情報の混乱
数日後、生徒会室は静まり返っていた。
集めた情報は、あちらこちらに綻びがあり、食い違うものが多い。
殆どの情報は、学園の密偵がその足で集めたものであり、その他の情報は〈ニーファ〉出身の者からの協力で集まったものであり、その量は少なく、重要性の高いものはとても少ない。
どちらの情報も疑いたくはないが、どちらかの情報が間違っているのか、両方が間違っているのだろう。
「……少しでも違和感が有れば、小さな事でも構わないから言ってくれ」
会長の言葉に皆頷いた。
人の名前、軍の人数、内部の役職、建物の位置、過去の戦の記録等、様々な情報を細かくチェックしていき、分類別に分けた中で内容の不一致を見付け、更に情報がどこから来たのかチェックしていく。
分かる範囲で〈ニーファ〉出身の生徒会メンバーが一つ一つ内容を確認する事で、食い違う情報のどれが正しいのかを可能な限り判断していく。
「お父様が言うには……」
「前にお会いした時は……」
「こんな人居たかしら……」
「み、道が違う……かな?」
「裏情報だと……」
唸りながら確認する一同。
ひたすら紙とにらめっこしたせいで、目が赤くなっている。
「はい次!」
「次~」
何故だか〈ニーファ〉にも詳しいアヤメとツバサも確認に加わっている。
簡単な事しか分からないと言う割には、街の裏道まで知っている2人。
曰わく、『城の内部なんて知らないが、逃亡生活中に立ち寄った時に通った道位覚えている』らしい。
主に街の情報をチェックしている2人の仕事は早い早い。
「もうこんな時間!」
副会長が時計を見て驚いた。
夜11時半を過ぎている。
夕方の6時に集まって、黙々と仕事をしていたので時間の感覚が無い。
昼中は普通に授業を受けているので、疲れが溜まりに溜まっている。
明日も早いので、今日はここまでとして解散した。
◇◇◇◇◇
「眠い……」
「……休みたい」
「負けるものか……」
「「ムウ、何の戦い?」」
「限界との戦いだ……」
朝からふらふらのジン、ラング、ムウ。
明らかに働き過ぎである。
「おはよう」
「おはよ~」
そこへ、いつも通りシャキッとしているアヤメと、いつも通りのんびりとしているツバサが現れる。
何故疲れていないんだ?
清々しい笑顔が眩しい!
「大丈夫?」
「「「無理です」」」
「授業中に寝れば~?」
「それが許されるのは、ツバサだけだと思うぜ……」
「……うん」
「そうですよ」
「今日、確か薬学だから大丈夫だと思うけどな~」
あの事件以来、ロウに薬学だけは受けなくて良いと言われたジン、ラング、ムウである。
才能無し、ときっぱりと言われた。
それ以来、ロウの居ないグランドで訓練を行っているので、グランドで寝ても問題ないだろう。
いざという時は、アヤメとツバサのフォローも有るし。
「やった! 死ぬかと思った!」
「……助かった」
「有り難いです」
「今からこんな状態で、これから大丈夫なのかしら?」
「どうだろうね~」
まだまだ始まったばかりなのだが、既に限界が近い彼らに、少し不安になるアヤメとツバサ。
一応、教室でロウに許可を貰って、グランドに出て来た一同。
早くも木陰で爆睡するジン、ラング、ムウを黙って見守るアヤメとツバサ。
いやー、平和そのものである。
「平和だね~」
「そうね」
「暇だね~」
「ええ」
「おやすみ~」
「え?」
アヤメを1人残して、夢の世界に旅立ったツバサ。
どこから取り出したのか、気持ちよさそうに毛布にくるまっている。
「結局寝るのね」
仕方なく、黙って本を読み始めるアヤメであった。
しばらくこうしていると、アヤメの近くに歩み寄って来る人影が現れた。
そちらに顔を上げるアヤメ。
エレミアとクリスティアが、ばつが悪そうな顔をして立ちすくんでいた。
「どうしたの?」
「私達も寝させてちょうだい」
「と言いますか、既に寝ている者も居ますけれど」
クリスティアの視線の先には、ごろりと横になったラザックとガナン。
木にもたれて寝ているリーゼも居る。
「……」
「限界なのよ……」
「授業は?」
「寝ぼけてとんでもない物が出来てしまったので、追い出されました……」
「……そう。好きにすれば?」
「有り難く、そうさせて貰うわ」
「すみません」
リーゼの隣で木にもたれて寝るエレミアとクリスティア。
「……まあ、良いか」
深く考えない事にしたアヤメ。
静かに読書に励むアヤメであった。
◇◇◇◇◇
昼になったので、とりあえず皆をたたき起こしたアヤメ。
現在、食堂で昼食を取っている。
「結局、アヤメ以外爆睡したんだな」
「私はいつもの事だよ~」
「……そうだった」
「そうでした」
ツバサが授業中に寝るのは、今始まった事ではない。
むしろ、当たり前の事である。
横に長い長方形のテーブルに、ジン、ラング、ムウ、アヤメ、ツバサの順で座り、反対側にラザック、ガナン、リーゼ、エレミア、クリスティアの順に座っている。
順番はその時の気分で変わるが、最近はこのメンバーで食事をする事が多い。
「おかげでスッキリしたな」
「……うん」
「そうだな」
「俺、いつ寝たんだ?」
「覚えてないな」
ラザックとガナンは、寝た記憶すら無いらしい。
「木陰で寝るのも、意外と気持ち良いものですわね」
「そうですね」
「ちょっと、体痛いかも」
お気に召したらしいエレミアとクリスティア。
リーゼは少し体が痛いらしい。
「それは良かったことで」
唯一寝ていないアヤメは、呆れ顔になっている。
「眠くないのかしら?」
「別に、これ位なら平気よ」
「そうですか」
周りに不思議がられるアヤメ。
「そんなに不思議かしら?」
皆一斉に頷いた。
「あ! そう言えば、ロウ先生が午後は教室に集まるようにって言ってました」
「ん~何でか分かる? クリス」
「対抗戦について、だそうです」
「またやるんだ~」
「実力テストや、実践の練習を兼ねたイベントらしいです」
「頑張ってね~」
全くやる気の無いツバサ。
「そんなに死傷者出したいのかしら?」
「あ、アヤメ、怖いですわよ。冗談に聞こえませんわ」
「「いや、冗談抜きで」」
見事にハモったアヤメとツバサ。
エレミアの顔が引きつる。
食べ終わった一同は、いろんな意味で恐怖を感じながら教室に向かった。
◇◇◇◇◇
教室にて、簡単な説明をし終わったロウが教室を見渡した。
寝ているから聞いてないツバサを除いたクラスの皆は、去年の事を思い出して仲間と話し合っている。
「先生、私達不参加で」
ロウと目があったので、ちゃんと立ち上がって宣言するアヤメ。
「拒否権は――」
「死人が出ますよ? 私達のランクをお忘れですか? 今更、意味無いと思われますが? 他に、Aランカー以上で固められたチームでも有りましたか? と言うより、先生が一番分かっていらっしゃると思いましたが?」
「――認める」
アヤメとツバサに完敗したロウは、認めるしかなかった。
実際、この学年の中でも強者を集めたクラスの中で、〈レジェンド〉の次に実力がある〈ミラージュ〉でさえ、5人共最近Bランカーになったばかりなのだ。
一方的な試合にしかならず、何の意味も無いだろう。
それは、〈レジェンド〉の実力を知っている〈ミラージュ〉の一同も分かっている事である。
それが分かっているので、彼らも戦いたくないのだ。
彼らの目にも、「止めてくれ」と書いてある。
Sランカーが居る時点で、有り得ない話なのに、4人もSランカーで、1人がAランカーだなんて、平均的にもチームのランクはSであり、その辺の軍隊よりも遥かに強いのだ。
笑えない冗談である。
魔王だって逃げるだろう。……いや、実際怖がっていたか。
「命拾いしたわね」
いざという時は止めなければいけない立場であるロウに、にこやかに話し掛けるアヤメに、無言で頷いたロウ。
こうして、人知れず学園の危機は去ったのであった……。
◇◇◇◇◇
対抗戦を辞退したので、教室から出る許可を貰い再びグランドにやってきた一同。
眠気は覚めたので、普通に訓練に励む事にする。
「丸く丸く丸く……」
「圧縮……」
ジンとムウは、アヤメに教えて貰った魔法の弾丸の作成に励み、ラングは今教えて貰っている。
それを黙って見ていたツバサは、おもむろに口を開く。
「理解出来てるの~?」
「「「全然!」」」
「ごめんなさい。教え方が悪くて……」
分かっていなかったらしい。
「ふむ。口で言っても分からないと思うんだ~」
そう言って、どこから出したのかタオルを手にするツバサ。
「今の君達の魔法を形にすると……」
ばっとタオルを広げるツバサ。
「こうやって広がった状態で、これを投げられたら?」
「? 痛くない?」
「……ひらひらしてて、投げても遅いから避けやすい」
「かなり不安定です。風に煽られるかもしれません」
「そうそう。だけど、こうやって……」
適当にタオルを丸めるツバサ。
「丸くしたら?」
「あ! 意外と痛い」
「……勢い良く飛ぶから、反応が間に合わないかもしれない」
「風に吹き飛ばされる事も少なくなりますね」
「ね? こうやって丸めるだけだよ~あまり難しく考えなくて良いよ~」
「「「なるほど」」」
「だけどね? こうして……」
今度は、タオルを綺麗に畳みながらきつく丸めるツバサ。
「こうやって、綺麗に丸める方が威力が上がるよ~魔力も同じように、丁寧に操った方が良いって事だね~。で、この中に衝撃によって爆発する物……火種が入っていたら、ぶつかった衝撃と火種の発火で威力が更に上がるよね~ぶつかる威力が高ければ高い程、火種は勢い良く燃え上がる訳で、勢い良く燃え上がる火種は?」
「暴走する?」
「その火種が、とても燃えやすい……天然ガスだったら?」
「爆発する!」
「そういう事~衝撃で爆発する物を仕込んだ魔力の塊、つまり、二段構えの構造って事~外側の殻と、中に詰め込んだ魔力」
「ああ! そっか!」
「……なんとなく分かった」
「やってみます」
ようやく理解出来たようだ。
「教え方が上手いわね」
「ん~アヤメは見せただけでしょ~? 見ただけで分かる方が少ないと思うよ~この世界に無い考え方だしね~」
弾丸と言っても、この世界に有るのは投石器位なので、何かに火薬を詰めると言う考えは無いのだ。
この世界で弾丸と言えば、勢い良く飛んでいく石や岩の事である。
アヤメとツバサの知識は、神として様々な世界を知っているが故のものであり、この世界では画期的な発明とされる。
分かる筈が無いのだ。
「私達の価値観で考えたら駄目だったわね……。私達は、教えられる事も無く見ただけで理解出来るのが当たり前だから、それに気付かなかったわ」
「まあね~」
全ての原点である神には、見て分からない事が無いので、見せれば分かるだろうと考えてしまうものだ。
癖だと言っても良い。
「とは言え、私は教えてきた立場だから、教える事にも慣れているよ~」
「そうだったわね」
ツバサ――真王は神を作った存在でもある為、教える事も多かった。
逆に、教えられる方は教える事が無かった為に不慣れである。
年の功と言うやつだろうか?
「上達するかな~?」
「大丈夫でしょう」
ぶつぶつ呟いているジンとムウ。
精霊にイメージを伝える事に集中しているラング。
そんな3人を微笑ましく見守るアヤメとツバサであった……。




