とりあえず登る
開いて下さってありがとうございます
朝、朝食後に包帯を取った所、ラングの足の怪我は綺麗に治って居た。昨日の応急手当てと、アヤメの集中した治癒と、ツバサの調合した湿布薬が効いたようだ。
違和感は残ったので、少しずつほぐしていく。
「無理しないように。痛く無くても、少し不安を感じたら言う事」
「………分かった」
「急な斜面、魔物から逃げる場合は、私達が背負います」
「……ありがとう」
ツバサが警告を、アヤメが気を使ってくれるので、ラングも安心した。
「ちょっと、ここからは危ないかも」
「そうだな」
「どうして?」
「結構、登って来たから、また違うエリアに入るかもしれないわ」
意外とハイペースで登って来た一同。既に半分は登って居る。
罠はほとんど、アヤメとツバサが対処したので、案外早く抜け出せた。
魔物は、ジン、ラング、ムウの力量が上がったので、あまり苦労して居ないので、休み無しで駆け抜けた。時折、アヤメとツバサが威嚇するので、力量を悟った魔物は出て来ない。
「そっか!」
「ここまでは、予定通りね。駆け上ったおかげで、時間は有るけど、急ぐに越した事は無いわ」
「スピードは下げない。長居をすれば、精神的に辛いだろう?」
「ああ…キツい!特に膝が!」
「………うん…寝不足だし」
「あちらこちらが痛いです」
「だよね…」
既に、体力的にも、精神的にも、限界が近い3人。アヤメとツバサは慣れて居るので、この位は少し疲れた程度。2人は常時、警戒態勢で休んで無いのも同然で、今も気配を探って居る。
「行こうか」
「ああ!」
「……うん」
「はい」
一同、片付けを終えて、歩き始めた。
一時間程歩き続けて、異変に気付いて立ち止まったアヤメとツバサ。
数多くの魔物を蹴散らして居た、ジン、ラング、ムウも倒し終えて、立ち止まった。
「…休む間も無いかも」
「厳しいな」
「どうした?」
「罠が有るわ。しかも、大量に…」
「上空に、飛行可能な魔物も居る」
2人の言葉に、ぎょっとして辺りを見渡す。魔力探知にも、僅かに引っかかり、上空には魔物が飛び交う。
罠と魔物に囲まれたエリアに到達したようで、休む間は無いだろう。
「ラング、行ける?」
「……大丈夫。行ける」
「突っ切る」
少しスピードを上げて、罠をかいくぐり、魔物を牽制しながら進む。数多くの罠を避けるには、魔物が邪魔になり、遥かに難易度が上がっている。
ジン、ラング、ムウは、余裕が無くなり足元しか見えないので、常にアヤメが魔物に威嚇を、ツバサが罠の解除と警告を行って進む。
容赦ない刃物の脅威から、一生懸命避け続けるが、避けきれない物が迫り来る。
「足元にロープ。左から矢!」
「うお!」
「前方十歩に落とし穴。右からナイフ、左前方から数本の矢!武器で弾いて、左に迂回」
「上空から蜂型の魔物!私が斬り捨てるから、先に行って」
「……ひっ!」
「ぐっ!」
「ここまで走れ!」
「「「了解!」」」
なんとか弾いて、ツバサの元に走り、アヤメが斬り捨てる。
とにかく走るしか無いので、疲れで動きが鈍って来た。
「左に魔法陣。右に回避」
「後方から魔物接近!私とツバサの後ろに回って!」
「げっ!」
「………うー」
「くっ!」
六羽の魔物を斬り捨てる2人。初めは動きが素早いので良く分からなかったが、羽に鋭い爪が有った。落ちた片翼に付いていた。
「ここから直ぐに離れよう。血に寄ってくるから」
「右斜め前の枝に糸。足元にワイヤー」
「しまった!」
言われても分からなかった罠に触れたジンに、ナイフが迫るがムウの刀が弾いた。細く、草に紛れたワイヤーは見えない。
「あの岩まで走る」
ツバサが指差した岩まで、突っ走る。向かう途中、沢山の矢が飛んで来たが、よそ見をせずに突っ走る。出来るだけアヤメとツバサが防いだ。
数本の矢がかすったが、なんとか大怪我はしていない。
「キツい!何だこれ!?」
「………うん」
「同意」
「大丈夫?手当てしようか?」
「いや…大丈夫!」
「………魔力温存」
「師匠が倒れたら終わりです!」
「なら、とりあえず水飲め」
息絶え絶えのジン、真っ青なラング、天を仰ぐムウ。一様に汗だくの、くたくたになっている。
アヤメとツバサすら、少し息を荒くしている。体力的には余裕は有りそうだが、3人をサポートしながらは、流石に辛いらしい。
「ここも危険ね」
「安全な場所は無いだろう?」
「確かに…」
時折上空に迫る魔物に威嚇で追い払いながら、皆の息が整うのを待つ。魔物も馬鹿では無いので、気配に気付かれたら逃げて行く。
「これ、テストか?」
「ジン、テストに見える?」
「見えん!」
「合格させる気無いな…エリナ先生」
「………生きてるかも怪しい」
「まあ、確かに」
「師匠のおかげです…普通死にます」
多分、何度も死にかけた一同。もはやテストでは無い。
「まだ、前半部分はテストの領域か?ここまで来たら、嫌がらせだ」
「ツバサ、前半も有り得ないから!」
「元気になったなジン」
「皆行けるかしら?」
「……うん」
「行けます」
持ち直した3人を見て、歩き始めたアヤメとツバサ。黙ってついて行く3人。
「両側から矢!しゃがんで回避!」
「右斜め後ろから魔物。走って!」
「左下に魔法陣。蔦を切りながら走れ!右の枝に触れるな!」
避けきれない状況で魔法陣が発動。蔦が絡みついて来るが、切り裂いて逃れ、枝を避けて進む。魔物はアヤメの風玉で吹き飛ばされた。 吹き飛んだ先で罠に触れたらしく、ナイフが突き刺さって魔物は息絶えた。
「振り返るな!左前方からナイフ!」
「不可視の盾」
とっさにラングの盾が弾いた。動けなかったジンは、へたり込んでしまいそうな自分を奮い立たせる。
「サンキュー!ラング!」
「……ううん。間に合って良かった」
「上空から魔物の群れ!魔法で撃ち落として!」
「火弾」
「疾風の刃」
「光散」
5人の魔物で撃ち落とされ、更に罠にかかって息絶えた群れ。
「どこから矢!?」
「………魔物がかわいそう」
「奇遇だな…同意だ」
ちょっとかわいそうな光景に、黙祷をした3人。
「行くわよ。私達も危ないから」
アヤメの一言で、人事では無いと気を引き締める。
「右斜め前の木に直進。飛んでくるナイフは各自が対処」
「ギャッ!」
「……わわわっ」
「んな!?」
ボロボロになりながら、半日以上を費やし、なんとか罠の無い所までたどり着いたようだ。少しの間、魔物を吹き飛ばし、居なくなった頃には、夕方になって居たのでテントと結界を設置。
昨日のあまりで夕食を簡単に用意して、座り込んだ。
「残しておいて良かったわ」
「助かった!」
「………うん」
「疲れた…」
「これも使うか」
ツバサが取り出したのは、魔物除けの魔法具。魔物には辛い、人間には聞こえない音を発する。何度も使えないのが、問題だが、数回でも助かる。
いくつか結界の近くに設置して、魔力を流した。途端に上空の魔物が飛び立って、逃げて行く。
「いつの間に…」
「一応、用意しといた」
「びっくり箱みたいだ…」
「同感よジン…」
「………凄い」
「流石ですね…」
「弱い奴にしか、効かんがな」
それだけでも助かる。
「早めに寝ましょう。明日は登りきりたいわ」
「おう!」
「……頑張る」
「分かりました」
そそくさ食べ終え、テントに入って眠りに付いた一同。
疲れた体は、固い地面も気にせず、深い眠りに沈んで行った。
◇◇◇◇◇
頂上のエリナ先生は、遠視魔法で様子を見ながら悩んで居た。
「やりすぎた…」
ランダムで飛ばしたのは、〈レジェンド〉以外で、比較的に罠の少ない場所に飛ばして有るが、移動すれば状況が変わる。
〈レジェンド〉だけ、難易度を上げて、わざと罠の多い、更に魔物も多いエリアに飛ばしてみたが、予想以上に早く登って来ている。
「規格外なのは、分かって居たけど、こんなに違うなんて…」
アヤメ、ツバサが居なければ、かなりバランスが悪く、レベルも低い。2人が上手くまとめて、上手く誘導しながら、過度に構わない事で、仲間を導いている。おかげで、普段以上に強く、思慮深く、慎重に進める。
ジンは、少し無鉄砲で、危なっかしい。後先考えないので、敵に突っ込んで行ってしまう。多分、仲間を信頼して居るんだろうし、思いっきりぶつかるので、とても頼もしい。ただし、後衛の援護が完璧で無いと、まったく意味が無いが。
ムウは、冷静沈着だと、思われがちだが、強さに対しては、案外考え無しで動いてしまう。甘えとも言える。アヤメ、ツバサに対して、信頼から甘えに変わりつつあるので、2人の負担が倍増している。考えが有っても、踏み切れないのだろう。
ラングは、自信の無さが、実力を封じてしまっている。最近は、少しずつ自分と向き合っているが、やはり自己評価はかなり低い。魔法のサポートは、上出来で言う事は無い。悩み過ぎなだけなのだ。
「でも、2人の役割は、本来とは違うだろうな…」
エリナ先生が見た感じでは、上手くごまかして居るが、アヤメが指揮官なのは頷けるが、“出来るだけ”だろう。戦いながら指示を飛ばす姿は、やりにくそうに見える。直接、戦う方が良さそうに見える。
ツバサは、全く違う役割を担っているように見える。計り知れない実力を秘めている、としか感じられ無い。底知れぬ知識と力量から、時折恐怖で体が固まる。
「多分ツバサちゃんが指示をして、アヤメちゃんが戦うのが、本来の役割なんだろう。普段は逆で動いて居る事になるわね…前者が王、後者が将軍と、言った所かしら?」
もしくは、両者が王なのか…
校長ほど、事情を知らないエリナ先生には、未だに良く分かって居ない。
分かる筈も無いのだが…
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