宴会の中で・・・
さぁ、今宵は宴会。飲んで騒いで華を咲かせましょう。
それでは、どぞ~
夜。
妖怪の活動が活発になる時間帯、昼間と比べればどうしても静かになってしまうのだが今日に限り妖怪の山は昼間以上の活気に満ちていた。
鬼1「一番、酒樽を一気飲みします!」
鬼2「いいぞ~、もっとやれ~」
天狗1「まぁまぁ、まずは一献」
天狗2「あいや、これはかたじけない。さぁさぁ、貴方もどうぞ」
天狗3「おぉ、ありがたい」
河童1「いいれすかぁ~?わらひは~おもうんれす」
河童2「ね、ねぇ?ちょっと飲みすぎじゃない?」
河童3「もう同じ話を5回は繰り返しているよ」
河童1「二人とも聞いてまふか!?」
河童2、3「「ハイィッ!!」」
鬼の四天王が帰還した祝いに盛大な宴会が行われていた。皆思い思いに酒を飲み、歌を歌い、それを囃し立てる合いの手があちこちから聞こえてくる。そんな騒がしくも楽しげな雰囲気の中に遅れて参加する影があった。
美桜「んふふ~♪」
璃桜「お姉様ご機嫌ですわね」
美桜「当然じゃ、晴夜に可愛がってもらったからの」
そう言って嬉しそうにしな垂れかかる美桜を受け止めるのは晴夜の背中だ。布越しでも美桜の体温と柔らかさは十二分に伝わってくる。
ミア「いいな~、美桜様・・・」
姫音「晴夜様と美桜様の仲が良いのは良いことじゃない」
ミア「でもでも、私も晴夜様に可愛がってもらいたい!」
姫音「それは私だって同じ。でも晴夜様は私達を蔑ろにしたことなんて一度も無いでしょ?だから、待ちましょう」
俺の周りにはいつものように美桜、璃桜、ミア、姫音で固められており桜妖精達も思い思いに騒いでいる。
萃「ちょっと勇儀!それは無いんじゃない!?」
勇「うっさい!萃香はさっき一人で飲んだじゃないか。これはあたしのだ!」
萃「だからって、一斗樽を独り占めはやり過ぎだぁ!あたしにも寄越せ~」
勇「えぇい、離れろ! 萃香はこれでも飲んでな!」
瑞「あたしも混ぜろ~!!」
少し離れたところでは萃香、勇儀、瑞希の三人が俺の持ってきた酒を奪い合っている。周りの鬼達も虎視眈々と奪う機会窺っているが、あの中に割って入ろうとする猛者は居なかった。言った瞬間にボロ雑巾になることが確定してるからな。進んで行く奴なんて居ないだろ。
瑞希の能力は『砕く程度の能力』、その名の通り砕く事に関しては右にでるものは居ない。しかし制限もあるらしく、一つは直に触れたモノでなければならないこと、視界に映ろうが身体に触れていなければ能力は適応されない。能力が発動する部位は任意で決める事ができるようになったらしい。なんでもその昔、能力を発動したら衣服まで砕けてしまい恥ずかしい思いをしたことがあったそうで、それ以来努力の末部位を任意で決めるまでに持っていったらしい。情報提供者は萃香。
二つ目は、抽象的なモノは砕けないこと。
ようするに概念を砕くとかはできないが、結界なら壊せるらしい。触れた瞬間に砕けるので時間稼ぎにもならず、瑞希の攻撃は基本回避一択しかない。
肉弾戦で言えば、かなりのアドバンテージを誇る瑞希、一撃入れればそれで終わってしまう。しかし、弱点もある。それは一番最初に触れた部分に作用すること。地肌に触れられればお仕舞だが、服の上からならば砕けるのは服のみで済む。鬼の一撃をまともに喰らえば大差はないけどな。
そんな姦しい光景を肴に酒を煽る。
晴「まったく賑やかだな」
だけどキライじゃない。
独り言のつもりだったのだが、美桜にはばっちり聞こえていたようで、
美桜「じゃが、キライではないじゃろ?」
晴「まぁね」
夜空に浮かんだ三日月は煌々と輝いている。夜が濃くなるにつれて宴会も盛り上がりを見せ、悪酔いした馬鹿共や酔っぱらって早々に退場する者がチラホラと出始めてきた。後者はまだいいが前者はダメだ。酔っ払いの絡みほどウザイものは無い。
萃「ほらほらゆかりものみなって~」
紫「ちょっと!それめちゃくちゃ強いお酒じゃないの?」
勇「大丈夫さ、そこまで強くないから」
紫「あんた達の基準じゃ参考にならないわよ!って、ちょっ、離して!きゃ~~~!!!」
何時の間にか参加していたあの時の妖怪・・・・・・確か名前は紫だったっけ?が萃香と勇儀に捕まっていた。しかもあの酒って確か度数40越えてなかったか?それをストレートで一気だなんて俺だったら死ねるな。紫、南無三。
美桜と璃桜は屋敷の屋根で静かに飲んでいる。璃桜はともかく美桜は静かに飲む方が好きらしく、宴会の折り返し地点になると必ず静かに飲みはじめる。今回はそれに璃桜が付き合っているのか。おっ?文が混ざりに行ったな。
ミアも姫音も友人達と楽しそうにしている。ミアと姫音は若い白狼天狗や烏天狗達と仲が良く、偶に稽古指導も行っているようだ。その関係から友人になった者も居るのだろう。
で、俺はと言うと、
楓「晴夜さん、杯が空ですよ」
晴「ん、悪い」
鈴華「あらあらあの子達ったら」
楓が空になった杯に酒を注ぎ、鈴華は賑やかな一角を見て朗らかに笑っている。鬼と天狗のトップと人間が酒を酌み交わしている、というか妖怪の宴会に人間が参加していること事態、端から見れば異端であり異常だな。まぁ、それは俺に力があったからできる芸当であって人間と一括りにするより俺個人と言った具合だな。いずれにせよ、物凄くシュールな光景だ。
晴「二人とこうして面と向かって酒を酌み交わすなんて考えてみれば初めてか。いつもはどっちか片方だけだったからな」
楓「そうですね、それにその時はいつも美桜様が居ましたから純粋に晴夜さんとはこれが初めてですね」
鈴華「うふふ、今なら誰にも邪魔されずに晴夜様とくんずほぐれつの擦った揉んだな事ができますね」
着崩れた着物から今にも零れそうな程露出している重量物を押し付けながら、丁度谷間が覗ける角度で上目遣いをしてくる鈴華。酒のせいかはたまた別の要因か、桜色に頬を染め上げ此方を窺うように見上げる瞳、“女”を意識させる甘い香りが鼻腔を擽る。
常人であれば理性など吹っ飛んでしまう程色っぽい仕草をする。うん、エロい。
その隣で楓が自分の胸と鈴華の胸を見比べ、軽く持ち上げて溜め息を吐く。はしたないから止めなさい。
鈴華の言葉に呆れながら口を開こうとした時、三方向から鈴華に向けて弾幕が飛んできた。それをハエを追い払うかのような仕草で全て叩き落す鈴華、弾幕が飛んで来た方向にはミア、姫音、璃桜が居る。十中八九あの三人が放ったものだろう。
鈴華「むぅ、邪魔が入りましたね」
晴「いい仕事するなあいつら」
鈴華「・・・・・晴夜さんは私のことが嫌いなのですか?」
かなり本気な感じで悲しそうな顔をする鈴華。いつもぽわわんとした雰囲気を醸し出しているだけにその身体から滲み出る悲壮感のギャップといったらもう関係のない通行人でも土下座して謝りたくなる衝動に駆られるだろう。
晴「いんや、ただ今はそういう目では見れないってだけだ。親愛の情くらいは持ってるぞ」
鈴華「・・・・・・いまは・・・ですか。それならいずれは・・・・・・・」
それを聞いた鈴華は少しだけ俯いて何かぶつぶつと考え初めてしまった。よく聞き取れないが表情を見る限りさっきのが演技だったんじゃないか?と思えるくらいいつもどおりの鈴華がいた。
楓「晴夜さん、どうぞ」
晴「ん、すまんね」
あぁ、今宵も酒が美味い。
酒に弱い奴らが大抵酔い潰れ、大酒飲み達が騒ぎ立てる一番カオスになる時間帯。程好いくらいに酒が回り始めた俺と数メートル離れた位置に居る金弥を囲むように口々に野次を飛ばしてくる有象無象という図が出来上がっていた。
晴「どうしてこうなったし?」
若干鈍くなった頭を回転させ、こうなるに至った経緯を完結に説明すると、
俺酒飲んでる
↓
金弥がやってきて「俺と勝負しろ!」
↓
周りが「喧嘩は宴会の華だぁー!ヒャッハー!!」
↓
「さぁさぁ!只今のオッズは晴夜様が1.0倍!金弥が20倍だ!さぁ張った!張った!」
↓
鈴華「あの子は四天王の中でも最弱」
↓
今ここ
といった具合だ。
さて、どうしていきなり勝負なんて仕掛けられたのかわから・・・・・相手は鬼だったな。それもそのほとんどが戦闘狂っていう戦闘民族も吃驚な種族。酒、喧嘩、正々堂々で構成されていると言われても素直に納得してしまいそうだ。こいつも俺の実力を知りたいとか言うんだろうか?
金「神咲様の御力はこの身を持って知ったよ。流石は神だ、あの一撃は俺が生涯を賭けても到達できるか分からないほどだった。あの方は認めよう。そうなると、お前もそれなりに出来るんだろ?」
ニヤリと、初対面の時は仏頂面だった金弥の顔が歪む。まるで面白そうな玩具を見つけたときのような顔で少年のように、けれどその目は明らかに獲物を狙う獣のそれ。身体から滲み出る、無理矢理抑えているかのような闘気とともに大妖怪クラスの妖力が溢れ出している。遠回しに俺に認められたいなら力を示せ、って上から言っているが俺人間だし仕方ないのかね?もしかしたら鬼と人間の関係が起因しているのかもだけど。
金「皆から聞いたぜ。お前、萃香と勇儀相手に接近戦でやり合ったんだってな?不思議な術も使うみてぇだが・・・」
晴「まぁ・・・な。御託はいいからさっさと始めようぜ。ギャラリー・・・観客はもう待ちくたびれてる」
周りから「さっさと始めろー!」なんて野次が飛んでくる。普段なら面倒でしかないのに今日に至ってはむしろやる気満々だ。多分酒のせいと気分がいいからだろう。俺も戦いたくてうずうずしていたところだ。
金「そのようだな。決め事は、命を奪う以外なら何をやっても構わない、相手が戦闘続行不可または降参した場合決着ってことでどうだ?」
晴「あぁ、それで構わない。始める前に一ついいか?」
金「なんだ?」
晴「悪いが、勝たせてもらう」
金「ッ!へぇ・・・面白くなってきた!」
どちらからともなく動き出し、一瞬後にはお互いの拳と拳がぶつかり合う音が響いた。さらに盛り上がる周りの野次馬、その中心で楽しそうに笑う人間と鬼。それを見て酒を煽る外野。中には自身も戦いたくて別の場所で喧嘩を始める者も出始める。
皆が皆笑っていた。妖怪の中に一人だけ混ざっている人間。まるで御伽噺のような光景が広がっていた。
古きから続いている鬼と人間の良き関係
深く、強い繋がりを持っている
攫い、退治し、酒を飲み、騒ぐ
だが、そんな関係も時代が進めば廃れていく
今はまだその事を知らない
ただ一人の妖怪と晴夜、美桜を除いて
妖怪の山の夜は更けていった




