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見えぬ闇

 あの後、雑用だけを押し付けられた生徒会一同。

 完全に用無しとされ、書類の束を押し付けられた。未だに立ち直れぬ彼らは、見放されたと言って良い。

 反抗しようとした者も居たが、現状を考えると言い返す事は出来なかった。

 重要な会議には呼ばれなくなり、重要な書類も渡されなくなった。

 アヤメとツバサだけは、会議に参加しているが。


「なあ……」

「何かしら? ……会議の内容なら教えないわよ」

「はい……」


 聞こうとしても、この通り突っぱねられてしまう。


「下手に教えて、何かしでかされたら困るからね~激情に駆られて暴走したり、疑いもせずに敵を招き入れたりね~」

「うっ……」

「いざという時に、足が竦みましたでは困るからね。皆の命が危ないにも関わらずにね。敵より、覚悟が足らない味方の方が怖いものよね」

「そうだね~」


 反論する余地も無い。

 分厚い本を片手に話をしながらも、目は本を追っているアヤメと、暇そうに見えて手元で何か書いているツバサ。本と紙の文字量から、単なる暇つぶしではない事が伺える。

 覗こうとしても隠されるので、内容は確認出来ない。


 真剣に取り組んでいるので、あまりしつこくは聞けない。

 死にたくないから!


 三年と一年生徒会メンバーは、空気になろうと必死になって気配を消しながら、書類整理に追われている。

 〈ミラージュ〉のメンバーは、首を突っ込もうとするジンに殺気を向けている。

 ラングとムウは、他人ですと言わんばかりに知らん顔をしながら、実は身構えていたりする。二次被害を防ぐ為に。


「やれる事無い?」

「「無い!」」

「……仲間なのに」

「ジンが動くと、ろくな事無いじゃない」

「その辺で大人しくお座り~」

「……ぐすん」


 泣きながら、部屋の隅っこで膝を抱えて座るジン。

 お座り素直に聞いたし……。


 見えない壁が出来上がった生徒会室は、異様に静かであった。









◇◇◇◇◇


 翌朝、突然警報が鳴り響き、生徒会メンバーが現場に集まると、普段は近寄らない旧校舎に火の手が上がっていた。


 旧校舎は関係者以外立ち入り禁止。

 学園の教師しか鍵を持っておらず、更に騎士によって厳重に管理されている。

 学園では、生徒会メンバーにしか知られていないが、旧校舎には地下があり其処には牢屋が作られている。

 学園の立場上、必ず現れる他国からのスパイやら、学園で犯罪を犯した奴らが入れられる場所である。


 そこで火事があった以上、厳戒態勢を敷かれるのは当たり前である。

 生徒会メンバーは学生が近寄らぬように見張る事を命じられ、旧校舎を囲むように配置についている。


 ただ一言、「動いた」とアヤメが呟いたのを会長は聞いた。

 同時に、アヤメとツバサの姿も消えてしまった。


 一度戻るようにと、数時間後に連絡を受けた一同は、旧校舎の前に集まると無言で会議室まで誘導された。









「チャカ・メトラが消えた」


 そう、校長が言った。

 会議室に集まった教師達、暗部数名、騎士のトップ、生徒会メンバーは黙って続きを待った。


「外部から破壊されておった。チャカ・メトラがあそこに居る事を、一般生徒は知る筈はない。情報が漏れたとしても、あまりにも早過ぎる」


 牢屋なんて学園の至る所に有るし、もっと厳重な所だって有る。

 表向き、チャカは病気で休んでいる事になっている。

 一発で見破られ、こんなに早く知られたと言う事は、数少ない事情を知る者がやったのか、情報を漏らした事になる。


「此処に居る全ての者が容疑者じゃ」

「……それで、行方は?」


 教師の1人が問う。


「あまりの早業に、未だに分かっておらんよ。まあ、この中に容疑者が居るんじゃ。……儂等に見付からんように逃がしたんじゃろうて」


 校長が皆の顔を順に眺める。


「生徒会は、あそこに居る事は聞いていませんが」

「チャカ・メトラが捕まった事を知っている時点でアウトじゃ。知っていれば外部のスパイに探らせる事が出来る。それをするだけの時間は有った」


 会長は何も言い返せず、押し黙った。

 会議室から発せられる重々しい空気に耐えられないと言うように、窓の外の木の枝に居た小鳥達が飛び立った。

 やけに窓を叩く風の音が大きく聞こえ、うっとうしい。


「……何故こんなに早く動いたのでしょうか?」


 1人の女性教師が呟いた。

 壁にもたれ、つまらないと言わんばかりに口を尖らせ、露出の多い大胆な服装の女性教師である。良く見れば、だだの服ではなく、動きやすさ重視の高ランカー用の装備である事が分かる。

 適当にもたれているように見えて、実は全く隙がない。


(流石と言うべきかしら)


 そんな事を思うアヤメであった。


「刻印式の魔法陣じゃろうて。一応、今は解除出来んが……ここの教師が普通じゃない事は向こうも分かっておる。解除される可能性を考えたら、早めに逃がしてしまいたいのじゃろう。魔法陣の情報も渡したくないし、仲間割れも誘える。あちらさんには有り難い状況じゃのぅ」


 事実、既に教師達同士の腹の探り合いは始まっている。

 慣れていないと分からない程度に、様々な視線が飛び交い、そっとさり気なく牽制する動きも見られる。

 生徒会メンバーは気付いてないが、アヤメとツバサは気が付いているので、げんなりとしてしまう。胃に悪い。


 超が付く程の実力者がこれだけ揃っていて、その殆どが考えるより行動する方が得意な部類の人間である。

 いつ、衝突し始めるのか分からない。

 始まれば、頭に血が上って本来の目的を忘れ、相手か自分が負けるまでとことん戦い抜くだろう。

 そうなってしまえば、学園が残る事が絶望的である。


 この教師達だけで、世界征服と言う子供じみた夢が実現可能かもしれない。

 嫌だ……何か怖い……。


「おいおい、あまり先走るでない。今疑い合っても、どうにもならんわい」


 校長が、その口調には似合わない程の怒気が籠もった目で教師達を睨む。

 流石の迫力に、教師達も黙って引いた。

 校長の座は伊達ではない。

 ひと睨みで教師達を止められなければ、学園を維持する事など出来ないのだ。

 それだけの実力と実績が有るからこそ、校長として束ねる事が出来る。


 なんとか空気が緩み、知らず知らずの内に入った力を抜く。

 自覚が無くとも、本能は働くのだろう。生徒会メンバーも、少しだけ顔色が良くなった。


「無理に協力してもどうにもならんな。皆が思う通りに、全力で学園を守る事だけを指示しておく。各々の責任を忘れるな。自らが決めた事を忘れるな。少しでもその気配を見せたら……儂は容赦せん……行け」


 静かな闘気が校長から発せられる。

 しばし、会議室は静寂が支配し、皆が動き出した時には教師達の雰囲気が変わっていた。

 静かに満ちた自信と、先へ進む為の覚悟が伝わってくる。


「生徒会には、生徒達への対応を任せる。悪いが、駆け出しのひよっこには荷が重すぎる。味方から裏切り者が出ただけで立ち止まるようでは使い物にならん。少々、過大評価しておったようじゃ」

「……はい」


 有無を言わさぬ校長の雰囲気に気圧されて、ただ頷くだけしかない会長。


「アヤメ君とツバサ君、君達には少し仕事が増えるが……」

「分かっています」

「了解~」

「場慣れしとる君達は即戦力じゃからな」

「まあね……」

「あんまり慣れなくないね~」

「ははは……そうじゃのぅ」


 少し疲れたように、乾いた声で笑う校長の横顔は、少しやつれて見えた。









◇◇◇◇◇


 あれから、ドタバタと動きまわってやっと椅子でくつろげた校長は、すっかり真上まで登った月を見て、思わず力が抜ける。

 だらりと椅子にもたれ、意味も無く天井を見上げていると、こちらに向かう人の気配に気付いて校長室のドアを見詰める。


コンコン


 控え目にノックする訪問者に、確認もせずに入室を許可する校長。


「確認位、したらどうですか? 兄様」

「そうだぜ」

「気配で分かるわい。儂のかわいい妹じゃからのぅ」


 苦笑しながらシスターとナイトが部屋に入って来る。

 ドアを閉めて、結界を何重にも張っておく2人。


「厳重じゃのぅ」

「学園での事も聞いていますから」

「そうか」


 諜報活動を主に行う2人には、学園の事情も筒抜けである。

 隠す必要も無いが。


「どうした?」

「分かりましてよ」


 何の脈絡も無い会話だが、とても長い付き合いの彼らにはこれだけで理解出来るのだろう。

 シスターの言葉に、校長は笑みを浮かべる。


「早かったのぅ」

「急ぎましたから」

「それで?」

「入り口は見付かりましたが、入り方が分かりませんわ」

「触っても意味無いし、動かす事も出来ねーからな」

「魔法は?」

「解析しようにも、かなり厳重に掛けられた魔法ではじかれて不可能です。あちらを刺激しないように、早々に諦めました」

「ふむ、それが良かろう。戦いたい訳ではないからのぅ」


 困ったように小首を傾げるシスター。

 校長の判断を待っているのだろう。


「通行証でも必要かのぅ?」

「だとしたら、お手上げですね」

「姿は?」

「遠目にしか見てねーな」

「入る所は見て無いか」

「ごめんなさい。あまり近付いても良くないと思いまして」

「そうじゃのぅ」

「とりあえず、分かった事だけ報告したからな」

「うむ、引き続き頼む」


 来た時と同じように、静かに去って行く2人を見送り、1人頭を抱えて考える校長であった。



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