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三日目

開いて下さってありがとうございます

 昨日の魔王騒動のおかげで、寝不足のジン、ラング、ムウ。最近ずっとこんな感じがする…。

 夜遅くまで行われる学園祭。

 皆の想像を良い意味で裏切った魔王。皆はもう警戒をしていない。

 それどころか、魔法科、騎士科の生徒が腕試しを申し込んで、大騒ぎになった。夜中まで続いたので、生徒会と風紀委員総出で後片付けをしたが、数が足りなくて大変だった。

 早朝、生徒会室では、会長、副会長、ルクス、ゼファ、シディア、チャカ、ジン、ラング、ムウが机に突っ伏していた。


「はい。特別に調合してきたわ」


 アヤメが配る眠気覚ましを一気に飲み干した一同。苦味を抑え、更に数種類の疲れを和らげる薬草が使われている。


「助かった。今日も頑張ろう」


 元気のない会長の言葉に、力なく頷いて立ち上がった一同。

 アヤメとツバサは問題ないらしい。


「とりあえず座る?」


 屋外に出て、カフェを見つけたアヤメの提案に、黙って頷くジン、ラング、ムウ。屋根の下の椅子に座る。

 飲み物をアヤメとツバサが買ってきて、干からびた3人に渡す。


「一週間ほど寝たい」

「………1ヶ月」

「一年だ…」


 何を競っているか分からないが、とにかく寝たいらしい。


「揚げパン発見~」


 いつの間にか居なくっていたツバサが、串に刺さった揚げパンを持って戻ってきた。ちゃんと人数分ある。 朝ご飯も食べられなかった一同は、蜂蜜の甘い香りにたまらずかぶりつく。


「おいしいわね」

「でしょ~疲れたら甘いもの~♪」


 疲れているのか全く分からない2人だが、多分疲れているんだろう。

 ものすごく元気だが…。


「少し見てくるわ。ここで休憩していて良いから」

「行ってくるね~」


 力なく頷く3人を見て、軽やかに去っていく2人。


「どうなってるんだ?」

「………さあ…」

「流石です……」







 少しと言っていたが、午後まで戻って来なかった2人。

 3人共、結局あのまま寝てしまった。

 起こされたら午後だったと、言ったほうが正しい。 

 なにやら奮闘したらしく、制服の至る所に埃がついている。髪も乱れていて、現在櫛で格闘中。


「悪い!寝ちまった!」

「……ごめん」

「申し訳ありません」

「良いわよ。動ける?」


 少し疲れがとれた3人。

 頷いてから、改めて2人の状態を確認する。


「どうしたんだ?」

「えっと…乱闘騒ぎがね…」

「あと、物が倒れたりね~」


 知らぬ間にいろいろあったようで、遠い目になった2人。しゃべりながらも、器用に髪を纏めるのは流石だ。

 お店の店員も、事情を聞いていたようで、3人を起こさないようにしてくれたみたいだ。2人が戻ってきたのを見て、そっと飲み物を出してくれた。 

 礼を言って受け取り、少し休憩してから巡回に戻った一同。


「投擲屋?」


 ジンが興味深く見つめるお店は、ナイフを投げて的に当てると景品が貰えるお店。一回の値段は安いが、はまったらどんどんお金が無くなるだろう。

 挑戦中の男女が、一生懸命的を狙っている。多分、恋人同士だろう。


「やるの?」

「ん~欲しい物ないな!」

「そう」

「あれ?なんか変~」


 じっと見ていたツバサが、今投げられたナイフを見て首を傾げる。


「え?」

「軌道がおかしい…途中でずれてる」


 ジンが思わずツバサを見ると、じっと目を細めて、何かを探っている。


「そうね…僅かにずれてるわ」


 もう一度確認したアヤメも違和感に気付いたようで、店の周りを探る。

 ジン、ラング、ムウはいまだに理解できず、困惑している。


「…的の手前に結界、それ自体はたいしたことないけど、僅かに抵抗を受ける物。更に、正確に距離を掴めないようになっている」

「そうみたいね」


 違和感の正体に気付いたツバサが、素早く分析する。

 ようやく理解できたジン、ラング、ムウは、どうするのかと2人に問う。


「遊びなら何もしないけど、仮にもお店だからね。本部に連行します」


 ツバサが風紀委員に連絡し、アヤメがもう一度確認する。

 風紀委員に説明を終えて、副校長からも即対応するよう指令が出たので、一同はお店に向かう。


「失礼します。生徒会です。直ぐにお店をたたんで下さい」

「何故だ?」

「そこのお二方、あなた方にも説明致します」

「え?」

「は、はい」

「的の周囲の結界を確認しました。明らかに詐欺行為です。ナイフは結界に触れて、軌道がずれます。結界には、距離感を誤認識させる作用もあります」

「言いがかりだ!」

「では、証明しましょう」


 アヤメの説明に、怒鳴りつける店員。

 詰め寄る店員に、涼しい顔で対応するアヤメ。

 ナイフを投げる位置についたツバサが、砂を一掴み投げる。

 当然、さらさらした砂は風に流され舞っていくが、不意に的の手前で動きを止め、さらさらとその場に落ちていく。何かにぶつかるように。

 ナイフだと重さと勢いで止まる事はなく、軌道が少しずれるだけなので、気付く事もない。それだけ弱い結界なのだ。軽い砂には十分な壁になるが。


「分かりましたか?」


 店で遊んでいた男女にアヤメが向き直ると、2人は直ぐに理解して店員に詰め寄った。


「なにこれ?詐欺だわ!」

「金返せ!」

「言いがかりだ!生徒会が何かしたんだ!何様のつもりだ!一年のガキが!」

「見苦しい…」


 ジン、ムウが暴れる店員を抑えて、アヤメが被害者の2人を引き離す。

 店員は魔法科二年。魔法まで使ってくるので、往生際が悪い。

 被害者は政治科一年。魔法の耐性が皆無なので、とにかく引き離す。こちらも暴れるが、元々非戦闘員なので苦労はしない。

 ラングが店を片付け、ツバサが店の売り上げを没収する。

 駆けつけた風紀委員に店員を任せ、政治科の2人と本部に向かいながら、話しを聞いていく。

 本部で待っていた副校長が、政治科の2人にお金を返して、詳しい話しを聞く。もちろん、嘘を見抜く魔法具を使っている。

 残ったお金を学園が保管し、被害者を探す事になった。

 魔法科二年は、奥の部屋に連れていかれた。

 〈レジェンド〉の一同は役目を終えたので、巡回に戻る。

 ずっと屋外にいたので流石に疲れた一同は、今度は校内を見回る事に。

 遅めの昼食を、適当に見つけた店で食べて、一息つく。


「疲れた…」

「まあね」

「……ふう」

「…zzZ」

「師匠!?」


 だらだらしている一同。

 いつの間にか、器用にツバサが寝てしまった。

 見た目で分からないのでムウが驚いた。ジンとラングもなにやら感心している。

 慣れてるアヤメは苦笑している。

 しばらくのんびりして、また巡回に戻った一同。

 たいした問題は起きず、気ままに店を巡って、学園祭の終了時間なり各店に呼び掛けてから、一度生徒会室に戻る。

 大量に買い食いしたジンが、苦しそうにうめいていたが、気にしない気にしない。ゾンビみたいだが、気にしない。

 大きな音に上空を見上げる一同。


 日が傾き始めた薄暗い空に、魔法の花火と、演劇部の魔法具の光とバルーン、演劇部の魔法科の三年による魔法のオーロラと雪、演劇部の魔法科二年による花吹雪が学園を包んだ。

 全て魔法なので後には残らないが、その幻想的な光景は皆の記憶に残るだろう。


「楽しかったね~」


 ツバサの言葉に皆が頷いた。







「片付けは今からだけど、大丈夫?」


 生徒会室で会長が皆に告げるが、皆殺気を放ち始めた。


「えっと…仕事だからね」


 少し怖じ気づきながら、懸命に説得する会長。


「そうそう、各国の代表の片付けは、必要ないらしい」


 それには驚いた一同。

 馬車馬のごとく働かせられると、皆が思っていたのだ。 まあ、嬉しい事だが。


「よく分からないけどね」


 会長も首を捻りながらも、簡単に皆の役割を決めていく。

 ジンとムウは、ルクス、ゼファと共に荷物の持ち運び。

 ラングは、シディアと報告書の作成。

 会長、副会長は情報の確認。

 風紀委員は清掃。

 アヤメとツバサは各国の対応。

 臨時風紀委員の〈ミラージュ〉は、エレミアとクリスティアが書類整理、リーゼとラザック、ガナンが荷物の持ち運び。


「待った!何故私達の役割が国の対応なのかしら?」

「慣れていそうだから」 キッパリ

「必要あるかしら?」

「何もしない訳にはいかないから」


 キッパリ言い放つ会長。

 顔には面倒と書いてある。


「拒否権は?」

「ない!」


 何故だか会長だけでなく、周りの役員が一斉に頷いてくる。

 諦めたアヤメとツバサ。

 各自、一斉に自分の仕事場に向かう。







◇◇◇◇◇


 夜、学園の一番奥にあり、一番広い会議室に各国の代表が集まった。

 少し後ろに各国の側近達もいる。

 更に壁際には護衛が並ぶ。


 円になった席には、国ごとの国章が掲げられている。


 〈ニーファ〉は、杖を持ち、羽を広げた天使の後ろに魔法陣

 〈フラウニア〉は、木をくわえた鳥と、両脇に大樹

 〈ガイス〉は、遠吠えするオオカミと、足元に引きちぎられた鎖

 〈トウゴク〉は、龍(胴の長い、羽のない龍)の後ろに門

 〈レッドエリア〉は、黒いドラゴン

 〈アスティア魔法中央学園〉は、一角獣


「さて、集まったのぅ?各国、話しは聞いて居ろう?」

「回りくどい。はっきり言え」


 さっそく話し掛ける校長に、スヴェート・セティ・ニーファが苛立たしげに口を開く。


「失礼した。大陸で起きておる異変…いや、大戦争の前兆についてだが」


 “大戦争”と聞いて、側近や護衛が息を呑む。


「出来れば、皆で乗り越えたいと思うが、どうかのぅ?」

「連合軍か?」

「そうじゃ」


 ゲイル・ウィン・フラウニアの質問に、軽く答える校長。


「相手があれだからのぅ…一国で戦える相手ではあるまい」

「それは言われずとも分かる。しかし、何故魔王が居るのだ!」

「スヴェート陛下落ち着いて下され」

「………」


 沈黙を貫く魔王。

 スヴェートは気に喰わんと、魔王と校長を睨み付ける。


「魔王陛下のお力は必要です」


 落ち着いた、低く静かな声で、ザガン・ルト・ガイスが口を開く。


「かの英雄も力を合わせました。そして、魔王陛下の軍事力は素晴らしい」

「何を言うか!魔物だぞ!」

「全く関係ありません」

「若輩者が!何も分かっとらん!」

「確かに、私はまだ若輩者です。しかし、国を背負う身です。国を守るには、できるだけ戦力が欲しい」

「そもそも、お主が何故ここに居る!?現国王ですらないお主が、場違いだ!遊びではない!」


 あまりにも失礼な言い分に、〈ガイス〉の護衛が前に出たが、ザガンが止める。


「下がれ。…失礼。遊びとは、わが国に喧嘩をお売りか?私がここに居るのは、現国王ライガ・ルト・ガイスの判断です。父上が遊びだと?」

「うるさいわ!なれば尚更、何故本人が来ぬのだ!」

「今、国を守って居られるからです。わが国は国王が力の象徴。その国王が、今離れる訳にはいかぬのです。国民が混乱するだけです」

「お主が残れば良い」

「まだ、国王でもないですから」


 表面上、穏やかにかわすザガンに、睨み付けるスヴェート。


「国を守るのは当たり前でしょう?スヴェート陛下」


 ハヤト・トウゴクが止めに入った。


「次期とは言え、国王の器です。そして王族だ。場違いではあるまい」

「ふん!人形に乗っ取られた国が!」


 “人形”と言う言葉に、〈フラウニア〉と〈ガイス〉の皆が首を傾げる。

 閉鎖的な国柄故に、ほとんど国の内部は知られていない。知る機会もない。


「魔法師を人形にして操ったつもりが、逆に操られ、あまつさえ人形に助けられるとは、情けない!」


 スヴェートの簡単な説明に、顔をしかめるゲイル。

 ザガンはなにやら納得したようだ。


「操るとは?許されるのか?」

「ゲイル陛下、自分の娘を…」

「やめんか!」


 校長の怒鳴り声で静まり返った会議室。皆が校長を見やる。


「スヴェート陛下、何がしたいのですかのぅ?何をしに来たのですかのぅ?」

「最初は連合軍の為だが、あまりにも他国が不甲斐ないのでな!連合軍の総指揮はわが国が握る!」

「なんと自分勝手な!」

「ゲイル陛下、あなたもですよ。国が枯れて真っ先に他国を疑うとは!」

「あの時点で、何が分かる?」

「悪魔の力さえ分からんとは、平和過ぎて戦いを忘れたか?」


 スヴェートの言う言葉には、無視できないものがある。

 間違ってはいない。

 だからと言って、見て見ぬ振りは出来ない。

 校長は疑問に思う。


(何故、全て知っておる?)


 知りすぎているのだ。


「諜報活動、ご苦労様じゃのぅ?スヴェート陛下?」

「なに?」

「各国に諜報員を送るとは、それだけ必死なのかのぅ?」


 ざわりと、会議室に居る者達全てが反応した。


「ちょっとやり過ぎたのぅ。自分を見失うと、ろくなことないぞぃ?」

「…なんの事だ?」

「知りすぎておる。他国を蹴落とす為に集めたのだろうが、全て使うとは愚かじゃのぅ」

「っ!」

「まあ、話し合いをする事で手を打とう。協力するならば、なぁ」

「手を打つだと?」

「分からんのかのぅ?スヴェート陛下がやった事は、〈ニーファ〉の王族の秘密を使って脅すのと、同じじゃぞ!」


 スヴェートが苦虫を噛み潰した顔をして黙った。


「分かったかのぅ?」

「…良かろう。だが、魔王は別だ。魔物など、信用できん!」

「それは同意だ」


 ゲイルが同意する。


「先ほどの無礼は、今の状況からして自国を守るのは当たり前としよう。争っている場合でもあるまい」

「そうですね」

「そうしよう」


 ザガンとハヤトも頷いた。


「さて、スヴェート陛下が最初に気にした事は、私も同じ。なにぶん、魔王陛下とは交流がないのでな」

「魔王よ。何か言わんか」


 校長の言葉に、魔王は静かに周りを見渡し、口を開く。


「人とは、醜いな」

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