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悲しい決断※

作者は決断力は皆無です

 この世界にも魔王は居るし、勇者も居るが、魔王はレッドエリアで魔物と普通に暮らしていて、話も分かる。

 問題は勇者なのだ…。

 勇者は武闘大会で優勝した者が五年間勤める、言わば只の名誉ある名前。やる事は単純で、魔物退治。

 国々が五年に一度大会を国に一つずつある闘技場でランダムで行われる。

 必然的に冒険者が多く、荒くれ者が多いので、人々はありがたい様な、迷惑な様な複雑な気持ちだ。故に、扱い方も雑になってしまう。

 子供には憧れの対象だけど…。


「わしも、良く勇者やっとったわい。戦うだけなら今でも出来るが、移動が面倒じゃのう。」

「校長先生!仕事して下さい。」 

「副校長に任せろ。それよりあの頃は随分荒れて居ったわい。」

「副校長は校長先生の仕事と自分の仕事を処理し灰になりましたよ…。」

「そうか。体力無いのう」

「なにせ三年分貯まってましたからね、校長先生の仕事が…」

「はて?何時も副校長に回しとったがのう?何故貯まったんだかのう?」

「あなたが!全て!自分の机に貯めてたんでしょうが!回すなら早く言って下さい!しかも忘れてたの隠してたでしょ!」

「……zzZ」


 此処にいる、元勇者が代表的なのが悲しい現実。

 何故こうなった!?





◇◇◇◇◇


「でな!俺は優勝して勇者になって、こうバッサバッサと魔物を倒したい訳よ!」 

「だからと言って、私に頼まないでよ~私は師範代じゃないよぅ~」

「ツバサ強いし!リーダーだし!」

「意味分かんない~」


 ジンはツバサに剣術を習いたいと言い出して、こうして“押し掛けて”来たのだが、見事に断られている。

 そして何故かラングとムウも引っ張って来られて、迷惑そうだ。今だにムウには抵抗が有るらしいジンは、少し離れて座りながら、時折様子をうかがっている。ムウはラングに頼まれて、仕方なくついて来た。


「いきなりツバサを寮長に頼んで呼んだのはその為だったのね…」

「アヤメ!お前は駄目か?」

「無理よ…教えるのは向いてないから。それにまだ修行中の身だし」

「「「………」」」

 

 アヤメの言うとおり、アヤメもツバサも修行中だから学園に来たのだが、周りは「まだ強くなるの?」と、固まっている。


「明日は一日中武術の授業でしょ?授業でやれば良いんじゃないの?」

「うむむ…」


 明日は早いから寝ると、アヤメは早くも寝ていたツバサを起こさないように抱えて部屋に戻る。いつの間に寝たのか気付かなかった。

 ツバサは起こされると、機嫌が悪くなり被害が出るのだ。

 ジンは数回死にかけている。


 取り残された男3人は、明日は早いと言う意味が分からなかった。


「いつもと同じ時間にHRだよな?」

「………うん」

「分からんな。」 

「うーん…まあ部屋に戻るか!久々に武器使うし、手入れしないと!」

「……そうだね」

「おう」





◇◇◇◇◇


「みんな~チーム毎に訓練してね!私も回って行くから!☆」


 この学園は、担任が全ての授業を行う。理由は、全て出来ないと教師になれないからだ。

 そして、この学園の教師は皆元勇者だったりする。この学園が特別なのだが。


「頑張るぞ!」

「……嫌だなぁ。」

「ラングはどうしてそんなに、武力が嫌なんだよ!」

「………戦場では…沢山精霊が死んじゃうから…」

「え?精霊は死ぬのか?」

「ジン、精霊は世界の化身。大精霊が死ぬ事は世界が壊滅的にならない限りないわ。でも、小さな精霊は精一杯守って、魔力が無くなったら消えるのよ。それが死ぬと言う事よ。戦場は沢山の精霊が、傷ついた大気や、大地、汚れた魔力の浄化、汚れた水の浄化に走り回るの。でも、戦場では次から次へやる事が増えて、魔力が持たないのよ。ただし、下級精霊だけね。中級以上は、消える事は無いわ」

「何で、戦場で小さな精霊ばかり働くんだよ?大精霊は?」


 その言葉に呆れて、どう説明するか悩んでるアヤメに変わって、ツバサが口を開く。


「大精霊は力が強すぎるの、世界の基盤だから~大精霊がそれぞれの属性を担って維持して、精霊達を纏めて~小さな精霊が下界…つまりこの地に降りて働くの~強い力は逆に危ないの~」 

「つまり大精霊はこの地に居ないのか?」

「居ないよ~次元の違う世界に居るの~そこで精霊が生まれ暮らしてるの~」

「………2人共ありがとう。………つまり戦いは世界に悪影響なんだ。…特に人の争いは…」


 世界の力を形にしたのが精霊で、その精霊が居なくなるのは世界の存続に関わる。常に、世界を守り、育んでいる精霊には、壊す事しか無い争いは、とてつもない被害が伴う。

 結局、理解出来ないジンは無視して、授業を再開する4人。


「ラング~肩に力入りすぎ~」

「…うん……こうかな?」

「そうそう、突きは素早く的確に~」

「………まだ遅いかな?」 

「ん~早いけど、消極的過ぎ~もっと豪快に~フェイントも混ぜて~後ろに回り込まれたら軸足で反転、槍の遠心力に乗せて叩きつける!」

「やあ!」

「槍の間合いより内に来たら、後ろに飛びながら槍を引き、突き出す!」

「わっ!ほっ!」

(案外ラングは槍に慣れてる、狩りに使うかららしいから、対人経験は無いけど呑み込みが早いっ!)


 ツバサはラングの相手をしながら分析している。意外と力が有るので、重量の重い槍の方が良いかも知れないと思った。


「珍しいわね…刀を使うなんて。」

「実家の近くに道場が有った。ガイス出身だから皆武器は何でも取り入れる。」 

「なるほど、ガイスね。刀を使いこなせる人は少ないけど問題無さそうね」

「俺には一番合ってる」

「そうね。ムウ、刀はただ切るだけじゃ無いわよ」

「ああ…だが居合いが一番好きだ」

「珍しいわ!みんな振り回すだけだし。もう少し力抜いて」

「ふむ。勉強になる。しかし…」

「ん?」

「何故レイピアなのだ?ツバサは刀の二刀流だろう?トウゴク出身だし」

「ああ…刀合わないのよ。ツバサがレイピアの方が良いかもって言うから、使ってみたらしっくり馴染んだの。私には素早さと、突きしか無いから、力が無いのと刀身の力を逃がすことが苦手なの。手数は有るけどね…刀身が欠けるのよ」 

「ふむ。確かに刀は欠けやすい。それに重いかもしれんな」

「そう。軽くないと駄目なの。手数で勝負するから」

「だが、十分扱えるみたいだな」

「最初に使ってたからね。でも並みだわ。それ以上は無理」

「こ…これで並みだと!?」


 アヤメはムウと手合わせするため、学園から刀を借りているが、違和感が無い。

 ムウからしたら、師範代より上だが、それでも駄目らしい。と言うより、比べる事もはばかられる。

 世界は広いと、ムウは遠い目をした。


「おい…皆強いじゃないか…俺やっぱり駄目かよ……てか、相手してくれ!!」


ゴンッ


「あでっ!」

「ジンうるさい!迷惑!」

「ツバサ、何で何時も殴るんだよ!」 

「ストレス発散!」

「俺でするな!」


 ラングがくたばったので、休憩していたら、いきなり叫びだしたジンに拳骨を浴びせるツバサ。

 最近の恒例行事になりつつ有る。

 ジンが騒ぐからツバサが殴るのだが、ジンに自覚無し。

 最初は言葉で言い聞かせたし、エリナ先生にも怒られたが、駄目だったので、この形に落ち着いた。


「ジン!剣を構えなさい!」

「おう!」

「形にはまり過ぎ!へっぴり腰!脇が甘い!力入れすぎ!」

「まだ構えただけだろ!」

「構えただけで、その辺の素人が見よう見まねでやってるレベル何だもん!」

「ひでー!何年もやってるぜ!」

「やってるのと、やれてるのは違う!」

「何?」


「ただ言われた通りなら誰でも出来る。でも、その先は見本は無い。練習あるのみ。工夫あるのみ」

「やってるんだよ!沢山の武器使っていろいろ考えてるし、練習してる!」

「いろいろやるから、中途半端なの。いきなり何でもかんでも出来る人、居ない。練習だって、ただ振るだけじゃ駄目。実戦あるのみ」

「習える奴は良いだろうな!相手が居れば良いだろうな!」

「相手は人だけじゃない!」

「魔物に向かって行けってか!?」

「動物の狩りに行けばいい」

「そんなの!危ないから、練習するんだろ!?」

「怖いから、言い訳してるだけ。皆何度も狩りに行ったり、大人について行って、実戦を見たりして強くなる」 

「俺だってやってる。ただ平凡なだけだ!天才には分かんないだろ!いつも何もしてないのに強い天才には!」


パンッ


 即座にアヤメが距離を詰め、ジンをひっぱたく。


「甘えないで!言い訳ばっかり!ツバサは何もしてない訳じゃない!」

「痛いだろ!何だよ!?庇い合い?友情?天才同士の?笑えるな!まぁ、アヤメは分かるがな!真面目だし。強くなれる奴は良いさ。思い通りになって良いだろうな!」

「違う!」

「は?なにが?」


 アヤメはもう黙ってられなかった。

 ツバサは好きで強くなった訳じゃない。

 私達は好きで武器を手に取った訳じゃない。

 ツバサは好きで、怠け者を演じて居る訳じゃない。 異常性が有るから、危ないから、器用じゃないから、沢山諦めて来たから、沢山傷付いたから、ツバサは諦めたんだ。

 自らの全てを…


「私達は好きで強くなった訳じゃない。そうしないと、生きて行けなかった。そうしなければ、死んでいた。いろいろ諦めて来たわよ!それに、強すぎた力を持つ私達は、出世の武器として“使われた”のよ!それでも従ってたのは、一緒に居られたから。でもある日、周りの者達が…」

「やめて!」

「…っ!」

「言わないで。それは、私が勝手に決めたんだから。周りの者は関係ない」


 ツバサはそのまま背を向けた。

 一瞬見えた、ツバサの目には“何も”なかった。

 アヤメもツバサの横に並んだ。

 アヤメは涙を貯めていた。

 2人はそのまま皆から遠ざかって行く。


「なあ?今さツバサおかしく無かった?」

「………言い過ぎだよ…“使われた”って言ってた…あれは」

「人として扱われなかったと、言う事だろうな」

「…どうしよう?俺…」

「………今はそっとしとこう」

「うむ」


 いつもうまく噛み合わない歯車は、互いにぶつかり合って、やがて…




「なぁ…いつか俺達分かりあえるかな?」

「……いつかきっと」

「…さあな」


 いつの間にか授業が終わる鐘が鳴っていた…




◇◇◇◇◇


「なる程ね…」


 エリナは悔しさに唇を噛んだ。


(何も出来なかった。聞いてたのに、何も出来なかった。彼女達の家の事情は、校長先生から聞いてたのに)


 ため息を吐いて、空を見上げる。晴れなのに暗く感じる。


「校長先生が気に掛けていたのは、そういう理由だったんだ」


 ツバサの目は空虚だった。まるで、全て諦めて、達観しているように。

 自分さえ“物”として見ている様だった。


「今までの彼女は自分を偽った、作り物。ただ、何もしないんじゃなく、しない自分を作る。何て…」


 なんて、辛い人生だろうか…

 何も考えない様生きる事を決意させた、過去はどんなに絶望的だったんだろうか…


「アヤメも辛いよね…全部知ってるから。そして何も出来ないから」 

『彼女達はのう、選んだんじゃよ…“どちからしかいらないなら、残らないなら、危ない武器じゃなく、安全な武器を残そう”そうして、かなり酷い選択をしたんじゃ。周りに被害を出さないようにな…。それが8才の子供の決断じゃよ…』


「大人が考えるべき事よね…。」


 皆大切な、私の教え子だもん。そうはさせないわよ…

分かり合えたら良いね。


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