初日から大騒ぎ
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朝早く、かなり短い仮眠と食事を終えて、生徒会室に集まった一同。
「今日から3日頑張ろう」
会長の一言で、皆は気分が沈んだ。
皆限界が近いのだ。正直のんびり、寝ていたい。
とりあえず、眠気覚ましを一気に飲み干した一同。苦みで少し目が覚めた。
〈ミラージュ〉のメンバーも助っ人として、この部屋に居るが、皆の様子を見てかなり引いている。昨日の晩は出迎えには参加していないので、何がどうなっているのか分からないのだ。
皆、殆ど寝ていないし、ここ数日の仕事の疲れも溜まっている。
「巡回しながら、遊んでて良いからね。問題が発生したら駆けつけてくれれば、大丈夫だから」
会長が励ますが、皆それどころではないので、沈黙している。
通信用魔法具を受け取って、各自巡回に出発する。既に、早い店は開いている。
「眠い…」
「飲む?」
「結構です!」
アヤメが差し出した眠気覚ましに、慌てて押し返すジン。本当に苦いのだ。
「とりあえず、軽食屋で何か飲む~?」
ツバサの提案に、一斉に頷いた一同。近くの軽食屋で飲み物を勝って、外に設置された席に座る。何故外なのかは、いざという時に飛び出せるからだ。
背もたれに寄りかかって、少しでも体を休める。ちびちびと飲み物を飲みながら、寝そうになる頭を無理やり起こす。
ツバサだけは、眠気に逆らわず、すやすや寝ている。寝起きが良いから出来る事なので、誰も咎めない。起こされると機嫌が悪いが、必要な時は直ぐに自ら目を覚ます。
「器用だよな…」
「羨ましいわね」
「………眠い」
「寝たら起きれません」
「………zzZ」
あったかい飲み物だと眠くなるので、寒い中冷たい飲み物で必死に眠気と戦う一同。あまり効果はないが…。
徐々に学園祭を楽しむ生徒が増え始めた。農業科の店から、客寄せの掛け声が響き渡る。鍛冶科の店から鉄を叩く音も聞こえてくる。
「そろそろ行く~?」
いつの間にか起きていたツバサ。飲み物も無くなっている。
「そうね」
「ぶらぶら歩けば良いんでしょ~?」
行きたい場所も無いので、適当にぶらつく事にして、ふらふらっと歩き出した。
小物が売られているお店、大きな串焼きのお店、魔法具の制作体験、衣類のお店、金物屋など、いろいろある。
「いろいろあるね~」
「面白いわね」
アヤメもツバサも楽しそうに見て回る。ジン、ラング、ムウは2人に黙ってついていく。
楽しむ元気が無いのだ。
「クッキーだ~」
甘い香りに引き寄せられるツバサ。アヤメもついていって、一袋買ってきた。
2人は甘い物なら良く食べる。
幸せそうに頬張って、ジン、ラング、ムウにも差し出す。
一枚もらって口に放り込むと、甘さ控えめの、どこか落ち着く味が広がる。
いろいろな店を眺めながら、ゆっくり歩いていく。
「嘘つかないでよ!」
いきなり怒鳴り声が聞こえて、直ぐに仕事に戻る一同。
言い争う女生徒3人が、何かを指差している。
「生徒会です。何が有りましたか?」
「店の商品取られたの!」
「取って無いわよ!失礼ね!」
「そうよ!言いがかりはやめてよ!」
「ここにあった腕輪が無いんだ!さっきずっと見てただろ!」
「どのような腕輪ですか?」
簡単な説明を聞いたが、どちらが正しいのか分からない。
腕輪のデザインを聞いて、ざっと見渡したが見当たらない。
「失礼ですが、確認しても?」
「良いわよ」
「もちろん」
断りを入れて、アヤメとツバサが女生徒のポケットや鞄を探すが見つからない。
ジン、ラング、ムウは周りに聞きに行った。
「無いですね」
「無いよ~」
「ほら、無いでしょ」
「もう良いかな?」
「…じゃあ誰さ?」
店の女生徒が睨み付けながら、問いかける。まだ疑っているらしい。
「分かった!」
ジン、ラング、ムウが戻って来て、聞いた話しを伝える。
「この2人じゃない。2人の前に農業科の一年生の女子が見ていたらしい。その後、無くなってる」
「前の店の鍛冶科二年から聞きました」
「………一つに結んだ、背の低い生徒だって。…白い花の髪飾りをしていたって」
「分かったわ。念のため、お二人のお名前を聞いても?」
名前、学科、学年を聞いてから解放して、目撃情報から生徒を探す事に。
店から被害届を受け取って、風紀委員を呼び出して探し始める。
「ちょっと待っててね~」
いきなりツバサが立ち止まり、皆に告げてから跳躍した。一回の跳躍で、三階の屋上に着地する。
「マジで!?」
「あの位、簡単よ?」
「………いや、無理だから」
「そうかな?低いけど…」
「流石は師匠です…」
トンッ
重さを感じない音で着地したツバサ。注意していないと聞き取れない。
「こっち~」
直ぐに走り出したツバサの後についていく一同。上手い事人混みをすり抜けていく。ついていくのも、大変だ。
「待った!」
女生徒を捕まえたツバサ。小さな白い花飾りがあるので、多分間違いない。
びっくりして振り返った女生徒は、生徒会のバッジを見て固まった。
「失礼ですが、持ち物確認します」
「な、何で!?」
「店の商品が盗まれました。ちょうどその時、あなたを見た人がいます。確認をさせて下さい」
「知りません!」
「持ってなければ解放するよ~」
「このままでは、力ずくになりますがよろしいですか?」
「くっ!知らないってば!放して!」
暴れるが、鍛えてない女生徒の力には、ツバサの片手を振りほどく力も無い。
しょうがないので、ツバサが両腕を掴んで後ろに組ませ、アヤメがポケットを漁ると、ブレザーの内ポケットから腕輪が出て来た。
「その辺で買ったの!」
「被害者の言う特徴に一致します。風紀委員本部に連行します」
暴れる生徒を難なく無力化し、本部に連れて行く。副校長が待機していて、嘘を見抜く魔法具で取り調べるのだ。魔法具については、企業秘密らしい。
「ご苦労様。ここは任せて」
「はい」
副校長に引き渡して、腕輪も渡してから本部を出て行く。
「確かに、綺麗で細かい細工に、高値だったけど、わざわざ盗むか?」
「私に聞かないでよ」
「冒険者には安くても、一般人には高い事も有るよ~」
冒険者、文官、武官、魔法師、医者はかなりの人がお金を得ている。もちろん、それだけの仕事をしているからだ。
対して、農家、飲食店、漁業の人々は貧しい事が多い。農家はその年によって浮き沈みが激しく、魔物の被害も大きい。飲食店は、ほとんど需要がない。漁業は、腐らない内に運べる場所が限られ、水辺の魔物の被害も大きい。
保存する技術や、衛生面、交通手段が問題になっている。
干し肉、干し果物、乾燥した固いパンはあるが、それも長くは持たない。更に、手間ひまがかかりすぎる。魚など、もってのほかで運べない。魔法師の力で冷凍する事が可能だが、雇う余裕などない。
いまだにスラムがあちらこちらに有るので、街の中も綺麗とは言えない。拭き掃除や、掃き掃除位しか方法も無い。もちろん魔法師の力で綺麗にする事も可能だが、もともと魔法師が貴重なので、そんな事頼めない。
漁業と言っても、風で動く船が一般的で、その他は手漕ぎだ。安全性も低い。もちろん魔法師が居れば、違うが…。
「一般的には、装備品にお金を使う余裕など無いわよ」
「生きるので手一杯~」
自分たちの感覚で考えてはならないと、2人は言う。
どの職業も必要で、無くなっては困るのだが、どうしても差が開くのだ。致し方ないだろうが、やるせない。
「対策はされてるわよ。私たちみたいな収入が多い者は、知らぬうちに国に税を払っているわ。僅かに、月一度銀行から少し引かれてるわ。領地があれば、土地の広さによって、お金を払う義務もある。王族も例外なくね」
「集まったお金は、魔物や災害で被害が出た人達に、使われるの~それでも、間に合わないけど~」
年中魔物の被害が絶えない現状で、国自体が弱っているのだ。防壁、騎士の派遣、国の維持なと、様々な面で必要になるので、いくらあっても足りない。
冒険者は比較的払う金額が少ない。それは、冒険者は依頼を受けなければ生きていけず、依頼は国や民衆の変わりに解決してくれる存在だからだ。冒険者がいなければ、もっと国は荒れ果てる。各地を旅する冒険者は、至る所で結構お金を使うので、総合的には払う金額が多いだろうが…。
お金を回してくれる冒険者は、国としてはありがたい存在なのだ。
「どうしても欲しいなら、頑張って貯めれば良いだろ?」
「そう簡単にはいかないわ。悪い事に違いはないけど」
「見たら欲しくなったんじゃない~?」
学園祭のお店とは言え、店によっては普通に街で売られてもおかしくないほど、作りが良い物がある。少し安いが、簡単に出せる金額ではない。
材料自体が高値なので、どうしてもこれ以上は安くできない。全て手作りなのも、原因である。
「あとは任せて、回りましょう」
「ああ」
上手くいかないものだと、皆が感じながら歩き出した。
「お!」
ジンが見つめる方向に、旅商人のお店がある。どれも珍しい物ばかりだ。
「いらっしゃい。ゆっくり見ていきな」
「これ何だ?」
良く分からない形の首飾りを見つけ、ジンが手に取る。
動物らしいが、良く分からない。
「面白いだろ?魔除けだってさ。亀らしいよ。水辺の村に有ったんだ」
「亀?」
どうにも、見えない。
「その村の近くで見られる、特徴的な亀だからね…分からないよね」
普通に見られる亀ではないようだ。分からなくて当たり前だ。
値札を見たら、案外高かった。即戻すジン。
「綺麗~」
ツバサが手に取ったのは、細かい細工が施された鏡。嫌みにならない程度に、綺麗な石が埋め込まれている。
「凄いだろ?小さな街に有ったんだが、もったいないよな」
「うん~」
「買ってくか?」
「これだけ綺麗だと、使えないな~旅の途中に壊しそう~」
「ほう!冒険者か!」
「そうだよ~」
なにやら感心したらしい店主。
因みに、値札を見たら、ものすごく高かった。誰が買うんだろう?
「……これどう?」
ラングが見付けて、アヤメとツバサに差し出したのは、黒曜石が蝶の形で埋め込まれた髪飾り。台座が銀色で、小さな花が彫られている。
「かわいい」
「わあ~」
気に入ったらしい2人。黒曜石は珍しいので、ものすごく高いが、2人のお財布事情は、問題ないだろう。
2人共、かなり節約家で、収入も多いのだ。そのくせ、金銭感覚は狂いがない。物欲がないのかもしれない。必要な物以外、一切手を付けない。
「どうしよう?」
「うーん…」
「高いよ?学生が出せるのか?」
「「全く問題ない」」
キッパリ言い放つ2人に、思わず固まった店主。冒険者でも、簡単には出せない金額なのだ。
後ろでこそこそ相談し始めるジン、ラング、ムウ。
(合わせれば…)
(……うん…大丈夫)
(ふむ…)
なにやら決意を固めた3人。ものすごく真剣な顔になっている。
「よし!俺達が出す」
「え?ジン、高いよ?」
「………3人なら大丈夫」
「ふえ?でも~」
「出させて下さい。師匠」
悲しい事に、アヤメとツバサの所持金には、遠く及ばない3人。財産が一気に底をつく金額だが、日頃の恩を考えれば、まだまだ足りないほどだ。
なにより、2人が興味を示す事自体が珍しいので、このチャンスは逃せない。
何が好みか分からないのだ。
「えーと…」
「無理しないでね~?」
3人の所持金をなんとなく知っているので、気を使う2人。
「ははは!良く言った!お嬢さん達、ここは譲ってやれ」
店主の説得に、押される2人。
ここぞとばかりに、前に出るジン、ラング、ムウ。
勢いに負けたアヤメ、ツバサ。
3人が嬉しそうにお金を払って、店を出る。
「ありがとう」
「ありがと~」
ニコニコしながら、早速髪につける2人。金色の髪には、黒が似合う。
上機嫌で、歩き続ける一同。
「もうお昼ね」
「早いね~」
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
昼食を取るために、飲食店を見ていく一同。どこも、客でいっぱいだ。
「やあ!」
「こんにちは」
「どうした~?」
「まてまて!突っ込もうぜ!ものすごく普通に話してるけど、周り引いてるぜ!」
ジンが言うとおり、周りの生徒は視線を向けながら、後ろに下がっている。
「あら?何でかしら?」
「不思議~」
全く分かってない2人。
「一国の次期国王様が居たら、当たり前のリアクションだから!」
声をかけたのは、何故だか近衛を一人しか連れてない、ザガンだった。
ご感想お待ちしております




