ドッジボールって怖いよね
飛び交う雷球と、危なっかしく避け続けるジン、ラング、ムウ。
アヤメとツバサは、高速であちらこちらに走り回っているので、姿は見えない。
しゃがんだり、跳んだり、転がったり、のけぞったり、走りつづけたりして、ギリギリで回避し続ける。
死に物狂いで。
「足!」
「……頑張れ」
「……」
ついに、ジンが限界に達して、足を挫いて転倒したが、ラングとムウも自分の事で手一杯である。
ムウなんて、ずっと無言である。
ちょっと、顔が怖い。
「ぬわー! まだ、手が残ってる!」
とりあえず、手を使ってゴロゴロと転がるジン。器用だ。
ちょっと、ホラーだが。
「……ひゃ!」
真後ろから来た雷球を、勘のみで避けてみせるラング。
一番、避けるのが上手い。
「……」
ところどころ焦げたムウ。
考える癖が、まだまだ抜けないようで、時折体が硬直する。
「休憩にする?」
「お昼だし~?」
ちゃんと雷球をキャッチして、くたくたになった3人に尋ねるアヤメとツバサ。
「おう……」
「……お願い」
「はい……」
「分かったわ」
「了解~」
バチッと音を立て、雷球を消したアヤメとツバサ。
どうなっているのか気になるが、聞いても理解出来そうにないので、気にしない事にしたジン。
ラングとムウは、気にする余裕も無いらしい。
治癒魔法で表面上だけ回復して、食堂に向かう一同。
グランドが荒れてるが、気にしない気にしない!
◇◇◇◇◇
「頭で考える必要は無いわよ」
「勘で戦うのは、昔やれてたんじゃないかな~?」
「力をつけると、どうしても見失いがちになるけど、手探りで戦っていた時は、勘だけが頼りだった筈よ?」
「頭で考えるのは戦略~戦うのは磨き上げた勘が一番頼りになるよ~」
食堂にて、頭を抱えて悩むムウに、簡単そうに説明するアヤメとツバサ。
考えるなと言われて、考えないのは難しいと思うのだが。
結局、更に悩むムウ。
「とう!」
「……させない」
ラングのおかずを狙うジンだが、勘が良いラングに阻止される。
「あんな感じ?」
「多分、あんな感じ~?」
「……」
それを指差すアヤメとツバサ。
更に更に悩むムウ。
「こう、ヒヤッとしたり、ゾクッとしたら身構えるでしょう?」
「はい」
「それを、身構えるんじゃなくて~回避する方に持っていくの~」
「固まったら、絶好の的だしね」
「出来ていたけど出来なくなったんじゃなくて~しなくなったんだよ~」
「ある程度なら、防御出来る技術と実力が備わったから、ね」
「接近戦なら、それで良いかもしれないけど~実力有るし~。でも、遠距離攻撃には通じないのは、さっき分かったよね~?」
「はい」
説明に苦労しながら、身振り手振りで説明するアヤメとツバサ。
本当なら、実戦で覚えて欲しいのだが、今の状態だと、理解する前に危険に晒される可能性が高い。
頭が良いと時には厄介なもので、なかなか上手くいかないものだと、しみじみと感じるアヤメとツバサ。
アヤメとツバサも頭が良いが、次元が違い過ぎて、逆に分からないのだ。
ムウの対処法が。
「まあ、死にかければ分かるかも?」
「いっそ一回……」
待て待て待て!
「駄目だろ!」
「……待った!」
ジンとラングがとっさに止めた。
「「は!? ごめん。私達がそうだったからつい」」
「そうだったの!?」
神族である2人が、そんな経験が有ってもおかしくはないが、知らない者からすると、仰天カミングアウトである。
「そうだ!」
音無く消えたアヤメ。
「気付いたら合格ね~」
にっこり笑うツバサ。
何も話し合いをせずに、行動ひとつで分かり合えるのは流石だ。
「……ひい!」
突然後ろを向いて、槍を構えるラング。
その槍に、細い針が当たり、弾かれる。
針が飛んできた先には、音と気配を消したアヤメが居た。
ラングの反応に、満足げに頷いたアヤメとツバサ。
「どうして反応出来た~?」
「……分かんない……とっさに体が動いたから」
「何か感じた~?」
「……首筋がむず痒く?」
「合格~」
わずかな敵意に、本能的に危機感を感じて防げたようだ。
もちろん、アヤメは本気で気配を消したりしていない。本気なら、知らぬ間に死んでいるだろう。
ラングがギリギリで感じられる程の、敵意にも程遠い、当てると言う意思だけを目線に込め、首目掛けて投げたのだ。
針は、刺さらないように先が丸くなっている。ついさっき削ったようで、破片が床に落ちている。
見事な早業である。
「この勘のおかげで、ちゃんとしたタイミングで盾が張れるのよ」
「ラングにどれだけ助けられていたか、良く分かった~?」
「でも、その分、攻撃に集中出来ないから魔法の持ち味が、ね……」
遠距離攻撃が持ち味の魔法が使えないのは、魔法師にとって辛い事である。
チームを組んだのだから、それぞれがそれぞれの全力が出せるよう、それぞれがサポートするのは当然だ。
見方の負担を減らすのは、自分の為にも必要である。
今までは良くても、これからもこのままでいけるとは限らない。
「そろそろ、チームでの戦いに意識を向けてもらうわよ」
「個人個人が暴れるのが、チームでの戦い方ではないよ~」
「「さあ、次の段階に行きましょう」」
2人の言葉に、ようやく気付かされた自らの未熟さに、言葉を失うジンとムウ。
甘え過ぎていた事に、今気付いたのだ。
ラングは自分に自信が無い為、思わぬ高評価に、ただただおろおろしている。
ジンとムウは、力強く頷いた。
「因みに、ジンとムウは不合格~」
「「え!?」」
「首筋に手を持っていきな~」
ジンとムウの襟首には、投げられた針がぶら下がっていた。
服一枚隔てて止まった針に、冷や汗を流すジンとムウ。
削った際に、服に引っ掛かるように針先を小さな鉤針状に削っておいたようだ。
芸が細かい。
「うおぅ……」
「……」
手に取った針を見て、どう反応して良いのか分からず、とりあえず黙って返すジンとムウ。
「一応、ギリギリで反応出来る位の存在感は放っていたんだけどね」
「午後も特訓だね~」
ぴしりと音を立てて固まったジンとムウであった……。
◇◇◇◇◇
「痛い……」
「ああ……」
翌日、ボロボロになって教室に現れたジンとムウ。
結局、昨日は暗くなるまで恐怖のドッジボールを続けた。
ラングは上手い事避け続け、今日も元気である。
至る所に焦げ後が残り、痛々しい。
そんなジンとムウを、クラス一同は無言で労る。
「情けないわね。痛み位、翌日に引きずらないようにしなさい」
「アヤメ、普通の人には無理だ」
「?」
常識がほとんど通用しないアヤメに、これ以上は無駄だと悟るジン。
ツバサは、鞄の中を全て占領するであろう大きな枕に突っ伏し、すやすやと眠りの世界に旅立っている。
席順とかは決まっていないので皆適当に座っているが、大概窓際の席はツバサが占領している。
日当たりが良く、ぽかぽかして気持ち良いから、寝るには絶好の場所らしい。
つまり、寝に来てる訳だ……。
柔らかい日差しに映し出されたツバサの寝顔は、なんだかとっても癒やされる。
クラス一同にとって、ツバサの為に日当たりの良い場所を空けておくのは、暗黙の了解となっている。
その隣で見張るアヤメによって、不埒な輩が近付く事は出来ない。
ツバサの前にジンとラング、後ろにムウが座るのも、当たり前となっている。
ここだけ、異様にセキュリティーが万全である。
その内、黒服の人達が周囲を囲みそうである。
「おはよう」
ロウが教室にやって来た。
どうやら、体調も万全になったようで、どこか清々しい顔である。
クラス一同も返事を返し、大人しく席に座る。
しかし、ロウの目は、寝ているツバサに向けられたままである。
なんだか良く分からない緊張感が教室を支配する。
(死にたくないなら、起こすな!)
そんな気持ちでロウを見る〈レジェンド〉と〈ミラージュ〉のメンバーと、前のクラスで一緒だった者達。
しばらく無言で睨み合う。
何故、戦場より殺伐としているのか、誰か説明して欲しい。
「ふみゅ……」
そんな時、ツバサから可愛い声が聞こえてきた。
見れば、幸せそうな寝顔である。
「……まあ、良い。やる気が無い奴に構ってる余裕は無い」
そんな事を言っているが、目元が緩んでいるので、内心バレバレですよロウ。
どうやら、勝負(?)はツバサの勝ちであるようだ。
同時に、クラスの男子が崩れ落ちる。
皆、顔が赤い。
女子まで、密かに頬を赤くしている。
ツバサの寝顔、恐るべし!
「ねえ、何がしたいのよ?」
唯一、影響を受けないアヤメは、一応理由が分かっているので、苦笑しながら優しく指摘しておく。
我に返ったクラス一同。
崩れ落ちた男子は持ち直し、女子は照れ隠しで男子に注意する。
ロウは無言で出席を確認している。
「平和でなによりね」
その光景は、平和そのものである。
今日の授業は、授業と言う名の暴れ馬ならぬ、暴れドラゴンの世話である。
ドラゴンと言っても、馬より少し大きい程度の、謂わばドラゴンもどきであり、主に荷物運びの為の台車を引く魔物で、一応危険性はない……筈である。
正式名称はドラゴンもどき。
うん、そのままである。
いろんな種類の魔物に、いちいち凝った名前付けられるか、そして覚えられるか馬鹿者、的な奴が付けた名前らしい。
分かり易ければ良いじゃん、って事だろう。多分。
「こっちの端から、1、2、3と、まあ番号が名前だな」
ロウが一応説明する。
学園のドラゴンもどきは、物凄く適当に扱われているようだ。
こちらを見るドラゴンもどき達は、普通は温厚な筈の性格はどこへやら、歯をむき出しにして睨んでいる。
「見ての通り、何を失敗したのか、学園のドラゴンもどきは性格が荒い。一頭ずつチームで世話しろ」
「具体的には?」
「餌やって、遊んでやれ。これも勉強だ」
絶対に違う。
面倒なだけだろう。
勉強と言う名の、使い走りだ。
「普段の世話は誰が?」
「……日替わりでな」
「教員達で?」
「日替わりで、クラスで授業を、な」
「……」
「……」
アヤメの問いに、目を逸らせながら答えるロウ。
これで確定した。
単に、飼育に失敗した教員が、手懐けるのが面倒なので、授業として生徒に押し付けたのだろう。
「ほう……生徒に危険な事をさせるのが、そなたのやり方か?」
姉御モードのツバサ。
「いや……」
「情けない。目の前の敵に、背を向けるとは……落ちたものよ」
「いっ!」
「そなたは、他人に厳しく自分にも厳しい性格だと、思っていたが、なあ? 弱き者を虐げるのが、好きなだけか? なあ?」
「断じて違う! そんな小さな冒険者ではない!」
「ならば、見本位見せて貰いたい」
「ぐっ!」
こんな時、頼りになるツバサである。
弱点を正確につつかれ、元々他人任せを嫌うロウは、もう言い返す事は出来なかった。
ドラゴンもどきの1号の元へ向かうロウは、心なしか腰が引けている。
がるる!
ロウに向かって、牙を剥き出し唸るドラゴンもどき1号。
鉄製の檻がギシギシと軋む。
1号は、全力で檻を壊そうと、押したり引いたり、尾で叩いたり、爪で引っかいたりしている。
恐る恐る、ニンジンを差し出すロウ。
実は、ドラゴンもどきは草食である。
差し出されたニンジンを、ロウの腕ごと奪おうとする1号。
1号の口が開いた瞬間、ニンジンを放り込んで後ろに下がるロウ。
バリバリとニンジンをかじる1号。
ニンジンなのに、何故殺伐とした光景に見えるのだろうか……。
「こ、こんな感じだ」
「遊び方は?」
「ぐぐっ!」
ポンと肩を叩かれ、そのまま前に押し出されるロウ。
渋々、暴れるドラゴンもどきに手綱を取り付け、檻から出す。
途端に暴れ始めるドラゴンもどきは、ロウを食おうとばかりに、巨体を震わせ襲い掛かる。草食なので、食べられる危険性は無いが。
手綱で制御なんて出来る筈もなく、そのまま追い掛けられるまま、必死で逃げ回るロウ。
そんな光景を生徒達は無言で見守る。
彼らの顔には、
――生徒に押し付けた罰だ
と、書かれている。
皆、清々しい笑顔であった……。




