大雨に苦戦
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かなり上まで来たからだろう。朝の厳しい冷え込みに、たまらず震えるジン、ラング、ムウ。
「あんまり寝れなかった」
「……………寒いからね」
「動いてばかりだから、気付かなかった…師匠も起きて居るのか?」
外から良い香りが漂って来る。朝食の準備をしているのだろう。
3人はテントの中で着替えて、外に出ると、直ぐに冷気が容赦なく襲い、体を震わせながら、小さな焚き火にあたる。
周囲が草だらけなので、とても小さいが暖まる。
「おはよう。スープを飲んだら、直ぐに行くわよ。一応、魔物除けが有るけど、安全とは言えないから」
「分かった!」
「……暖まる」
「ほっとする」
「この先、崖が多い。気を付けろ」
「「「了解!」」」
きつくなった斜面を、罠と格闘しながら、魔物と格闘しながら登る。肌寒い山奥にも関わらず、絶えず汗がじわりと浮かぶ。首に掛けたタオルで吹きながら、ひたすら登る。
ようやく罠に慣れて、対処もスムーズに行えるようになった、ジン、ラング、ムウは、魔物に対応する余裕も出て来た。
「雨?」
冷たい雨に上空を見上げるジン。雨雲が広がりつつある。
「濡れたら体温が奪われる」
「ええ、テントを張りましょう」
斜面に2つも広げられないので、一つに集まって入る。入るだけなら余裕は有るので、黙って円になって座る。 次第に強くなる雨に、テントが悲鳴を上げるが、皆で抑えて、水を定期的に屋根から落とす。雨でぬかるみ、足場が悪いが、こればかりは仕方ない。
急に冷え込み、震えるジン、ラング、ムウに、毛布を掛けるアヤメ。
「テントは任せて」
「悪い!」
「………ごめん」
「申し訳ありません」
雷も鳴り始め、当分やみそうに無い。厳しい冷え込みが、容赦なく体温を奪う。塗れないだけ、有り難い。
「ほれ」
鞄を漁って居たツバサが、ジンに渡したのは、拳程の結晶。赤くて、あったかい。ジン、ラング、ムウは一つずつ両手で包んで、暖まる。
「何これ?」
「加工していない、魔法具の材料。不思議と熱を放つ結晶で、そのままだと使えないから、砕いて混ぜるんだが、そうすると熱は消える。どうしてなのかは、不明」
「良く持ってたわね…」
「備え有れば憂いなしだ」
またしても、びっくり箱が開いたらしい。アヤメも苦笑しながら、片手に握る。人数分有るようだ。
午前中降り続いて、ようやく止んだ雨。そこら中が雨でぬかるみ、足場が悪いが、今の場所が崖に近く、危ないので移動する事に。
雨で罠の半数が駄目になり、随分危険は減ったのだが、足場の悪いので、別の意味で危ない。魔物も少なくなったのが幸いして、足元の注意だけで良いのは嬉しい。
ジン、ラング、ムウは魔法陣の探知も少し慣れて、回避出来るようになった。
だが、予想以上に雨の影響が酷く、気を抜くと足を取られるので、ペースはあまり変わらない。
更に、雲のせいで薄暗く、足元が見づらい。
「寒いのか?」
「ふえ?」
「かじかんで居るぞ」
「寒い」
かじかむ手をすり合わせるジン。ラング、ムウも震えている。結晶を懐に入れたので、胸の辺りはじんわりと暖かいが、肩から手先にかけて、熱が奪われて行く。足元はブーツを履いて、良く動かすので、まだなんとかなる。
寒さで体力も奪われ、ふらふらと、頼りない足取りとなっている。
「ふむ…」
「テントが張れると、休めるんだけど…これだけ斜面がきついとね…」
「魔法は、良くないからな…」
魔力は、使えば使うか程、体力と気力を削いでしまう。今の状態では、魔力制御が不安定で、必要以上に消費してしまう。体力も底をつき始めた。
だからと言って、アヤメとツバサが使うのは危険だ。2人が頭上を見張り、多量の魔力で威嚇して居るからこそ、魔物が襲撃してこない。いざという時、2人の手が塞がって居たら、尚危険である。
「もう、大分登ったよな?」
「多分。だからこそ、開けた場所が無いのよ」
「まだ気温も下がる」
「……そう」
「これは、抗議しないとね」
「そうだな…徹底的に…な」
「師匠…怖いです」
アヤメは鋭い視線を上に向け、ツバサは薄く口元に笑顔(目は笑って無い)を浮かべた。
ジン、ラング、ムウは目で頷き合う。
(((寒気は気のせいだ…多分!)))
◇◇◇◇◇
「ひいっ!」
頂上の小屋で、エリナ先生が飛び上がった。寒気に思わず縮こまり、一人呟く。
「なんか、命の危険を感じるわ…」
◇◇◇◇◇
この状態では、これ以上は無理だと判断して、一つのテントを広げる。狭い木と木の間なので、2つは無理なのだ。
「師匠…」
「強がらず入りな」
「私達は木の上に居るから」
「良いのか?」
「慣れてる。問題ない」
「………ありがとう」
「良いのよ」
僅かに残っていた薬草を、簡単に茹でてあっさりしたスープ(少だけ塩入り)で暖まって、アヤメとツバサが3人にテントを進める。
ジン、ラング、ムウは、気が引けるが、素直にテントに入り、直ぐに睡魔に負けた。
軽々と木に登り、太い枝に座り込んで目を閉じるアヤメとツバサ。
この日、疲れ果てた一同は、直ぐに眠りについた。
◇◇◇◇◇
早朝、既に準備を終えた一同。
いつの間にか、アヤメとツバサが木の実をとって来てくれて居たので、簡単な朝食を取り、荷物を纏め、装備を整えた。
「今日は頂上まで行きたい!」
「そうね」
「駆け抜けよう」
「………うん」
「はい」
ツバサの一言に頷いて、歩き出した。地面がぬかるみ、走れそうにないので、慎重に進んでいく。
「罠は壊滅的ね」
「雨ありがとう!」
「………はは」
「ふん」
「ジンは単純だ」
頭上に気を配りながら、進む事が出来るので、少し歩きやすい。
飛んで来る魔物を、アヤメとツバサの探知能力で発見、ジン、ラング、ムウが迎撃していく。
三時間ほど歩き続け、アヤメとツバサが立ち止まった。
「いきなり罠の痕跡が無くなったわ」
「魔物の気配。かなり強い」
2人が見詰める先を辿るが、まだ分からない。ジンとムウは、とりあえず武器に手をかける。ラングは集中力を上げる。
「もう少し先だ。向こうもこちらに気付いているようだ」
「移動しましょう。ここだと狭すぎるわ。左に大きく迂回しましょう」
木々の下をくぐり抜け、左前に進んでいくと、もう少し先に急な坂が有る事を確認。少し開けた山道らしい。
もっと下を見れば、崖に反って道が曲がっている事が分かった。木は少なく、崖の向こうの景色が見える。上から見ると、通って来た場所には、鬱蒼とした森が広がっている。
ドスンッドスンッ
「道の向こうまで走れ!」
「出来たら、木の影に行って」
ツバサの声で我に帰り、アヤメの声で走り出した。
数日かけて鍛えられた、ジンとムウ、風魔法で自分を押しながら進むラングは、今まで以上の速度で走り抜ける。一歩遅れてアヤメとツバサが付いて来る。
道を横切り、さっと、木陰に滑り込んだジン、ラング、ムウ。
木陰の前で立ち止まったアヤメとツバサ。
ガウゥゥ
現れたのは、六メートルほどの熊。二本の長い牙を持っている。
グルルッ
一瞬、アヤメとツバサに警戒したが、直ぐに走り出す。
ガル!?
ツバサが地面を凍らせ、アヤメが草を操り転ばせる。
ガア!?
凍った地面に倒れ込んで、坂を滑り落ちて行った熊。慌てれば慌てるほど、体制を崩して滑って行く。
「こんなん有り?」
「………はわわ」
「流石師匠!地形も見方です」
ドッスッンッ!!…グアァァ
「何!?」
「崖から落ちた。最後のは悲鳴…多分」
「綺麗に滑って行ったわね」
「………何で、落としたの?」
確かに、2人なら普通に倒せるだろう。
不思議な表情のジン、ラング、ムウ。
「知らなかった?あれは、“ビッグベア”よ。名前そのままだけど…」
「それ以外言いようが無い。下手に倒せば独特な臭いを発して、仲間の魔物を呼ぶんだ」
「まあね…。えっと、蜂みたいな物よ」
ポカーンとしているジン、青ざめるラング、崖の方を見るムウ。理解してからの表情の移り変わりが面白い。
「そっか…」
「………助かった」
「なる程…」
「大丈夫かしら?」
「ほっとけ」
そそくさ歩き出したツバサ。黙って付いて行くアヤメ。はっと気付いて追いかけるジン、ラング、ムウ。
その場に留まれば、魔物が寄って来るので、急ぎ足で進む。
「罠エリアから、魔物エリアに。魔物エリアから、罠と魔物エリアに…次はランクの高い魔物エリアになったのね」
「さっさと行こう。あれに囲まれたら厄介だ。一応ランクはAだしな」
「マジで!?」
「そうよ。集まった時は、凄いわよ…」
「魔物同士の喧嘩に巻き込まれる」
「………うわぁ…」
「助かりました」
頭上に気を取られると、足元から植物系の魔物が、足元に気を取られると、頭上から魔物が襲いかかって来る。
反応出来る魔物は、ジンとムウが切り掛かり、ラングが補助していく。
アヤメとツバサの負担を軽くしなければ、いざという時に本当に困ると、3人は判断した。団結力もかなり上がっている。
体力温存、魔力温存など、出来る筈もなく、がむしゃらに駆け抜ける。
昼飯も無しで、走り抜ける。
一同は、少し傾き始めた太陽を見上げ、ようやく終わったサバイバルに、安堵の吐息を吐き出した。
直ぐそこに有る小屋に駆け込む。
「お疲れ様☆」
満面の笑みを浮かべたエリナ先生が出迎えた。
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