二日目
開いて下さってありがとうございます
早朝、生徒会室で打ち合わせを終えて、各自仕事を始める。
「朝から騒がしいね~」
「良いことでしょう?」
ツバサの小さな呟きに、アヤメが返答するが、ツバサは顔をしかめる。
「私達遊べないし~」
いつでも呼び出しに対応できるように、のんびりはしていられない。
常に気を抜けないのだ。
アヤメとツバサはまだ平気だが、ジン、ラング、ムウには辛い。
気合いで立っている状態だ。
「座る?」
アヤメの提案に、一斉に頷いた3人。限界が近いらしい。
早くも開いていた軽食屋で一息つく。
「きつい!」
「……眠い」
「だるい…」
椅子の上でだらけるジン、目をこするラング、俯いたムウ。
「まだ二日目だよ~」
残酷な現実を告げるツバサ。
ジンは更にだらけて、ラングはテーブルに突っ伏し、ムウはうめいた。
賑わってきたので、とりあえず巡回に戻る一同。
嫌みなほどにいい天気だ。
「お!うまそう」
「朝からよく食べるわね…」
手当たり次第に屋台を覗いて、気になった物を食べていくジン。見ているだけで胸焼けする。
「誰が行くのかな~?」
ツバサが見つけたものは、お化け屋敷。手作り感満載だ。
「とりあえず洞窟に行けば良くね?」
「その辺にもスケルトンいるよね~」
「良く分からないわ…」
ゴーストやらスケルトンならば、大陸全土で本物に会えるのだ。会いたくはないが…。
お化け屋敷の前の人形は、意外とリアルにできている。
「キモイ」
「グロい~」
「気味悪いわ」
「……嫌」
「意味分からん」
容赦ない一同。全て本音だ。
中に生徒が居るようで、時折悲鳴が聞こえる。
「怖いなら行かなきゃ良いのに~」
まあ、そうなんだけど…。
関わりたくないので、適当に反対側に向かう一同。
「何あれ?」
ジンが興味深く指差したのは、小鳥が入った籠。売っているらしい。
「ああ…食用の鳥ね…」
「食うの!?」
「案外大きくなるよ~」
「凶暴だしね」
「美味しいよ~」
今はものすごくかわいいのに…。
まん丸な黒い瞳、綺麗な空色の羽毛、小さな黄色い嘴。小さい鳴き声もかわいい。一生懸命トコトコ歩いている。
「大人になると、壁にも穴を開けるわよ。嘴で」
「人間の手なんて食いちぎられるよ~」
本当に凶暴らしい。
「こえー…」
「………うわぁ」
「ほう…」
思わず一歩下がった3人。
またぶらぶら歩き始める。
「何あれ~?」
ツバサが首を傾げて見つめる先には、熱そうなどろどろした液体を、何かの形に整えているお店。
「飴細工だな」
意外にもジンが知っていた。
この大陸で、砂糖自体が高級品で、一般人には縁がない。
いつもアヤメやツバサが持っている飴は、蜂蜜からできた物で、砂糖を使った飴はものすごく高い。
クッキーにも蜂蜜が一般的で、砂糖を使った物は高級品だ。
飴細工は大量の砂糖を使う事と、技術力の問題から、あまり知られていない。
「砂糖を使うの?高いでしょう?」
「まあ、安くはないな。学生が作っているから、そこまで完成度は高くないけど」
「良く分からないわ」
見たことない者がほとんどなので、どれだけ出来が良いのか分からない。
そして、びっくりするほど高い。
「食べるのもったいない~」
「と言うのは、高いわね」
必要無いものには、とことん節約する2人。諦めたらしい。
横目で見ながら、通り過ぎて、そそくさ退散する。
大分歩いて、階段を上ると、なにやら人だかりが出来ていた。
「何度も言わせるな」
近衛兵らしき男性が、農業科の生徒に怒鳴りつけている。
「面倒くさい~」
「戻りましょう」
近衛兵の胸の国章(杖を持った天使)から〈ニーファ〉の一行だと判断した一同は、関わりたくないので一歩下がる。絶対に面倒事だろう。
『せ、生徒会!応援頼む!…って逃げないで!頼むから!』
見つかった…。
「どうしましたか?」
しょうがないのでアヤメが話しかける。視線でなすりつけあった結果だ。
「どうしただと!?分からんのか!」
分かりません。心読めないので。
「申し訳ありません。今来たばかりで」
「職務怠慢だな!」
「まあまあ。子供だしね」
後ろに居た女性がなだめる。
「ふん!この平民が陛下を待たせたのだ!無礼者め!」
「……違います。混み合っていたので、皆に呼びかけただけです」
怒鳴られていた生徒を庇うように、一人の男子生徒が前に出る。
「口を開くな!」
「っ!」
剣を抜く近衛兵。
それでもどかない生徒。
「おやめ下さい。この場で見過ごす訳にはいきません。切りかかるならば、本部に連行します」
「無礼者!学生風情が!こちらは客だぞ!〈ニーファ〉の代表だ!」
「規則ですから」
アヤメは説得には向いていないと、自分でも分かっている。どうしても、柔軟になれないのだ。
「これは我が国への挑発か!」
「落ち着きましょう~?」
見かねたツバサが割り込んだ。
「〈ニーファ〉の代表ともあろう者が、問題を引き起こし、怒鳴り散らすなど、あってはならないでしょう~?」
「そちらの責任だ!」
「ならば、堂々と話し合えばよろしかろう?そちらが悪くないならば」
一瞬にして雰囲気が変わるツバサ。鋭い眼光で射抜く。
「それとも、怒鳴るのがお国柄とでも?弱いものいじめは、当たり前だと?」
「な、何だと!貴様!」
「見苦しいな。これが、〈ニーファ〉なのですね。失望しました」
「な!?」
「国の代表が取り乱すとは、何事ぞ!」
「っ!」
「すまぬ。この者が取り乱した。それは詫びよう」
優雅に現れたスヴェート・セティ・ニーファ。きつく近衛兵を睨む。
小声で「しくじったな」と呟いたが、アヤメとツバサには聞こえた。無視する事にしたが。
「しかし、待たされるのは不満だ。我々をなんだと思っている?客に接する態度ではなかろう?」
「御前に関わらず頭高く失礼しました」
直ぐに片膝を折るツバサ。アヤメも膝を折る。
慌てて皆も頭を下げる。
「ほう…その方は礼儀を知っておるな。これが常識よな」
「確かにこちらの失態です。なにぶん、若輩者故に、物を知らぬのです。学園には平民も居ますので。いたらぬ所はありますが、なにとぞ、若輩者の失敗と寛大なお心でお納め下さいませ。このような未熟者に、お教え下さり感謝致します」
「良く言うわ。まあ、今回は見過ごそう。そなたに免じてな」
「寛大なお心、感謝致します」
「ふむ。行くぞ。お前の処罰はあとで言い渡す。儂の顔に泥を塗った罪は重い」
「はっ!申し訳ありません」
最後に近衛兵を睨み付け、さっさと去っていったスヴェート。
場の緊張がほぐれる。
「助かりました」
前に出ていた生徒が頭を下げる。
「別に~これからは気を付けようね~」
「はい。礼儀を知らず、怒らせてしまいました」
「待たせなくてはいけないなら、とにかく頭を下げて、椅子を勧めた方が良いですよ。礼儀は今のように、片膝を立て、頭を下げれば良いです」
「分かりました」
「今から覚えれば良いよ~」
へこんだ先輩達を、とにかく立ち直らせて、報告書を作成し、風紀委員に渡す。
直ぐに風紀委員は本部に向かった。
「もう大丈夫です。再開して下さい」
皆気を引き締めて、仕事に戻っていく。活気が戻り始める。
「助かったわツバサ」
「慣れてるし~」
何てことない顔のツバサ。
良くあれだけの事を、瞬時に、的確に、こっそり威嚇まで出来るものだ。
“若輩者故”“寛大なお心”には、言外に“子供に本気で怒るほど小さな器か”と言っていた。
つまり、無視出来ない嫌みだ。それも、反発すら出来ない。
“お教え下さり”は、“わざわざ気にもかけない平民に、それほど高い教養を求めるとは、ありがた迷惑”と言う意味だ。
簡単に言えば、“嫌なら関わるな”と言う事だ。
「わざわざご苦労様だね~そんなに暇なのかな~?」
「何が楽しいのかしら?」
「まあ、勘は良いけど~」
あそこで引いたのは、これ以上関われば国の信用に関わると、感じたからだろう。いくら難しい言葉で隠したツバサの嫌みとはいえ、勘がいい者には分かってしまう。
自ら、嫌みを肯定するような愚は犯さないようだ。
「まあ、実際その通りだから、言い逃れは難しいでしょう?」
「明確に肯定するより、ましかな~?」
「大人しく、引き下がるしかない言い方をしたのね」
「当然でしょう~?」
軽々と言ってのけるツバサに、呆れるアヤメ。ついていけないジン、おろおろするラング、憧れの眼差しのムウ。
皆が学んだのは…
((((触らぬツバサに祟り無し))))
だった…。
落ち着いた一同は、巡回に戻る。
「お!」
嬉しそうにジンが駆け寄ったのは、鍛冶科の展示室。
沢山の武器、甲冑、盾が並んでいる。隅っこには鍋、包丁などが並んでいる。
「いやいや…これはないわよ」
思わず口に出てしまったアヤメ。慌てて口を塞ぐ。
見つける必要もなく、入れば直ぐに見える、どうしてこうなったか分からない、しかも売り物の、巨大な剣だった。
「大体、4メートルかな~?」
「何に使うのよ…」
どう考えても、必要ないと思う…。
「物は良いみたい~」
「まあ、そうね…」
学生が作ったにしては、不純物が少なく、無駄がない。
「ゴーレム用~?」
「かな?」
それ以外、考えられない。
「って!売却済みなの!?」
値札の上に、“売却済み”の紙が貼られている。
「誰よ…」
「ん~分かんない」
考えるのを放置した2人。
ジン、ラング、ムウが熱心に見守る場所に向かう。
どうやら、お金を払えば武器の手入れをしてくれるようだ。
既に沢山の依頼があったようで、受付は終了していたが、見学は出来るらしい。
無駄のない手付きで、丁寧に磨き上げていく。時折、光にかざしながら、慎重に進めていく。
しばらく眺めていたが、あまり長居は迷惑だと判断したアヤメの一言で、渋々その場を去る。
「次どうする~?」
「腹減った!」
ジンが素早く反応した。
ラングとムウも頷いたので、飲食店を探す事に。
沢山の店が有るので、皆は悩みながら、一つ一つの店のメニューを眺める。
「あら?珍しい」
アヤメが思わず立ち止まったのは、トウゴク料理のお店。
米だけは各国にも流通しているが、味噌汁、漬け物、魚料理は、〈トウゴク〉の特徴で、他国とはかなり違う。
スプーンやフォークで食べるのが世界的には一般的で、箸は〈トウゴク〉の文化だ。
珍しさや、好奇心、アヤメとツバサの故郷の料理とあって、皆の意見が一致したので、ここに決めた。
「無理して箸で食べなくていいから…」
一応、箸と共にスプーンとフォークも用意してあって、もちろん使えるわけがないので、気にしなくて良いと、アヤメが言ったのだが…。
アヤメとツバサの箸の使い方に、思わず見とれたジンとムウが挑戦する。
ラングは大人しく、フォークを使っている。味噌汁はスプーンで。
まず、食器を持ち上げる事自体が、習慣にないので、ポロポロ落とすのだが…。
「難しい!」
「むむむ!」
しばらく格闘したが、諦めてフォークを使った2人。
全てが米にあうように、様々な工夫がされた料理に、大満足の一同。いつもと違う味に、食が進む。
味噌汁が好評で、普段はしない、食器を持ち上げる動作にも慣れたジン、ラング、ムウは、残さずぺろりと平らげた。
「慣れると便利だな!」
「………落とさずに食べられる」
「汁物も残さずにすむ」
かなり気に入ったらしい。
「あっさりして食べやすい。全部、米にあうな!」
「………塩加減が良い」
「気に入りました」
「主食が米だからね~」
「パンには合わないかな?」
少し嬉しそうなアヤメとツバサ。
少し混み合って来たので、皆は店を後にする。
『生徒会!…と言うか、〈レジェンド〉の皆さん!』
突然の名指しの呼び出しに、一瞬面倒だから無視しようと思ったが、流石に駄目だろうと思い直し、通信用魔法具を取り出した。
「何でしょう?」
『もう私達ではどうしたら良いのか…』
相当焦っているようで、いきなり結論を言われ、さっぱり意味が分からない。
良く分からない話しから、時折聞こえる単語から場所を推測して、とりあえず向かう事に。何が起きたのか、全く分からない。
走って向かっていたら、前から生徒が走って逃げて来たので、話しを聞く事に。
「何がありましたか?」
「…ゼェ…ハァ…ま、魔物が!た、助けてくれ」
「落ち着いて下さい。今から向かいますから。…風紀委員!」
なんとなく理解した一同。
アヤメが近くの風紀委員を呼び出し、周りの生徒を任せる。
現場には、野次馬らしき魔法科の生徒が取り囲む中、風紀委員長と困った顔の魔王一行が居た。
「魔王…何よこれ?」
「うーん…私が聞きたいな…」
「いきなり騒がれたんだ!」
「落ち着いて~ウル~」
「私達が悪いと思うけど…」
「アミダ、そう言う問題ではないと思うわよ」
「きっと、ウルが怖いんだよ!」
「ネルはもう少し、空気読もうね」
なんか、いきなり疲れた。
「昨日はどうしていたの?」
「与えられた部屋にいたよ。混乱すると思って」
「一応、報告されたよね?」
「魔力も抑えているし~」
そう言う問題でもないと思う、ジン、ラング、ムウ。
チャカはあまり気にしていないようで、周りの風紀委員に指示をだしながら、見守っている。
魔王が恐怖の存在だと、完全に忘れているアヤメとツバサ。
ある程度の事情を知っているチャカ。
この3人だけ、平然としている。
「どうしたの?」
ひょっこり現れたザガン。
全く緊張感が無い。護衛すら、近衛兵一人だけだ。
「ふむ。なるほど」
またもや、いきなり現れたハヤト・トウゴク。と子供達。
こちらは護衛が沢山いる。
良いところに現れたと、全てを説明するアヤメとツバサ。
苦笑しながら、納得したと頷いたザガンとハヤト。
「はじめまして魔王陛下。ザガン・ルト・ガイスです」
「儂は、ハヤト・トウゴク。以後お見知りおきを」
「はじめまして。私が魔王。迷惑かけてすまないね」
大分想像と違う魔王に、面食らったザガンとハヤト。周りも同じらしい。
「どうでしょう?親睦を深める為に、共に見て回りませんか?」
ザガンの一言に、頷いた魔王とハヤト。おかげで少し場が落ち着いた。
この日、〈レジェンド〉は魔王、ザガン、ハヤトと子供達と言う、有る意味凄いご一行の案内をして回った。
ご感想お待ちしております




