光に迫る影
新学年に上がって早1ヶ月、皆はクラスに馴染み、いつもと変わらぬ平和で何も無い日々を送っていた。
生徒会では、新たに一年生メンバーが加わり、賑やかになっている。
新たに増えたのは、あの豪華な武器を持つ5人組である。
〈ニーファ〉から逃げてきた人々も、学園で働きながら、少しずつ今の生活に慣れてきたようだ。
〈ニーファ〉の出身である学生は、時間を見つけては話し合いを続けている。
時折、国に居る家族と情報の交換をしているようだ。
学園の費用面は、教師達がなんとかカバー出来ている。
昔作ったコネが役にたっているらしい。
因みに、何気に魔王も援助してくれていたりする。
今日も普通に授業が終わり、生徒会室で仕事をしていた一同。
新たに加わった5人は、仕事の量でくたばりかけているが、だからといって仕事が無くなる訳もなく、先輩達皆に励まされつつ働いていた。
チーム名は〈グランツ〉。
リーダーは、存在感有るロング・ソードを持つ、金髪黒目のアオイ・サカキ。背は高いが細身の青年で、〈トウゴク〉出身である。漢字だと、榊葵である。
美しい装飾の長い杖を持つ、シオリ・ウスイ。普段は高い位置で纏めてある黒い髪は、艶やかで癖が無い。優しげな栗色の瞳が愛くるしい。アオイの幼なじみで、漢字で書くと、臼井栞。皆を後ろから見守るお姉さん的存在。
金色の槍で敵陣に突っ込むのは、〈フラウニア〉出身のゴート・ハーデント。茶髪に青い瞳。常に元気いっぱいである。
〈ガイス〉出身の双子、フリクとティーネ。家名はレヴァン。フリクは少し問題児であり、毎回ティーネが振り回されつつ問題を解決して回る。フリクが兄、ティーネが妹だが、双子なので2人はあまり気にしていないようだ。2人共、焦げ茶の髪と緑色の眼である。フリクがチャクラムを、ティーネが弓を扱う。
個性豊かな後輩と、こちらも個性豊かな先輩達は仲良くやれている。
「ティーネ、フリクはどこへ?」
「書類を届けに……って、忘れて行ったみたいです。今持って行きますね」
「ティーネ! 書類忘れた!」
「ここに有りますよ」
「笑顔怖いし! 嫁に行けねーぞ!」
「フ~リ~ク~!」
ケラケラと笑うフリクである。
全く悪びれていない。
「元気ですね。良い事です」
「そうだね~」
のんきに眺めるシオリとツバサ。
しかし、手は休めていない。
「ジン、ゴート、字が汚いわ。書き直してちょうだい」
「アヤメ、諦めてくれ」
「先輩、生まれつきです」
「……読めないけど?」
「時間が無いんだ! それが悪いんだ!」
「ジン先輩の言う通りです!」
「……アオイ、任せるわね」
「はい。……ある意味芸術的だ」
急いで書くと、一般人には理解出来ない字になるジンとゴート。
微妙な気持ちになるアオイである。
「……」
「……」
無言で書類を確認しているラングとムウは、少し目が赤くなっている。
ヴァルカン達三年の役員も、〈ミラージュ〉の一同も黙々と作業を続けている。
紙の束に埋もれながら。
そんな感じで忙しく働いていた生徒会メンバーの所に、何故だか慌てて駆け込んできたチャカ。
「み、皆、大変っす! 大変なんっす!」
「大変しか伝わって来ないけど?」
慌てふためいて大変だと叫びまくるチャカに、副会長が呆れ顔で指摘する。
「悪いっす! 一言で言うと、〈ニーファ〉の王が亡くなったっす!」
静まり返った生徒会室。
「……何で?」
「とりあえず、会議室に集まるっす!」
会長が問うが、またもや慌てて部屋から出て行ってしまうチャカ。
人を集めているらしい。
生徒会メンバーは、少し遅れて反応し、慌てて会議室に向かう。
一番大きな会議室に、〈ニーファ〉出身の生徒と避難民が集まった。
校長、暗部と騎士のトップも居り、生徒会メンバーも静かに座っている。
皆が集まったのを確認して、校長が重々しく口を開いた。
「スヴェート・セティ・ニーファ国王陛下が亡くなり、まだ年若いフェリス殿下が国王となる事が決定した。この事は直ぐに他国も知る事だろう。しかし、〈ニーファ〉の者、そして関わる事が多い者には、知らなければならない事がある」
「校長、生徒会が知る必要が有りますか? 関わると言っても、学園としてであり、深く関わる事は有りませんが」
会長が静かに尋ねる。
生徒会メンバーの中には、〈ニーファ〉に関わりが無い者も居るからだ。
「今は無いが、これからが必要になるのじゃよ。生徒会は学園の代表、つまり、他国と関わる事が多い。知らぬでは、対応出来んからなぁ……」
何やら面倒な事になりそうだ。
「良いかの? まず、スヴェート陛下は、暗殺されたのじゃよ。魔物による事件に見せかけて、殺害されたのじゃ。考えにくいが、他国からの刺客の可能性も捨てきれんからのぅ……他国の者と接する機会が多い生徒会には、注意してもらいたい」
あまりの事に誰も口が開けない。
「次に懸念されるのは……国内の犯行じゃな。可能性は高い。じゃが、国内だけで終わるとは思えん。此処には、中立とは言え避難民をかくまっておる。難癖付けられてもおかしくない。既に、隣国の〈フラウニア〉には、疑いの目が向いておる」
どちらにせよ、無関係ではいられないらしい。
「生徒会メンバーの抜粋基準は、実力が有る事じゃ。多少の荒事にも対処してもらう必要が有る。一人一人が、それだけの力を持っている筈じゃ」
そんな事を言われても、学生に変わりがないのが事実である。
無茶だとしか思えない。
「なに、ちょっとした使い走りじゃよ」
「どのような?」
「伝令や、時間稼ぎじゃな。チャカがやっとったじゃろ?」
「伝令はともかく、時間稼ぎは無理です」
「なぁに、弱い下っ端を足止めするだけで良いぞぃ!」
「基準が分からないから怖いんです!」
「大丈夫、大丈夫じゃ」
朗らかに笑う校長。
「で、じゃな……風紀委員も使って良いぞぃ!」
「有り難く使わせて頂きます!」
勿論ですとも!
扉の向こうで、生徒が近寄らないように見張っているチャカが震え上がった。
誰も気が付かないが。
「〈ニーファ〉の者達、悪いが内部情報を教えて貰いたい。噂程度で構わん」
校長に言われて、困惑する〈ニーファ〉出身の者達。
校長の方が情報を沢山持っているので、何を言えば良いのか分からない。
そもそも、何故校長が内部情報を知りたがるのかが分からない。
国に関わる気が無い限り、必要無い筈なのだから。
「これは推測じゃが、学園として対処して終わるとは思えん。儂個人として、対処する必要が有るかもしれん。学園の教師達も元勇者として、動く必要が有るかもしれんのじゃ」
元勇者として……その意味に気が付いた者は息を飲む。
分からない者は困惑したまま、場の空気から問う事が出来ず、固まったままだ。
唯一、何事にも動じないアヤメとツバサのみ、普通に聞き流している。何を今更と言う顔をして。
「それだけの大事に?」
ただそれだけ、会長が問う。
会長もただの学生ではない。
知る者こそ少ないが、化け物揃いの生徒会に属し、それを束ねる者として、それなりに修羅場を経験してきた者である。
生徒会は、そういった者達、あるいはこれから何かを乗り越える事が出来るだけの実力が有る者達が、自然と集まる場所でもあるのだ。
その会長が、少ない情報から何かを察する事など、容易な事である。
「そうじゃ。前々から思わなんだが? スヴェート陛下が国王に相応しいとは思えない、と」
「分かり易すぎる、とは」
皆も頷いた。
交渉事にも、武術にも疎く、愚王の象徴のようにやりたい放題では、いくら前王の子が居なくとも、王として在り続ける事など出来ない。
いくらでも、反発は有る筈なのに、何故だか表には出ない。王が凄腕で有るならばもみ消す事が出来るかもしれないが、スヴェートに出来るとは思えない。
「貴族からも、反発する者は居ましたが……」
副会長が躊躇いながらも口を開く。
「難なく跳ね返されました。全て的確で、反論の余地の無い答えで。スヴェート陛下を引きずり下ろす為には、国の現状だけでは無理ですし、それなりの理由から決められた事に、ただ小さな領地を任されているだけの私達では、無闇に反論は出来ない。国と領地では、そもそもの基準が違い過ぎますから」
「それは、陛下が言った事かのぅ?」
「確か、書簡には、陛下の名前と印が有りました」
「書簡には、か……」
「陛下の考えだと、裏付ける物は有りませんが、それを指摘するのは……」
「無理じゃな」
不敬だと、処罰されて終わりだろう。
「きな臭いのぅ」
「そうですね……」
「ところで、フェリス殿下はどのようなお方なのじゃ?」
「良くも悪くも、父親似です」
「……何故継ぐ事になったんじゃ」
「ですよね……法家が見限り、国に不干渉になったので、反対はされないと思いますが……継がせる意味が分かりません」
使えない上に、民の支持も得られそうにないのだが。
「操り人形かのぅ……」
「だとしても……」
分かり易すぎる。
「国を壊したいとしか、思えんなぁ」
「はい……」
「あのー……」
1人の女子生徒が手を上げた。
「どうした?」
「私の家は、代々城に仕える庭師なのですが、城に建国当時から有る大樹が有りまして、その大樹に関して庭師の間で語り継がれる事に、もしかしたら関係あるのかなと思いまして」
「大樹?」
「一応、大樹の名前は機密事項で……」
「構わん。言い伝えを聞く事は出来るのかのぅ?」
「はい。特に箝口令は敷かれていませんから、大丈夫だと思います」
既に罰せられる事を心配する必要は無いのだが、やはり抵抗があるらしい。
「確か、“国傾く時、大樹は枯れ、大樹枯れる時、大地は衰える”が大樹に関して伝わる事です」
「国を壊せば、大地に影響が、か……」
「あの!」
「ん?」
避難民の男性が手を上げた。
「遺跡を調査する事を趣味にしていたのですが、遺跡には“世界が血にまみれ、数多の命消える時、大いなる大樹は枯れ、大地の力は失われ、国は破滅に向かう”と、国の遺跡には書かれ、国より古い遺跡には“清き大樹、清き生き物守り守られる”“清き大樹枯れる時、世界のバランスは崩れるだろう”と」
「国や世界とは、今の〈ニーファ〉の事なのかのぅ?」
「前者はそうでしょうが、後者は違うと思います。この前の魔物の大侵略、関係が有るような気がしますので。あと、力は魔力だと思います」
「ふむ……」
「あ、あの」
「なんじゃ?」
1人の男子生徒が手を上げた。
「農民の出ですが……良いですかね? 場違いですかね?」
「構わん構わん」
「そうですか? あ、あの、土を触っていると魔力を感じます。ここら辺りの土だとあまり感じませんが、〈ニーファ〉のは分かるんです。多分、長年触っていると分かるんだと思います。それが、父さん曰わく少しずつ弱っていると」
「魔力が、かのぅ?」
「はい。実際、生えない筈の魔力抵抗が低い雑草が生えたり、成長に魔力を必要とする草が枯れたりしてます」
「ほう……」
だんだん、何かが見えてきた。
「魔力が少ないと、精霊が弱るわよ」
おもむろにアヤメが口を開く。
「魔力が多いと精霊も多くなるから、土地も安定して、環境も安定する。それは、世界も同じ事。けど、いきなり数が減れば、世界の調節をする精霊が足りなくなり、世界のバランスがどこかおかしくなるわね」
「魔力から生まれるのが精霊で~魔力を自ら作れるのは上級精霊位だね~その大樹、精霊を生み出す、または維持する役割が有るのかもね~」
汚れた国、大樹、大地、精霊、様々な異変……繋がってない方がおかしい。
「ん?」
「どうした?」
校長の後ろに居た暗部のトップが何かを思い出したようだ。
「〈レッドエリア〉を抜きにして、他の国にも同じように魔力を生み出す何かが有ります。大樹ではないのですが」
「本当か!?」
「大樹程の影響力は無いですが、森の中の湖の言い伝えや、不思議と魔力を放つ大岩や、魔力濃度が濃い土地が有ります」
「場所は?」
「残念ですが、はっきりとは分かってません」
「大岩は、〈ガイス〉の事だな」
ジンが断言する。
「言い伝えで聞いた。大分前……大戦争が終わって直ぐに壊されたらしい。その後、〈ガイス〉では魔力が枯渇したらしいぜ。今も異常な程に少ないしな」
「何じゃと!?」
「あの国が魔法に頼らないのは、その為らしいぜ」
「「聞いた事有ります」」
フリクとティーネも頷く。
「なんと……まだ決まった訳ではないが……まさか……」
それが狙いなのかもしれない。




