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塗り替えられた真実

開いて下さってありがとうございます

 場が凍りついた。


「醜い?」

「争って何になる?蹴落とす意味などあるまい。傷のなめ合いも意味はあるまい」

「なんだと!?」

「過去は変えられぬ。ならば、今恥じぬ事をするべきだ。少し、過大評価していたようだ」


 淡々と、静かに紡がれる言葉。

 その黒い瞳は、この場の誰をも見てはいない。

 興味がないとばかりに。


「知っている人間が特別だったと、理解した。校長、私達は学園は守りましょう。あの子達と、あなたが居ますから」

「ふむ。流石に冷静じゃのぅ」

「魔物ごときと、醜く争う者を守る気にはなりません。私達は人間を見下す気も、対立する気もありませんが、見方になる訳でもありません」

「守りたいから守るかのぅ?」

「そうです。そこに他の感情も、理由もありません。元々、私達魔物は静かに暮らせれば良いのです」


 この場に居る、全ての者が耳を疑った。そんな馬鹿な、と。


「しかし、〈ガイス〉と〈トウゴク〉は考えましょう。両国は友好的ですから」

「ふむ。お主らしいな」

「代々、こんな感じですよ」

「確かにのぅ」


 呆気にとられる周りの者達。

 さっきまでの争いが馬鹿らしいほど、単純で理性的で純粋で、優しい。

 自身の力を奢りもせず、他を見下しもせず、思いを隠しもせず、自身を飾りもせず、目を逸らしもしない。

 咎めるでもなく、怒るのでもなく、ただ自身の感想を述べる。


 醜くいと…


 皆が思った。

 自身の愚かさ、醜さ全ての黒い部分を、見抜かれたのでは、と…。


「ま、まて!何故魔物が人間を選ぶ?私達人間が魔物を選ぶのだ!」

「何故そう思う?」

「人間が優れておるからだ!」

「何が?」

「いつも倒されるだけの魔物に、人間が劣る筈はない!」


 完全に怒り狂ったスヴェート。

 ゲイルが止めようとしたが、見もしなかった。


「くくくっ…」


 皆のイメージ通りの邪悪な笑みを浮かべる魔王。


「愚かよ…その辺の魔物が普通と思うとは…なんと愚かな」

「なに!?」

「〈レッドエリア〉の外に居る魔物は、力で負け、追い出された魔物だ。つまり、魔物の底辺」


 流石に引きつり始めた自分の顔を、必死に隠しながら対峙するスヴェート。


「戯れ言を!」

「分からぬか…ならば、感じよ」


 その瞬間、魔王の魔力が解き放たれた。息も出来ないほどの、圧倒的な力。

 ほんの一瞬の出来事に、この場の皆が死を感じた。


「〈レッドエリア〉は魔物にとって、一番暮らしやすい環境。それ故に、競争率も高い。弱き者は生き残れない」


 誰も口を開かない。


「この場で誰が私を倒せる?」


 校長がため息を吐き出した。


「ふう…流石じゃの。儂でも勝てるか分からんわい」

「全盛期のあなたならば、分かりません。残念です」

「ふむ。さて、皆様お分かりでしょう?魔王軍は、儂らと手を組まなくても、確実に生き残れるのじゃ」


 魔王が手を組む必要などない。

 自らより弱い者達に、わざわざ合わせる必要などない。

 それでも話し合いに参加したのは、魔王が同じ生き物として、無視する事をしなかったからで、場合によっては見殺しにしても構わないのだ。


「ひとつ聞きたい」


 ハヤトが恐る恐る口を開く。

 無言で先を促す魔王。


「ならば何故、かの英雄と共に戦った?必要あるまい」

「かの英雄と友となったからだ。最初は敵同士、争いも絶えなかったようで、本気でぶつかっていたらしい。しかし、英雄は魔物を見下さなかった」

「友?」

「本気で向き合う事で、お互いを認め合ったようだ」

「共に戦った事は知っているが、単なる利害の一致ではないのか?」

「人間の間で語られる話しは、遠い昔に塗り替えられた」


 少し、悲しそうに話す魔王。

 皆は黙って話しを聞く。


「魔王と言う名は、当時存在しなかった。英雄と背中を合わせたのは、私達魔王の祖である、黒竜王。ドラゴンの王だ」


 いつの間にか、塗り替えられ、忘れられた真実を語る魔王。


「魔物は皆それぞれの種族で固まり、他の種族とは関わらなかった。今のように、国となってはいなかった。黒竜王も、ドラゴンの王でしかなく、他の種族は従わなかった。ただ、ドラゴンと言う種族が強かっただけだ」

「バラバラだったと言う事じゃな?」

「そう。大戦争まではバラバラだった。世界の異変に危機感を感じた黒竜王が、他の種族の王を説得するまでは」


 自分達が知らぬ大陸の過去に、知らず知らず引き込まれる一同。


「説得は失敗に終わり、力で示して回った。他の種族も危機感を持っていたので、力の強い黒竜王に従うのは、自然と受け入れられた。そうして出来たのが、〈レッドエリア〉の元である、魔物の島」

「島?」

「このアスファラティア大陸は、元々はバラバラの島国だ。それぞれが違う特徴の、全く違う文化を持つ島だ」


 その成り立ちは、現在語られる事はなく、大陸はひとつと認識されている。

 自分達が知らない事が、次々と語られるので、皆は混乱し始めた。


「疑問に思わなかったか?何故、隣同士でこれだけ差があるのかと」

「確かに、綺麗に特徴がわかれるのぅ」


 魔力が満ち溢れる〈ニーファ〉は、生まれつき魔力が多い者が多い。しかし、作物はほとんど育たないので、魔法に頼りきりである。多すぎる魔力が、魔力の耐性の低い植物を枯らしてしまう。


 自然に恵まれた〈フラウニア〉は、魔力は少なく、武力も不足している。自然が豊かなので、争う必要がない。余るほどの蓄えがあるほどだ。


 力が全ての〈ガイス〉は、完全な弱肉強食。強い獣が多いので、弱い獣はほとんどいない。それ故に狩りは難しい。しかし作物は育てる習慣がない。大きな獣が多いので、狩りで十分生きていける。


 閉鎖的な〈トウゴク〉は、どの国とも違う文化で、衣食住全てが異なる。文献にも、他国の事が全く載っていない。他国でも全く知られていない。


 魔物の国〈レッドエリア〉は、魔物しか居らず、厳しい環境が人を寄せ付けない。完全に独立している。


 〈ニーファ〉の隣が〈レッドエリア〉と〈フラウニア〉。

 〈フラウニア〉の隣が、〈ニーファ〉と〈ガイス〉。

 〈ガイス〉の隣が、〈フラウニア〉と〈トウゴク〉。

 〈トウゴク〉の隣が、〈ガイス〉と〈レッドエリア〉。

 〈レッドエリア〉の隣が、〈ニーファ〉と〈トウゴク〉。


 一周しているにも関わらず、隣同士が全く違う特徴を持ち、国境できっちりわかれるのだ。

 不自然にも程がある。

 これが当たり前となってから随分と経っているので、疑問にも思わないが。


 唯一、中央の学園のみ、全ての国の特徴を持つが、それは後から作られた、比較的新しい国だからだ。各国から提供された土地に学園を作ったのだから当然だろう。


「全てが島であったなら、納得できる」

「確かにのぅ」

「大戦争の時、何らかの原因で島が移動したのだろう。今の常識は、全く当てはまらない」


 初めて聞いたのに、何故だか納得できる内容に、自然と頷いてしまう一同。


「まだ島だった時、黒竜王は人間に興味を持たなかった。しかし、人間は自分達が見たことない生き物を恐れて、何度も兵を寄越した。当時、魔物は〈レッドエリア〉にしかいなかったようだ」

「初耳じゃ!」

「各国で、大戦争より前の魔物の骨は見つかったか?」


 一斉に首を横にする一同。

 文献にすら載っていないのだ。


「英雄は旅の途中、黒竜王の国に入った。もちろん、争いに発展した。今までも、人間の兵が来ていたから」

「敵だと思ったと?」

「そう考えるのが普通だろう。だが、何度もぶつかる内に、互いの誤解に気づいて、互いの力を認めた。世界の異変が加速する中、いらぬ争いをする必要もない。時折現れる英雄から、黒竜王の国以外での異変を知った。英雄も魔物の事を理解し、世界で広めて回った。なくなりはしなかったが、争いは減った」

「ふむ。知らぬから、怖いだけかのぅ」

「英雄が生還したのもあるだろう。だが、世界は待ってはくれない。皆が良く知る大戦争が始まった。黒竜王には、被害は出ても全滅する事はないほどの力があった。しかし、英雄達人間は違う。誤解を解いた礼として、英雄と共に戦った」


 それなのに、今の人間の中では悪者なのだから、なんと悲しい事か。

 人間の都合で変えられた過去は、もはや当たり前となってしまった。


「だが、予想以上に悪魔が強かった。魔物だけならば、なんとかなっただろう。しかし、関わった以上、引くわけにはいかぬ。魔物にはあまり効果がない魔導が、人間には抜群の効果を与えた。英雄と仲間達、黒竜王の軍、降り立った神、立ち上がった精霊、全てが出来る限りの力で対抗し、追い詰めた時、悪魔が突然逃げてしまった」

「なんとか生き残ったのじゃな」

「その時は…」

「神から、いずれ蘇り今以上の力を発揮すると、聞いたのじゃな?」

「流石に世界は慌てた」


 当時、出来る限りの力でやっと追い詰めた敵が、未だ全力ではなかったのだ。

 この事は、人間達にも伝わっていて、対策も練られている。

 学園もその中のひとつだ。


「逃がさなければこれで終わったのにと、皆が絶望を感じた。荒れ果てた世界は、もう戦えない」

「そこで、あの契約かのぅ?」


 “あの契約”と言う言葉に頷いた魔王。しかし、各国の代表達は首を傾げる。


「知らぬかのぅ?…あの言葉なら分かるじゃろ!大戦争の後、英雄が残した言葉じゃ!」


 はっとする一同。


『我ら、いずれ蘇る悪魔を許さぬ。戦いし者は、その時違う形でまた集まらん』


 戦いし者は、英雄、大賢者、預言者、精霊王、竜王の子孫の魔王。

 有り得ないと判断された言葉だ。


「神に、自分達の力を残す事を願った。しかし、世界の理を守る神には頷けぬ。そんな事をすれば、世界が壊れるから。それを理解していた黒竜王と英雄達は対価を支払った。神は対価を受け取って、願いを叶えた」

「対価は世界の修復に使われたのじゃ。歪みを抑える為にのぅ」

「英雄、大賢者、預言者は、自らの寿命と記憶、国々を纏める事と修復を対価に、力を刻んだ魂を残した」

「力の後継者じゃな」

「精霊王は、自らの無限の寿命と、精霊と言う立場を対価に、精霊の守護と自らの魂の力を残した」

「戦いで減ってしまい、壊滅的な状態の精霊の復興と、精霊を纏める力じゃ」

「精霊の立場を失ったので、今は精霊ではないだろう」


 莫大な対価に、震え上がった一同。


「黒竜王は、ドラゴンと言う種族と立場、長い寿命を対価に、確固たる魔物の領土と、衰退した魔物の復興を願った」

「今の〈レッドエリア〉じゃな?」

「そう。そして、ドラゴンの種族は残っているが、竜王は途絶えた。その後生まれた子供が、今の魔王だ。私にも、ドラゴンの血は流れているが、かなり薄い。魔王の寿命も百年しかない」


 固まった一同。

 それがどういった意味か、なんとなく察したのだ。

 誉れ高いドラゴンと言う種族を失い、寿命までも失ったのだ。


「とは言え、ドラゴンの血のおかげで、寿命以外では死ににくいがな」

「丈夫じゃからのぅ!」

「魔王が人型なのは、人間の血も流れているからだ」

「「「「…え!?」」」」


 スヴェート、ゲイル、ザガン、ハヤトが思わず驚きを露わにした。


「種族を失ったとは言え、人型なのは不自然だろう?黒竜王と、偶然出会った人間が恋をして、種族の壁にぶつかって諦めかけたが、種族を失ったのでドラゴンと結ばれる事が不可能になった。そんな黒竜王を恐れず、そばに寄り添っていた人間と暮らしていたが、ある日突然身ごもってしまい、大慌てで神に聞いた所“種族を失ったからこそ子供が出来たが、血の違いで負担になるので産んだ人間は死んでしまう”と言われた」

「悲しいのぅ…」

「黒竜王は反対したが、黒竜王が死んだ後、女性は子供を産んだため亡くなった。子供は黒竜王の臣下が引き取って育て、黒竜王の血を引く事から王とし、種族を魔王と改めた」

「なるほどのぅ…」

 

 愕然とした一同。

 勇者制度を作り上げた人間は、過去を勝手に都合の良い物に変えてしまった。

 どれだけの対価を支払い、どれだけの思いで世界を守ったのかを知らずに、あるいは無視して、人間だけを良き物とした。

 魔物を悪として…。

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