裏切り者捕獲
生徒会室にて、黙々と仕事をしている生徒会メンバー達。
様々な情報に振り回されつつ、矛盾点を見付けたら即報告する。
そして、分かる者が確認していく。
間違っている、もしくは怪しい情報の出所を確かめる。
その作業を延々と続けた事で、ひとつだけ分かった事がある。
圧倒的に学園側の情報に誤りが多い。
これは、学園側に何かあると言う事だ。
疑いたくはないが、裏切り者が居る可能性が高い。
その事実に、アヤメとツバサを除いた全員がショックを受けた。
どの国にも属さず、それを許される程に中立を貫き、貫ける程の実力がある学園側にだ。
学園の暗部なら、こんな間違いをする事は無い筈なのに……。
事実、今まで間違った事は無い。
そんな学園内部に裏切り者が現れた。
「どうして……」
誰かが呟いた言葉は、皆が思っている事である。
少なくとも、暗部の中に裏切り者が居る事が分かった。
もしかしたら、教師や生徒にも居るかもしれない。
「上に報告を。多分、もう気付いているだろうけど」
「分かりました」
副会長が生徒会室から出て行った。
「全て筒抜けね」
「そうだね~」
「冷静だな」
普段通りのアヤメとツバサに、思わず会長が呟いた。
「戦の常套手段ですから」
「当たり前の事だね~」
「……いや、慌てないのだな、と」
「今更慌てても、意味ないですから」
「そんな事してる暇有るなら、犯人探さないとね~」
「……そうだな」
「表向き、普段通りにしましょう」
慌てないどころか、次にすべき事を提示してくれる2人は心強い。
「しかし、情報が頼れないと……」
「そんな時に頼れるのが……」
素早く生徒会室から出て、あっという間に戻って来たアヤメ。
「メモリーでしょ」
アヤメに抱かれたメモリーは、困ったように一声鳴いた。
「どこに居たの?」
「3つ離れた部屋に」
「見方なのか? ……と言うより、凄い早業だな」
「魔王の側近が、人間の国に見方する訳が無いでしょう」
「そうだニャア! 魔王様の見方以外の何者でもないニャア! 魔王様が手を貸すと言った国を裏切る訳無いんだニャ!」
失礼なと、会長に向かって牙を剥き出しにしたメモリー。
「はいはい分かったから。何か良い情報有るかしら?」
「残念だけど、裏切り者は分からないニャア。探偵じゃないからニャ。でも、国の情報の確認なら出来るニャ! 小さな裏道とか、噂程度の事とか、国の現状なら分かっているニャ! 古い歴史も、少しなら知っているんだニャア!」
「助かりますメモリーさん!」
すかさず食い付いた会長。
ひたすらにメモリーの前足を掴んで頭を下げ続ける。
「わ、分かったニャア! そろそろ離すニャア!」
ぱっと離れて、いつの間にか用意されていたメモリー専用のクッションが置かれた机に案内する会長。
急遽シオリが用意してくれたようだ。
すかさずシディアがお茶と茶菓子を差し出す。
「ラング、ムウ、メモリーを手伝って」
「……分かった」
「はい」
「ジンは書類を移動させて」
「はいよ!」
「はい、地図はここに置いとくね~」
テキパキと次々に指示を出すアヤメとツバサ。
「一年組、紙とペンの追加、図書館から歴史書借りて来て」
一年生徒会メンバーは、何故だか敬礼してから走り出した。
「会長、一応ギルドで話聞いた方が良いかもね~何か動きあるかも」
「む! ルクス!」
「行ってきます!」
行ってこいと指差す会長、素早く従うルクス。
「ごちゃ混ぜになるといけないし、部屋も狭くなってきたわね……間違った情報の書類を別室に運んで」
「ゼファ、ラザック、ガナン、頼んだ」
「ふむ」
「あいよー」
「分かった」
「一応、貴重な証拠だから、丁寧に扱ってね」
頷きながら、書類を抱えて隣の空き部屋に移動する3人。
「〈ニーファ〉出身は、今まで通りに確認をして。メモリーの負担を少しでも減らしてちょうだい。分からない事はメモリーに相談して」
シディア、エレミア、クリスティア、リーゼは書類と向き合う。
「会長は上と相談を」
「てか、働け~」
「すまん。見とれていた」
手慣れた様子で、テキパキと人員を動かす2人に、思わず見とれた会長。
会長は悪くないと思う。
簡単に今までの事を纏めた資料を片手に生徒会室を出て行く会長。
戻って来た副会長と共に、書類の確認を始めるアヤメとツバサ。
やはり、上も気付いていたようだ。
「とりあえず、目立つ事は出来ないし、人伝に連絡は取れないから、はい」
仕事が一段落してから、アヤメが生徒会メンバーのチーム毎に一つ、通信用魔法具を配る。
一応、メモリーにも渡しておく。
「こんな高価な物……学園で借りれば」
「副会長、学園の教師達も使うと思いますし、学園の物より性能が良いですから。無くしたり、壊しても誰がやったか直ぐに分かりますしね」
「ああ……そう」
「しかし……考えたくないが、この中に裏切り者がいたら?」
「容疑者が絞れるだけです」
「ああ、確かに」
完璧に押されている会長。
「何かに気付いたら即連絡、で構わないですよね?」
「そうだな」
皆も納得して、それぞれのリーダーが腕輪型の通信用魔法具を受け取った。
「声が出せないとか緊急時には、腕輪の横にある出っ張りを右回りに捻って押して下さい。他の魔法具を持つ人に、腕輪の石が光って知らせます」
「通信用魔法具にそんな機能あった?」
「付けました」
「え!?」
さらりと、とんでもない事を言うアヤメに、皆の視線が集まる。
魔法具の制作は、熟練の錬金術師しか出来ないし、追加で機能を付けるなんて、数少ない世界最高峰の錬金術師にも難しい。
驚くのが普通である。
そんな事は無視して、ジン、ラング、ムウには指輪型の通信用魔法具を渡す。
こちらは、追加機能は無いシンプルな通信用魔法具である。
「前に使ったでしょう? 普通の物より長距離の通信が可能だから、何か有れば直ぐに連絡しなさい」
「あと、これも~」
ツバサがイヤリングをジン、ラング、ムウに手渡した。
「いざという時に魔力を少し流せば~イヤリングが私達に居場所を密かに教えてくれるから、直ぐに移転魔法で駆け付ける事が出来るよ~自分達ではどうにもならないと思ったら使って~」
「分かった!」
「……ありがとう」
「有り難う御座います」
シンプルな銀のイヤリングを、慎重に耳に付ける3人。
「何でも有りだな」
「ん? そうかな~?」
「ああ、君達が羨ましいね」
ジン達を見ながら言う会長。
「チームの仲間だからね~それ以外は面倒見切れないし~」
そう言いながらも、十分手を貸しているのだが。
それが分かっているので、会長もそれ以上は言わない。
「さて、今日はここまでにしましょう。明日も有るし」
時計を見て、副会長が提案する。
結局、昨日と同じ時間まで仕事に追われていたのだった。
◇◇◇◇◇
翌日、授業など知るかといった感じで居眠りをする〈レジェンド〉と〈ミラージュ〉のメンバー達。
どうやっても起きない上に、くたくたのよれよれで死にかけている為、ロウも起こすのを諦めた。
学園には、遅ればせながらも〈ニーファ〉の国王の死に関する噂が流れ始め、これ以上隠す事は不可能であろうと思われる。
生徒会メンバーが働き詰めである事も、生徒達にとっては何か起きた証拠とされている。
幸いにも、パニック状態にはならなかったので、良しとする。
学園祭での騒動で、勘の良い生徒は厄介事が起きる事を想定していたようだ。
愚王もたまには役に立つものだ。
真実を確認しようにも、生徒会メンバーが疲れ果てている為、聞く事に躊躇してしまう。
自分達の為に動いてくれているにも関わらず、迷惑は掛けられないと思う生徒が多いのだ。
本当に助かる。
教師達もどこか落ち着かず、授業が終われば直ぐに会議室に向かってしまう。
大量の書類を抱えて、暗部や騎士達が出入りしているので、そこで話し合いをしているのだろう。
なので、自然と生徒達は会議室には近付かなくなった。
普段がどうであれ、教師達やその部下達が相当の手練れで、そんな者達が真剣に話し合う事態に陥っているのだ。
誰も首を突っ込みたくないのだろう。
そんな事もあり、生徒会メンバーは日中は静かに過ごせている。
周りが騒がないだけでも大いに助かる。
授業が終われば、誰かが教えてくれるので、安心して寝れる。
結果的には休んだのと同じのような気がするが、出席日数が足りないと困るので仕方ない。
一応、足りないと補修と言う名の、地獄の特訓が待っているのだから。
終わったと聞かされ、寝ぼけ眼で立ち上がった一同は、ふらふらと生徒会室に向かっていく。
◇◇◇◇◇
「もしもし~会長~」
「あと少し……」
「……会長は~何で生徒会室で寝てんのかな~おかしいな~会長権限とか言ったら殴り飛ばすね~」
「! 殺気!? 何故に!?」
「おはようございます会長~」
生徒会室に入ったら、毛布に丸まって爆睡している会長が居たので、ツバサが殺気を放って無理やり起こした。
「あ!」
「説明求めます」
起きた会長は、笑顔で見詰めるツバサとアヤメに反射的に後ずさる。
「休みました。申し訳御座いません」
「で、今まで寝てたと~? こっちは座りながら~ロウにたまに起こされながら~それでも出席だけはしたのに~」
アヤメとツバサだけでなく、後ろに居た〈レジェンド〉と〈ミラージュ〉の一同と三年生徒会メンバー、一年生徒会メンバーも会長に敵意を向けている。
よくよく周りの気配を探ると、風紀委員の皆まで敵意を滲ませている。
「申し訳御座いませんでした」
その敵意に耐えきれず、素直に頭を下げる会長。
今日の仕事が大量に会長に押し付けられたのは言うまでもなく、生徒会室を忙しく動き回っていた。
主に荷物運びなどの体力仕事である。
「この書類を隣の部屋に持って行って」
「はい」
「ゴミ捨てて来て~」
「……はい」
「図書館に返して来て下さいまし」
「……はい。多いな……誰か……」
「誰も手が空いてません!」
「はい……」
皆、容赦ない。
ひたすら走らされる会長であった。
「引っかかったわ」
黙々と作業を続けていると、突然アヤメが立ち上がった。
「どうしたの?」
副会長が尋ねる。
「先日、裏切り者が居そうな場所に罠を仕掛けておいたのよ」
「え?」
「メモリーを探しに行くふりをしてね。移転魔法が使えるのに、わざわざ走る必要無いじゃない? あれ、時間稼ぎの為の陽動だから」
「あの数分で?」
「移転魔法が有るから、それだけで十分なのよ。仕掛ける魔法は魔法陣を紙に描いたものだし」
「どこに?」
「会議室の隣の隠し部屋よ。そこだと会議室の中が丸見えなの」
呆気にとられる一同。
「捕らえに行かなきゃ……」
「誘導系だから、自分で来るわよ」
立ち上がる副会長を止めるアヤメ。
「どんな魔法なの~?」
全く驚いてない人が居た。
ツバサにはお見通しだったようだ。
「オルトロスとの戦いで使った罠を改良したやつよ」
「……それ、大丈夫~?」
「大丈夫よ。意識や感覚はそのままに、体が勝手に動くようにしたから。視界は塞がれるけどね。精神が壊れるのも防止してあるし、自殺も不可能よ」
「ある意味、前より怖いや~」
「敵にかける情けは無いわ」
「そうだね~」
怖いですよ2人共。
「なあ……スーウェン?」
「何です? 会長」
「新しい魔法じゃないか?」
「発想すら新しい魔法ですね。国から表彰されるレベルです」
「だよな……」
「全く気にしてないようですが」
「だな」
どこか遠い所を見ている会長と副会長。
感動すべきか? 呆れるべきか?
「もう直ぐ来るわよ」
その言葉を聞いて、皆の視線が扉に集中する。
何故だか、廊下の風紀委員達がどよめいている。
ガチャリと扉が開いた。
「な、何事っすか?」
現れたのは、風紀委員長のチャカ・メトラだった……。




