国の事情
開いて下さってありがとうございます
「良いのかしら?」
真夜中、ツバサの部屋でくつろぐアヤメとツバサ。紅茶を片手にまったりとしている。
しかし、話しの内容は国に関わる重要な話しで、その姿と相反する。
「何が~?」
「〈ニーファ〉よ」
「あの国は、内部から崩壊しているからね~どうにもならないよ~」
「まあ、そうだけど…」
知る者は限られるが、〈ニーファ〉の内部は荒れ果てている。
スヴェートは先王の隠し子で、本来ならば王位には就けないが、先王の正式な子供で男児ならば突然病に倒れ、女児ならば他国へ嫁がされたので、スヴェートしか残らなかった。
先王が倒れ、亡くなる直前にいきなり婚約の話しが舞い込んで、2人の王女が他国の“貴族”に嫁いだ。反対意見が多数あったが、“何故か”嫁ぐ前日になって話しが明らかになるので、断れない。先方では既に決まった事として、“王印”の押された書類が届けられ、国民に公にされていた。もちろん、王が倒れているので、有り得ない筈だが…。
王女が居なくなり、王が危篤状態になると、5人の王子が次々と倒れた。長男は弓で撃たれて、次男は突然魔物の群れに囲まれて、三男は流行り病で、四男は魔力の暴走で、五男は心臓の病で亡くなった。次男の場合、“何故だか”護衛が呼び出された事で手薄になった瞬間に襲われた。護衛は王から呼び出されたと言われ動いたが、後で誤った通達だと明らかになった。
スヴェートが疑われたのは当然だが、証拠は何もなく、更にスヴェート自身にも毒が盛られたので、疑いが薄れた。一時、重体となるが、適切な処置によって難を逃れた。
「自作自演だけどね~」
「“何故だか”側に医師が居たんでしょう?分かりやすいわね」
「まあ、昔からある事だからね~王位を狙った暗殺は」
「まあね…」
「でも、内部で隠されたとは言え、国民も不信感を持つ訳で~」
「反乱が起こったと」
「で、スヴェートはこれを機会に、圧政を敷き始めた。国民に罪をなすりつけてね~この頃から、王族と貴族は勢いを増したんだよね~」
「前から王族と貴族の権力は強かったから、国民は更に苦しみ始めた。代々、身分にうるさい国柄だから」
「闇が濃いんだよね~でも、流石にスヴェートのやり方に反発する貴族が現れて、内戦が起きてもおかしくない状態になったから~」
「他国との話し合いどころではないと」
「多分ね~」
小さく笑うツバサに、苦笑するアヤメ。2人共、目が笑っていない。
「どうしても、今回の戦いの主導権が必要だったと…言う事かしら?」
「握れなければ、はねのける事もね~」
「何故かしら?」
「身分にうるさい国柄だから。あの国は、他国を見下しているから~他国と平等は貴族が嫌がるんだよ~すべてでは、ないけどね~」
「敵は増やしたくないと?」
「そう。あと、兵力に自信が有るのは本当だろうね~」
「それは分かるわ」
〈ニーファ〉は他国を見下してきたので、他国の力を借りた事が無い。
元々、魔力に恵まれていたので、他国より兵力は高い。魔法師が居るか、居ないかで大きな差が開くからだ。
故に、魔物の被害も少なく、悩んだ事も無い。あくまで、表面上だが。
独自に生み出された魔法も多い。
自信を持ってもおかしくはない。
「でも、今回は…」
「そうはいかないね~」
「でしょうね」
今までは良くても、これからも良いとは言い切れない。
大戦争は規模も、敵も違う。敵はほとんどが謎に包まれた、圧倒的な力を持つ、最悪で最狂の生き物だ。
どれだけ被害が出るのか、まったく分からない。
「どうなるか、分からないけど~私達に関係無いな~」
「まあ、そうね」
2人にとって、国がどうなろうと興味が無いのだ。それほど気にする必要も無い。せいぜい、知人が無事か気になる位だ。
「そろそろ寝よう~明日も早いし~」
「そうね。おやすみなさい」
アヤメを見送って、紅茶のカップを片付けたツバサは小さく呟く。
「面倒な事になるな…」
◇◇◇◇◇
朝、生徒会室に集まった一同は、早くも頭を抱えていた。
「どうしてだ…」
会長が皆に問いかけるが、当然皆にも良く分からない。
朝、急いで集まるように言われ生徒会室に来ると、珍しく慌てふためいている副会長が一枚の紙を取り出した。
~~~~~
我が国〈ニーファ〉の者達へ
此度、学園が他国と共謀し、我が国を侮辱した事により、今日から〈ニーファ〉は学園から撤退する事が決まった。
学生の君達には悪いが、我が国を侮辱した学園に置いては行けぬ。
心苦しいが、明日には皆で学園を出たい。
もちろん、旅費は国が出そう。
優秀なる君達の為だ。出し惜しみはしない故、安心して欲しい。
尚、今回帰らぬ者は、反逆者として追放処分とする。
良き返答を期待する。
スヴェート・セティ・ニーファ
~~~~~
朝、騎士によって届けられた手紙で、王印も押されている。
流石に内容が横暴なので、抗議したいと思うが、相手が国王なので不可能だ。
「失礼しますわ!」
いきなり入って来たのは、〈ミラージュ〉の一同。
エレミアとクリスティアが慌てて駆け込み、続いて残りの3人が何が起きたのか分からない顔をしながら入って来た。
「このような手紙がきましたわ!」
「私もです」
エレミアとクリスティアが取り出した手紙を見て、天を仰ぐ生徒会一同。
会長がなにやらぶつぶつ言い出した。
「わ、私も〈ニーファ〉なのですが…と、届いてませんよ?」
小さく手を挙げるシディア・モノリスに皆が振り返る。
「私も貰ってないよ!」
リーゼも手を上げる。
「どういう事?」
「…会長~手紙貰った生徒だけ呼び出すのは可能~?」
「ツバサ君?出来なくはないが…」
「副会長~集まった生徒と話し合いをお願い出来る~?」
「え、ええ…」
「では~会長、一階の会議室に皆を集めて~ここだと面倒な事になるから~」
「わ、分かった。チャカ!」
「分かったっす!皆行くっす!」
「副会長、集まった生徒から話しを聞いてくれる~?あと、身分の確認も~」
「…分かりました」
「ルクス先輩、会議室の使用許可を~」
「行ってきます!」
テキパキ指示を出すツバサに、圧倒される会長と、何かに気付いた副会長。
直ぐに動き出した風紀委員達。
ルクスが会議室の使用許可を貰って、副会長とエレミア、クリスティアが会議室に移動する。
「ジン、校長連れて来て~」
「お、おう!」
「どんな手を使っても良いよ~」
「おう!」
何故だか嬉しそうに走っていくジンを、苦笑しながら見送る一同。
「ラング、ムウは片付けの手伝いをするふりして、情報集めて~」
「……うん」
「了解です」
通信用魔法具を受け取って、駆け出していく2人。
「会長、他国の対応よろしく~」
「え!?」
「ほうっては置けないし~」
「会長だけでは足りないわ。ゼファ先輩、シディア先輩もお願いします」
流石に1人は厳しいとアヤメが判断したが、ツバサが首を横に降る。
「簡単な説明だけで良いよ~多分、気付いている筈だから~ああ、少しごまかした方が良いかな~?」
「生徒間の会議…で良いかしらね」
「良いよ~大人数が動くからね~」
「では、緊急会議と伝えて下さい会長」
「荒波たてないように、いつもの事のようにね~」
「ああ…分かった」
走り去る会長。
完全に立場が逆転しているが、誰も気にしない。誰も対応出来ないからだ。
冷静に対応出来るのは、こんな事に慣れているツバサと、ツバサと長年共にいるアヤメだけだ。アヤメも慣れてはいるが。
「ゼファ先輩、シディア先輩は生徒の監視をお願い~」
「混乱するかもしれません」
「ふむ」
「は、はい」
静かに出て行った2人。
残ったアヤメはツバサを見据える。
「厄介ね。もしかして、分かっていたのかしら?」
「なんとなくね。アヤメも薄々気付いていたでしょ~」
「なんとなくね…」
「ここ、任せるね~」
「…分かったわ」
少し考えてから頷いたアヤメ。
何をするのか気になるが、何か考えが有るのだろうと判断する。
こんな時こそ頼りになるのがツバサだ。
直ぐに生徒会室から出て行ったツバサ。素早く、そして静かに走る。
物陰に隠れたツバサは、見た目を茶髪のショートカットに変えて、生徒会のバッジを取り、“分かりやすく”探知魔法を発動し、スヴェートに近付いていく。
焦るように足をもつれさせながら、必死に走る演技をする。
「止まれ!」
「はっ!」
「何者だ!?」
素早く片膝をついて深々と頭を下げるツバサ。
「〈ニーファ〉の出身で、魔法科一年、サラ・クランツと言います」
「平民か…何用だ?」
「失礼ながら、そちらのお方はスヴェート陛下とお見受けします」
「分かっておるなら目障りだ!下がれ」
見下した目で、ツバサ…が演じるサラを見るスヴェート。
怯えたふりをして、震える声を必死に抑えながら喋るサラ。
「も、申し訳ありません。無礼は承知ですが…わ、私のクラスの御貴族様に文が届いたと聞きまして…」
「貴様!黙れ!平民の身分で!」
「良い」
「へ、陛下?」
「何用か、早く言うが良い」
「あ、ありがとうございます。あの、内容も聞きまして、でも…私には届いて無いので…な、何かあったかと」
「何かとは?」
「だ、誰かに盗まれたか、手違いかと」
「ふん!誰が平民風情にわざわざ文を出すものか。身分を弁えよ」
「は、はい!し、しかし国に帰るには…」
「帰る?」
「あ、明日帰るようにと…」
「愚か者め。平民に用はない!どうしてもと言うならば、自費で帰るが良い!」
「そ、そんな!」
「黙れ!こちらが情けで話しを聞けば、不服を申すとは何事だ!身分も分からぬ薄汚い平民風情が!」
スヴェートの合図で近衛がサラを蹴り飛ばす。
壁に叩き付けられて咳き込んだサラに、近衛が槍を叩きつける。
なんとか避けたサラに、風玉が当たり吹き飛んだサラ。
鼻で笑って去っていくスヴェートと近衛兵達。
「…なるほどね~」
まったくダメージを受けていないサラが起き上がってため息をつく。
直ぐに物陰に隠れてツバサに戻る。
「分かりやすくて良いね~」
穏やかな声とは裏腹に、鋭い目つきでスヴェートの去って行った方を睨むツバサ。
『ツバサ?ちょっと来て』
通信用魔法具(自分達の物)で呼び掛けるアヤメに、少し間を置いてから返答するツバサ。
「…分かった~」
素早く身を翻し、生徒会室に向かうツバサ。
生徒会室には、生徒会一同と風紀委員長、〈ミラージュ〉の一同、校長が集まっていた。
「お待たせ~」
「どこ行ってたんだ?」
「ちょっとね~」
はぐらかすツバサに、訝しげに見つめるジン。
「良いかしら?」
「良いわよエレミア」
「手紙を受け取ったのは、貴族だけみたいだわ。集まったのは貴族だけでしたもの」
「誰一人、一般人は居ませんでしたわ」
エレミアとクリスティアが会議室に集まった者達を話す。
副会長も何度も頷いていた。
「片付けの手伝いの時、噂を聞いて来ましたが、一般人には届いてないようです」
「……皆動揺していた」
ムウとラングが片付けの最中に聞いた話しを報告する。
「一部、争いが起きていた」
「え、えっと…〈ニーファ〉の生徒が他国の生徒を疑って…」
ゼファとシディアが、それぞれが駆け付けた騒動の内容を報告する。
「他国の代表は気付いていたよ」
他国の代表に説明に向かった会長が、他国が既に理解していた事を報告する。
「そういえば、貴族を呼びに行った時、護衛の生徒が荷物を纏めていたっす!」
呼びに行った時の事を報告するチャカ。
「そう…会議はどうなったの?」
「まだ決まっていないわ。既に帰る事を決めた者も居るけど」
疲れた顔で副会長が説明する。
「学園に残りたい者も多いわ。皆、家の相続権は無いから。学園に来るのは、相続権の無い女か、相続権争いに負けた者だけだから。相続権が有るなら、王立の魔法学園に行くから」
「お坊ちゃま学園か~」
「ええ…」
「相続権が無いなら、帰っても意味ないのかな~?」
「無いわね。政略結婚が待ってるわ」
「なるほどね~」
「学園を出れば騎士として国に仕える事が出来るから、皆学園に来るのよ。でも、今回はどうにも理解出来ないし」
今、素直について行けば騎士になれるのか分からないので、皆悩んでいる。
もし、仕える事が出来なければ、一生下働きと捨て駒にされる。
政略結婚など、血が残せれば良いので、ただのお飾りに過ぎない。
「貴族は面倒だね~」
「そうね…」
「スヴェートに会ってきたけど~」
ツバサの一言に固まった一同(アヤメは除く)。
「もちろん、変装したよ~平民に興味無いらしいよ~貴族にだけ出したみたい~」
脱力した一同(アヤメは除く)。
ツバサは振り返って校長を見やる。
「で、校長はどうするのかな~?」
ご感想お待ちしております




