只では死なぬ
夢で疲れると、損した気分になります…
ジンは吠える。ひたすらに!生きる為に!がむしゃらに!
「俺はまだ死ねない!まだ返してない!まだまだ届いてない!」
恩を返したいと、力を届かせたいと叫んで叫んで
そして何かを感じた。
「…皆の気配?まさか近くに!」
☆
「夢か!」
ムウは確信した。どれだけ考えても、自分の体調と、感じている時間の差が違う。悪夢を見た時の感覚に近い。
「でもどうしたら…」
☆
「飽きたわ…もう良いかな?」
ツバサは、ジンとムウの僅かな覚醒の兆しを感じ取った。
力を解放する。
「覚悟しろ」
☆
「ツバサ?」
アヤメはツバサの力を感じ取った。
「動き出した。私も力を半解放なら!」
ツバサに預けてしまった力は無理だが、ツバサは半解放位なら出来るように残してくれた。
「ありがとうツバサ。」
☆☆☆☆☆
「何じゃ?」
ツバサの背中から羽が生える。光の羽と純白の羽が。
アヤメの背中にも、純白の羽が六枚と頭に四枚生える。
「神だと!?」
2人を縛り付けていた鎖が、弾け飛んだ。
カッと目を開く2人は、ジンとムウを解放する。
「悪い。待たせて貰った。」
「ごめんね。遅くなった。」
「ケホッ!大丈夫。」
「くっ!待った?」
「ジン、ムウ何か感じただろう?」
「「あ!」」
「あれを待っていた。」
「ツバサ、ここまでしなくても!」
「なら、アヤメが半解放しろ」
「う!」
アヤメはツバサの正論に、二の句が告げず、2人に治癒を施した。
「アヤメも出来たんだ!」
「私のは半解放よ。」
「いや、私も全部は解放していない」
「「「ええ!?」」」
「それより、敵を」
ようやく復活した皆に、悪魔の方を指差す真王。
「何あれ?」
「悪魔よ。」
「あれがですか!」
「そうよ。」
「あの伝説の悪魔!?」
真っ黒な人型の、不格好な姿にボロボロのコウモリの羽が有り、額に赤いコウモリの刻印が有る。
「ジンとムウも知って居ろう。あの刻印の意味を。」
「「はい…」」
悪魔が相手ならば、学生には何も出来ないと判断した2人。
「ヒヒヒ…神族か…殺せば…」
「黙れ!」
真王の言霊が、悪魔の体を縛る。
「ジン、ムウお前達も戦える。感じたろう自分の内に有る物を…」
「あれか!」
「まさか!」
何故か理解出来る、自分の内の力に戸惑いながら、力を解放した。
ジンからは、魔力が溢れ、大剣を持つ手に力が溢れる。
ムウは、頭が冴えて直ぐに現状を把握出来る。
「おはよう、英雄、大賢者。」
「英雄の力なのか?」
「澄み渡る全てが…」
ジンが悪魔に向き直る。ムウは静かにジンの後ろから観察する。
「やってみろ!」
「ああ!」
「ジン、あいつは感情を喰うみたいだ。近付くな!」
「賢者様、サポートよろしく!」
「貴様ら調子に乗るなよ!」
ジンの大剣が炎を纏って、悪魔に迫る。
悪魔の手から闇が近付くが、ムウの光の矢で打ち消される。
大剣を当てず、炎を飛ばす。
悪魔は避けたが、いきなり炎が蛇の形になり食らいつく。
燃えながら、暴れる悪魔にムウの聖なる槍が突き刺さる。
更に大きな炎の蛇が食らいつく。
「ぐあああーーー」
「すげー今までと違う!」
「動きが良く分かる。」
「このーーー」
いきなり悪魔の力が膨れ上がった。
皆身構えると、突然悪魔が爆発した。
突風と闇が勢い良く迫るが、真王の羽の羽ばたきで相殺された。
赤いコウモリの刻印だけ、残して悪魔は消えた。
確認した後、皆が力を抑えて元に戻った。
「何だ?」
「置き土産を残して行ったみたいだ。」
「ムウ~正解~」
「解除しないと」
ドドドドドドッ
王国騎士がやってきて、国王が前に出て来た。
「無事だったか…」
「国王様、悪魔は消えました。」
「なんと!?倒したのか?」
「置き土産を残して、自ら消えました。生きては居ません。」
アヤメが報告して、地面を指差す。いつの間にか館が消えていた。
ジン、ムウは最初驚いたが、良く考えたら理由は分かった。
悪魔が作ったのなら、悪魔が消えたらそれも消える。それだけの事。
「これは?」
「地脈を汚す刻印でしょう。解除出来ますか?」
「専門家も連れてきた。任せよ。二週間も戦ったのだ疲れて居ろう。」
二週間だと、初めて知った一同は、糸が切れたように崩れ落ちた。
慌てて、救護班が駆け寄って治療の為に王宮に向かった。
解除班と、少しの兵を残して、軍も王宮に戻った。
〈レジェンド〉は、この国の英雄として、大切な客人として迎えられた。
この事は直ぐに世界に知れ渡った。
ジン、ムウのギルドカードはSランクに上がっていた。
翌日目を覚ました一同は、二週間絶食だったのでお粥を食べている。
「うまい!粥がうまい!」
「幸せ~」
「生き返る。」
「美味しい。」
絶賛お粥食べ尽くし中。メイド達も苦笑して居る。
「あの悪魔~自害なんて~許せない」
「奇遇ねツバサ。只では殺さないと決めてたのに。」
「そうそう~」
「2人共怖いよ!」
後ろに般若が居ます。怖いです。
「ジン、ムウ明日から特訓よ!」
「何で!?」
「魂の~力に頼ってばかりじゃ駄目~使いこなせないなら宝の持ち腐れ~」
「あれでも駄目?」
「只頼っただけで、自分なりに工夫して使って無いじゃない。そのままだと、力に振り回されるわよ。」
「なるほど!」
「よろしくお願いします。」
力の扱いが下手だと、自分を傷つけてしまう程に強い力。最初に力を使って戦ったのが、低級悪魔だったから上手くいっただけなのだ。
中級レベルからは、振り回すだけでは意味がないし、逆に利用される。
覚えて行かないといけない。力の全てと使い方を。
「にしても、いきなりお客様扱い…」
「ジン、不満かしら?」
「いや、随分違うなと」
「国なんて~こんなもん」
「そうですか…」
一同が目を覚まして驚いたのは、至れり尽くせりの状態。
与えられた部屋も豪華。食事もいつでも、なんでもOK、すれ違った人は、メイドや使用人は頭を下げて、騎士は敬礼、王族貴族からは礼を言われた。
最初の対応と、大違いで皆が丁寧に接してくる。
「大陸中に知れ渡ったらしいわ…」
「マジ!俺すげー!」
「単純だね~多分、厄介事も漏れなくついてくるよ~」
「うげ!」
「ふん。お調子者が。」
「うるせーよムウ!」
まあ、魂の継承者だから絶対に厄介事に巻き込まれるけどと、アヤメとツバサは心中で呟いた。
「二週間なんて、実感無いな…」
「精神的攻撃なんて、そんな物よ」
精神的攻撃に対して訓練をした者も、『絶対嫌だ』と言う程に、エグい。
訓練しても、慣れるだけでダメージはもろに受ける。最悪廃人になる。
死ぬ事が出来ないから、余計に辛い戦いになる。
今回の悪魔は、絶望の感情を食らうタイプだったので、ある程度絶望に瀕したら、感情を喰われて廃人まっしぐらだろう。最近見つかった遺体は、廃人になってから捨てられ、その後死んだのだろう。捨てられたのも最近だろう。
新しい獲物が来たから捨てたのだ。
「流石に訓練受けてても、きついわ…」
「案外平気~」
「受けたんだ…」
「流石師匠です。」
アヤメもツバサも、精神的ダメージの訓練は受けたからこそ、あれだけ冷静になれただけだ。ツバサに至っては、ほぼダメージ無し。遊んでたしね…。
「あの刻印はどうなった?」
「まだ知らないわ。」
「聞きに行く~?」
「行きましょう。気になります。」
食べ終わった一同は、王の執務室に向かった。因みに、出入りも許可されているし、武器も預ける必要も無い。
かなり、信頼されたらしい。
「今も解除班が必死になって解除を試みて居る。かなり、強い力らしい。」
「まあ、死に際の置き土産ですから。」
いまだに奮闘していると、王は苦笑いを浮かべる。昨日倒れた子供達に、まさか今日心配されるとは。
しかも、第一印象があれなのに。
「解除なら~出来なくも無いよ~」
「そうね。」
「またまた驚いたわい…」
刻印…呪いと言った方が適切だろう、それを解除するには、膨大な知識、経験、集中力、干渉出来る程の魔力、精密なコントロールが必要になる。
この歳で、しかもまだ本調子でも無いのに、簡単に出来ると言ってのけた。
驚いて当然だ。
「沢山訓練しましたから。」
「大変だったね~」
「そ、そうか。しかし、今回はこちらでやろう。いや、させてくれ。あんな無理難題を押し付けて、尚こんな大変な事は頼めない。悪魔相手ならば、軍の者でも難しかった。感謝して居る。」
そう言って頭を下げる王に、ジン、ムウは慌てて頭を降った。
「いやいや、受けた依頼だ…ですから」
「当然の事だ…です」
「2人共、無理やり言い換えなくて良いから。意味ないもの。」
ジンはともかく、何故かムウも敬語は苦手らしい。本人曰わく、師匠と認めたアヤメとツバサには、普通に敬語が出るらしい。〈ガイス〉のお国柄かもしれない。
「気にしなくて良い。わしも、堅苦しいのは苦手だ。」
「あはは…」
「すいません…」
王の本心だったが、気を使って貰ったと思ったらしい2人。
「では、お言葉に甘えさせて頂きます。」
「ありがとう~」
アヤメはもともと敬語が癖で、ツバサはあんまり気にしない性格みたいだ。
もちろん、必要ならツバサも敬語を使うが。
「うむ。怪我の具合と、体調が良くなるまで、ここで療養すると良い。国の屈指の医療チームも居るしな。」
「はい。ありがとうございます。」
応急手当てをアヤメが行い、医療班の治療を受けたが、まだ回復しきれていない。主に精神的な面で。
二週間の絶食も、体に応えて、ジンとムウは顔色が良くない。
アヤメとツバサは、昔絶食の訓練までした事が有るらしく、粥でだいぶ回復した。
「あのさ、何の訓練?」
「拷問よ。」
「聞かない方が良いよな…」
「そこまで酷く無いよ~断食、針、切り傷、焼き鏝、一週間の不眠、精神の破壊、後は…」
「ストップ!」
「やり過ぎです。」
「どんな幼少時代だったのだ…あり得んぞ…軍でもやらん」
ジン、ムウ、王が慌てる様子に、不思議そうにしているアヤメとツバサ。
有る意味凄い。
「普通だとは思わないけど…そんなにびっくりする事かしら?」
「良く分からない~戦場に身一つで放り込まれた時は~流石におかしいと思ったけどね~」
「身一つ!?」
「黒歴史が凄い。」
「…親を叱ってやりたいわ!」
普通は通じないと、改めて実感したジンとムウ。
どうなっていると、頭を抱えた王。後ろに居る近衛兵は、真っ青になって居る。
「とりあえず、ここでは何でも言ってくれ。出来る限り、手を尽くそう。」
「ありがとうございます。」
一同は頭を下げて、執務室から出て行った。
後で、この話が何処からか城中に広がり、皆が自分の人生に感謝して、そしてアヤメとツバサに労りの視線を送って居た。 気付いて無かったが…
3日間、お世話になってようやく調子が戻った一同は、学園に戻る事にした。
盛大な見送りに、一同は少し引いている。昨日の晩餐会でも一同は固まった。
「何か有れば、頼ってくれよ」
「ありがとうございます。」
「依頼の報酬は、学園に渡して有る。」
もともと、校長からの提案だったので、依頼主も校長になって居る。
学園に既に報酬は送ってあって、失敗した時は学園ギルドに回るようになって居た。
「依頼完遂の書類を渡そう。」
本来、書類は必要無く、ギルドカードが記録しているのだが、依頼主の評価が上乗せされる場合は、書類を冒険者が受け取り、ギルドに提出する事で、ギルドからも報酬が出る。ギルドの名が上がるから、らしい。
「ありがとうございます。」
「あと、これを。」
渡された物は、〈フラウニア〉の自然豊かな国柄から取れる、高値の薬草がてんこ盛りに入った袋。
冒険者なら、とても重宝する、なくてはならない薬草で、なかなか見つからず高値で取り引きされている。
〈フラウニア〉の切り札だ。
「良いのですか?」
「もちろん!この薬草もギリギリ保護出来ただけで、あのままでは全て枯れる所だったのだ。御礼にはちょうど良い。」
「ありがとうございます。」
一同は御礼を言ったから、国を出て森に入って直ぐに移転魔法を使って戻った。何故森なのかは、いきなり国内でやったら、大騒ぎになるからだ。
一同が寮に戻ると、エリナ先生が出迎えた。
半泣きになっていて、一同が驚いてあたふたしてしまった。
「全て聞いたわ。無事で良かった♪」
「ご心配おかけしました。」
「良いわよ☆校長先生が待って居るわよ♪後、お疲れ様。ジンとムウはランクアップおめでとう☆」
「ありがとうございます。」
「ありがと!」
「どうも。」
「ただいま~」
各自、エリナ先生に挨拶をしてから校長室に向かった。
「ご苦労様じゃ!ほれ!」
書類を渡すと、分かって居ると言わんばかりに直ぐに報酬を差し出す校長。
約束通りの報酬に50万プラスされている。
「完遂の上乗せと、わしの気持ちじゃ」
「ありがとう!」
「銀行行かなきゃね…」
「だよね~」
「そうですね…」
ジンは大喜び、アヤメとツバサとムウは、ちょっと困った顔で受け取った。
山分けにして、各自銀行に走った…
☆☆☆☆☆
「ツバサちょっと良い?」
「アヤメ?どうした~?」
ツバサの部屋に入って、ベッドの腰掛けるアヤメ。隣りに静かにツバサも座る。
「あのね…」
ちらっとツバサの様子を見るアヤメ。ツバサは只静かに微笑んで居る。無言で先を促す。
「今回の戦いで、覚悟を決めたわ。先延ばしにするのは止める。もう、大丈夫よ。自分の力を受け入れるわ。」
「良いんだね?」
「私の力は、全てを無くして、作り直すだけだと思って居たけど、そうじゃないと分かったわ。人間も、案外面白い生き物ね。あんなに、成長が早いもの。後悔したのは、取り消すわ。」
「そう。なら、消さない?」
「ええ。」
「分かった。返すね。」
立ち上がったツバサに、つられて立ち上がるアヤメ。
ツバサが両手を差し出すように、前に出すと、光が生まれ、美しいレイピアの形になった。本物ではなく、力の塊がレイピアの形になった物だ。
アヤメは両手で受け取る。手に乗って直ぐにレイピアは光に戻り、アヤメの胸の中央に入っていった。
「確かに、返したよ。無と、創造の力を。大丈夫?」
「平気よ。久しぶりに力を感じるわ。ありがとうツバサ。」
「どういたしまして。」
「ねえ、アバターは…」
「全て消したよ。」
ツバサの精神世界は、アヤメの力を封じる為に創られた世界なので、既に意味が無くなった。だから、渡すと同時に消し去った。
「くだらない理由で、押し付けてごめんなさい。」
「迷いは、大切。特に長い時を生きる、私達には。」
アヤメが力を拒んで、この世界に降り立ち、ツバサが追い掛けて、降り立った。
神族の世界で、アヤメは人間を作った事を悔やんで居た。片割れの、有と創造を司る神と、ツバサの説得から、消すことはしなかったが、どうしても気になって自ら世界に降り立った。
世界を壊して行くだけの存在ならば、消すことも辞さないと考えて。
結果的には、壊して行く存在だが、まだ改善の余地有りと、判断した。
僅かだが、世界を守って行こうとする人間も居たから。
悪魔相手に、引かない者達に、僅かな希望を残した。
「前からそうだけど、全て自分のせいだと思う必要は無い。私も、散々悩んだのだ。世界を作った事を…」
「そう。」
ツバサは、世界の始まりと終わりを司る神。そして生と死を司る神。
一番長く生きながら、一番多くの悩みを抱えて来た。
もちろん、ツバサより長生きなまだ見ぬ神が居るやもしれないが…。
「本来ならば、悪魔は人間が片付けるべき存在だが、不可能だな。」
「そうね。悪魔は人間の欲…負の感情から生まれた生き物。人間が居る限り、殲滅させてもまた生まれる。」
長き時、神や天使と戦い続けて居る、悪魔。絶対に神が負ける事は無いが、世界のバランスが掛かって居る為手は抜かない。神の作った世界で、生まれた悪魔に勝ち目は全く無い。
人間が消えたら、悪魔もゆっくりと消える運命に有る。
欲の塊の悪魔は、それでも世界の軸を欲して、また人間の負の感情と言う餌を欲して、争いを生み出す。
それでも人間を消さないのは、神の三柱で有る、三大王の慈悲である。
神にとって、生き物は全て自分の家族みたいな感覚なのだ。消したくないのが、本音だが、残念ながら今までも、進化の過程で知恵をつけ、支配しようとして消された生き物は居る。
そのたびに、世界の神は悩み苦しみ嘆いて居た。
だが、三柱にそのような感情を出すのは難しい。下の者達に動揺が広がる。
今回のアヤメの行動は、異例で有り、仕方無く、下界に降りるなら悪魔の居る世界にと、制限を真王がつけた。
降りる理由が有る世界に行かなければ、混乱が起きる為に。
「悩むなとは言わぬ。だが、考えて行動してくれ。王の座に有る者は、弱音を悟られてはいけない。世界のバランスを守って居る、私達ならば尚更。それに、三柱同士ならば、何でも言えるだろう?あと、自分で選んだ近衛にも。」
「そうね。溜め込み過ぎたわ。これからは相談する。」
「この話は終わりだ。ああ、本当の神族としての姿は、晒すなよ。」
「分かっているわ。」
神は、神の悩みを抱えて世界を守る。
もちろんこの世界も例外なく…
ご感想お待ちしております。




