授業はどうなった!?
手がつけられなくなったドラゴンもどきは、アヤメが捕まえ、ツバサが頭を殴って気絶させ、檻に戻した。
息絶え絶えのロウを引きずり、教室に戻る一同。
餌なんて、やれる訳がない。
遊びなんて、もってのほかである。
教室に戻って直ぐに、ロウは生徒達に囲まれる。
「先生、どうしてああなった?」
「……俺は詳しく知らん。ただ、誰かがドラゴンもどきの実験をした結果、ああなったらしい」
ジンの質問に、ようやく息が整ったロウが答える。
「なんでも、ドラゴンもどきをドラゴンに戻す実験らしい」
「何でそんな実験?」
「名前にドラゴンとあるのに、あまりにも温厚で、らしくないから、らしい」
「……」
何だそれ?
「校長かしら?」
「……多分」
「もしくは、校長と同じ考え方をする、面倒な人かな~?」
「ですね」
一斉に頷いたクラス一同。
「先生、責任がそちらに有るのだし、先生方が世話するのが筋ではなくて?」
エレミアの言葉に、またもや一斉に頷いたクラス一同。
珍しく、クラスが纏まっている。
「……いや、しかし――」
「お願い、出来ますわね?」
「……」
「出来るわよね?」
「出来るよね~?」
「……はい。話を通しておきます」
エレミアに見つめられ、目線を外すと今度はアヤメとツバサに見つめられたロウ、あまりの迫力にこくりと頷いた。
クラス一同は、歓喜の声を上げ、近くの者と笑い合い、突っつき合う。
「授業と言う名の、公開処刑みたいな事になったな……」
「……ジン、空気読んで」
「今は言うな」
「……おう。素直に喜んでおくぜ」
ジン、ラング、ムウは、複雑な心境になりながら、静かに喜び合う。
ロウとクラス一同の温度差が、凄まじい事になっている。
「今日は自習だ!」
そう言って、教室から飛び出して行ってしまったロウ。
因みに、誰も追わない。
「で?」
自習と言う事で、グランドに集まった〈レジェンド〉一同と、何故だか付いて来た〈ミラージュ〉一同。
ジンが、何で来たんだと言う目でエレミアを見る。
「で? って何よ? 不満かしら?」
「エレミア、あまり突っかからない方が良いわよ?」
「クリス、突っかかってなくてよ」
「はぁ……」
「何ですの!? 何で溜め息を吐くのですの!?」
(ジンにしか突っかからない事に、気付いてないのでしょうか?)
「何で哀れみの目で見ますの!?」
「お気になさらず。ふふふ」
(う……クリスには勝てませんわ……)
良い性格してますねクリスティア。
「ま、まあ、良いですわ! 私達も訓練をしようと思いましたの。そうしたら、あなた達を見かけたから、ちょうど良いと思いましたのよ」
「何がさ?」
「合同訓練ですわよ!」
ジンとしては、アヤメとツバサからいろいろと学びたいので、正直断りたいと思っているが、エレミアの気迫に気後れしてしまっている。
ジンの後ろからは、上手くいかない状況にイライラして、少々殺気を放ちながら黙っているムウから、無言の断れオーラが吹きすさんでいる。
ラングは、そんなムウを宥めるのに必死になっている。
「駄目かな?」
「良いだろ?」
「お手合わせ願いたい」
リーゼ、ラザック、ガナンからも頼まれてしまい、どうしたら良いのか分からず、救いを求めてアヤメとツバサを見るジン。
頼り過ぎている自覚は有るが、こんな時にちゃんと対応するスキルが皆無であるジンには、どうしようもない。
下手に対応したら、何やら拙い状況にしてしまう自信が有るジンであった。
「たまには違う人と手合わせするのも、新しい発見が有るかもね」
「行き詰まったら、息抜きも必要だとは思うよ~」
「やり抜く事で得るものも、有るけどね」
「あえて自分を追い詰める事で、何か掴めるかもしれないけどね~」
つまり、自分で考えろと言う事だ。
当たり前である。
それでも悩むジン。
仕方ないと言わんばかりに、アヤメが何か言おうとしたが、ツバサが急に何かを閃いたようで、口を開く。
「! そうだ! 私達だとあまりにも無駄が無さ過ぎて、逆に勉強にならないかもしれないし~今度はエミーとクリスの攻撃を避けてみたら~? 意外な事が起きて何か得られるかもね~狙いが定まっていないからこそさ~」
「ナイスよツバサ。エレミアとクリスティア、それとラングの魔法を避ける訓練をしましょう」
「避ける訓練?」
リーゼが不思議そうに首を傾げる。
今更、避ける必要が有るのだろうかと、顔に書いてある。
エレミアとクリスティア、ラザックとガナンも首を傾げている。
「避けてしまった方が良い攻撃や、とっさの判断に役立つのよ」
「気配察知にもね~」
納得した〈ミラージュ〉一同。
「リーゼ、ラザック、ガナンも加われば良いわ。今後、見知らぬチームと突然組む事になるかもしれないし」
「その前に、ある程度知っている人と組んでみる方が良いかもね~」
リーゼ、ラザック、ガナンは、やる気に満ちた目で頷いた。
ジンとムウも、訓練の根本的な部分は変わらないので、納得したようだ。
そして、ジンが今一番気になる事を尋ねる。
「アヤメとツバサは?」
「いざという時の為の監督役よ」
ちょっとホッとしたジン。
皆も同じ気持ちらしい。
皆、思い思いに体をほぐし、バラバラに散ってスタンバイする。
ツバサがおもむろに取り出したコインを投げ、くるくる回転しながら落ちるコインを凝視するラザックとガナン。
ジンとムウは精神を集中させ、エレミアとクリスティア、ラングの魔力の動きに注目している。
コインが地面に落ちた瞬間、エレミアが無詠唱の光線を放ち、狙われたムウは半歩下がって避ける。
ムウの後ろに居たラザックは、コインに気を取られ反応が遅れるが、なりふり構わず横に転がって避けた。流石野生の勘!
「あっぶねぇ!」
休む間もなく、ラングの風玉がガナンに向かって飛ばされ、当たってはならない状況に慣れないガナンは、反射的に殴ろうとしたが、風玉の威力が高い事に気付いて、後ろに大きく下がる事でなんとか避ける事が出来た。
そのまま風玉は、大勢が崩れたラザックに向かうが、四つん這いの状態でカエルのように跳び、避けた。
地面に当たった風玉が、地面に小さなクレーターを作る。
当たれば大怪我をしていただろう。
「容赦ないのだな」
「……手加減はギリギリに」
アヤメとツバサがやった事を、そのままやったに過ぎないのだが、そんな事知らないラザックとガナンは青くなる。
リーゼはただただ無言である。
普段と実戦では、雰囲気が全く違う。
リーゼは裏の名家の出故、意識を切り替える事を無意識に覚えているのだ。
流石と言うべきだろう。
「放たれるは 糸の如き矢」
クリスティアが、細い水の矢を無数にランダムに放ち、エレミアが光線の乱れ打ちを始める。
ジンは奇妙な動きで避け、奇妙な悲鳴を上げて走り回り、何気に周りの人の後ろに隠れて回る。腕を掠めた光線を無視して、横から来た風玉を避ける。
最小限の動きで避けるムウは、しかし、予想外の所から現れた風玉を避けるべく、転がりながら移動、直ぐに体制を整えようとしたが、立ち上がった所に飛んできた水の矢がこめかみを掠めた。
リーゼは素早い動きで、難なく避け続ける。ほとんど動きに無駄が無い。
風玉の風圧に顔をしかめ、体を横向にしながら風を受け流す中、足元に放たれた光線を、少し横にずれる事で回避する。
余裕そうに見えるが、こめかみにうっすらと汗が浮かんでいる事から、あまり余裕は無いようだ。
雄叫びを上げながら、野生の獣のようにでたらめな動きで避け続けるラザック。
勘に任せて体を動かしている。
矢も光線もギリギリで避け、少しだけ掠りながらも、薄笑いを浮かべたまま、跳んだり、転がったり、四つん這いになったりしながら避ける。
風玉を避けるのは難しいらしく、すれすれで避けた後、気力で風圧に打ち勝っている。実は何発か当たっているが、弾き飛ばされた後獣のように跳ね起き、楽しげに自ら魔法が飛び交う中に飛び込んでいる。
避ける事に慣れないガナンは、とりあえずラザックを真似て、なりふり構わず避ける事にしたようだ。
考える事を放棄したので、さっきのような失態も無く、無難に避け続ける。
当たった魔法は気合いで乗り越え、ひたすら目の前の事に集中する。
危なっかしい動きに、少し冷や冷やしてしまう。
「ガナンは壁役が適任だね~」
「そうね。駄目だと思ったら、当たっても被害が少ないように受け流してるし」
「先回りは出来るみたいだからね~無理に避ける事を覚える必要無いかな~?」
「勘を鍛えるのは必要だけどね」
ガナンの打たれ強さに感心する2人。
「ラザックは……獣だね~」
「そうね……」
ラザックには呆れているようだ。
良い意味で。
「リーちゃんは、流石だね~」
「まあ、名家の出だし」
リーゼの事は、素直に感心している。
「エミーとクリス、魔法を放つ速度が上がったよね~?」
「魔力量も、僅かに上がったわね」
「ラングは、風玉位なら無詠唱で威力や速度が調節出来るようになったね~風の刃も出来るかもね~」
「精霊との仲が深まったのかしら?」
「魔法に慣れたんじゃないかな~?」
「ああ、なる程ね」
魔法に関しても、一応チェックしておく2人。
その辺の教師より、頼りになる。
エレミア、クリスティアがランダムに魔法を放ち、ラングが的確に隙を狙いすまして魔法を放つ。
威力を捨て、素早さと魔力の節約に徹する事にしたのか、3人共無詠唱である。
ラングはともかく、エレミアとクリスティアは無詠唱では大分威力が落ち、簡単な魔法のみになっているが、それを補う量の魔法が放たれる。
狙いも雑だが、纏まった的を囲んでいるので問題ない。
ラングは、精霊にイメージを伝える事に集中し、狙いは精霊に任せているので、風玉位の簡単な魔法なら外す事は無い。とにかく魔法の種類と威力を伝え、魔力で精霊と繋がっていれば良い。
ジンとラザックは意外と楽しそうに、なりふり構う事なく、馬鹿みたいに走り回っている。
2人は頭で考える方ではないので、とうの昔に思考を放棄し、思い切り逃げ回る事にしたらしい。
馬鹿みたいに打たれ強いので、吹き飛ばされても、ずっこけても、お互いにぶつかっても、元気良く逃げ回っている。
ある意味凄い。
ムウは、そんなジンとラザックに呆れながらも、何かを掴んだのか、先ほどよりは上手い事避けられている。
無駄に動く事がないので、体力的にはまだまだ余裕が有りそうだ。
リーゼは慣れたもので、ひょいひょい避けながら、走り回るジンとラザックを鬱陶しいと言わんばかりに睨んでいる。
時折、ジンとラザックを足場にして飛び上がったり、壁役にしたりしている。
小柄故、風圧には弱いので、たまにバランスを崩しているので、少し疲れが溜まっているようだ。
ガナンは……いつの間にか、我慢比べになっている。
どれだけ魔法に耐えられるか、どれだけ体力が持つか、どれだけ気力を振り絞る事が出来るのかと、自分自身に挑戦しているようだ。
流石、壁役!
凄いけど、地味だ!
ラング、エレミア、クリスティアの魔力と精神力が切れるまでこの光景は続いた。




