エリナ先生のピンチ
開いて下さってありがとうございます。
ボロボロのジン、ラング、ムウ。呆れた表情のアヤメとツバサ。
「エリナ先生…分かってますよね?」
「アヤメちゃん怖いよ!笑顔笑顔♪」
「覚悟、有るよね?」
「ツバサちゃん!?いつもと違う!?何?何なの?」
「テストの域を超えてます。分かってますよね?何考えているのですか?何をしているのですか?」
「何の事かな?☆」
ザンッ
ザシュッザシュッ
「ひいっ!」
いきなり抜き放たれたアヤメのレイピアを避けたエリナ先生だが、ツバサの双剣が追撃し、とっさに下がる。両肩と、左足に浅い傷が出来た。
「危ないわよ!何するの!」
「当たり前でしょう?」
「常識を学んでから、出直せ」
「アヤメちゃんとツバサちゃんに言われたくないわ!ジン君!ラング君!ムウ君!」
アヤメの鋭い視線、ツバサの絶対零度の微笑みを受け、とっさに空気になりきって居たジン、ラング、ムウに助けを求めるエリナ先生。
「俺も後で殴ります!」
「………覚悟して」
「………」
ムウは怒ると無口になるようで、無言で睨み付ける。
一同が真っ先に見たのは、今起きた顔で寝癖の跳ねたエリナ先生だった。布団は捲れ上がり、食器が散乱し、違和感が有りすぎるソファーが有った。
「くつろぎ過ぎだ!」
「……何故食器!?」
「ソファーは持ち込んだな!?」
「楽しそうな小屋ですね…本まで有りますね…おやおや、クッキーまで」
「覚悟しなさい!」
上から、ジン、ラング、ムウ、アヤメ、ツバサだ。
「だって暇だし!」
「ほう…シャンプーの香りがするな」
「ツバサちゃん鋭い!良い香りでしょう?高かったの♪」
「人が一生懸命テスト受けてる時に!」
「しかも、あんな罠仕掛けやがって!」
「………くつろぎながら、寝転んで!」
「あまつさえ食事を持ち込みよって!」
「何が『高かったの♪』だ!知るか!」
上から、アヤメ、ジン、ラング、ツバサ、ムウ。見事に息が合っている。
簡単に纏めよう。
ここの家具は事前に持ち込み、食事は毎朝学園から持ち込み、小屋に急遽取り付けた水場(風呂ではなく、水浴び場)で清潔な生活を送り、昼過ぎまですやすや眠って居た…と言う事。
「食事は大切だし、清潔にしたいし、快適空間欲しいもん!罠はあなた達の所だけ、難易度上げたのよ!」
「なら何故他のチームが居ないのかしら?この短期間で、着いて帰ったと?」
「ええと…帰ったわよ!」
「有り得ないわ。昨日の大雨によって、山道を登るのは困難な筈。頂上付近一帯の高ランクの魔物は、B以下のランカーには無理」
「いや…その…」
「魔物は移動する。私達のみなど不可能。本人達が動けば、私達と同じ道にもたどり着く。そして、初日の荷物からして、魔物、罠をかいくぐり、この短期間で到着不可能」
「ツバサちゃん、それはどうかな?」
「ツバサと私は、食料を見付けに走り回ったわ。今日の夜明け前、下の方まで見に行ったけど、第二関門の魔物エリアの入り口付近で倒れ込んで諦めたチームを見たわ」
「え!?行ったの?」
「標高が高いと、ろくな物無いもの」
「言わないならば、確認しに行こう」
「「覚悟しなさい!」」
「……ごめんなさい…あなた達以外来てません…」
アヤメとツバサの殺気に、たまらず白状したエリナ先生。2人なら、直ぐに確認は出来る。いや、このチームなら簡単に出来るだろう。神獣が居るのだ。今回は禁止していただけで、神獣に乗れば一夜で登って来れる。〈麗牙〉〈風牙〉〈スピネル〉で飛べば、もっと早い。
「ちょっと、外に出なさい」
「…何で!?白状したわよ!」
「そう言う問題では無い!」
ずるずる引きずられて外に出されたエリナ先生。
アヤメとツバサは、さっきやったから良しとして(もちろん校長に言い付ける)、ジン、ラング、ムウが怒りをぶちまける。
「紅蓮の大蛇・極」
「………大風玉」
「煌々なる裁き」
ジンの特大の大蛇が食らいつき、エリナ先生が蹴り飛ばし、ラングの特大風玉を避けた筈がいきなり爆発してよろけ、視界が光り輝く世界に包まれ吹き飛ばされた。
「痛ーい!」
ほぼ無傷で現れたエリナ先生。大蛇を一蹴りで消し飛ばした事にも驚きだが、あの光量の中でギリギリで防御して、視界も既に戻ったようだ。
Sランカーは、伊達ではないらしい。
「タフ」
「…うう」
「ちっ!」
「案外痛かったわ!もう、酷いなー☆」
「小屋には十分なスペースが有りますね…ここで待ちましょうか?」
「他のチームか?良いが、大丈夫なのか?生きてるのか?」
「ツバサ、縁起でもないわよ」
「そうだな」
「俺は良いぜ!」
「……心配」
「そうしましょう」
「決まりね」
完璧にスルーされて、たまらずエリナ先生が叫ぶ。本当に元気いっぱいだ。
「無視しないでー☆」
「先生はテントで」
「何でよ!私の小屋よ☆」
「所有権は学園だと聞きますが?」
「何で知ってるの!?」
「引っかかりましたね」
アヤメの言葉にはっとしたエリナ先生。
「やられたー」
「使って良いですよね?」
否定など受け付けない姿勢のアヤメ。鋭い視線に冷や汗が止まらないエリナ先生。
「良いわよ…私も良いよね?小屋の物は好きにして良いから☆食事も持ってくるし☆ね?」
「もちろんです。ありがとうございます」
小屋に戻り、真ん中で布で仕切りをつけて、簡単に男女分かれる。
「もう少し先生を大切にしてよ☆」
「生徒を大切に扱わない先生に、言われたくないわ」
「ぐう…」
小屋の中を漁り、食料を見つけ出して昼食兼夕食を取る。隠し倉庫から、沢山の干し肉と、薬草、固めのパン(保存食)、調味料、お菓子が出てきた。 久しぶりに、ちゃんとした食事を口にして、ほっと一息。
「ハーブティー発見~」
いつもの調子に戻ったツバサが、誇らしげに掲げる缶には、高価なハーブティーがぎっしり詰まっている。
手慣れた手付きでハーブティーを入れるアヤメ。クッキーと一緒に持ってきた。
「うまー!」
「……幸せ」
「うまい…」
「ありがとう~暖まる~」
「美味しいわね」
笑顔になる一同。
「私のは?私のなんだけど☆」
「自分でやって下さい」
「酷い!買ったの私だよ?」
無視して食べ続ける一同。諦めたエリナ先生が自分でハーブティーを入れる。
まったり過ごした一同は、エリナ先生に他の生徒を任せ、寝床に転がった。疲れ果てていたので、直ぐに睡魔に負けた。
「…私1人?…皆寝たわね。私も…」
1人座って居たエリナ先生が立ち上がって、寝床に向かう。
「…寝れないよね☆」
思いっきり目が合った神獣〈スカイ〉に、引きつった笑みを浮かべるエリナ先生。一番体が小さい〈スカイ〉を残しておいたようだ。抜かりはない。
「少しは頑張って下さいませ」
「はい…」
丁寧な〈スカイ〉に促され、渋々椅子に戻ったエリナ先生。
「はぁ…」
溜め息はひっそりと夜闇に消えていった…
◇◇◇◇◇
テスト期間の最終日。
「来ないな…誰も!」
ジンが叫んだ通り、誰も頂上にたどり着いて居ない。
エリナ先生も、流石に引きつった笑みで内心を隠している。バレバレなのだが。
「今日は来るでしょう!☆」
「…根拠は?」
「……無い!☆」
一同は重い空気の中、朝からずっと待っている。もうすぐ昼になる。
頂上はかなり冷え込んでいるので、焚き火をしながら待ち続ける。朝は水が凍るほど冷え込む。学園自体が山奥に有るので、かなり標高は高い。
「凍死してないよな?」
「縁起でもないわよ…」
「………大丈夫かな?」
「分からん」
「だ、大丈夫よ☆」
上から、ジン、アヤメ、ラング、ムウ、エリナ先生。
「器用だ…」
ジンが驚いたのは、ツバサは器用に毛布にくるまって、座りながら寝ている。
いつから寝たのか分からない。
「…来た~」
いきなりツバサが目を開けた。地面を通して、魔力探知をしていたらしい。
「本当!?」
「反対側から~」
「行きましょう」
小屋の反対側から来ると聞いて、急いで回り込む。無駄にでかい小屋が邪魔だ。
「あ!来た☆」
「お?おーい!」
ジンが叫ぶと、気付いた相手が小さく手を上げて返事を返した。息絶え絶えで、声も出ないようで、黙々と歩き続ける。
たどり着いたのは、〈ミラージュ〉の一同だった。
「居たのか…流石だな!」
「大丈夫かラザック?」
「ああ…多分生きてるぜ…」
「死にかけてるがな…」
「ガナン真っ青よ。小屋に入りましょう」
「有り難い…」
くたくたの2人は、足を引きずりながら小屋を目指す。時々よろけるので、ジンとムウが支えた。
後ろに居た3人を見ると…
「エレミア?生きてますか?」
「たどり着いたのかしら?幻では、ないわよね?もう駄目…」
「私も駄目です…」
倒れるエレミア、クリスティアを、アヤメとツバサが支える。
「…うっ…えっぐ…ぐすん」
「リーゼちゃん!?」
泣き崩れるリーゼをエリナ先生が慌てて支える。
とりあえず小屋に移動する。残された荷物はラングが持って来た。
「はい」
アヤメがハーブティーを差し出すと、驚きながら、嬉しそうに受け取った。
「幸せですわ…」
「ほっとします…」
「…ぐすん…美味しい」
「助かる!」
「すまない。礼を言う」
飲み終わった途端、直ぐに寝床に横になる5人。この際、エレミアもクリスティアも格好など気にしないと、思いっきりだらける。
リーゼは丸くなって、泣いている。相当辛かったらしい。
5人の共通点は、魔力が底をついてしまっている事。魔法担当のエレミアとクリスティアはともかく、リーゼ、ラザック、ガナンまで無くなるとは、予想外だった。
「最後の最後に…魔物に囲まれるなんて…死ぬかと思いましたわ…」
「あんまりですわ…」
「慣れない魔法で、余計に疲れたぜ…」
「そうだな…」
「ひっぐ…ぐすん…」こくり
泣きながら頷いて、うずくまったリーゼに、エレミアが近寄り、背中をさする。
落ち着くまでそっとしておき、昼食を作りに行ったアヤメとツバサ。適当に倉庫から食料を持って行った。
「お前達、流石だな!」
「いやいや…ラザック、あの2人が居るんだぜ?」
「そりゃあ、心強いな!」
ラザックは朗らかにジンと話して、ふと後ろに居たエリナ先生を見やる。
「先生…覚悟しとけよ!」
「そうだな!」
ガナンもエリナ先生を睨み付ける。
「え!?」
「そうですわね…」
「許せませんね…」
「…ひっぐ…うう…許さない」
「ええ!?」
エレミア、クリスティア、リーゼも参戦する事を決意する。
良い香りが漂って来た。昼食を持ってアヤメとツバサが入って来た。
干し肉と薬草のスープ、切り分けたパン、切り分けた果物、倉庫から持ち出したクッキー、同じく倉庫から持ち出したお茶。豪華ではないが、ここ数日と比べたら豪華な食事に、思わず飛びついた5人。
〈レジェンド〉も混じって昼食を取る。こっそりエリナ先生も食べる。
「何故食料が有るのかしら?」
「エリナ先生が持ち込んだだぜ!お菓子まで隠し倉庫に有る!」
〈レジェンド〉が着いた日の詳細を、事細かく説明するジン。付け加えるムウ。頷くラング。逃げようとするエリナ先生を、とっさに捕まえるアヤメとツバサ。
「「「「「何だと!!」」」」」
きれいにハモった5人。一斉にエリナ先生を睨み付ける。
目を逸らし、冷や汗を流すエリナ先生だが、アヤメとツバサを振り解けない。いくらエリナ先生がSランカーでも、アヤメもツバサもSランカーなのだ。どうにもならない。
「なるほど、クラスで話し合う必要が有りますわね?」
「そうですね」
「ぐすん…袋叩き…」
「何してんだ!こんなに人が苦労してるってのによ!」
「絶対…殴る!」
「ひぃ!離してー!」
往生際の悪いエリナ先生を、押さえつけるアヤメとツバサ。駄々っ子になっているので、物凄く大変。
結局最終日は、〈ミラージュ〉しかたどり着かなかった…。
ご感想お待ちしております




