堅苦しい食事は勘弁です
開いて下さってありがとうございます
とりあえず移動する一同。
いつの間に予約したのか、ザガンが貸し切った飲食店に移動した。店番の生徒は緊張のあまり、カタカタ震えている。
「で?どうかしたのかしら?」
「見つけたから呼んだだけだよ」
「じゃあ~おごりで~」
何が“じゃあ”なのか分からないが、さっそくメニューを眺めるツバサに、苦笑するアヤメ、固まったジン、あたふたするラング、なにやら感心するムウ。
「もちろん。気にしないで頼んで」
ザガンも気にせず、にこやかに了承するが、気にしないのは至難の業だ。
ランチが有ったので、皆それを頼んで、ツバサは飲み物を追加する。ちゃっかり、デザートまで頼んだようだ。それに便乗するアヤメ。
「あれ?いつもは食べないよね?」
普段あまり食べない2人が、定食を頼んだので、気になったジン。
「いつもはね」
「一人前なら入るよ~」
「まあ、お昼に一人前食べれば、夕食が入らないけど…」
「そうなの!?」
1日の食事量が少ないらしい。
「そんなに食べたら、いざという時に動けないし~」
「そうよね」
学園にいて、いざという時が有るのか分からないが、2人の心構えらしい。
「学園でいざという時が、有るかな?」
「さあ?」
「癖だよ~」
ザガンが疑問を口にしたが、2人には当たり前の事なので、不思議そうな顔をされてしまった。
「あ!2人共、ちゃっかり夕食代浮かせたよな!」
はっと気が付いたジン。
顔を見合わせるアヤメとツバサ。
食堂の食事は有料。安いが、ただではないので、自炊する者もいる。
「「もちろん(~)(よ)!」」
(((うわ~)))
ジン、ラング、ムウが遠い目になった。次期国王に奢ってもらうだけでなく、夕食代まで浮かせて、全く悪びれず、キッパリと言い放ったのだ。
出来上がった食事を運んできた生徒も、思わず固まった。
はっとして、皆の前に食事を置いて、ぺこりと頭を下げて、足早に去っていく。
このお店は、農業科の三年生が出している店の一つで、鳥料理が看板メニュー。
黙々と食べる一同。近衛兵達は、飲み物だけで、昼食は別で食べたようだ。流石に一緒には、食べられないらしい。
「ザガンは王族らしくないね~」
「そうかな?」
「普段、庶民の食べないでしょう?毒味もないみたいだし…」
「毒味はないな…そんなのあったら、何人が犠牲になるのか、分からないしな」
「やっぱり狙われるの~?」
「結構あるよ。父も私も、十数回は狙われたな」
「「「…え!?」」」
思わず叫んだジン、ラング、ムウ。
「まあ、それで死んだら自己責任だから。普段、解毒薬持ち歩いてるし」
「大変だね~」
ポケットから解毒薬を取り出すザガン。にこやかに出されても…。
「舐めただけで、駄目なのも有るよな…」
「ジン、そういったキツい毒薬は、特徴的な匂いがするのよ。あと、色が変わったりもするわ」
ジンの小さな呟きに、何でもないように説明するアヤメ。
意外と食べるのが早いアヤメ、ツバサ、ザガン。もうほとんど食べ終わっている。いつの間に…。
しゃべりながらも、素早く丁寧に食べるアヤメとツバサとザガン。
嫌いな物を避けて食べるジン。
とにかく、食べる事に専念するラング。
綺麗と言うより、極力無駄を省いて食べるムウ。
「また残してる~」
「ほっといてくれ!」
人参嫌いのジン。きちんと綺麗に、端に固めてある。
「子供だな」
苦笑するザガン。笑いをこらえるのに、失敗したらしい。
「諦めよう~」
今日は見逃してくれたツバサ。一度、ツバサに人参を持って追いかけられたジン。ジンが、先に食べ終えて眠ってしまったツバサを起こしたのが原因だ。
必要な時はちゃんと起きてるツバサは、あまり教師にも知られてないが(起こす必要がないので)、起こされるとものすごく機嫌が悪い。起こしても平気なのは、アヤメだけで、他の人間が起こすと大惨事になる。
その事を知っていたのに、わざわざ起こしたジンは、酷い目にあった。
残していた人参を持って追いかけられ、隙を見て綺麗に投げられた人参が、ジンの口にすっぽりと入った。出せないように、口までふさがれた。涙目で飲み込んで、やっと解放された…なんて思ったら、そのあと氷で壁に張り付けられた。
思い出したジンは、一度震えて食事に戻った。
デザートのケーキを食べ始めるアヤメとツバサ。
それを見て、ほっとしたジン。
「で?ここに呼んだ理由は~?」
「ごまかせないよね。君達には知らせておこうと、思ってね」
ツバサの突然な質問に、感心しながら返答するザガン。
「食べながらで良いから」
「了解~」
普通に食べ続けるアヤメとツバサ。緊張感などないらしい。
先ほどは、はぐらかしたザガンだが、アヤメとツバサに通用する訳がない。
理由なしで、探してくる筈もないのだ。警戒心を与えぬよう、護衛まで減らしていたし、小さな飲食店にしたのも、他の国から隠れる為だろう。
普通に食べていたので、すっかり忘れていたジン。
緊張のあまり、考えられなかったラング。
手に余るので、師匠に任せたムウ。
「本来、学生でしかない君達には、知る事もないんだが、実力からして必要だと思ってね。無関係ではいられないだろう」
「今回の学園祭に、各国の頭が来た理由だよね~?」
ツバサの言葉は、只の確認に過ぎない。もう、理解しているのだ。
アヤメも分かっているようだ。
「流石だね。そうだ。これを」
ザガンに促され、1人の近衛兵が差し出したのは、書類の束が入った封筒。
「詳細は読めば分かる。私が言いたいのは警告だ」
黙って聞く一同。
「小さな村には行くな。いきなり出て来て報酬が良い依頼は受けるな。行くなら、覚悟しておいた方がいい」
息を呑むジン、ラング、ムウ。こんな事を言われるとは、思ってなかった。
依頼を受けて貰わねば、困るのが国だろう。それを、受けるなとは、どういう事なのか分からない。
「分かった~」
「分かりました」
簡単に頷いたツバサ。
真剣な表情で頷いたアヤメ。
「くれぐれも、気を付けて」
とりあえず頷いたジン、ラング、ムウ。まだ良く分からない。
それから少し話をして、仕事に戻った〈レジェンド〉一同。
「なあ、どういう事?」
「あとにして」
言外に今話せる内容ではないと、言うアヤメ。
「とにかく、この事は内密にして」
「何で?」
「どうして、わざわざ書類にしたと思う?話せないからよ。あれが、精一杯よ」
「認識阻害魔法も使われてた~」
かなり気を使って使われていたので、一般の生徒には感知出来ないが、アヤメやツバサには隠せない。
実は、料理が運ばれて、運んできた生徒が去って直ぐに発動した。
その説明を聞いて、ようやく事態を確認したジン、ラング、ムウ。
「これだけ言えるわ。もう、安全な場所は無いに等しい」
「国の首都、学園、魔王城位かな~?」
アヤメもツバサも、真剣な顔で皆に忠告する。
「この事情を知った国民が、何もしない筈ないでしょう?」
「だから、他言無用だよ~」
「私達に言ったのは、知る必要が有ったから。そして、対応できるだけの力と経験が有ると、判断されたからよ」
「私達の基準で判断してはいけないよ~」
黙って頷いた3人。
ジン、ラング、ムウは小声で話す。
(アヤメとツバサが居たからじゃ?)
(……多分)
(だろうな…)
事実、2人しか理解出来ていないのだ。分かる筈もないが…。
この日、ただ黙々と巡回し、大きなトラブルもなく、巡回を終えた一同は生徒会室に戻った。
◇◇◇◇◇
「ご苦労様」
「会長、何かやる事有りますか?」
「無いよ。もう休んで良いよ。〈ミラージュ〉の一同も帰ったよ」
〈ミラージュ〉の皆も、臨時風紀委員として巡回をしていた。既に帰ったみたいだ。
簡単な確認と挨拶をして、生徒会室を出て、真っ直ぐ一つの部屋に向かう。
アヤメとツバサが貸し切った、使われてない会議室。他に比べたら狭いが、5人で使うには十分広い。
「簡単に言うわ」
今日渡された書類を、凄いスピードで目を通したアヤメとツバサ。
「理解は出来ないと思う~けど、読んでみる~?」
目の前に出された書類に、首を横に振るジン、沈黙したラング、一枚読んだが元に戻したムウ。
因みに、ちゃんと声が漏れないように結界が張られている。
「だよね~」
「まず、今回の学園祭に来た各国の代表については、連合軍を作る為よ」
「簡単に言えば、仲良く一緒に頑張ろうって事~」
簡単にし過ぎだが、分かりやすい。
「理由は、世界の狂いね。えっと…」
「サンダーバード覚えてる~?」
頷いた3人。多分、一生忘れられないと思う。
「あれが狂った魔物~あんな感じの魔物や人間が、増えてるの~」
“人間”と言う言葉に、固まった3人。だんだん青くなっていく。
「理性が狂うだけじゃないの。容姿も突然変化する。元の原型が残るかも分からないわ」
「それが各地で起きてるの~特に、小さな村で見られるみたい~」
「他にも、急激な魔物の増加、村の消失、不死の筈の精霊の死、様々な異変が起きてるわ」
頭がぐるぐるし始める3人。
ようやく、ザガンの忠告の意味が分かった。
村に行くなとは、被害が多いのが小さな村、偏狭の地、国境付近だからだ。
依頼を受けるなとは、そういった場所を調べる、もしくは助ける依頼が急増しているからだ。
「こんな事は、国がバラバラではどうにもならないから、中立で隠れるにはもってこいの学園に集まったみたい」
「学園祭を言い訳にね~表向きの理由だね~」
「多分、最終日の夜に行われるわ。学園祭中はいろんな人々が、各国の代表を注目しているけど、最終日の夜には片付けが始まるわ。帰るための準備を理由に、人払いも行われる筈」
「慌ただしい時、いちいち構ってられないからね~人手がいらないなら喜んでほっとくね~」
「代表の荷物を見るなど、無礼だしね」
「学園祭中は息抜きと称して、各国の探り合いが凄いだろうね~」
「表向きには、ただの偶然で集まってしまったから、流れでお茶会を開く事にしたと、言う事になってるしね」
納得するか、しないかはともかく、どうしても隠しておきたいのだろうと、なんとなく理解する。
簡単に明かせる事ではないし、まだ決定事項でもない。
今、公表しても、民は混乱するだけで、無用な争いを招く事になる。
「長くは隠しておけないわ。どうしても分かってしまう事だから」
「国も手一杯だからね~」
常日頃、魔物によって被害が出るこの大陸で、既に国は現状維持で手一杯。維持すらままならない事もしょっちゅうで、国が有る事が不思議なくらいだ。
各国の交易でなんとかなっているのが、現状だ。国同士の争いは減らないが、最低限の交流と、旅商人、冒険者のおかげで最悪の事態にはなっていない。
旅商人は各国の特産物を集め、大陸の情報も良く知っている。驚くほどに正確で、沢山の知識と知恵を持っている。
冒険者は魔物の討伐、旅商人では仕入れる事が出来ない物など、国にとっては重要な存在だ。
「で、聞きたいのだけれど、皆故郷に一度行かなくて良いのかしら?」
学園に居ると、離れた場所の情報は手に入らない。情報屋から買えば別だが…。
皆にとっても、他人事ではないのだ。故郷に居る家族は、必ずしも安全とは言えない。
学園が特別安全なだけだ。
「俺は問題ありません」
いち早く、ムウが返答する。
ムウには家族がいないのだ。帰る場所もない。
「うーん…俺の家も平気だな!」
ジンは少し考えてから、全く心配していない顔で返答する。
出来が良い弟が居るので、それほど心配する必要はないだろう。
「………心配」
気まずそうにラングがか細い声を出す。ためらいながら、ゆっくり口を開く。
「……僕の家は、少し田舎なんだ。…そんなに貧しい所じゃないし、自衛団もいるけど、心配だな…」
「場所を知っていれば、移転魔法で行けるんだけど…」
アヤメもツバサも、ラングの故郷は知らない。
「……無理しなくて良いよ」
「歩けば良いでしょ~冬休みになるけど…課題も有るし~」
ツバサは、冬休みの課題のついでに寄る事を提案する。
事前に聞いていた課題の内容を伝え、皆の返答を待つ。
「依頼か!知らなかった!」
「俺は良いですよ」
「受ける依頼は、〈フラウニア〉の物にしなきゃね」
快く頷いた皆に、ラングが驚き、皆の顔を見渡す。
「…良いの?」
一斉に頷いた一同。
「…ありがとう!」
話し合いを終えて、皆寮に帰っていく。何度も礼を言うラングに、皆朗らかに返答する。
心配するのは当たり前なのだ。
◇◇◇◇◇
「ふむ…」
書類を見ながら、薄く笑うスヴェート・セティ・ニーファ。
〈ニーファ〉国王として、“わざわざ”学園に足を運んだが、何が楽しいのか分からない学園祭に、はしゃぐ生徒や教師に呆れる。
「所詮はアホの集まりか」
白い髪を背中まで伸ばし、下の方で緩く纏めている。
つり目の金色の瞳、シンプルなデザインの眼鏡が、冷たい印象を与える。
「〈レジェンド〉も対した事はないな。あの2人は危険だが」
部下に探らせた情報から、以前から噂を聞いていた〈レジェンド〉のメンバーの評価を下げる。
アヤメ・シラギとツバサ・シラハネの実力はたいしたものだが、あとの3人はただの子供だと判断した。
「魔王は想像より、随分と平凡な奴だ」
警戒していたのが馬鹿らしい。
「魔物はただ地べたを這いずり、黙ってやられれば良いものを…我々人間の文化を真似しよって」
気に喰わぬ…
「まあ、盾にはなるだろう」
有効活用してやろう…
壊れるまでな…
ご感想お待ちしております




