今までの魔物の行動
開いて下さる方に感謝です。
薄気味悪い笑いを浮かべ、見下ろして居る黒いフードの人物が居る。フードを深く被り性別は分からない。口元だけが見える。
(杖を持って居るから、魔法師かしら?)
(おかしい。高難易度の魔法が使える程の魔力が無い。)
(ツバサ、あの小瓶!)
小声で話す2人。アヤメが視線を向けた先には、フードの外に出た手に小さな透明の液体が入った小瓶が有った。
(違法薬物か。気に喰わん!)
(でしょうね。)
2人がたどり着いたのは、法律で規制されて居る薬物。魔力の増加、感覚の冴え、身体能力の強化など、様々な力を手に入れる事が出来るが、副作用がきつく、いきなりの力の増加に暴走など、見られる為に禁止になった。
「ようこそ、学生諸君」
いきなりフードの人物が喋りだすが、声も中性的で性別は分からない。
「私のかわいいかわいい僕達の、餌になりなさい。」
“餌”を強く発音して、クスクス笑い始める。召還獣が少しずつ近付いてくる。
「性格悪いわね。」
「じわじわ迫る死に、かわいい悲鳴を上げて楽しませな!」
あくまで、ゆっくりとなぶるつもりらしく、ゆっくりと魔物が動く。速度を捨てた分、防御に徹して居るから、たちが悪い。
「アヤメ、どうすりゃ良い!」
「落ち着いてジン。〈ミラージュ〉のメンバーは下がって。一匹ずつ確実に仕留めましょう。」
「防御に特化している。生半可な攻撃は効かんからな。」
「分かった!」
「………うん」
「了解です。」
「ごめんなさい。足引っ張ってしまって。皆下がりますわよ。」
〈ミラージュ〉はエレミアとクリスティアの盾に隠れる。
ジンは即座に大剣に炎を纏わし、ムウは自身の周りを闇で囲んだ。
ラングも槍を構え、精霊を集める。
「案外冷静だな。」
フードの人物の隣に居た、がっしりした体型の大柄な男が、静かに低い声で、しかし嫌に響く声で呟いた。
「あなた達何者かしら?」
「盗賊団〈タランチュラ〉だが?」
「違うな。只の盗賊団では無い。」
アヤメとツバサが周囲を囲む、組織員を見渡す。洗練された動き、冷静な立ち姿、一言も無駄口を叩かない静さが、盗賊には見えない。
「ふん!意外と楽しそうなガキだな。面白い。」
「いい加減に、指示をしてよ。僕達を仕向けるよ?」
悠長に話して居る男に、苛立ちを向けるフードの人物。
「…後どれだけ呼べる?」
「そうだね…20かな?そんなに要らないと思うけど!」
フードの人物は、召還獣に自信が有るらしい。確かにランクの高い魔物が多く、更に改造もされて居るらしい。
「遊んでやれ。」
「言われなくても。」
「遊ぶ気は有りません。」
「油断大敵って言うよね?」
アヤメは隙無く、構え見据える。
ツバサは寒気のする微笑を敵に向けた。目は笑って無い。
2人の殺気は、仲間にも分かるほど強く、また静かな物だ。
「殺気だけは上出来。僕達も嬉しいみたい。遊びがいが有るよ。」
「俺見てるだけか?つまらん!」
「後で余ったら、あげるよ!」
召還獣が遠距離の攻撃を仕掛ける。
「ラング風魔法で足止め、ジン、ムウ止まった敵を片付けろ!」
「「「了解!」」」
ツバサの指示に従う3人と、跳躍し召還獣の背に飛び移りながら斬り捨てるアヤメ、正面から突っ込んで行くツバサ。
一番大きなサイのような召還獣が、突進して来る。
ラングの盾が阻もうとしたが、力負けして避けたジン、ラング、ムウを無視し、〈ミラージュ〉の一同まで迫る。
「ひっ!」
「わ、私の後ろに!エレミア!クリス壌!」
「ごめんなさい動けない…」
「くそ!」
「無理だラザック!」
リーゼがエレミアとクリスティアを庇い、ラザックが前に斧を構え、ガナンがラザックを引き止める。
目の前に迫った時、動きが止まり、痙攣し始めた。
「無事かしら?」
アヤメが飛び乗り、レイピアに雷を纏い背に突き刺した。だが、見た目に裏切らず丈夫で仕留めきれて居ない。
ズンッ
大きく体を揺さぶり、壁にぶつかる。
咄嗟に飛び降りるアヤメを、待っていたかのように、鷲の様な召還獣が迫る。
ガンッ
「グゲェッ!?」
ツバサのかかと落としが、鷲を床にたたきつけた。
潰れた鳴き声を上げ、顔を上げた鷲にレイピアが突き刺さった。
ドスンッ
同時にサイもツバサに留めを撃たれ、転倒する。
「無事か?」
「だ、大丈夫よ。」
「悪いが、数が多い。援護射撃をしてくれ。狙いはおおざっぱで良い。威力も気にしなくて良い。」
「え?ああ、分かったわ。」
「わ、分かりました。」
無事を確認したツバサが、エレミアとクリスティアに援護射撃を要請する。とりあえず得意な範囲内の敵に魔法を放つ。
再びアヤメとツバサの姿が消える。
ジン、ムウは奮闘していて、ラングも当てるので精一杯。
たまに飛んでくる魔法に、苦戦を余儀無くされる。
フードの魔法師の放つ攻撃は、威力は無いが数が多く、アヤメとツバサだけでは庇いきれない。
「うっ!」
フードの魔法師が、いきなり苦しみ出して呻く。小瓶を口元に持って行き、一気に飲み干した。
「禁断症状か…」
「ご名答…ああ、苦しいけど、力が手に入るなら、良い物だ。…飲むかね?苦戦して居るみたいだし?」
「要らん!」
「手を出したら終わりよ。」
ツバサは吐き捨て、アヤメは蔑んだ。フードの魔法師は薄気味悪く笑い、大柄の男に向き直る。
「良いね。あれ、欲しいな。」
「好きにしろ!」
「私の実験に、どこまで強気で居られるかな?くくっ!」
何やら、反発する2人が気に入ったらしいフードの魔法師。舌なめずりしながら、考えを巡らせる。
「そうだ!演出が足りないね!」
「あん?」
フードの魔法師が杖を一振りすると、召還獣が新たに現れた。
〈ミラージュ〉のメンバーの後ろに…
「キャッ!」
「わあ!」
「ひゃあっ!」
「この!」
「むう!?」
鳥型の召還獣は一同を捕らえ、壁に押し付けて止まる。少し力を加えたら、全員潰れるだろう。
「さあ!どうする?」
「卑怯だ!」
「少年、そんなに褒めないで。」
ジンの抗議を受けて、嬉しそうにするフードの魔法師。
「うーん…でも、君達も邪魔だなぁ…」
「うわ!」
「………ひっ!」
「む!」
ジン、ラング、ムウの足元に大きな蛇の身体が巻き付き、バランスを崩した3人は更に蛇の尾で壁に叩き付けられる。
駆けつけようとしたアヤメは、巨大な蜂に阻まれ、ツバサは頭上から迫る魔法に対処を余儀無くされる。
新たに鳥型の召還獣が現れ、3人を貼り付ける。
「さあ!ショータイム!どうする?動いたら殺すよ。」
「やる事は盗賊なのね。」
「うむ。」
フードの魔法師の傍らに居る、大柄な男も楽しそうに笑って居る。そして、おもむろに口を開く。
「レディがそんな危ない物、持ったら危ないよなぁ。細腕痛めるぜ。くくっ」
「そうだね。渡して貰おうかな。」
「気にするな!」
「黙れガキ!」
「ぐっ!」
とっさに口を挟んだジンは、鳥型の召還獣に腕を嘴で噛みつかれる。甘噛みだろうが、力が強いのか血が滲んで来た。
「…黙って居ろ。」
「………ツバサ?」
「師匠?」
ツバサが皆を見やり、行動を制する。アヤメも目で制する。
「流石。話しが分かる。さあ、武器も頂戴。もちろん、変な気を起こすなよ。」
蛇が2人に近寄って来た。どうやら蛇に渡せと、言う事らしい。用心深い。
丁寧に鞘に入れて、蛇に投げ渡す2人。大柄な男が目を細める。
「他にも有るのか?随分大人しいな?」
「良いのかな?」
チラッとフードの魔法師が、皆を見やる。少し力を加える召還獣。
ナイフを大量に放り投げる2人に、ちょっと引いてるフードの魔法師。
「どこに有ったのさ?」
「有る意味、手品だな。」
蛇から武器を受け取った魔法師は、しげしげと武器を観察する。その間、周りの団員が2人を見張る。
「良いね!高いよこれ!」
「ほう。学生が持っても、意味無いな!」
「まあ、良いじゃん。じゃあ、どれだけ耐えるかな?」
魔法師の合図に反応した召還獣が、2人に向き直る。
カマキリの様な召還獣が、二体腕を振るった。アヤメの肩が裂ける。ツバサの足に切り傷が出来る。
微動だにしない2人。眉一つ動かさない2人。
見ていられない貼り付けにされた一同は、目を背ける。
「視線を外すな。」
「現実を受け入れなさい。」
2人の凛とした声が響いて、一同は目線を戻す。傷は急所を避けて、どんどんついて行く。血溜まりが出来始める。
「逞しい女だな!」
「なぶり概がある。」
尚も、苦痛の声一つ上げず、眉一つ動かさない2人に感嘆の声を上げる大柄な男。魔法師は楽しそうに笑って居る。
(ツバサ、どうする気?)
(鳥型召還獣の隙を狙っている)
悟られ無い様に、目で問いかけるアヤメにツバサも目で答える。
(召還獣はあの魔法師の言う事を聞いてるが、本能は働いて居る。優先順位のこじれが隙を作る。命令か、本能か…)
ツバサは集中して、召還獣の気配を探り始めて、アヤメはツバサの様子から考えを読み取った。
ギッ
ググッ
僅かな召還獣の呻き声を、ツバサの聴覚が捉えた。一瞬の目配せで理解するアヤメ。
一気に鳥型召還獣に迫り、葛藤しながら命令から注意が逸れた召還獣を引き剥がした。まばたきの一瞬の出来事。
「な!」
「ほう!」
動きが見えなかった魔法師は驚愕し、大柄な男は見えたのか、目を輝かせた。
一同が立て直し、謝罪は後だと制し、召還獣を見据える。
「ぶ、武器無しで、どうするのかな?」
「動揺し過ぎ。」
「師匠!」
「丸腰になるな馬鹿!」
「申し訳有りません。」
直ぐに刀を渡そうとしたムウに、叱りつけるツバサ。
《《我が名と共に有る物よ》》
2人が詠唱を始めるが、一同には理解出来ない言葉で、皆首を捻る。
「頭打ったか?」
《《古から我の元に有る物よ》》
「何語?」
《《此度の転生先に現れる事を望む》》
「なんか、凄い力を感じる!」
《《我が名は――》》
「………これ魔力じゃないよ…」
《来たれ龍神の牙》
《来たれ無慈悲の矛》
ツバサの手に、一振りの細身の剣が現れ、アヤメの手に、一本の矛が現れた。
「油断禁物だ。」
「今までの武器とは、違うわよ。」
神秘的な武器に、見惚れる一同。
呆気に取られた魔法師と、楽しそうに見つめる大柄な男。
剣を振るった瞬間、半分の召還獣が切り刻まれた。
矛が突き出された瞬間、残りの召還獣が貫かれた。
「くそ!行け!」
慌てて残りの召還獣を召還して仕向ける魔法師。だが一瞬のうちに消され、丸腰となり大柄な男の後ろに隠れた。
鼻を鳴らして、大柄な男は団員に指示して、自らも戦いに参加する。
「団員の力は低い。任せる。」
「そうね。統率力が無いわ。援護するから頑張って。」
アヤメ、ツバサは見物を決め込んで後ろに下がる。一同は鬱憤を晴らすべく、衝突して行く。
危ない時には、援護射撃が飛んでくる。不安は無い。
大柄な男と、ツバサが対峙した。
男が動く前に、ツバサの剣が腕を切り裂く。
とっさに下がり、ナイフを投げる男。
全て剣で弾いたツバサは追撃する。
何とか目に見えるツバサを切り裂こうと剣を抜き、振り上げる。
振り上げられる剣を紙一重でかわすツバサに、振り下ろす。
剣で剣を“切り裂いた”ツバサ。
目を見開いた男の手には、綺麗な断面の剣だった物が有った。
即座に掌底を腹に打ち込み、昏倒させるツバサ。
「もう、終わるわよ。」
振り返ったツバサに、アヤメが穏やかに話しかける。
団員は数を減らし、数人しか立って居ない。奮闘した跡が、体の所々に見受けられる一同に、ツバサは目を細める。
最後の一人が倒れて、戦いは終わった。
「お疲れ様」
「大丈夫かしら?」
返事も出来ず、首を横に振る一同に治癒魔法を掛けるアヤメ。
ツバサはフードを被って逃げようとした魔法師を捕まえる。強引に引きずって一同の元に連れて行って、フードを取る。
「女!?」
「ジン、うるさい。」
「話して貰いますよ?」
「知らんな!」
「あなたの意志は関係ない。」
ザクッと魔法師の女の足に剣を突き刺したツバサ。痛みにのた打ちまわるが尚も話さないので、更に捻る。
「ぎゃー!」
「話す?」
「嫌だ!」
グリグリ
「うぎゃー!」
一同耳を塞ぎ、目をそらす。なんとなく殺気が向いてる気がするが、気のせいと言い聞かせる一同。
15分程続いた聞き込みに、観念した魔法師の女。ある程度凄い。
因みに傷は片っ端から治され、また傷つき治されのエンドレス。
「ひっく…ひでぇ…鬼…ああごめんなさい!何を知りたいのでしょう?」
「あなたの召還獣、至る所に放った?そしてどこに?」
「放ちました!魔王城とか、洞窟とか、湖の側とか!他にも沢山有ります…」
素晴らしい土下座をしながら、次々と出て来る内容に顔を見合わせるアヤメとツバサ。
最近の理由の分からない、突然の魔物の出現や、繁殖力はこいつが犯人らしい。
「どうして?」
「依頼されて!研究も、繁殖も。他にも依頼を受けた奴が居ます。団の支援を条件に沢山依頼が有りました!」
「急に話しが舞い込んだのは、そのせいか…誰に?」
「なんか、宗教の集まりみたいな服装で、確か…〈ザイナン教〉だった!」
「悪魔を呼び出した魔法師の名前じゃないの!」
古代戦争のきっかけ、悪魔の召還を行った黒魔法師〈ザイナン・ブラッド〉。
どうやらかの黒魔法師を信仰する、宗教があるらしい。
「そういえば…お父様が、最近教会が増えているって…」
「そうなのエレミア?」
「ええ。教会自体は昔からいろんな宗教の教会が有るから、あまり気にしてなかったけど、多すぎるって…」
この世界の教会は、大体は精霊を祀り、精霊を信仰する為の集まる場所で、地域によって違う精霊を信仰して居るので、外観やルールも多種多様。
たまに、地元の偉大な人物を祀った教会も有る。
「こいつら引き渡して、校長に報告しましょう。」
「ん。」
一同が奮闘しながら縄で縛り付けて、引き渡し先に連れて行った。〈ファング〉がジンに呼び出され、縄を引っ張らされた時の殺気は怖かった。
引き渡して、ギルドに戻って報告して報酬を貰って、山分けし、アヤメとツバサが校長に報告した。
何故気付かなかったと、ツバサに詰め寄られて土下座して謝り続ける校長を、沢山の教員が見て、回れ右をしたらしい…
ご感想お待ちしております。




