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チャカへの尋問

 困惑する生徒会メンバーと、固まるチャカ、それを見詰めるアヤメとツバサ。


「何っすか?」

「何、じゃないわ。まず、裏切った……〈ニーファ〉側についた理由を言いなさい」

「何の事っすか?」

「今の状態分かっているの?」

「良く分からないっすが、ここに来ただけで睨まれたっす」


 明らかに安堵の色を顔に浮かべる生徒会メンバー達。


「何故安堵する?」

「へ?」


 アヤメにギロリと睨まれた会長。


「間が悪く来ちゃっただけかと思って」

「馬鹿か? こんなちょうど良く現れる奴は居ないでしょう。信じたいのは分かるけれど、信じる時を選びなさい」

「えっと……」

「チャカ・メトラ、自分の意志で来たと言うのならば、今ここで自分の意志で動いてみなさい」

「……何故か分からないっすが、体が動かないっすね」

「まだ認めないつもり?」

「何かの魔法っすかね? 最近物騒なんで罠に掛けられたとか? 濡れ衣着せられたっすかね?」

「うふふ……良く言うわ。罠を仕掛けた人物が分からないからって、これはちょっと笑えるわ」

「面白いね~」


 基本的には、魔法陣による罠は掛けられた方には誰が仕掛けたのか分からない。

 この罠も同じで、アヤメが仕掛けたとはチャカには分からないのだ。

 それでも、ここまで失言はしていないのは素晴らしい。


「その罠、私が仕掛けたのよ」

「え!? 何のイタズラっすか? まさか君達が裏切り者っすか!?」


 その言葉に、生徒会メンバーは少し動揺する。

 無条件に、2人を信じ過ぎていたかもしれないと。


「ふふふ……その頭の回転の速さは評価してあげるわ。でも、罠に掛かった場所が悪かったわね。会議室の横の部屋なんて」


 あえて、隠し部屋とは言わないアヤメ。


「仕事を頼まれたんっす!」

「会議室を覗ける隠し部屋に行けと? そんな事頼む馬鹿は誰かしら? そこの暗部の人間、そんな仕事有りましたか?」

「バレましたか」


 屋根裏から出て来た暗部の男性に、皆驚いて一歩下がる。


「チャカ・メトラを追って来ました。あれだけ堂々と隠し部屋から出て来れば気付きますからね。先ほどの質問ですが、そんな仕事を頼んだ者は居ません。なんなら、全ての教師に聞いてみて下さい。そんな仕事頼んだとしたら、即首ですから」

「少なくとも、チャカを庇う者は居ないと言う事ね。もし、本当に頼んだ奴が居たとしても」

「はい。状況証拠だけで、チャカ・メトラは裏切り者として、危険人物とされ拘束させて頂きます。先ほどからの発言からも、そうとしか受け取れませんし」


 もし、操られているのならば、正常に話をする事は出来ない。

 ただただ、混乱するだけだ。

 言い訳も考える事が出来ない位、個人の思考回路は奪われるからだ。


 アヤメに関しては、裏切るなら既に学園は負けている。

 1人で完璧に出来るのに、わざわざバレたらまずいような犯人を作り上げる必要も無い。


 仕事に関しては、ただ墓穴を掘っただけである。

 この言い訳を引き出す為に、わざと隠し部屋と言わなかったのだから。

 罠の場所も言わなかった事も、これを誘っていたのた。


 今回の罠は連鎖式で、隠し部屋に繋がる部屋から真っ直ぐ隠し部屋に来た場合のみ発動する設定だった。

 仕掛けが作動しても、隠し部屋を出るまでは自由に行動出来る為、隠し部屋に繋がる部屋に罠が有ったと思い込む仕組みである。


 実際は、隠し部屋から会議室が見える穴の下まで来ないと発動しない。

 つまり、罠の本体が隠し部屋の隠された穴の下なので、完全にその目的の人物しか掛からないのだ。


 因みに、連鎖式の魔法陣は全て床に溶け込むように細工され、隠し部屋に繋がる部屋の隅っこに偽物の魔法陣がわざと見付かるように置かれているので、罠に気付いたら自然と隠し部屋の前の部屋で引っかかったと思い込むようになっていた。


 何重にも重ねられた罠である。

 引っかかった時点で負けなのだ。


「と、言う事なのよ」

「痕跡なら、まだ残っていると思うよ~直ぐに消えちゃうけどね~」

「仲間が今調べてますので、直ぐ分かると思います」


 作動した罠は、注意すれば気付く位に魔力の残滓を残すのだ。

 とは言っても、数分の事であるが。


「何か言う事あるかしら?」

「……無いっす」


 流石に言い逃れるのは不可能だと判断したチャカは押し黙った。


「聞いても言うつもり無いわよね?」

「無いっす」

「ツバサ、鞄取って」

「もう用意してるよ~」


 鞄から何かが入ったポーチを取り出したツバサは、にんまりと笑っている。


「縛りますか?」


 何かに気付いた暗部の人が、何故だか敬語で尋ねると、黙って頷いたアヤメ。

 どこから取り出したのか分からないが、ロープで椅子にチャカを縛り付ける。

 それはもうキツく。


「いでで!」

「うるさいわ」


 アヤメの手には、様々な太さの針。

 それを見て、漸く気付いた三年生徒会メンバーは部屋から逃げ出した。


「釘と蝋燭も有るよ~」

「何持ち歩いてるんっすか!」

「釘は修理に使えるし~蝋燭は照明代わりになるじゃん~」

「そうっすね! じゃなくて!」

「「拷問にも使えるけどね」」


 二年生徒会メンバーと、一年生徒会メンバーも逃げ出した。


 しばらく音声のみでお伝えします。


「痛いの嫌かしら?」

「嫌っす!」

「じゃあこれで~」

「ふご!? ゴボボッ! ぐぼっ!」

「言う気になった?」

「ぶへっ! 何をっすか?」


 バシャン!


「冷たい!」


 バチッ!


「アガガガッ!」

「一番弱い電流なのに~」

「ヒガッ! そんな事知るか! あれ? 止まった?」

「裏切った理由は?」

「……」

「言わないの?」

「……! いだ! 爪痛い!」

「差したからね」

「細いのだけどね~」

「あぎゃーー! 弾かないで!」

「で?」

「……」


 バチバチ!


「あーー!」


 ジュウ!


「ぎゃーー! 分かった言うから!」


 バチバチバチバチ!


「何で!」

「「嘘言われたら困るから」」

「ごめんなさいーー! 嘘言わないから止めてーー!」

「嘘ついたら……」

「分かりました!」









 終わったらしいので、皆が生徒会室に戻って来た時、ボロ雑巾のようになって椅子に縛られたままのチャカが居た。

 息絶え絶えである。

 片付けは既にされており、部屋は綺麗な状態なのが、より悲惨に見える原因かもしれない。


「流石に拷問の訓練は受けてなかったみたいね。覚悟はしてたみたいだけど」

「呆気なかったね~」


 あんた達怖いわ!

 アヤメとツバサの後ろで、尊敬の眼差しを向ける暗部の人も怖い。


「良くやるな」

「汚れ役が嫌なんて、戦の中では言ってられないのよ」

「きれい事はよそで言ってね~」


 会長の言葉は、バッサリと切り捨てられた。


「理由は、依頼だそうよ。入学した時からそのつもりだったらしいわ」

「依頼主に関しては、口止めの魔法が掛けられているから言えないみたい~名前の一文字言ったら死んじゃうし~」

「解除は不可能よ。直に体に彫られているからね」

「風紀委員長の立場を利用して、あっちこっちの情報を集めたり、間違った情報を流したりしてたみたいだよ~まあ、毎回タイミング良く現れていたりしたよね~」

「重要な場には、必ず居合わせたしね」


 すらすらと出て来る事実に、聞いている方はクラクラしてくる。

 全て計算通り踊らされていたと分かると怒りを通り過ぎて、脱力してしまう。

 しかも、途中からではなくて、最初から裏切る……ちょっと違うか……とにかく敵だったのだから尚更だ。


「あと、他にも依頼を受けて動いている奴が居るらしいわ」

「問題だらけだね~」


 それだけ、向こうは本気だと言う事であり、とっくの昔からそのつもりだったと言う事でもある。


「チャカは暗部に任せるね~」

「もちろんです。お疲れ様でした」


 軽々とチャカ(椅子ごと)を担いで立ち去った暗部の人。

 妙に清々しい笑顔であった。


「チャカ……さん……」


 シディアがショックを受けた顔で、よろよろとその場でうずくまった。

 副会長がシディアの背中をさすり、慰めている。


「そうか……最初から……か」

「信じられないよ……」


 会長とルクスは壁にもたれている。

 ゼファは皆に背を向け佇んでいる。

 一年生徒会メンバーは、最近知り合ったばかりのチャカに複雑な思いを抱いたまま壁際で見守っている。

 貴族として、ある程度の耐性が有るのか副会長、エレミア、クリスティアは以外と冷静であるが、やりきれない気持ちなのだろう。黙って俯いている。

 リーゼは警戒態勢のまま、黙ってエレミアの後ろに控えている。

 ラザックとガナンは机に腰掛けて無言を貫いている。

 ジン、ラング、ムウはその場に座り込んでいた。


 重々しい沈黙が場を包む。


 呆れたような顔で、黙って帰る支度をし始めたアヤメとツバサに続いて、皆も黙って支度を始める。

 もう、何も言う気にはなれなかった。









◇◇◇◇◇


 報告を受けた校長は、深いため息を吐きながら腕を組む。


「いくら出来が良いと言っても、学生は学生だのぅ」


 チャカに対する事で悩む事は無い。

 多少、残念に思うだけで、直ぐに頭を切り替えた。

 今はそれどころではない。

 学園の生徒全ての命が危険にさらされているのだから。

 本当の戦いを知る者は、立ち止まる事は決して無い。


「情けない。甘過ぎる」

「こら。言い過ぎだ」

「〈才希〉よ、甘やかすのは良くないと思うぞぃ」

「甘やかす? 馬鹿言うな。たかが学生に求め過ぎなのだよ」

「だからと言って、立ち止まるのを見逃すと?」

「知らん。立ち止まったまま、立ち直れずに死ぬならそれまでの事よ。我にただ人を気遣う余地はなし」

「眼中にないか……」

「左様。故に、あれらに頼るよりそなたが動くべし」


 鋭い眼光で校長を射抜く〈才希〉。


「あやつらが生きるも死ぬも預かり知らぬ所だが、我とそなたには遣るべき事が有るであろう? 遣るべき事をやれば、知らぬ間に此処の奴らも守られるだろうて。皆ではないがな」

「厳しいのぅ。相変わらず」

「無駄に悩むのは気に喰わんだけだ」

「相変わらず、強いのぅ」


 お手上げと言わんばかりに、顔の横に両手を上げる校長。


「生徒会には書類整理だけ頼むか。荒事は子供には無理そうじゃし。ようやく、儂等の出番じゃのぅ」


 そう言った校長の目は、どこか楽しそうであった。

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