月人来襲
遂に、輝夜が月に帰る日。
その日の夜は、不気味なほどに静かで月だけが妖しく光輝いていた。
それでは、どぞー。
あれからあっという間に月日が過ぎ、とうとう輝夜を迎えにくる満月の日となった。
輝夜の屋敷周辺には国中から集められた、兵士や陰陽師が集いその手には全員弓を持っていた。
数は聞いた話では10万を超えるとの事。
しかし、そんなもの月の技術の前には風前の塵に等しい。
晴「数は、力の差を簡単に覆すって言うけど今回ばっかりは当てはまらないな」
蟻の大群が鯨に喧嘩を吹っかけるようなものだ。
輝「そうね、それほど月の技術は進歩しているのよ」
俺は帝直々の命令で輝夜のすぐ側での護衛を命じられた。
大半の陰陽師や武士達から嫉妬の篭った視線を感じたが、帝の命令なので文句を言えるはずも無い。
晴「どうやら、奴さんのお出ましのようだな」
遥か上空に浮かぶ月が不自然に光った。
よく目を凝らすと、牛車のような形の乗り物が雲に乗ってこちらに近づいてくる。
屋敷周辺からは困惑する声や怒声が響き渡っている。
晴「輝夜、俺の姿を知っている奴も居ると思うから身を隠すよ」
輝「分かったわ、頼りにしてるわよ」
晴「任せろ、それと永琳には出てくるまで俺のことは伏せて欲しいんだ」
悪戯を思いついたような笑みに察したのか、
輝「永琳の反応が見たいわけね」
呆れたような顔をしているが了承してくれた。
そして、俺は姿を消した。
牛車が目視できるまで近づくと、一際強い光を放った。
光が止むと、外に居た兵士は一人残らず膝が折れ地に倒れ付した。
これは永琳が考えたものだろう。
月の連中が地球の人間の命を案ずるとは思えない。
牛車は、地上に着陸すると中から武装した兵士が出てきて最後に永琳が出てきた。
あの日と変わらない赤と青の配色のナース服のようなものを着ていて、少し大人びた感じを思わせる。
輝夜はゆっくりと前に出て行き、永琳だけが前に歩き出す。
永「お迎えに上がりました、姫様」
輝「永琳!!」
二人は抱き合い、輝夜は永琳から何か壷のようなものを受け取ると、震えている老夫婦の元まで行き、それを渡した。
その壷を受け取り、輝夜が離れた瞬間糸が切れたようにその場に崩れた。
おそらく、昏倒させる何かをやったんだろう。
その場で意識がある者は月の兵士と永琳、輝夜だけだった。
月の兵士の隊長っぽい奴が前に出て、
?「姫様、八意殿、そろそろ月へと帰りましょう」
その言葉に輝夜は、
輝「嫌よ、あんなところに戻るくらいならここで死んだ方がマシだわ!!」
?「貴女は死ねないでしょう? あまり我々を困らせないでいただきたい、ねぇ八意殿?」
永「悪いけど、私も戻るつもりは無いわ。 もしかしたら、晴夜が生きている可能性があるもの。 それに、私が居なくてもあの子達が居るわ」
?「確かにあの方が死んだと聞かされたときは我々も衝撃を受けました。 しかし、貴女はその敵をとったでしょう? それに、あの爆発を回避したとはとても考えられない」
永「それでも、可能性が低くたって0じゃないわ!」
永琳の声には悲痛な、現実を受け入れたくないという気持ちが込められている。
?「仕方ありませんな。 全員構え、行動不能にして連れ帰るぞ」
兵士が構えるよりも早く、永琳は矢を放つがそれは兵士の目の前で弾かれた。
永「なっ!? それは試作段階の!?」
?「ええ、何があるか分かりませんからね。 勝手に拝借させてもらいましたよ」
兵士の周りには薄い膜のようなものが見て取れ、それが永琳が放った矢を弾いた。
これは永琳が作っていた簡易障壁だが、試作品のためあまりに強い攻撃は防げない。
それでも、ちょっとやそっとじゃ壊せない代物だ。
永「不味いわね、あれを持ち出していたなんて」
苦虫を噛み潰したような顔をする永琳に対し、
輝「大丈夫よ、永琳」
力強く、輝夜が言い切る。
永「姫様?」
?「さて、そろそろ覚悟はよろしいか? 全員、放てぇーーー!」
兵士一人一人が持っている銃からレーザーが射出される。
永琳は輝夜を庇うように抱きしめるが、輝夜は瞳を開いたまま前だけを見据えていた。
?「全く、随分とか弱くなったもんだな、永琳?」
輝夜たちを貫くはずだったレーザーは、その直前壁にぶつかったように、バシュウッと音を立てて消えた。
困惑する月の兵士と永琳、その中で輝夜だけが口に笑みを浮かべたままだった。
輝「知らないの? 私と永琳には護り神が付いているのよ?」
悪戯が成功した時のような顔で輝夜は笑った。
突然周囲に桜の花びらが舞い踊り、それが一箇所に集まると中から長い白銀の髪に猫耳の付いた少年が現れた。
晴「永琳、君の護衛役は誰だったかな?」
髪の色こそ違うものの、その容姿は遠い昔に都市の人間全員を救う為に妖怪の大群を相手に時間を稼いだ少年だった。
そして、永琳が最も待ち焦がれた少年が目の前に居た。
少年と永琳の胸元にあるペンダントが共鳴するようにキラッと光る。
永「・・・晴・・・・夜?」
まるで信じられないと顔に書いてあるような表情でこちらを見つめる。
そんな永琳に近づき、
晴「全く、もう少し遅かったら寂しくて死んでしまうところだったな」
冗談めかして言うと、永琳が抱きついてきた。
永「よかったぁ・・・本当に、もう・・・逢えないかと・・・・・」
晴「ごめんね、心配かけた」
ぼろぼろと涙を流しながらも、不器用に笑う永琳。
お世辞にも綺麗とは言えないが、俺にはその笑顔がとても綺麗に見えた。
輝「はいはい、再会を喜ぶのは後にしてまずはこの状況をどうにかしましょうよ」
実は先ほどからこちらに向けて、レーザーが引っ切り無しに飛んできているのだが遮断の陣を張っているので外からの攻撃は一切届かない。
その代わりこちらの攻撃も届かないが・・・
永琳は少し恥ずかしそうに身を離すと、顔つきが変わった。
頭の切り替えの速さは相変わらずだ。
永「正直、あの障壁をどうにかしないことにはこちらに勝ち目は無いわ」
晴「あれってどういう原理なんだ?」
永「あれは霊力を無理矢理圧縮して薄い膜を張るものよ。 壊すにはそれ以上の密度と量で貫くしかないわ」
という事は、浄化を使えばなんとかなるかな?
晴「(美桜、いけるか?)」
美桜「(無論じゃ)」
後は永琳達をどうにかしないとな。
永琳と輝夜の周りに同じ陣を張る。
分かりやすいように少しだけ、色を付けた。
晴「その中から出るなよ、危ないから。 それじゃあ覚悟はいいか、てめぇら?」
永琳は何か言いたそうにしていたが輝夜がそれを止める。
やれやれ、随分と信頼されたものだね。
レーザーが止むと同時に外側の陣を解除し、一気に肉薄する。
刀を抜いて、それに浄化を付加し薄い膜を切りつけた。
すると、刃が当たっただけでシャボン玉に触れたときみたいに、パンッと音を立てて割れた。
流石試作品、耐久力が紙だな。
そのまま一人一人の武装を切り刻み、無力化していく。
接近戦は得意ではないのかこちらの動きについて来れる者は一人として居らず、すべての兵士の武装は使い物にならなくなった。
?「クッ、まさか生きていたとは」
晴「人を勝手に殺すな」
全く失礼な連中だ。
晴「命までは取らないから安心しろ、ちょっと眠ってもらうぞ」
そう言って、桜の木を創りだす。
桜の花びらは意思を持っているかのように、一人一人の頭に移動すると小爆発を起こして全員地に倒れ付した。
なんというか、あっけないな。
武器に頼りすぎて、自己の身体能力が並程度では当たり前か。
晴「終わったよ~」
二人に近づいて陣を解除すると、二人は呆然とこちらを見つめるだけだった。
晴「どうしたの?」
永「いや、何というか貴方なら月に一人で乗り込んでも制圧できそうな気がするわ」
驚き半分、呆れ半分といった様子でため息をつく永琳。
輝「殺したの?」
晴「いや、気絶させただけだからその内目を覚ますと思うよ、それより二人はこれからどうする?」
永「私は姫様と隠れようと思うわ、どうせ月から追っ手が来るんだもの」
永琳はうんざりと言った様子で頭を抱える。
苦労してんだな、永琳も。
晴「それなら、東の方角に迷いの竹林って言うところがあるからそこなら身を隠すには丁度いいよ。 そこに居るウサギに俺の名前を出せば何とかしてくれると思うし」
実は、その竹林で質の良い筍が取れるのだ。
何回か通う内にそこに済んでいるウサギの妖怪と仲良くなり、偶に料理を振舞っていたりする。
永「晴夜が言うなら大丈夫そうね、何から何まで本当にありがとう」
深く頭を下げる永琳の顔を強引に上げさせる。
晴「気にすんな、それよりも輝夜にこれを渡しておくよ」
ポケットから取り出したのは例に漏れずペンダント。
かぐや姫だけに竹と桜の花びらをモチーフにしている。
晴「本当に危ないときは呼んでみな、どこに居たって駆けつけるから」
輝「ありがとう」
輝夜は受け取ると、すぐに首に取り付けた。
和服に洋物の首飾りはどうかと思ったが意外なほどよく似合っていた。
永「ところで、その姿はどうしたの? ずっと気になっていたんだけど」
晴「ああ、それはね・・・」
美桜との憑依を解くと疲労感に襲われる。
同時に髪の色は黒に戻り、隣には美桜が現れる。
晴「永琳にはまだ話していなかったけど、彼女は俺の護り神だよ」
美桜「神咲美桜じゃ、よろしくの」
永琳は酷く驚いたようで、さらにはうろたえている。
永「えっ? 護り神って、いつから?」
美桜「お主と晴夜が会う前からずっとじゃ。 ちなみに、妾が晴夜に憑依する事でさっきのような姿になるのじゃ」
永「じゃあ、なんで姿を現さなかったの?」
美桜「妾が姿を現したら、お主は絶対に晴夜を意識し始めるじゃろう? しかし、それも徒労に終わった訳じゃが」
すると、永琳の顔が赤くなった。
輝夜はそんな永琳を見て、ニヤニヤ笑いながら、
輝「かなり手強いライバルが現れたわね、永琳?」
輝夜の一言でさらに顔が赤くなる永琳。
晴「ゆっくり話をしたいのは山々だけど、時間が無いからな。 また今度にしないか? お互い時間はたっぷりあるわけだし」
輝「そうね、永琳をからかうのもこの辺にしておきましょう。 それじゃ、またね晴夜」
永「貴方が生きていてくれて本当に良かったわ。 偶には遊びに来てね、じゃあまた」
輝夜は嬉しげに、永琳はまだ顔が赤かったが名残惜しげに東の方角へと飛んで行き、やがて見えなくなった。
晴「さて、これ・・・どうしようか?」
後ろを振り返ると、まさに死屍累々。
血こそ出ていないものの、大勢の人が倒れているという状況はなかなかに壮絶だった。
永琳との再開フラグ回収。
さぁて、次はどんな話にしようかな?
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