月に想う
かぐや姫と知り合い、懐かしい名前を聞いた晴夜。
そんな晴夜の元にとある人物が訪ねてきた。
それでは、どぞー
あの日から、度々輝夜の屋敷に遊びに行くようになった。
どうやら箱入り娘として大事に育てられているらしく、外には出してもらえないから退屈なのだそうだ。
退屈しのぎに何か話をして欲しいとの事なので、今までの旅の話をしてやったり、永琳に対する愚痴を聞いたり、やることと言ったらそんなものだが輝夜はそれはそれは楽しそうに聞いたり話したりしていた。
輝夜から聞いた話によると、俺は月で英雄扱いなんだそうだ。どうやら妖怪の大群を一人で食い止めたことで、護り神やら武神扱いになっているらしい。
月でもこっちでも神扱いってそんなつもりじゃなかったんだけどな。
神々との戦争の話なんかは特に気に入ったらしく、何回も話すようせがまれた事もある。
その時は、見た目以上に幼く見えたりしたので結局負けて話す羽目になるのだが、輝夜が喜んでいるところを見るとこんなのも偶にはいいかと思えてくる。
なんだか妹が出来たみたいだ。
そんなある日、とても立派な衣装に身を包んだ役人的な人が訪ねてきた。
?「貴方が星月一族の嶺でよろしいか?」
晴「どちら様で、私に何の御用でしょうか?」
今の名前は嶺と名乗っている。
役人的な人は名乗りもせず、値踏みするかのようにジロジロと見てくる。
なんとも傲慢な態度だな。
すると、おもむろにこちらの目を見やり、
?「帝から召喚命令が出ているため一緒に来て頂く」
帝様から直々に召喚されるとは思わなかった。
噂ってのは恐いな。
連れて行かれたのは帝が滞在している屋敷、何でもかぐや姫に求婚に来ているらしい。
すげーなかぐや姫、同情するぜ。
で、眼前には帝が座っている。
一応、不尊罪とかで捕まるのも面倒だし礼儀正しくしておこう。
帝「そなたが星月一族の嶺であるか?」
晴「はっ、私めが星月一族の嶺でございます」
帝「実は、そなたの力を借りたいのじゃ」
やっぱりか、いったいどんな内容なんだか。
帝「実は、朕のかぐや姫が月から迎えが来るらしくての、それの護衛を頼みたいのじゃ」
晴「月・・・ですか?」
つーか、お前のものじゃないだろ!
帝「うむ、俄かには信じられんが嘘を吐いているとも思えん。 じゃから、最大勢力で持って月からの迎えを迎撃してほしいのじゃ」
・・・自分が好いた相手くらい自分で護ろうって気概がないのかね。
そんな事言ったら、しばらくは人前に姿を現すことが出来なくなるな。
とりあえず、形だけでも受けておくか。
晴「分かりました、その依頼受けましょう」
帝「そうか、期待しておるぞ。 次の満月に現れるそうじゃからな。 ところで、聞きたい事があるのじゃが、お主らは妖怪も助けると聞く。 それは何故じゃ?」
何故?と聞かれて素直に答えたら確実に異端扱いだな。
妖怪だっていい奴らはいっぱいいる、なんてのは俺だから言えることだし。
晴「それは、一族の中でそう教えられてきましたので満足の行く答えは出せないと思います。 私自身それが当たり前でしたから」
帝「では、お主は人間と妖怪、どちらの味方なのじゃ?」
晴「どちらなんてありません、私は私が正しいと思った事をするだけです」
それだけを言って、帝の屋敷を出た。
かぐや姫の件が終わったら、早めに都を去ったほうがいいな。
おそらく、今の話は陰陽師も聞いていたはずだ。
何か吹き込むだろうし。
とりあえずは、輝夜に会ってからだな。
輝夜の屋敷に向けて歩を進めた。
今夜も輝夜の屋敷に遊びに行く。
昼間聞いた迎えの件もついでに聞いてみよう。
晴「こんばんは、輝夜」
輝「待ってたわ、今日は何を話してくれるのかしら?」
待ちきれないといった様子で身を乗り出してくる輝夜だが、先に用件の方を片付けておこう。
晴「それは、後でな。 ちょっと聞きたい事があるんだけどいいか?」
輝「月の迎えの事ね」
輝夜の表情に少しだが翳りが見えた。
輝「昼間、帝からの使者が来て貴方も戦力に加えたから安心するように、って言う伝言を聞かされてね。正直言って、この時代の戦力では話にならないわ。 今の月の科学力は貴方が居た頃よりも数段進歩しているし、いくら貴方が強いからって月の兵器には敵わないわ」
輝夜は悔しそうに唇をかみ締めている。
晴「そんな事はどうでもいいんだよ。 輝夜は月に帰りたいのか?そうでないのか?」
その問いに輝夜は、
輝「帰りたい訳ないじゃない!! あんなとこ、なにも変化が無い、ただ毎日を消化するだけの生活! いえ、生活なんてものじゃないわね、何の為に生きているのか?何のために存在しているのか分からない、あんな牢獄のような時間に取り残されたような場所・・・もう嫌よ!!」
止め処なく溢れてくる言葉、最初の勢いもだんだんと小さくなっていき、
輝「もう、あんなとこ嫌よ・・・・・・・お願い、助けて」
遂には嗚咽も聞こえてきた。
その美貌を歪ませ、肩を震わせて泣く姿は触れれば砕けてしまいそうなほどに儚い。
そんな泣いている輝夜の肩に手を置き、顔を上げさせる。
その瞳は不安で揺れており、いつかの美桜と姿が被った。
晴「全く、泣くくらい嫌なら最初から言えよな」
呆れたように苦笑しながら続ける。
晴「俺に任せろ、お前くらい護ってやるよ。 人妖大戦の時と比べたら月に行くよりも簡単だ」
そう言ってニカッと笑う。
輝夜の涙はすでに止まっており、呆然と晴夜を見上げる。
晴「それに知らないのか?俺には護り神がついているんだぜ」
な?と誰も居るはずがない空間に語りかけると、
美桜「晴夜は妾が必ず護る。じゃから、晴夜の護りたいものを守ればよい」
晴夜の背後にしな垂れかかるように美桜が現れた。
驚いている輝夜をよそに、
晴「紹介するよ。 俺の護り神の美桜だ」
美桜「よろしくの」
美桜はひらひらと手を振る。
まだ若干驚いているようだが、頭が追いついたらしくこちらを見据え、
輝夜「本当に・・・本当に私と永琳を護ってくれるの?」
晴「永琳も来るのか。 任せろ、掠り傷さえつけさせやしねぇよ」
その言葉を聞いてようやく安心したのか、こちらに身を委ねて船を漕ぎ出した。
感情を爆発させたから疲れたんだろう。
美桜が布団を敷き、その上に輝夜を寝かせる。
永琳も来るなら、なおさらだな。
美桜「そういえば、あの娘には妾の姿は晒さなかったんじゃな。 どんな反応をするか楽しみじゃの」
悪戯をする子供のように笑う美桜の重みを背中に感じながら、輝夜の頭を一撫でし、輝夜の故郷であろう月を見上げながら決意を固めた。
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