表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/36

月移住計画

明日から出張・・・欝だ。


それでは、どぞー

永琳に頼まれたこととは、永琳のボディガードだった。

なんでも、永琳は薬師をやっているらしくその薬の調合に使う薬草やら木の実やらはこの都市の外でしか手に入らない。

戦闘に関しては、そんじょそこらの妖怪が束になっても敵わないくらい強いそうだが薬の材料を持ったままでは対処できない事態に遭遇する前に護衛が欲しかったそうだ。

しかし、永琳と同じかそれ以上の実力を持った者はこの都市には居らず、そこに俺が現れたというわけだ。


晴「といっても、やってることは荷物持ちなんだけどねー」


永「何を言っているの?」


永琳が怪訝そうにこちらを見てくる。

なんでも無いと適当に答えるとそれ以上追求せず、薬草の探索に戻った。

実際永琳は俺が居なくても十分過ぎる実力を持っていた。

妖怪が現れてからこちらに飛び掛ってくる間に永琳は妖怪の頭を弓矢で射抜いていた。

それが一体だろうが群れていようが関係なく俺の出番が無いまま、10年の月日が流れた。

手持ち無沙汰なのと暇つぶしを兼ねて料理の勉強をこの10年間行った。

と言ってもレパートリーを増やしたり、新たな料理を創ったりといったものだ。

しかし、10年でかなり上達したので、最初は護衛だったのが何時の間にかコックさんのような立ち位置になっていた。

永琳にも大好評で今では三食のほかにおやつまで作っている。

その間、美桜は二人きりになれる時にしか姿を現さず、決して永琳に自分の存在を覚られるようなことはしなかった。

理由を問えば、


美桜「近しい男性が自分以外の女と話しているのを見るとどうしても意識してしまうものなのじゃ」


とのこと。

よく意味は分からなかったがそれは美桜にも当てはまるんじゃないのか?と聞くと、


美桜「妾はもはや晴夜と一心同体じゃ。 今更他の女と話していようが晴夜は妾と共にある。 その程度では嫉妬すらせぬよ」


と余裕の表情で言っていた。

そんなある日、永琳から話があると言われた俺はリビングでお茶を入れ、特製の茶菓子を用意して永琳の対面に座った。


晴「それで、話ってなんだ?」


永琳はお茶を一口飲み、口の中を潤おしてからしゃべりだした。


永「実は今とある計画が進められていてね、それの最終段階に入ったのよ」


永琳にしては珍しく、前置きがある。

いつもは結果を言ってから詳細に入るのに・・・

これは、なにやら大事の予感がする。


永「その計画の名前は月移住計画。 この地を捨て、月に移住するための計画よ」


それを聞いて驚いた。

何に驚いたかと言うと月に移住するという馬鹿げた思考回路にだ。

おそらく、永琳が提案したわけではないだろう。 となると、あいつらか?


晴「月に移住するって・・・いや、永琳ならやれるだろうけど何でわざわざ月に?」


永「この地には穢れが蔓延っているんですって。 だから穢れの無い月に移住するって言うのが上層部3人の計画よ。 月では時間の流れが遅いって噂もあるみたいだし」


あー、やっぱりあいつらか。

実は一度だけ挨拶に行ったことがあるのだが、全員いけ好かない奴らだった。

特に、上から3番目までの奴らは一目で無能と分かる思考をしていた。

それ以来会っていない。

と言うか、会いたくない。


永「それで、その計画の実行日が3年後の満月の日。 ちょうど、今の時期のね」


晴「なるほどね、それは大変なこって」


永「貴方はどうするの? 私としては一緒に来て欲しいのだけど・・・」


見ると、永琳の瞳が不安で揺れている。

本当ならここで一緒に行くと言ってしまえば、どちらも悲しい思いをしなくて済んだのだろうが残念だけどそれは出来ない。

まだ、この世界で見ていないものがたくさんあるのだ。

そりゃ、月に行ってみたいという気持ちも無い事もないけどそれでもそこまでの魅力を感じない。

だから、きっぱりと言った


晴「俺は行かないよ」


そう言うと、永琳の顔が今にも泣きそうになるのを我慢しているようにしか見えない表情をしていた。

正直、見ていて痛々しい。

もう少し他の言い方があったかも知れないがそれだとかえって彼女を傷つけるだろう。

目の前の少女はそれほど頭が切れるのだ。

震える声で何とか言葉を搾り出す。


永「理由を・・・聞いてもいいかしら?」


晴「はっきり言うと、そこまで月に魅力を感じない。 それに、俺は不老だから月に行かなくても年をとらないんだ」


そこで、永琳は驚いた表情をする。

そりゃ、そうだ。

不老っていう情報は今初めてカミングアウトしたからな。


永「不老って・・・確かに10年経っても姿が変わらないとは思っていたけどそういうことだったのね」


晴「上の奴らには内緒にしてくれよ。 追われる羽目になるから」


永「それはいいけど、貴方は寂しくないの? その、私と離れるのが・・・」


驚きでごまかせたと思ったがダメらしい。

どうやら、本音を言うまで譲らないらしいな。

俺は一つ息を吐き、真っ直ぐに永琳を見つめる。


晴「正直言って、寂しいよ。 永琳と離れるのが寂しい。 ここでの生活が飽きたら出て行くつもりだったけど永琳のおかげでこの10年、本当に楽しかった」


永「!! だったら・・・」


晴「でも、やっぱり月には行かない。 俺はまだまだこの世界を見て周りたいんだ」


永琳がどのように受け取ったかは分からない。

が、おそらく拒絶に近い意味で受け取ったと思う。

このままでは、バットエンド一直線だが俺はそれで終わらせはしない。

永琳は俯いている。

多分、泣きたいのを我慢しているんじゃないかな?

だから、永琳に一つの道を教える。


晴「永琳、君はもう二度と会えないとかそんなこと考えていると思うけどそれは永琳次第だよ」


永琳はバッと顔を上げる。

その表情は驚きに満ちているが目には涙が溜まっている。


晴「さっきも言ったとおり、俺は不老だ。 戦いで死ぬ可能性もあるけどそれは俺の能力がある限り極僅かだし、そもそも簡単にはやられないよ。 だったらさ、永琳が簡単に月と地上を渡れる道具を作ればいいんじゃないかな? 俺はずっと待ってるからさ」


そう言って永琳の頭を撫でる。

素直に撫でられている永琳はどこか吹っ切れたような表情をしていた。

先ほどまで、もう会えないかも知れないと思っていた少女の面影はどこにも無く、天才と言われる頭脳を持った八意永琳という少女は静かに微笑む。


永「普通、それは逆じゃないかしら?」


晴「あいにく、月への行き方なんて想像できるほどの頭脳なんて持ち合わせていないんでね、俺が寂しくて死んでしまう前に会いに来てくれよ」


二人の間にいつもの雰囲気が戻る。

先ほどのことなどまるで無かったかのように、いつもどおりにお茶を飲んで談笑する姿があった。






その日の夜、自室にて・・・


美桜「やはり、あの娘は晴夜のことを好いておるな」


晴夜の膝の上で猫の姿になり、くつろぐ美桜がいた。


美桜「晴夜がどうするか分かってはいたが、これからどうするつもりじゃ?」


晴「別にどうもしないよ、今までもこれからも。 ただ・・・」


そこで、一呼吸置き、


晴「俺の事を好きでいてくれる人が悲しむのは見ていられなかったんだよ」


そう言って、膝の上の白猫を撫でる。


美桜「まったく、晴夜は人が良すぎるのぅ。 そこが好ましいんじゃが」


今日も夜が更けていく。

夜空には綺麗な三日月が浮かんでいた。

次回の更新は、金曜か土曜になるかも?


感想・誤字指摘等ありましたら、お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ