懐かしき名
念願の家を建てた晴夜達だったが、彼らにのんびりしている時間は無かった・・・
ようやく念願の家を建てることができ、妖怪の山に住む事になった。
初日は完成記念と言う事で早速大広間を使って山の住民総出で大宴会を開き、翌日は動ける天狗や河童達に手伝ってもらいその後片付け。その次の日は山の地理や食料の確保のためにあちこち飛び回って、その後もなんやかんやであっという間に一週間が過ぎた。
ちなみに聞いたところによると、紫は早々に行方を眩ましたそうだ。いろいろ話を聞いてみたかったんだけど残念だな。
家は要望のとおり、機能性に特化しており住み心地は抜群なのだが家が大きいということは掃除が大変だと言う事だ。
三階の大広間でさえ全て掃除するのに三時間は掛かる。
晴「う~ん、これは由々しき事態だな」
普段使わない部屋は一週間に一度くらいで良いのだが数が多い。
俺と美桜と璃桜だけではどうしても人手不足だ。
やっぱり、せっかく作ってもらった家だしいつも綺麗にしておきたい。
浄化を使えば事足りるのだが、常時能力を発動しているのもめんどくさいし何より家事スキルが低下する。
縁側で頭を悩ませていると、後ろから声が掛けられた。
璃桜「どうしたんですの、お兄様?」
お盆に三人分のお茶を乗せて小首を傾げる璃桜がいた。
お礼を言って、お茶で喉を潤おし一息吐く。
晴「いやさ、三人だけじゃこの家の掃除が間に合わないからどうしたもんかなって考えていたところなんだよ」
そこら辺から人型の妖怪でも勧誘して小間使いにさせるか?なんてことを割りと本気で考えていると、
璃桜「それでしたら私に考えがありますわ」
晴「えっ、どうするんだ?」
意外にも璃桜から救いの手が差し伸べられた。
璃桜「私の能力を使いますわ」
そう言って庭にある璃桜の桜に近づき額を当てて何事か呟くと、今度は丁度晴夜の前に背を向けて立ち柏手を打った。
すると大量の桜の花びらが宙を舞い始め、それが集まり50個ほどの光の塊となった。
光の塊は、桜色に輝きながら人の形をとっていきやがて光が収まると10~12歳程の少女達が現れた。
髪の色はそれぞれ、黒、茶色、桜色、白銀のいずれかで髪型はロング、ショート、ポニテ、ツインテ、おかっぱ、サイドテ、ボブ、etc...
皆同じ桜色の浴衣のようなものを着ていて、背中には桜の花びらのような羽が生えている。総勢50名。
50名の少女達は一斉に、
?「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「お初にお目にかかります、晴夜さま」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
綺麗なお辞儀をしてきた。
その光景に思わず呆然としていると、
璃桜「ふふっ、驚きました? 私の【桜の精を操る程度の能力】で、この家に植えられている桜の木一本一本を妖精として具現させましたわ。 この子達の原動力は基本的にお兄様やお姉様の神力ですから食料の確保は今までどおりで良いと思いますわ。 まあ、食べられない訳ではありませんが・・・」
晴「すごいな、これなら十分過ぎる」
これだけの人数が居れば、あっという間に掃除も終わらせられる。
璃桜「さあお兄様、家主としてこの子達に挨拶をしてくださいな」
そう促され、少女達の前に立つ。
全員が静かにこちらを見つめる中で、俺は言葉を発した。
晴「これは俺からのお願いだ。 もし良かったら、この家で一緒に暮らさないか?」
出来る限り優しく、それでいて微笑みを浮かべて妖精少女達に問いかけた。
妖精少女達はキョトンとした後、
?1「もちろんですよー」
?2「これからよろしくお願いします!」
?3「末永く御仕え致します」
?4「なんだか楽しくなりそうだな~」
?5「一生付いていきますよー」
?6「きゃーーー♪」
?7「きゃはは♪」
?8「晴夜さまバンザーイ!」
?9「わーい!」
etc...
満面の笑顔で応えてくれた。
これは、なかなかに賑やかになりそうだな。
晴「それじゃあ、さっそくそれぞれの持ち場を割り振るから掃除が終わったら遊ぶなり自由にしていいよ」
基本二人一組で行動させるようにし、掃除の場所はローテーションを組ませることにした。
妖精と聞いていたが思いのほか知能が高く、教えた事を一生懸命やる姿は見ていてすごく和んだ。
三時間もすれば屋敷中が綺麗になり、今は皆でお茶を啜っている。
中には追いかけっこをしている子も居れば、地面に絵を描いている子も居た。
晴「なんだか一気に賑やかになったな」
妖精のうちの一人が傍に座り、にこっと微笑んでくる。
その子の頭を軽く撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。
静かにのんびり過ごすのも悪くは無いが、やはりこうやってなんでもない時間を誰かと、或いは大勢で無意味に過ごすのが性にあっているみたいだ。
故に、思う。
晴「あぁ、平和だな~」
しかし、平和というのはいつも唐突に終わりを迎えるものである。
文「晴夜様ーーーッ!! って、何ですかこの子達!?」
突如、暴風が吹いたかと思うと一瞬遅れて鴉天狗の文が庭に降りたった。
そのせいで、庭で遊んでいた妖精は吹き飛ばされ家の中に居た子達は驚いてどこかに隠れてしまった。
晴「おい文、怖がらせるなよ」
文「あやややや、すみませんってそうではなくてですね、とにかく来て下さい! 大変なんです!」
俺の腕を取ると、すぐさま翼を羽ばたかせて飛ぶ。
璃桜・妖精達「「「「「いってらっしゃいませ~」」」」」
こちらに向けて手を振っていた璃桜や妖精はすぐに見えなくなった。
文に連れて行かれたのは、楓の屋敷ではなく集会所的な建物だ。
文「晴夜様をお連れしました」
文はどこか緊張した面持ちで部屋へと入っていく。
中には大天狗クラスの者や鬼の四天王である勇儀や萃香、二人には劣るがそれなりに力の強い鬼達が集まっており天狗サイドの最奥には楓が、鬼サイドには鈴華が座っていた。
自分よりもずっと力の強い妖怪がこれだけ集まっているのだから無理も無い。
楓「ご苦労、下がってよいぞ」
楓は威厳溢れる喋り方をしているが普段の口調に慣れてしまっているせいか、物凄く違和感を感じる。
文は逃げるようにそそくさと退場したが、はてさてどんな用件なんだか・・・
晴「で、俺を呼んだのはどういった理由だ?」
ちなみに俺は今、若干機嫌が悪い。
せっかくのんびりまったりしていたところを無理矢理連れて来られたのだ。
例えるなら、仕事を終えてさあ帰ろうとしたところに残業の宣告を受けた時のような感じだ。
あれはかなり腹が立つし、モチベーションが思いっきり下がる。
楓「まずは、いきなり呼び出してしまい申し訳ありません」
鈴「ですが、この山の一大事でしたのでご理解いただけると助かります」
晴「一大事?」
どういうことだ?
この山を鬼と天狗が支配している事は、周知の事実だ。
有名な陰陽師や大妖怪に近い者でさえ、この山にはなかなか近づこうとしないくらいだ。
ましてや、ちょっとやそっとの戦力では相手にすらならないほどにこの山には強大な力を持った妖怪が数多く居るはずだ。
それなのに一大事だと騒ぎ、このように力の強者を集めて会議を開くということはよっぽどの事だと想像に難くない。
晴「詳しい説明を聞かせてくれるかな?」
楓「はい、今朝ほど私の屋敷に一通の矢文が刺さっていたのです。 それにはこう書かれていました」
これは宣戦布告也
次の満月の日、我等ははあらゆる手段を持って貴様等を退けその頂に君臨する者也
迎え撃つも良し、戦わずして降伏するも良し
我等の力、侮る無かれ
楓「本来ならば気にも留めず、当日に殲滅するだけで集会など行わないのですが最後に自信の表れか、幹部の名前が書かれていたのです」
楓は一つ一つの名前を読み上げていく。
どれも聞いた事のあるような名前であったが、いくら束になったところで鬼と天狗に敵うはずが無い。
しかし、最後から3つ目までの名前を聞いて耳を疑った。
楓「宵闇の王女 ルーミア、音を操る妖狐 姫音、そして最後に波を操る狼 ミア。 以上が矢文に書かれていた内容です、って晴夜さん?」
晴「あ? ああ悪い少し考え事をな」
どうやら驚きで声も出さず固まっていたらしい。
しかし、随分と懐かしい名前を聞いたな。
ミアや姫音は大体6,700年くらいかな? あれからどれだけ成長しただろうか。
ルーミアに会ったのは・・・数百年前? あまり覚えてないな。
それにしても、あちらから出向いてくるなんて探しに行く手間が省けたな。
帰ったら部屋の準備とか璃桜達への説明とか、やることがいっぱいだ。
晴「それで、具体的にはどうするつもりだ?」
天狗や鬼の性格を考えれば降伏するか否か、聞くまでも無い。
鈴「もちろん迎え撃ちます。 この山に喧嘩を売ったことを後悔させなければいけませんし」
鈴華の言葉に周りの鬼や天狗は、口々に騒ぎ出した。
鬼1「俺達に喧嘩を売るたぁ良い度胸だ!」
鬼2「血が騒ぐぜぇ!」
天狗1「我等には晴夜様がついておる。 負けることなどありえぬ」
天狗2「左様、我々を愚弄したことを後悔させてくれる」
かなり興奮しているようで、もうやかましい。
楓や鈴華も呆れた顔をしながら、二人そろって妖力を開放した。
部屋中に濃密な妖力が充満する。
それだけで、あれだけ騒いでいた天狗や鬼は口を閉ざし、静かになったところで妖力を引っ込めた。
楓「気持ちは分かりますが、今は冷静でいなさい。 それで、晴夜さんの意見を聞きたいのですがどう思われますか?」
意見と言うのは、この戦いによる被害の程度のことだろう。
どっちに転んでも楓達が勝つのは分かる。
俺だって、楓達が勝つと思っているがイレギュラーな事態っていうのがついて回るのが世の常だ。
だからこそ、被害を最小限に抑えるように手を尽くすわけだが・・・
晴「正直言って、ギリギリだろうな」
その言葉に周りの天狗や鬼は驚き、その中の勇儀が声をあげた。
勇「なんだい、私達がこいつ等に遅れを取るとでも思っているのかい?」
晴「そうじゃない、名前があがった最後から3番目まで、ミア、姫音、ルーミア、この3人が癖物なんだよ。 この3人は、単騎で勇儀や萃香と同じくらいの力を持っている。 だけど、ミアと姫音が一緒に戦ったらまず勝ち目が無い。 ほとんどの奴がなにも出来ずに戦闘不能に陥るだろうな」
その言葉に、楓や鈴華までもが瞳を開いて驚いている。
鈴「それはどういうことですか?」
晴「能力が厄介なんだよ。 二人の能力は音と波、この二つはとても相性がいい。 まず、相手の動きを制限したり、音が聞こえる範囲は相手の攻撃範囲と思った方がいいだろうな」
最後に戦った時でさえ、あれだけのことができたんだ。 今なら、完全に動きを止めた上で内側から相手を破壊する事も出来るかもしれない。 そうなると、こいつらじゃ必然的に勝ち目が薄くなる。
晴「まあ、それでもお前らが負けるなんてことは無いだろうけどな」
それでも、鬼と天狗というポテンシャルに数が加わればまず負けることは無いだろう。
楓「どうして、そんなことが?」
やっぱり聞いてきたか、教えても良いんだけどそれだと面白くないし。
晴「昔にな、戦ったことがあるんだよ」
別に嘘をついているわけではないので、鬼に気づかれる事もないだろう。
晴「さて、そろそろいいか? まだ、家の整理が終わっていないんだ」
立ち上がり、出口に向かって歩き出す。
部屋から出る前に、振り返り一人一人の顔を見渡す。
皆俺の方を見ているだけで、声をあげる者はいない。
晴「いいか、誰一人として死ぬなよ?」
それだけを言って、集会所を後にした。
晴「ただいま~」
次の満月の日に、あいつらと再会できるのか・・・
そんなことを考えながら、玄関を開けるとトタトタと複数の足音が聞こえてきた。
妖精1.2.3「「「おかえりなさ~い」」」
晴「ん、ただいま」
一人一人の頭を撫でながら居間に行くと、璃桜が妖精達と遊んでいた。
俺に気が付くと、花のような笑顔で、
璃「お帰りなさい、お兄様!」
抱きついてきた。
晴「おっと、ただいま皆。 いきなりだけど、部屋を用意するから手伝ってくれないか?」
そう言って、居間から移動すると首を傾げながらも皆ついてきた。
璃「どなたかいらっしゃるんですの?」
晴「新しくこの家の住民が増えると思うからね」
皆はさらに首を傾げていたが、俺は気にせず緩みそうになる頬を引き締めて部屋の準備をするのだった。
作中の妖精は完全オリジナル設定です。
鵜呑みにしてはいけません。
感想待ってま~す。




