過去との決着
大変難しい事ですね
【君は君のための剣であれ】
アヤメは、窓の外で降り注ぐ雨を見て、昔を思い出した。
「あの言葉は、ツバサの信念。そして、私とジンが救われた言葉。」
ちょうどこんな感じで雨が降っていたあの日。
7歳の私達は、訓練が終わってから、話をしていた。
ほんの僅かな、自由時間にツバサが言った、信念。
「ツバサは私にすら、本心を言わない。本当の人格も知らない。でも、あの信念は本物だった。」
全てを見通す目で、真っ直ぐ前を見て、信念を貫く姿は、憧れだった。
信念を曲げた事は無い。
信念が曲げられそうになれば、偽人格でやり過ごして居た。
決して、自分の意志を他人に譲らない、絶対に他人に使われない、その姿はまぶしかった。
「あの言葉の意味は、君は自分や周りの者、剣は力有る者、自分の為は、他人任せにするなと言う事。決して、他人に使われるなと、自分の意志を貫けと、言った。」
簡単そうで難しい。
「ねえ〈風牙〉私は出来てる?」
‐やろうと思って出来る事ではない‐
「そうね。私は自分の意志が分からない。流されてばかりだし、ツバサの通った道を辿っただけだし。」
‐あれは強いからな‐
「…違う。誰よりも弱かったから、強くなって、誰よりも知らなかったから、勉強した。あれは、精神の出来が違う。」
‐そうかもしれん‐
「私は努力が足りない。嫌だと言いながら、流されてばかり。自由が欲しいからと、後をついて行っただけ。完璧にツバサに甘えている。」
‐なら、どうしたい?‐
「もうツバサの重荷になりたくない。学園に居る間に、自分の意志を探そうかな。」
‐そうか‐
〈風牙〉は、学園に来て良かったと思った。
周りが変わる中、自分の変化に気付いたのだろう。
ゆっくり、探そう…
共に…
☆☆☆☆☆
「ジン君、お客様が来てるわよ☆」
朝、HRが終わって直ぐにエリナ先生から呼び出しが有った。
一人は嫌だと、皆を引き連れて来たら、お客様が居るとの事で困惑する。
「学園にわざわざ?誰です?」
「あなたのお父さん♪」
ダンッ
ガシッ
ポイッ
いきなり逃げ出したジンを、ツバサがとっさに捕まえて、ムウがエリナ先生の前に投げ捨てた。
「何で逃げるのかしら?」
「絶対会いたくない!」
「家出~?」
「いや、学園に入ったのは、親の意見。」
「………会いなよ」
「一階の客室に居るわ☆」
皆に引きずられて行くジンは、涙目になって居る。
一同は客室に向かった。
「久しぶりだな。」
「何の用だよ!」
ジンと同じ、黒髪黒目で、がっしりとした体系の男性が居た。
「何か、才能は有ったか?」
「…努力。」
「ふん!出来損ないが。」
「ギルドカードはCランクだぜ!」
「平凡だな。やはり駄目だな。家に帰りなさい。」
「嫌だ!」
「後ろに居るのは、友達かね?」
初めてジンの父親が、アヤメ、ツバサ、ラング、ムウを見渡した。
「チームの仲間。」
「そうか。はじめまして、ジンの父親のジライン・ラインブルグだ。息子が世話になったね。」
「はじめまして、私は…」
「いや、結構。」
アヤメの言葉を手で遮った。
「こいつは連れて帰るから、もう会わないだろうからね。」
「帰らない!」
「お言葉ですが、ジライン様。Cランクは学生としては、上ですよ。」
アヤメが話に割って入った。
「その程度なら要らん!せめてAランクは欲しいな。こいつはこれでも…」
「言うな!」
ジンが叫んだが、ジラインは言葉を続ける。
「〈ガイス〉の王族なのだよ。」
一同が固まった。
「王族って…かなり薄いだろ!貴族としても、王家が認めてないし!」
「隠し子の血統だが、王族に違いは無い。叔母上が、王と逢い引きしたおかげで、我らは居るんだ。」
ラインブルグの家名は、ガイスでは隠された家名。
ジンの大叔母様が、王宮でメイドをしていたが、王に気に入られた。
ガイスは、側室の制度が無い。
王には妃が居て、庶民の大叔母様が釣り合う訳はない。
王は隠れて、時たま会いに行っていたらしく、子が出来たが、それはいけないと王は事実を隠した。
しかし、生まれてから直ぐにバレて、粗末に扱う訳にもいかず、かと言って公には出来ない為に、偏狭の地に、領土を与えて追い出した。
貴族の位も与えられていない。
そのため、ラインブルグの家名は領地の者以外は、あまり知らない。
「と言う事だろ!」
「ほう、良く覚えて居たな。お前は駄目だが、弟のラジンが、優秀でな!王家に認められそうなんだ!お前が下手に動いたら、意味が無いからな!安心しろ、衣食住は保証する。引きこもって居ろ!」
身勝手な言い分に、ジンは手を握り締めて居る。
「王家の仲間入りも近い!」
「ジライン様、身勝手ですね。」
「なんだと小娘!」
「ジライン様は只、王家に名を連ねたいのでしょう。ジンは関係有りません。」
「目障りなんだ!武に秀でるガイスに、武は愚か、知も無いこいつは!」
意外にも、ジラインに噛み付いたのはツバサだった。
相貌も虚無になり、威圧感を放って居る為、アヤメも驚いて居る。
いつも、ツバサは他人には無関心を貫いて来た。
今の光景は、アヤメには異様だ。
「ジンの価値をあなたが決め付けないで貰いたい。」
「価値など!」
「武に秀でるガイスの者なら、実力で話し合いましょう。」
「何だと!?」
「おや?自信が無いのですか?」
「小娘!礼儀をわきまえろ!」
「貴族でも無いのに、有りもしない玉座に胡座をかくあなたに、礼儀は必要有りません。」
冷たい程の、感情の籠もらない言葉をツバサは放つ。
常に無表情で冷静なツバサと、憤怒の表情で苛立ちを露わにしたジラインを他人が見たら、ツバサの方が対応が大人だろう。
一度も、間違った対処もしていないし、礼儀も弁えている。
ツバサに勝てる訳は無いのだが…
「王家が気にする程の者なら、当然兄の事も王家は把握済み。ならば、もう遅いのですがね。」
「っ!」
図星で有る。
弟が秀でて居るなら、当然王家は家族全てをくまなく調べる。
王家が王族と認めると言う事は、全ての者をと言う事になる。
個人だけ、とはいかない程の大事だ。当たり前だろう。
「これはどうです?王族の前で、決闘をするのは?」
「勝ったらラジンは認められるか…良いだろう!」
「何を言ってるんです?」
「は!?」
「あなたと、ジンでやるんですよ。ラジンの実力は、王家も知って居るでしょう。今更兄とやる必要が有りません。」
「っ!分かった。私に勝てなど、しないがな!」
ツバサは長年、〈トウゴク〉とやり合って来ているので、王家の出方も良く分かっている。
いまだに、認めないのは、家族の実力が知られて無いからだ。
つまり、ジラインは実力を王家に示して居ない。
話から察すると、ラジンの実力が認められて居るだけだ。
しかも、断定でも無い。
国に関わる、揉め事に対処するなら、先を読まねばならない。
失敗は、存続に関わる。
感情に踊らされるジラインは、その点で失敗して居る。
よほど、ラジンが優れて居るんだろうと、ツバサは分析していた…
「校長に話を通しましょう。顔が広いですから。アヤメお願い。」
「ええ。分かったわ。」
アヤメはツバサに任せる事にした。
校長室に向かいながら、考える。
(ツバサがああ言うならば、王家はラジンしか見ていない。国に関わる事は、私には到底出来ない。何か、考えが有るんだろう。)
「校長先生。」
「話なら、〈カーバンクル〉から聞いたよ。〈ガイス〉王家には、話をしておこう。わしも、生徒があんな扱いを受けるのは、気に喰わんからのぅ!」
一週間後に、王家が場を設けて決闘が行われる事になった。
王家はやはり、調べて居たらしく、ジラインとジンの実力を見たいとの事だった。
一週間の間に、ジンは、アヤメとツバサに特訓に付き合って貰う事にした。
(皆が認めてくれた!ならば、結果を出すのみだ!)
ジンは覚悟を決めた…
☆☆☆☆☆
〈ガイス〉現国王ライガ・ルト・ガイスの息子、ザガン・ルト・ガイスが立ち会う事になった。
黒髪の短髪に、鋭いブラウンの瞳で、凛と玉座に座った居る。
歳は21、一言で現すなら文武両道。
もうすぐ、王位に即位する予定だ。
現国王の仕事が終わり次第、明け渡すと表明している。
「………何で?」
「ここなんですか…」
「ツバサ、説明しなさい。」
〈レジェンド〉の皆は、玉座の直ぐ近くの最前列に、席を設けられた。
ラインブルグの家族でも、玉座から離れているのに…
「掛け合った。」
「国王様と?」
「うん。」
「いやはや、驚いた!」
校長も同じように、最前列に居る。
次期国王は、笑いながらこちらに振り向いた。
「簡単な話だ。父上に国を預かる身ならば動けと、最終的に動かしたのは、ツバサ殿なのだよ。」
校長の手紙を読んで、悩んでいた現国王に、いきなり押し掛けたツバサが、自分達の問題すら決断出来ないのかと、一喝したらしい。
「押し掛けた!?」
「師匠…」
「………嘘!?」
「どうやってじゃ?」
「〈麗牙〉に乗って、中庭に降りて、近衛を押しのけた。」
近衛はツバサの双剣で、一掃されて、現国王が駆けつけ、ツバサは学園の制服を見せつけ、事の詳細を説明して、今に至る。
「あの強さには、驚いた!」
すがすがしい笑顔の次期国王と、近衛兵達に、どうやらこの国は実力重視らしいと、強引に自分を納得させる一同。
校長は、腹を抱えて笑っている。
「あんた達が弱い。」
「精進が足らないな!もっと頑張ろう!」
おおーーーー!!!
近衛兵達が、歓声を上げた。
ジラインとジンが向かい合った。
「逃げなかったのは誉めよう。」
「いらねー」
「それでは両者!次期国王様の御前で恥をかかせぬ良き戦いを!始め!」
審判が開始を告げた。
「雷撃!」
ジラインの雷撃が迫る。
ジン、大剣に炎を纏い、弾く。
ジラインが剣を抜き、距離を縮める。
ジン、大剣を凪いだ。
ジライン、剣で軌道をずらし、懐に飛び込んだ。
「獄炎の大蛇」
ジンの周りに、炎の大蛇が表れ、暴れ出した。
ジライン、慌てて距離をとる。
ジン追撃を加えて、大蛇は放つ。
ジライン、大剣を受け止め、雷撃で大蛇に対応する。
「裂けろ!」
大蛇は二対に裂け、雷撃を交わして、ジラインに迫る。
ジライン、大剣を弾き、後ろに飛ぶ。
「雷撃の盾」
大蛇は雷撃に阻まれた。
ぶつかった直後、大蛇が爆発する。
熱風にたまらず、ジラインが顔を背けた。
「瞬足」
ジン、自身の足に無属性の強化魔法を掛けて、一気に距離を詰め、大剣を叩きつける。
ジライン間一髪防御したが、体勢を崩した。
すぐさま、ジン大剣を引き、体重を乗せて叩きつける。
ジライン剣で受け流すが、剣が半ばで折れた。
「業火の弾丸」
そこに、ジンの放った炎の弾丸が直撃した。
吹き飛ばされるジライン。
だが、深追いしないジン。
「ちっ!バレたか。」
ジラインの足元に幾つかの土の槍が突き出た。
土の槍を放つジライン。
大剣で弾くジン。
「爆炎乱舞」
ジンの火弾がジラインに迫る。
避けるジラインだが、近くに当たった火弾が爆発し連鎖する。
爆炎の中から飛び出すジライン。
「雷撃の嵐」
ジンに雷撃が降り注ぐ。
「焼き尽くす炎の盾」
ジンの炎が盾となり、雷撃を相殺する。
砂塵が舞い上がる。
「業火の牢獄」
砂塵が収まり表れたのは、炎の強固な檻に、手も足もでないジライン。
「くっ!雷撃」
雷撃は檻を砕けない。
「業火の裁き」
ジラインの頭上から、業火が落ちる。
何とか無詠唱の雷撃で反らしたが、僅かに逸れただけで当たり、吹っ飛んだ。
ジラインは動かない。
審判が確認した。
「ジライン意識無し!ジンの勝ち!」
審判が勝ちを宣言した。
ジンの圧倒的な勝利だった。
「見事であった!」
「ありがとうございます!」
次期国王ザガンの言葉に、頭を下げるジン。
ラインブルグの者達は、呆然と見つめて居る。
「あら…ジン出来るんじゃない!…良かった!王家も認めて下さるわ!」
ジンの母親、アリアがいきなり喋り出した。
「信じてたわ!ジン家に戻って!」
「身勝手過ぎるわ!」
あまりに身勝手な母親の言葉に、ツバサの雷撃が飛んだ。
ラジンが防いだ。
「何するのかしら!?危ないじゃない!ジンはラインブルグの者です!他人は口を挟まないで!」
「黙れ!」
ジンが吠えた。
「もう遅い!もう戻らない!あんた達は俺を捨てたんだ!」
「あなたが出来ないから…」
「出来ない様にしたのは誰だ!」
「なっ!」
「母さん、止めましょう。」
ラジンが母親を止めた。
「久しぶり、兄さん。」
「久しぶり、ラジン!」
兄弟は笑いあって、再会を喜んだ。
「兄さん、ラインブルグは…」
「お前が継げ!」
「良いの?」
「俺には無理!今回も師匠達に助けて貰ったし!それに今の生活が好きだ!」
「兄さんらしい。分かった。任せて。」
「おう!任せた!」
「それで、良いんだね?ジン。」
「はい、ザガン様!」
「分かったよ。でも、私や国は君を認めるよ。いつでも、立ち寄って。」
「はい、ありがとうございます!」
ジンは今まで通り、学園に通って、冒険者の道を選んだ。
弟に家を託して…
☆☆☆☆☆
夜学園に戻って直ぐに、エリナ先生が出迎えて、根ほり葉ほり聞かれて、皆でお祝いをする事になった。
「助かったよ。魔力操作の訓練と、強化魔法!」
「教えといて良かったわ。」
「お疲れ~」
あの時の大蛇の操り方や爆炎の連鎖のやり方は、ツバサに見てもらい教えて貰い、会得した。
身体強化魔法は、アヤメに教えて貰いながら、訓練した。
「………良かったね」
「ラング、ありがとう!」
「…羨ましい」
「ムウだって、教えて貰ったじゃん!」
わいわいがやがや、食堂を占領して騒ぐ〈レジェンド〉と校長とエリナ先生。
料理長も、せっせと料理を作って居る。
食べまくってるのは、ジンとムウ、校長とエリナ先生だ。
「吹っ切れた~?」
「おう!」
「良かったわね。」
スッキリした顔のジン。
この日は遅くまで騒いでいた…
☆☆☆☆☆
「〈ファング〉」
「何だ?」
「吹っ切れた!」
「良かったな。」
「今すげー楽しい!」
「ふん。」
自室で話す、ジンと〈ファング〉は笑いあう。
(良かったでは無いか。お前を皆が認めてくれて居る事が分かって。まったく、世話のかかる奴だ。)
〈ファング〉は密かにニヤリと笑った…
ご感想お待ちしております




