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ヘルハウンド

蠢いていたら引きますよね…

 寮の前に集まった一同。ツバサはまだ来て居ない。いつもの事だ。

 ジン、ムウの装備が変わった。今まで学園指定のジャージ(かなり丈夫)で我慢したいたが(お金無くて)、前回の報酬でランクアップのお祝いとして買った。何故自分で買うのかは、アヤメとツバサに返しきれない恩が有るので、選んでもらうだけにした。

 ジンは濃い茶色のレザーアーマー、グローブ、ブーツを新調。素材はドラゴンの皮。もちろん魔法補助付き。高級品で有る。

 ムウは、一見普通の服装だが、鋼糸で編まれた紺色の服に、ドラゴンの鱗で出来た黒い肘当てと膝当てを身につけ、服の下に威力吸収力が有る防具を身につけて居る。全て補助魔法が付いている。こちらも全て高級品。

 報酬金はラングにも均等に分けられたが、まだ使って無い。抵抗が有るらしい。


「とう!」

「ぐはっ!」


 いつもの恒例行事、ツバサの遅刻が理由のジンの耐久テスト。(ツバサ談)

 〈ミラージュ〉の全員が呆気にとられている。

 因みに、学園の男子から羨ましいと言われ、殺気まで放たれるジンは、どこが良いのか分からない。


「おはよー!」

「おはよう。相変わらず、寝坊するのね。そろそろどいたら?」

「ん?はいよ~」

「防具があっても、辛い!」

「はいはい。移転魔法で、アルカムの谷付近の街に移動するわね。」


 〈ミラージュ〉が出来る事に驚いて、質問したが、既に魔法は発動していた。

 目の前の景色が変わり、大きな街が見渡せる高台に居た。


「街に近いのか?」

「山一つ向こうよ。でも、街に危険はほとんど無いわよ。あれ。」


 アヤメの指差す方向には、街を覆う結界が有り、幾重にも重なって居る。簡単には破れないだろう。


「なるほど!」

「一度街に寄るわ。」

「どうしてかしら?」

「エレミア、ギルドの情報は古いのよ。新たに情報が見付かるかも知れないの。」

「なる程。」


 一同は街に向かう。高台から近いので、直ぐに門に着いて、ギルドガードを提示して入ると、街の活気に圧倒された。

 いろんな屋台が並んで居る。


「案外普通だな。」

「緊迫感無いですわね…」

「当たり前と言えば、当たり前かな?」

「どう言う事ですか?」

「ヘルハウンドが居る場所から、この街までのルートに、精霊の里が有るのよ。」

「何それ?」

「力の強い精霊が~下級精霊を纏めて~里を作って居るの~」

「そして、精霊の属性は基本的には聖、ヘルハウンドは闇。相性悪いのよ。」

「突破出来ないと?」

「ジン、突破は出来るわ。無事にとは行かないから、門番が討伐出来るけど。」


 精霊の里に、他者が入るのは精霊の機嫌を損ねる。以前、命の精霊に会いに行った時、里になって無いだけで、縄張りに入っていた。あれの大きい版で、集まった分攻撃的になる。


「基本的にはって、属性は決まって無いのですか?」

「クリス、下級精霊は聖だと決まって居るわ。色に関係なくね。中級精霊や、中級精霊の作った精霊は違う属性を持って居るのよ。上級精霊、元素精霊は様々な属性を持って居るわ。」

「いろいろ居るんですね。」

「とにかく、情報を集めましょう。」


 街の人にヘルハウンドの情報を求めると、鼻で笑うか、追い払われるか、相手にされない。

 どうやら、精霊が居るから、何の問題も無いから、冒険者には用が無いと、言う事らしい。


「なんだよ!」

「落ち着いて。危機感が無いだけよ。」

「精霊だって、何時まで守ってくれるのか分からないじゃないの!」

「エレミア、それが間違い。精霊はこの街なんか、守って無いわよ。」


 基本的に精霊は、人間に干渉しない。ラングの場合は特別で、人間を守る概念は無い。

 自分の縄張りを守るだけで、たまたま生き延びたヘルハウンドがボロボロになって、街に辿り着いただけだ。


「でも、分かった事が有るわよ。」


 一同(ツバサを除く)は首を傾げる。


「精霊が取り逃がす程、沢山居ると言う事よ。普通、敵視されたら出られない用に、精霊が作った天然の迷路で出られないのよ。数が多いなら、別ね。」

「押し切るだけ~」


 アヤメとツバサは、既にヘルハウンドの群れは街に届く程、大きくなってしまっていると推測する。

 他の冒険者が失敗した理由も、なんとなく耳に入って来た。


「場所変えましょう。」


 アヤメの提案に、疑問を抱く一同(ツバサは除く)は、なにやら考え込んで居るアヤメとツバサを見て、とりあえず黙って着いて行く事に。

 最初に来た高台に戻った。


「で、どうした?」

「今までの冒険者の失敗は、この街の事を利用したからだわ。」

「どう言う事かしら?」

「おかしいのよ。何も無いのが。あの街に宿屋も、食堂も無いわ。冒険者を受け入れるように見えない。多分、精霊の事しか信用して居ない。厄介者扱いされたでしょう?」

「確かに、嫌な感じでした。」

「微かに聞こえて来た話しだと、一番最初の冒険者は直接ヘルハウンドに挑んで、負けて街に寄った。」

「それが?」

「街の人は、精霊を怒らせたと、思って見捨てたみたい。次来た冒険者は、街に情報を求めて寄ったけど、あの感じだと…」

「追い払われた?」

「多分ね。しかも、精霊の事しか言わずに。」

「油断したね~多分。精霊にやられる様な魔物なら、簡単だ~って。」

「ギルドの人からも、言われたの。数が多いから気を付けてって。つまり、逃げ帰って報告したんでしょ。」


 つまり、最初の冒険者は街の外で死んで、ギルドに有る感知器(ガードの持ち主が死ぬと知らせる機械)が反応して、次の冒険者が挑んだが、間違った情報によって大群にやられ、命からがら帰ってギルドに報告した。と言う事になる。


「なんだそれ!」

「落ち着いて。冷静に判断しなかったのも悪いわ。」

「私達は~聞き耳立ててたから~」

「目の前の事に、目を奪われてはならない。常に対局を見よ。が鉄則でしょう?」


 冒険者としては新米のアヤメとツバサ、しかし旅に関してはベテランだ。情報には気を配るし、全てを信じたりしない。常にアヤメが面で聞き込みをして、何もしない振りしたツバサが裏の情報を集めて、判断していた。噂は馬鹿にならない。


「そ、そっか。」

「だから、途中でツバサは少し、距離を置いて居たのね…」


 街の聞き込みの最中、ツバサはたまに出店に寄ったり、何気なくお店に近寄ったり、いきなり居なくなったりしていた。

 実は、魔法で自分の外見を変えて、コートで制服を隠して、様子を見ていた。

 聞いてきた相手が居なくなると、人間は口が軽くなる。そこを狙って居た。


「悪口ばかりだったよ~あと精霊精霊言ってた~」

「やっぱり。学生だから、入れただけね…学生なら、珍しい物買って満足すると思ったのかしら?」

「正解~いろんな特産物置いてあった~しかも、普段より高値で~」


 …かもにされて居たらしい。


「どうするよ?」

「依頼は続行。この事はギルドに報告するわ。」


 一同は頷いた。

 ギルドの情報と、街でたまに出現するヘルハウンドの目撃地から、だいたいの場所を探り当て進む。

 歩いて一時間位で、何か蠢いて居るのが見えてきた。


ヘルハウンド×…数え切れない


「わ…」

「100は軽いかな?」

「洞窟にも居るよ~150かな~」

「いやいや!普通に話すなよ!」

「どうするのよ!」

「逃げましょう!」

「賛成…」

「………何これ」

「師匠…」

「…すげー!血が騒ぐ!」

「ラザック、現実を見ろ!目をそらすな!空元気は要らん!逃げよう!」


 アヤメとツバサ以外、逃げ腰で皆違う所を見ている。


「私達が数減らすから。じゃあ!」

「逃げるなよ~!」


 駆け出す2人に、一同は戸惑いながら精一杯着いて行く。

 アヤメの爆炎の連撃に、ツバサの風の刃の嵐がヘルハウンドを蹴散らす。

 ツバサの風が、アヤメの炎を巻き込んで巨大な炎の竜巻を作り上げる。

 だが、蹴散らす度に増え続けるヘルハウンド。案外洞窟は広く、複数有るらしい。

 たまに抜け出してくるヘルハウンドを、後ろの一同が相手をする。


「こいつら、牙と爪に闇を纏ってやがる!当たるとやべー!」

「接近戦は難しいな!」

「おらおら!退きやがれ!」


 ラザックの戦闘狂のスイッチが入って、暴れ出した。

 が、数にてんてこ舞いな時に、見境無く暴れ出したラザックに、一同は危険を感じて攻撃出来ない。間違いが起きても可笑しくない。


「ラザック!今は仲間が居るのです!自重なさい!」

「あん?うるせー!叩き斬るぞ!」

「身の程知らず!」

「んだと!チビ!」

「チビ言うな!」

「落ち着いて下さい!ラザック!リーゼ!今は前を!」


 言い争い無防備なラザックとリーゼに、ヘルハウンドが迫る。

 ガナンが対応するが、数に圧倒される。


(10匹でこれかよ!)


 ガナンは舌打ちをして、体制を整える。ヘルハウンドの動きに着いて行けない。


(あの2人は、何者だよ!?)


 アヤメとツバサは、何十もの相手を引き受けて、尚余裕が有るらしく、たまに援護射撃をしてくれる。


「焼き尽くせ大蛇」

「光散・連」


 ジンの放った大蛇がヘルハウンドを飲み込み、暴れる。

 ムウの光の散弾は連鎖的に爆発して、ヘルハウンドを吹き飛ばす。


「裂け蠢け」

「貫け光柱」


 ジンの大蛇は無数に裂け、もつれるように暴れ、時には上から、時には下から、時には横からと、ヘルハウンドを追い詰め焼き尽くす。

 ムウの足元から光の線が伸び、等間隔で光の上に突然、柱が下から突き上げる。次から次ぎへと、ヘルハウンドを打ち上げ、突き刺す光輝く柱。


「凄い…」


 エレミアが呟いた。後ろの皆も頷いて居る。前2人には及ばないが、圧倒的だ。


「すり抜けた!悪い!」


 全てを捉えきれず、走り過ぎるヘルハウンドを見たジンが叫ぶ。


「っ!斬り伏せよ光の刃」

「押し飛ばせ水砲」

「くっ!」

「おらぁ!」

「ふん!」

「……鎌鼬」


 エレミア、クリスティア、ラングの魔法が飛び、ラザック、ガナンが叩き潰し、リーゼが的確に斬り伏せる。


「おっし!」

「ふむ。」


 ジン、ムウの近くのヘルハウンドは全て倒せた。後ろもなんとか、倒せたらしい。皆息が切れている。


「…すげー!」

「流石師匠!」


 前方の光景に、一同は目が釘付けになった。

 アヤメとツバサはまだ戦っている。魔法を放ち、剣で切り裂く。その周りには、数え切れないヘルハウンドの骸。

 あの数相手に蹂躙していた。





☆☆☆☆☆


「お待たせ~」

「予想以上の数だったわ。」


 息切れ何それ状態の2人。


「ああ…」

「どうした~?」

「怪我したの?」

「いや、大丈夫。」


 …言えない!規格外だなんて!

 言えば多分…今日は人生最悪の日になるだろう。


「………?」

「ラング?どうした?」

「……森から声が」

「精霊かな~?」

「確かに…」


 ラング、アヤメ、ツバサにしか分からない話しに、一同はとりあえず森に視線を向ける。


「呼んでるみたい~」

「………こいって」

「生きましょう。」


 黙って森に向かう3人に、慌ててついて行く一同。

 道無き道を歩いて20分、綺麗な湖が有った。湖は淡く光っている。

 湖の中央に、水色の美しい髪の女性が立ち、こちらを見ている。

 耳はヒレの様に、指には水掻き、薄い青の羽衣、水色の瞳は静かにこちらを見ている。


「はじめまして、この湖の主。」

『はじめまして、発音は合っているか?』


 口からでは無い声に、アヤメ、ツバサ、ラングを除く皆が驚いた。


「大丈夫~聞こえる~」

『ならば良い。初めて人語を話す故、慣れぬのだ』

「………そうなの?」


 凄く自然に喋って居るが、初めてらしく気になるらしい。


『我は湖に住み着いた精霊。中級精霊だが力は有る方だ。』

「ここに居る精霊達は?」

『お前達3人は見えるのか。我と共に暮らす精霊だ。』

「何かよう~?」

『うむ。令を言いたかった。ヘルハウンドを倒してくれてありがとう。助かった。あと、街の者とは違い、自分達で成し遂げた事は驚いた。』

「まあ、当たり前かな?」

「依頼だし~」

「………うん」


 満足げに目を細める精霊。


『街の人間とは違うな。前来た冒険者とも違う。珍しい程礼儀正しい。』

「そう?」

『ああ。偏見を持った事を恥じるよ。』

「まあ~人間はそんな生き物だよ~」

『変わった人間だ。君達に何かと思って、探したのだが、この位しか無い。』


 精霊が湖の中から出したのは、大きさがいろいろな宝石。小指の先程から、掌にちょうど収まる位の大きさまで。色も様々な輝きを放つ。


「良いの~?」

『もちろん。あのままならば、ヘルハウンドはここも奪って行っただろう。減らしたかったが、離れると人間が来る。この湖には宝石が有るからね。価値は良く分からないが、役に立つかな?』

「………大助かり」

『良かった。…街は相変わらずかな?』

「精霊様~って言ってた~」

『困ったね。あまり人間は好きでは無いが…強くは言えない。』


 本当に困ったと、天を仰ぐ精霊。


「原因分かりますか?」

『多分、勘違いして居るね。助けたのは湖なのだが…』


 なるほど。結果的には街も守られ、いつの間にかこうなってしまったらしい。


『こちらから、言うしか無いかな?』

「多分ね…」

「そうだね~」

「………うん」


 周りに居た精霊に湖を任せる精霊。宝石をラングに渡すと、街まで行くと言い出した。

 断る必要も無いので、着いて行く一同。




「ああ!精霊様!」

「おお!精霊様!」


 騒ぎ出した街の人達。

 精霊は困りながら、言葉を探して話し掛ける。


『人間達。私達精霊はお前達を守ったりしない。関わる事もしない。これは精霊にとって当たり前の事。』


 街の人達は静まり返って、ふと後ろに居た子供達に目を向ける。


「お前達!何をした!謝れ!」


 そうだそうだと、皆が言い始めて、精霊は激怒する。


『この子達は、私達精霊の恩人。楯突くならば、我が相手だ!』


 皆キョロキョロ見渡す人間達。


『自分の身は自分で守れ。助けてもらったら令を言え。当たり前だろう。』


 精霊は説明を始めた。全ての事の成り行きを丁寧に、間違い無く。

 真実を知った人間達は、脱力して頭を抱え込んだ。

 精霊は静かな暮らしを求めて、人間達はそれを否定出来ず、認めて精霊は満足げに帰って行った。


「帰りましょう。」


 一同も学園に戻った…





☆☆☆☆☆


「未だに見つからんか…」

「エルフの里は特別な場所に有るそうだが…特別って何だ?」


 校長と〈才希〉は唸る。

 昨晩、カラスの送った文を読んで、思って居たより時間が無いと、増援を送って対応して居るが、エルフの里の情報を集めるカラスも、狂った魔物に阻まれたどり着けない。人員が不足している。


「困ったのぅ…」

「まず、魔王まで知らないとはな…」


 魔王にも聞いたが、エルフの里は知らないとキッパリ言われた。元々、他の種族と関わらないらしい。


「分からん!」

「投げ出すな。」

「まず、狂った物に対処するかのぅ…」

「仕方無いか…」


 既にギルドでも狂った魔物討伐の依頼が出回り、今世界が危ないと冒険者達も知り混乱して居る。

 流石に狂った人間達の討伐は出回って居ないが、時間の問題だろう。


「神に頼むのは…」

「駄目だろう。」


 他力本願に成りつつ、思案を巡らせる校長と〈才希〉。


 今もどこかで世界が狂って行く…

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