学園は中立
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皆が校長の言葉を待って見つめる中、腕を組んで静かに聞いていた校長が一つため息をつくと口を開く。
「なるほどのぅ…状況は分かったわい。だがのぅ…」
眉間にしわを寄せ、唸る校長。
「むう…何も出来んのじゃ」
飛びかかりそうなジンをムウがとっさに掴んで、後ろに引っ張る。
唇を噛む副会長の肩を、会長が軽く叩いて宥める。
「学園は中立じゃ。国に抗議は出来ぬ。強引に連れ去るならまだしも、生徒の意志によって決めるなら、何も出来んのじゃ」
「これだけ横暴な内容でも?」
アヤメが一応確認する。
「内容は横暴じゃが、元々学園に来る貴族は国から捨てられたも同然じゃろ?いきなり見捨てた訳では無いのじゃ」
〈ニーファ〉の貴族は皆承知して学園に通っている。捨てられた事を。
騎士と言っても、権力は無いに等しく、給料も安く、一応の生活と貴族の地位の保証に過ぎず、家の相続権を持つ者に万が一何かあった時の保険でしかない。
それでもいざという時に必要だから、学園に送って教養を身につけさせるのだが、見栄えを良くする為に過ぎない。
一応、学園から出た者の中から、長男を凌ぐ才能の持ち主が現れた時に、特例措置として相続権が与えられた事もある。
そうそう有る事では無いが、それを目指す者も少なくない。
国の本音は、戦いで使えればどうでも良いのだろう。
「見栄え重視じゃからのぅ…」
副会長、シディア、エレミア、クリスティア、リーゼが俯いた。
「どうにもならないね~…くだらん」
「そうね…アホらしい」
「まったくじゃ!馬鹿らしいのぅ」
容赦も遠慮もない3人。
上からツバサ、アヤメ、校長だ。
慌てて周囲を確認する会長、副会長、チャカ、ラング、ムウ。
良く分かってないジン。
無関心なゼファ。
オロオロするシディア。
真っ青になったエレミアとクリスティアを、心配しながらあたふたするリーゼ。
笑いをこらえるラザック。
固まったガナン。
「平気だよ~」
「盗聴防止結界が張ってあるわよ」
「完璧じゃ!」
関心すべきか、呆れるべきか、どうして良いのか分からない一同。
とりあえず頷いておく。
「結局、本人次第かしら?」
「…残った時の援助は~?」
「ふむ…必要なら考えようかのぅ」
学園に入るにはお金はかからない。一年毎に国から資金を受け取り、そのお金で生徒を迎え入れる。
しかし、教材や武器、生活費は生徒が払うので結構お金がかかる。
資金は各国が国の代わりに優秀な者を育ててもらう為に支払われる物で、もし国が学園に頼らなくなれば払われない。
〈ニーファ〉は貴族の子供を連れ戻した後、学園から手を引く可能性が高い。
生徒が増えないので、新たに資金が必要な事にはならないが、今いる生徒達が困る事になる。
授業料がかからないだけで、その他のお金は必要になる。働いている者も多いが、足りない事が多く、資金から借りている者も少なくない。その貸す為の資金にも限界が有る。
当然、返していく必要が有るが、就職先が必要になる。〈ニーファ〉の生徒が国に帰れないとなると他国で働く必要が有るが、それは難しい。
スパイが当たり前のように存在するので他国の者を採用する所が少ないのだ。
つまり、様々な問題が同時に湧き上がってくる。
一番困るのは、資金の問題だろう。
最悪、就職先は学園の従業員(教師の手伝いや、代理、騎士など)にしても良いし、ギルドに掛け合って職人に紹介して貰っても良い。冒険者になるのも良い。
だが、今必要な資金が足りなくなる。
「資金の問題は、校長の財力でなんとかなるでしょ~?」
「ならんとは言わんがのぅ…」
「なんとかしなさい」
「儂の生活がのぅ…」
「関係ないね~」
「ひどいのぅ!」
「黙って出しなさい」
「…はい」
睨むアヤメと、静かに微笑むツバサに、命の危険を感じた校長。
周りの一同は取り残されている。
「貴族の対応は副会長とエレミア、クリスティアに任せるね~」
満面笑顔のツバサ。
「え!?」
「何故ですの?」
「私もですか?」
上から副会長、エレミア、クリスティアである。
お互いに顔を見合わせる。
「貴族は良く分かんない~」
「私は無理よ」
ツバサは肩をすくめて、アヤメはキッパリと言う。
周りの皆にも言われ、しぶしぶ引き受けた3人。
「国の対応は校長ね」
睨みながら言うアヤメ。
「…はい」
アヤメの手がレイピアに触れたのを見た校長は直ぐに頷いた。
「混乱した生徒の対応は生徒会と風紀委員総出で~」
笑顔だが、“拒否権無いよ”と目が言っている。
皆一斉に頷いた。
「リーゼ、ラザック、ガナンは引き続き臨時風紀委員で」
順に見ながら言うアヤメ。
ラザックとガナンは直ぐに頷いたが、リーゼは迷いながら俯いた。
「この位しか出来ないよね…」
小さく呟いたリーゼ。
(護衛として居る筈が、何も出来ない自分が情けない…)
リーゼの様子から内心を読み取ったエレミアが、リーゼの額を軽く小突く。
「あなたは私を敵から守るの。攻撃から守るのが仕事なの。今回は違うわ。こうした事は貴族の娘である、私の役目なの。分かったかしら?落ち込む事ではなくてよ」
「うん…」
「落ち込んで、いざという時に動けない事は無いようにしてよね!私、頼りにしているのよ」
「ありがとうエレミア」
少し微笑んだリーゼ。
満足げなエレミア。
「大丈夫かな~?」
「大丈夫だよ!頑張るね!」
心配したツバサに、明るく笑いながら答えるリーゼ。
各自、役割を確認して行動に移す。
「うわ…」
とりあえず、片付けの手伝いに来た〈レジェンド〉だが、目の前の光景に動けなくなってしまった。
〈ニーファ〉の貴族が荷物を纏めているので、沢山の荷物が運び出されている。
学園祭の片付けも終わってないのに、次から次へと物が出て来る。
「どこから出て来たんだ?」
「知らないわよ…」
「……どうするの?」
「どうしようね~?」
「困りましたね…」
どれが学園祭の物かも分からなくなってしまった。
「仕方ないわね…確認しながら片付けるしかないわね」
「そうだね~」
一つ一つを確認して、学園祭の物だけ運び出す。
旅商人が買い取ってくれる物を、旅商人の居るテントに持っていく。魔法具は繊細な物なので慎重に運ぶ。
風紀委員が旅商人から借りてきた台車に感謝しながら運ぶ。
「何これ?」
「ジン!触らないで!」
「おわっ!?」
「あのお坊ちゃまの物なの~」
分かりやすい程、お坊ちゃまの格好した男子生徒を見るツバサ。
寒いのか、高そうなコートを着込んで、手袋までして指示を出している。
多分、護衛の生徒だろう茶髪の生徒に、見下した目で命令する。
ジンが触りそうになった物は、あのお坊ちゃまの物だったらしく、小さいプレートが付いている。
金と宝石で飾られた、役にたたないだろう剣。完全に武器ではなく、装飾品になっている。
「趣味悪っ!」
「こら!聞こえたらどうするのよ!」
「痛っ!」
小声で感想を述べたジンに、とっさに足を踏んで注意するアヤメ。
足を抱えて丸くなるジンを無視して、さっさと作業に戻るアヤメ。
「………ええ!?」
ラングが青ざめたので、びっくりしてツバサがラングの手元を覗き込んだ。
「うわ~」
なんだか良く分からない生き物が、良く分からない液体に入った瓶。さっきのお坊ちゃまの所有物だ。
とにかく気持ち悪い。
「見なかった事にしよ~」
「………うん」
そそくさその場を離れるツバサに、黙ってついていくラング。
「師匠、あちらの方が」
ムウが連れて来たのは、数人の〈ニーファ〉の使用人。
「なんでしょう?」
「〈ニーファ〉の使用人です。帰国される方のお荷物をお預かりするようにと、言われています」
「ご苦労様です。こちらです」
アヤメに連れられてお坊ちゃまの前に来ると、使用人が丁寧にお坊ちゃまに礼をする。
皆が慎重に、しかし素早く荷物を台車に乗せていく。
何回か往復して全て運び出された。
おかげで片付けもはかどって、一段落ついたので後を風紀委員に任せ、別の場所に移動する。
行く先々で帰国する生徒の荷物であふれていた。
他の生徒はただただ困惑している。
一回りしたので、食堂に集まって昼食をとる。
周りにも、くたくたになった風紀委員達がくつろいでいる。
食べているのか、寝ているのか分からない位ゆっくりと食事をしていると、〈ミラージュ〉の一同がこちらに向かってきた。
「どうした~?」
「…帰国の事なのだけれど、私は学園に残りますわ」
「私も残ります」
エレミアとクリスティアが宣言する。
2人とも決意したようで、瞳は真っ直ぐ前を向いている。
ピンと背筋を伸ばして、堂々とした姿に育ちの良さが現れる。
「良いの~?」
「良いのです。このような事、お父様がお許しになりません。それに、お父様は中途半端な事が大嫌いなのです」
クリスティアが誇らしげに胸を張る。
「クリスティアの言う通りですわ。中途半端に帰ったりしたら、本当に家を追い出されてしまいますわ」
にこやかにエレミアが頷いた。
「あら?同じ結論ね」
突然現れた副会長に、びっくりした一同(アヤメとツバサを除く)が振り返る。
鋭い光を宿した瞳で、一同を見渡す副会長。どこか誇らしげに微笑む。
「そうでなくてはね。貴族として生まれたからには、この位で揺らいでしまってはいけないわ。腹をくくりましょう」
「覚悟は決めましたわ!」
「もちろんです」
3人は力強く頷いた。
「副会長が残るなら、大分状況が変わるわね」
こんな時でも冷静なアヤメが呟く。
「〈ニーファ〉の代表的貴族だからね~他の貴族も無視出来ないね~」
どこまでもマイペースなツバサ。
「一番力のある貴族だし、一番歴史も長いからね。長年国を支えてきた家が今回対立するとなれば、国はどう傾くかしら?」
「さあね~元から傾いているし~」
「…ツバサ、いきなりそんな発言しないで欲しいわ」
一度周りを確認して、ツバサを咎めるアヤメ。いつの間にか、結界で守られていたので、声は外に漏れないだろう。
いたずらっ子のように笑うツバサに、脱力するアヤメ。
ジン、ラング、ムウはこの展開に慣れ始めた自分たちが怖くなった。
リーゼ、ラザック、ガナンはきょとんとしている。これが普通の反応だ。
副会長、エレミア、クリスティアは感心している。
「分からなかったわ…」
「流石ですわ!」
「まあ…助かりました」
上から副会長、エレミア、クリスティア。
3人共流石魔法の名門貴族。驚くよりもその技術に興味を持ったようだ。
しばし観察した後、あまりにかけ離れた技術にまたも感心する。
「他の貴族はどうです?片付けの手伝いに行った時に、荷物を運び出す生徒が多数居ましたが」
「今、2つに分かれているわ」
副会長が少し声を潜めて口に出す。
「私達と同じ結論の生徒もいるし、帰国する事を決めた生徒もいるわ。両者の意見がぶつかり合っているから、少し危ないかも知れないわね…」
「具体的には~?」
「水面下で腹のさぐり合いよ。力の弱い貴族は抵抗出来ないわね」
「副会長が纏める事は~?」
「不可能ね。貴族社会では、女は認められないのよ」
エレミアとクリスティアが、申し訳なさそうに頷いた。
「だよね~」
あっけらかんと言うツバサに、一瞬力が抜ける3人。
密かにアヤメがため息をつく。
「でも、そうは言ってられないね~…皆の家の総力は、国の中でどの位~?」
「我がネーヴェン家、光のサウエラン家、水のガーデン家、と各門下生を合わせて、国の5分の1になるわ」
流石と言うべきか、やはりと言うべきか影響力は凄まじい。
「…なるほど~」
無表情で黙り込んだツバサに、心配する一同(アヤメを除く)。
「考え中よ。問題ないわ」
しばらく悩んだ後、静かに顔を上げるツバサ。
「今は難しいけど…出来れば冬休みの間に、出来るだけの魔法の名門貴族を味方につけて欲しい」
ご感想お待ちしております




