幻想を追いかける者
山を降りて散歩に出かけた晴夜達の行き先は?
それでは、どぞー
山を降りて数十分、取り合えずぶらぶらと歩いていた。
もとより山から出てきたのは、鬼達に絡まれるのを防ぐ為なのでこれから一週間過ごすには何か目的を見つけないといけない。
璃桜「お兄様、どこか行く当てでもあるんですの?」
見透かしたかのようなタイミングで璃桜が聞いてきた。
先ほどから腕を絡めた状態で歩いているので歩き辛いことこの上ない。
しかも目線を璃桜の顔に向けると、どうしても着物の隙間から胸の谷間が覗けてしまう。
態とやっているのか、無意識なのか判断に迷うところなので変なことは言えない。
はっきり言えるのは、確実に精神衛生上よろしくないこと。
晴「そうだな、最近何か無かったか情報収集でもするか。 主に妖怪から」
妖怪の山周辺の妖怪達は中々に友好的な奴らが多い。
何でも、いけ好かない天狗の鼻っ柱を折ったからだそうだ。(※19話参照)
そんな友好的な奴らを拒む理由も無いので、自然と仲良くなっていった。
ちなみに、人前はダメだ。
ここに来るまでに、陰陽師や武士達が自分の事を探していたと言う噂を耳にした。
おそらく、尋問か何かの類だろうが捕まると碌でもないのは明らかだ。
璃桜「分かりましたわ、ところでお姉様は?」
晴「寝ているよ」
美桜は基本的に寝ている。
偶に気まぐれで起きていることもあるが、一日の大半は寝て過ごしている。
それでも、俺が見聞きした事は全て共有できるので話しについていけないことは無い。
璃桜「それなら、お兄様と二人っきりも同然ですわね♪」
そう言って抱きついている腕に力が篭る。
それと同時に胸も押し当てられ、綺麗な形が歪んだ。
晴「お、おい璃桜! あんまりくっつくなって!」
俺だって男だし人間だ。
異性にそんな事されたら、流石に照れる。
璃桜「嫌ですわ、お兄様。 私はお兄様から離れたりしませんわ」
この妹、重度のブラコンである。
おそらく、永琳でも匙を投げるレベルだろう。
これから一緒に住む事になるわけだが、いろんな意味で退屈し無さそうだな。
この予感は早々と当たる事になるのだが、それはもう少し後の話。
?「これはこれは晴夜様、お久しゅうございます」
?「「「「お久しゅうございます」」」」
晴「おう、ご無沙汰。 元気してたか?」
目の前には、一つ目や牛のような頭部を持った妖怪、やたらと顔がでかい奴や親指くらいのサイズまであらゆる妖怪が屯っていた。
?「我らはいつでも元気ですぞ。 ところで、そちらの美しい人は?」
璃桜「私は晴夜お兄様の妹、璃桜と申します。 お見知り置きを」
礼儀正しく、お辞儀をする。
ここに居る妖怪達は皆下級の妖怪達で、璃桜からすれば片手であしらえるレベルなのだが、この態度には少なからず驚いたようだ。
?「ややっ、これはご丁寧に! しかし、晴夜様の妹君でしたか。 いつも晴夜様にはお世話になっております」
全員が璃桜に頭を下げる。
晴「ほらほら、そんな堅苦しいのはいいから。 ところで、ここ最近で何か面白そうなことは無かったか?」
こいつらは俺を慕ってくれてるのはいいんだが、この通りもはや手下と言われても違和感が無い感じになっている。
?「ここ最近でございますか? 確か、かぐや姫が月に帰ったとか不老不死の薬がある場所で捨てられたと訊きました」
と、一ツ目。
うん、それ知ってる。当事者だし。
?「私が聞いた話は、ある二匹の妖獣が最近頭角を現してきたとか。 何でも、どちらもとんでもなく強い上に二人同時に相手をするとそこら一帯が荒野と化すと言う噂でございます。 その実力は鬼の四天王にも引けを取らないとか」
と、牛頭。
へー、そんなに強い妖怪がいたんだな。
?「ここより東の土地に太陽の如き花が咲き乱れている場所がありまして、そこを縄張りとしている妖怪はとんでもなく強いとの噂です。」
と、ぱっと見普通の人間にしか見えない奴。
太陽の如き花? 興味深いな。
花畑を縄張りにしていると言うからには、都でも噂になっていた花妖怪に違いないだろうが。
?「そういえば、最近各地で晴夜様の事を探し回っている妖怪がいるそうですよ」
は? 俺の事を探し回っている?
晴「どういうことだ? もう少し詳しく」
?「はい、なんでもその妖怪はとても美しい容姿なのですが、良い知れぬ不気味さと言いますか、つかみ所が無い雰囲気を醸し出しているらしいのでございます。 さらに、なにやら奇妙な移動手段を取るとの事。 晴夜様なら心配ないとは思いますが、用心するに越したことはないかと」
ふ~ん、そんな妖怪には会ったこと無いから差し詰め噂で聞いて興味があったとかそんなんだろうな。
晴「分かった、気をつけるよ。 じゃあ、そろそろ行くな」
それなりに面白い話も聞けた。
立ち上がり、腰についた埃を払う。
それに続くように、璃桜も立ち上がった。
?「いえいえ、お役に立てたのなら嬉しい限りです」
?「また来てくださいね」
?「お待ちしてますよ~」
皆口々に分かれを惜しむ言葉をかけてくれる。
不思議なもんだな、俺は人間だってのに。
晴「それじゃ、またな」
まあ、悪い気はしないからそれでいいか。
一人くらいそんな人間が居たって。
そんなことを思いながら歩き出した。
なんだかんだであっという間に、一週間が過ぎた。
特に何をするでもなくあちこちを歩き回っていただけだが、意外と暇が潰れてくれた。
新たに妖怪と知り合いになったり、妖怪に襲われたり、襲ってきた妖怪を適当にあしらったり、なにやら訳の分からない連中に絡まれたり(おそらく、追い剥ぎか何かだろうが)それなりに退屈はしなかった。
晴「さって、そろそろ帰るか~」
璃桜「そうですわね、そろそろ出来上がっている頃でしょうし」
にとりは一週間で出来上がると言った。
しかし、多く見積もった場合なので実際はすでに完成しているかもしれない。
そして歩き出してしばらく、ふと足を止めた。
晴「璃桜、先に帰ってろ」
璃桜「えっ? ど、どうしたんですのお兄様?」
俺の雰囲気が変わったのを感じたのか、戸惑っている。
晴「どうやら、お客さんのようだ。 だから、先に帰っててくれ。 なに、すぐに追いつくさ」
何か言いたげな様子だったが、自分が居ても邪魔になるだけだというのは理解しているのか素直に引き下がる。
璃桜「分かりましたわ。 お兄様、お気を付けて」
晴「あぁ、ちょっと待って」
踵を返して、歩き出そうとした背中を呼び止めポケットからあるものを取り出す。
恒例の神力を込めたペンダントだ。
晴「ほら、これをあげるよ。 肌身離さずに持っていろよ」
今までのペンダントとは違い、小さな水晶の中に桜の花が彫られている。
偶然水晶が手に入ったので、今回はちょっと趣向を変えてみた。
それを璃桜の首にかけてやる。
やはり、意外なほどに和服とマッチしている。
璃桜は頬を朱に染め、一礼をして早足に帰っていった。
まったくもって可愛い奴である。
晴「それで、覗きが趣味な妖怪さんは一体全体何の用なんだい?」
?「あら、バレていましたの」
どこからとも無く声が聞こえ、次いで奇妙な音を立てて空間が割れた。
比喩ではない、文字通り空間が割れたのだ。
その中から一人の女性、否、妖怪が出てきた。
紫色の着物に綺麗な金色の髪、端正な顔立ちに出るところは出て引き締まる部分は引き締まっている肢体。
萃香辺りが羨ましがりそうである。
控えめに見ても美人さんである。
しかし、身に纏う掴み所のないような、はっきり言って胡散臭い雰囲気が全てを台無しにしている。
残念美人ここに在り。
見た感じでは、最近聞いた俺を探し回っている妖怪のようだが・・・
?「いつから気付いていたのかしら?」
思考に耽っていると相手から声をかけられた。
口元に扇子を持って行き、表情を完全に見せないようにしている。
胡散臭さ倍増。
晴「俺が都を出た辺りから・・・かな? 妖怪の山に入ってからは覗いてこなかったようだが出た途端に視線を感じたな」
そう答えると、一瞬だけ目を見開いたがそれだけだ。
?「ほとんど最初から気付いていましたのね。 何故気付いていながらそのまま放置していたのかしら?」
晴「別に、特に危害が及ぶわけでも無かったし、なにより面倒だっただけだ」
目の前の美人はピクリと眉を動かして、
?「気のせいかしら? 私にはいつでも退治することが出来た、と言っている風に聞こえるのだけれども」
晴「まさか、妖怪と渡り合える人間なんてのは陰陽師くらいだろ?」
一昔前までは、自分の事を陰陽師と呼んでいた連中もいたが俺は陰陽師ではない。
そもそも、正式な陰陽師とは貴族達のお抱えが殆どでその他の陰陽師モドキはただの妖怪退治屋である。
あまり大差は無いので、民衆は普通に陰陽師と言っているが・・・
?「陰陽師の他にもう一種いますでしょう。 ねぇ、星月一族の嶺さん?」
晴「ははぁ、最近俺を探し回っている妖怪ってのはお前か?」
この妖怪、俺の事を嶺と呼んでいる辺り俺が不老だということに気付いていないようである。
まあ、トップシークレットなのだから当然の話だが。
?「ええそうですわ、一族の一人を見つけるのに大分時間が掛かってしまいましたが」
晴「そりゃあ、一族って言ったって俺一人しか居ないからな」
?「は?」
俺の言葉に固まる美人(笑)
晴「俺の本当の名前は嶺じゃない、それは偽名だ。星月一族ってのは、いろんな偽名を使っている内に独り歩きした噂だ」
?「ちょっ、ちょっと待って!?」
なにやら酷く困惑している。
口調もおそらくこっちが素なのだろう。
?「貴方、人間よね?」
晴「あん? どっからどう見ても人間だろうな」
何を言っているんだこいつは?ってな感じの視線を送る。
?「私は少なくとも、今までで5つは名前を聞いたわ。 なのに一族って言うのは噂で、やっと見つけた人間も偽名を使っているなんて・・・どう考えてもおかしいわよ」
晴「そりゃ、星月なんて姓は今迄で俺しか名乗っていないからな」
?「貴方、何者なの?」
得体の知れない者でも見るかのような視線を送ってくる美人(笑)
晴「人に名前を尋ねる時は自分からってのは常識だぜ?」
少しおどけたように肩を竦める。
美人は何でも許されるなんてのは妄言だ。
礼儀はきちんとしとかないとな。
紫「これは、失礼。 私は八雲紫。 スキマ妖怪と言われていますわ」
優雅に一礼、しかし胡散臭い雰囲気のために気品が微塵も感じない。
晴「俺は、星月晴夜。 人間だ」
紫「晴夜、それが貴方の名前ですのね」
おっ、口調が元に戻った。
晴「それで、紫は人間である俺に何の用なんだ?」
なんというか、前置きがすげぇ長かったな。
主に、余計な情報をカミングアウトしたせいだが。
紫「そうでしたわ、危うく忘れるところでした」
おい、忘れる一歩手前だったのかよ!?
って、妖力が膨れ上がった!?
先ほどまで下の上くらいだった妖力が中の上くらいまでになった。
眼前の紫は妖艶な笑みを浮かべ、
紫「貴方には、私の式になっていただきますわ」
右腕を右に振った。
瞬間、体に違和感を感じた。
晴「なんだ!? 何をした?」
体に外傷は無い。 五体満足だがあるべきものが無い。
っていうか、少ない。
紫「うふふ、貴方の霊力とそれに類似した力は封じさせていただきましたわ」
霊力は人並み、魔力に至っては空っぽ、とてもじゃないが今の状態でまともに戦闘して勝てる自信は無い。
晴「やられたな、能力か?」
どちらも隠していたつもりだったが、見破られていたらしい。
紫「ええ、私の能力は【境界を操る程度の能力】。 これで貴方の力の境界を弄らせていただきましたわ」
扇子を口元にあて、勝ち誇ったように笑う紫。
紫「貴方に選択肢をあげましょう。 自ら望んで妖怪となった上で式になるか、無理矢理犯されてから式になるか? 好きな方を選んでくださいな。 ああ、逃げようなんて思わない方がいいですわよ?」
そう言って、俺と紫を囲むように結界が張られる。
それなりに固い。
上級妖怪でも簡単には壊せないだろう。
退路は完全に断たれたか・・・
晴「悪いけど、式になるつもりはない」
当然だ、そもそも待っている奴らがいるんだ。
さっさと帰らなければ。
紫「状況を分かっていますの? 貴方はもはや袋の鼠、力を持たない人間に何が出来るというんですの?」
こちらを小馬鹿にしたように笑うが別に腹は立たない。
俺からしてみればまだまだ若輩の妖怪なのだ。
いちいち腹を立てていたらキリが無い。
まあ、あの勝ち誇った顔は腹が立つが・・・
晴「一つ聞かせてもらいたい。 俺を式にしてどうするつもりだ?」
そこが分からない。
紫は、俺の力を全て知っているわけではないようだが、狙われる理由が見つからない。
紫は胡散臭い雰囲気を引っ込め、真面目な顔になったかと思うと口を開き、
紫「私には、夢があるのよ」
ぽつり、ぽつりと話し始めた。
紫「人間と妖怪がお互いに手を取り合い、共存できる世界を創るのが私の夢なのよ」
人間と妖怪が共存して暮らす世界を創る。 これがどれほど困難な事かは創造に難くない。
妖怪は人を喰らい、人は妖怪を退治するもの。 それは、全ての生物が呼吸をする事と同じくらいに当たり前のことだ。
決して相容れない、しかしお互いに依存しあっている二つが共に暮らせる世界。
誰が聞いても、何かの冗談かと取られてしまうだろう。 しかも彼女は妖怪。 圧倒的強者の部類である妖怪に、このような考えを持っている奴が居ることに俺は少なからず驚いた。
目の前の妖怪は本気でそんなことが出来ると考えているのだろうか?
晴「そんなこと・・・本気で出来ると思ってんの?」
妖怪だろうと人間だろうと、今の話を聞いたら即答で―そんなことできるわけがない―、と言うだろう。
これはもはや、認識の違い。 それを根本からひっくり返す必要がある。
紫「出来る出来ないの問題じゃないわ、創るのよ」
紫の目は本気だった。
本気で、その夢物語を実現させようとしている。
晴「並大抵の事じゃ出来ないぞ?」
それに、一人じゃ絶対に無理だ。
多くの信頼できる手伝い、仲間が必要だ。
紫「だからこそ、貴方が欲しい。 妖怪と友好的な関係を築く事ができる人間である貴方が」
晴「なるほどね・・・うん、そういうの悪くないと思うよ。 いや、むしろ結構好きだな」
ふっ、と紫に柔らかく微笑みかける。
確かにほとんど実現不可能な話ではあるが、可能性はゼロではない。
紫「!!・・・じゃ、じゃあ!」
紫の表情が喜色に染まり始める。
だからこそ・・・
晴「だからこそ、今は協力できない」
その一言で、喜色に染まりかけていた表情は一転して困惑と悲観に染まった。
紫「どうして、何がいけないの!?」
訳が分からないと言った様子で叫ぶ紫にたった一言、
晴「お前はまだ弱すぎる、その程度の力じゃ共存なんて考える事もおこがましい」
非情なる一言、普通人間が妖怪に対して吐けるセリフではない。
呆然としている紫に背を向け、
晴「もっと強くなってから、そういうことは考えるものだぜ」
歩き出そうとしたところで、頬を何かが掠めた。
振り返ると紫が妖力で作り出したであろう、紫色の球体を無数に配置して殺気と共にこちらを睨みつけてきた。
紫「さっきから聞いていれば、人間の癖に随分な口を叩くじゃない」
額には青筋が浮かんでおり、握った扇子はメキメキと音を立てながら形を変えてゆく。
紫「気が変わったわ、貴方には少し痛い目に遭ってもらうわ」
そう言って、紫は妖力弾を撃ってきた。
その様はまさに弾幕と言うにふさわしい物で、前方には弾幕、他は結界に囲まれており逃げ場などどこにも無い。
まあ、逃げ場が無いなら逃げないだけだが。
晴「だから、そんな程度じゃ駄目なんだってば」
俺は瞬時に霊力・魔力で大量の弾を形成し、次々と襲い掛かる紫の弾幕に向けて発射した。
次々と紫の弾幕を相殺していき、紫の弾幕を全て喰らい尽くしてその弾幕の波は紫へと襲い掛かった。
紫「なっ!? きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
自分の弾幕が全て相殺され、驚きで体が硬直したものだから俺の弾幕をまともに喰らって煙が晴れた頃には地面に這い蹲って気絶していた。
晴「・・・・・・・とりあえず、連れて帰るか」
紫が気絶した事により四方を囲んでいた結界はとっくに消えている。
倒れている紫を抱え、微妙に複雑な心境でまだ見ぬ家への道を歩き出した。
久しぶりの更新&紫登場回。
感想待ってま~す




