オーロラの結界
ちょっと短いです
ひたすら生徒会室で生徒達からの問い合わせに対応する生徒会メンバー。
問い合わせの内容が書かれた紙が、山のように積まれている。
そこらに居る風紀委員を捕まえて学生達が質問してきた事を、律儀に紙に書いておいた風紀委員から渡されたのだ。
曰わく、どう説明したら良いのか分からないらしい。
内容は殆ど同じで、旧校舎の騒動や、教師達の動き、学園の安全を心配する声が多いが、中には鋭く問題に感づいた者からの詰問もある。
単に、自分達の身の安全が心配なだけなので、聞いたからといって何かするとは思えないが。
出来る限りの疑問の声に、答えられる範囲の事を纏めて説明するつもりだが、なにせ生徒会メンバーでも分からない事や、関われない事が多いので、どれだけの範囲の事を言うか悩む所である。
「失礼します」
皆が悩んでいる所に、風紀委員の1人が申し訳なさそうに生徒会室に入って来た。
「〈レジェンド〉の皆さん、校長先生が呼んでいますので校長室に向かって下さい」
「分かったわ」
伝える事だけ伝えて、さっさと出て行った風紀委員。
生徒会室の重い雰囲気に耐えられないようだ。
呼ばれた〈レジェンド〉メンバーは、何事だろうかと思いながら、校長室に向かう為に席を立った。
◇◇◇◇◇
「忙しいのにすまんのぅ」
「悪いニァア」
校長室に入ると、校長とメモリーに出迎えられた。
「何事ですか?」
「私が呼んだのだニァア。先日、魔王様から連絡があったのだがニャ、〈レッドエリア〉上空のオーロラが消えないらしいんだニァア。大陸の北に有る〈レッドエリア〉は、冬から春の初めまではオーロラが出るんだニァア。だけど、春の終わりになっても消えないから不思議に思ってニャ。最近の出来事に関係有るのかニァア?」
いきなり長々と要件を喋り始めるメモリーに、皆少し困惑してしまう。
「とりあえず、学園と〈レッドエリア〉に来た事が有る者に報告しておく事になったんだニァア。殆ど誰も来ないから、人数が限られて助かるニャ。物好きじゃないと来ないからニャ。生きて帰るのも――」
「分かった。分かったから、少し黙ってくれないかしら?」
「――長かったかニァア?」
一斉に首を縦に振る一同。
器用に前足で額を抑えるメモリー。
人間だと、「やっちゃった」と言う感じなのだろう。
「オーロラね。他に変わった事は?」
「オーロラ内では狂気に染まった魔物が現れないニァア」
ピクリと、校長の眉が跳ねた。
「ああ、あれか」
「あれか~」
何故だか納得したアヤメとツバサ。
「2人で納得しないで欲しいニャ」
「ああ、ごめんなさい。あれなら、私達が張った結界だわ」
「なんじゃと?」
「言葉を紡いで織る結界でね~とてもあやふやな術で、いつ出来上がって、どんな形になるか分からないけど~効果はかなり期待出来るんだ~」
「更に、術者が遠く離れていても、魔力はその土地に含まれる魔力を使うから消える事が無いの。消すまではね」
さらっととんでもない事を暴露した2人に、皆硬直している。
「どうしたの?」
「……どうしたって……その術は現代では廃れている筈だニァア……」
「知っているなんて、流石じゃない」
「えっと、祈祷……神や精霊に祈りながら舞う儀式……かニャ?」
「そうよ。今では気休め程度の形だけの儀式になってしまっているけど」
つまりは神頼みで、殆ど自己満足で終わるような事なのだが、今でも縋る者もいる儀式である。
たいがい、形式だけのもので、何か起こる事は無い。
稀に、タイミング良く何か起こると、その儀式のおかげにする事は有るが、果たして儀式のおかげなのかは謎である。
昔は、力有る者が何かを成し遂げたと記録には有るが、それも謎である。
「いつやったニァア?」
「魔王城に行った時、夜中に上空で祈りながら舞ったわ」
「その地(魔王領)には~かの大戦時の後に神が土地に加護を与え、魔物の地を守った名残が有るから~その力に祈ったの~かの龍王に感謝したら~」
「だからといって、成功するものなのかニァア……」
「「したじゃない」」
「……そうだニァア」
何を言っても無駄である。
2人に常識は通用しないのだから。
「結界内では、狂気が溢れる事が無い筈だから、狂いで暴れる魔物が現れない筈よ。あと、入って来る事も出来ないわ。でも、全ての土地に影響を及ぼすなんて不可能だから、魔王領の半分しか安全とは言えないから注意してね」
「魔王領の魔物が狂ったら~それこそお手上げ状態じゃない? この前の大侵略の数も数倍になるし~魔物の強さも計り知れないからね~」
おっしゃる通りです。
魔王領の魔物は、その辺の国でうろついている魔物なんかより遥かに強く、数も相当多いので、いくら学園の教師達が各地に散らばっていても、対処出来る筈が無いのである。
メモリー曰わく、そのオーロラが現れたのは秋の初め頃なので、ギリギリだったのではないだろうか?
「そうだったのか。それは直ぐに知らせるべきだニァア」
「秋に気付きなさいよ」
「いやあ、秋と言っても魔王領は既に雪がちらつくのニァア。まだうっすらとしていたから、良く分からなかったニャ。魔王領は気候の変化が激しいからニャ、まだ秋でも気まぐれにオーロラが現れる事はたまに有る事なんだニァア。春の終わりと、夏だけは消えるんだニァ。そのあたりでいきなり暖かくなるからニァア」
「不思議な所ね」
「そうだニァア。私は冬は厳しい寒さで死にかける事が多いニャ」
「自慢しないでよ」
胸を張るメモリーに、呆れてしまったアヤメ。
魔物でさえ厳しい土地柄とは、あまり想像したくないが凄いのだろう。
あの土地の魔物が強いのも、何故か納得出来る。
「確かに厳しい土地だニャ。だけど、そのおかげで人間に侵略されないから、魔物には住みやすい所なんだニャ。強くなれば良いだけの事だからニャ。競争力が激しいから、種族の中でも弱い者は追い出されてしまうニャ。だからその辺の魔物は弱いんだニャ。弱いから追い出された奴だから、当然だニァア」
「ああ、なるほど」
「殺伐としてるね~」
「当たり前だニャ。魔物からしたら、何故弱い奴が国の上に陣取ってふんぞり返っているのか分からないニァア」
「確かにそうね」
不思議そうに首を傾げるメモリー。
理解出来ないのは仕方ない。人間でも不思議に思う時が有るのだから。
不安が取り除かれ、ホッとしたように尻尾を振りながら部屋を出て行ったメモリーは、さっそく魔王へ報告すべく足早に去って行った。
これ以上此処に用は無いと、さっさと生徒会室に向かうアヤメとツバサ。
少し遅れてついて行くジン、ラング、ムウ。
残った校長は思う。
(神は貴方でしょうに)
◇◇◇◇◇
夜闇に紛れて学園に近付く影ひとつ。
学園の近くまで来て、あちらこちらに居る見張りを確認し、少し考えた後その場で跳躍して木に登る。
木の上でキョロキョロと見回してひとつ頷き、にんまりと笑う。
見張りを嘲笑うかのように、見張りの死角を縫うように走る。
(チョロいわネ)
ひょいひょいとくぐり抜け、目的地に向かってひた走る。
少し休めそうな小屋に滑り込み、適当に座り込んで力を抜く。
(本当にチョロい! 私だもん当然よネ! 当然だワ!)
妙に高いテンションで喜び、毛布を引っ張り出すとくるまって寝てしまう。
静かになると、置物のように微動だにしなくなった影。
こうして、人知れず侵入者が学園に入り込んだのであった。




