまうので困るのです。最悪、召還獣を使われてしまいますし。まだ、準備が出来ていないから、対抗出来ません。それに、伊達に貴族として生まれてません」


 苦笑しながら、満足げに話す副会長。


「驚きましたわ」

「とっさに合わせられて良かったです」

「伊達に貴族の中で、腹の探り合いはしていませんわ」


 驚きながら自慢げに話すエレミア。

 ほっとするクリスティア。


「なんとかなりました…」


 ほっとして力が抜ける副会長。

 皆は一度仮設テントに向かった。

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