天狗の里
妖怪の山にて、降りかかる火の粉を難なく掃った晴夜。
天狗の里にて、何が待っているのか?
それでは、どぞー
目を開けると、すでに夕方になっていた。
寝たのが昼前だったから、5・6時間くらいは寝ただろうか?
ぐーっと伸びをして立ち上がる。
改めて周りを見渡すと、天狗達の里のようだ。
その風景は、人間達とあまり変わらない。
今は、夕食の準備をしている人がほとんどだ。
?「きゃんっ!」
後ろで可愛らしい悲鳴が聞こえて振り向くと、だいたい、10歳位のカラス天狗の幼女が石に躓いて転んでいた。
そのまま、座り込んで今にも泣き出しそうな顔をしている。
よく見ると、膝を擦り剥いて血が出ている。
晴「大丈夫か?」
?「ふぇ? !!?」
驚きのあまり、声が出ないようだ。
顔には、驚きと恐怖が半分ずつ見て取れる。
そりゃ、さっきは全力じゃないとはいえ脅すようなまねをしたけど、流石にショックを受けるな。
それを表に出さず、能力で傷口を治し、服の汚れを浄化する。
一瞬で傷が治ったことに驚いている少女に手を差し出した。
晴「立てる?」
戸惑いながらもその手を取って、立ち上がり、
?「あ、ありがとうございます、舞桜神様・・・」
控えめだが、しっかりとお礼を言ってきた。
晴「う~ん、俺は晴夜って名前だから出来ればそっちで呼んで欲しいな。 君の名前は?」
文「私は射命丸文です」
晴「文か、いい名前だね。 今度は転ばない様にね」
文の頭を撫でてやり、天魔の家であろう一番大きな屋敷に向けて歩き始めた。
晴「お~い、天魔はいるか~?」
屋敷の前で叫ぶと、中から天魔が出てきた。
天魔「これはこれは、起きられたのですね舞桜s「ストップ」・・・?」
晴「その敬語はやめろ、慣れていないんだ。 それと、晴夜でいい」
有無を言わさないプレッシャーを放つ。
なおも食い下がろうとしていたが、諦めたようで、
天魔「分かりました、それでしたら私のことは楓と呼んでください」
まだ、抜けきっていないが先ほどの仰仰しい感じはないのでとりあえずはよしとする。
晴「分かった、楓だな。 さて、話があると言っていたがそれは後回しにするか」
楓は疑問符を浮かべている。
晴「とりあえず、腹が減った」
言った側から、晴夜の腹がく~~と鳴った。
なんとも、可愛らしい音である。
楓「すみません、すぐに用意します」
立ち上がろうとした、楓を手で制し、
晴「いや、いきなり押し掛けたのはこっちだからな、俺が作るよ」
そう言ったら楓が、首が取れる勢いでぶんぶんと横に振り、
楓「いえいえいえ、晴夜さんに作らせるなど恐れ多いです!!」
晴「それってあれか?俺の料理が食べたくないと?」
楓「いっ、いえ、違います!そうではなくてですね・・・!!」
頭を抱えて、唸る楓。
こちらの方が素なんだろう。
これは弄っていて面白い相手だ。
結局楓が折れ、台所に立ち料理を作り始める。
材料は、それなりにそろっているがシンプルにいこう。
米を炊いて、味噌汁を作って、魚を焼いて、大根おろしを作った。
海苔と即席で作った漬物を添えて出来上がり。
これぞシンプルイズベスト、大事な事は二回言うもんなんだぜ。
晴「楓~できたぞ~」
居間には、楓が正座して座っていた。
もしかして、出来るまで待っていたのだろうか?
膳ではなく、何故かテーブルがありそのうえに夕飯を並べていく。
晴「なあ、なんでちゃぶ台があるんだ?」
楓「これのことですか? これは河童が作ったものです。
河童は物を作る事が好きでして、いろいろと作っているんですよ」
驚いたな、木材の加工技術が明らかに今の時代のものじゃない。
これなら、家を作る際は河童に頼むのもいいかも知れないな。
晴「へぇ、とりあえず食べるか」
興味をそそられる話だが、今は空腹を満たす方が先だ。
楓「あの、一人分多いと思うのですが?」
ちゃぶ台には3人分の食事が用意されている。
晴「美桜、食べないのか?」
すると、晴夜にしな垂れかかるように美桜が顕現した。
楓は驚きすぎて、口は動くが声が出ていない。
美桜「んにゃ~、もう夕飯時かの?」
どうやら、今の今まで寝ていたようだ。
眠そうに欠伸を漏らす。
晴「楓、紹介するよ。 この子は神咲美桜、俺の護り神だよ」
美桜「よろしくの」
楓に微笑みかけながら、自分の席に着く。
楓は佇まいを直して、礼儀正しく、
楓「私の事は楓とお呼びください。 しかし、舞桜神様は実は人と神、両方で一つの存在だったとは」
心底驚いたといった感じで目を丸くする。
晴「そんな事はどうでもいい、とにかく、いただきますだ」
3人手を合わせて「「「いただきます」」」と挨拶してから食べ始める。
楓「おいしい・・・」
晴「そいつはよかった」
どうやら、口にあったようだ。
やはり、自分の作ったものをおいしいと言って食べてもらえるのは嬉しいものだ。
晴「ああそうだ、楓にお願いがあるんだが・・・」
楓「はい、何でしょう?」
晴「この山に家を建ててもいいか?」
楓「妖怪の山に、ですか? 別に構いませんが、何故ここに?」
美桜「晴夜は不老じゃからの。 人の居る場所では、何かと不都合があるのじゃ」
その言葉に、納得したように頷く。
楓「もちろん、いいですよ。 明日にでも、手配しましょうか?」
晴「いや、今しばらくは各地をぶらぶらするつもりだから、次にここに立ち寄ったときにでも頼むよ」
まだまだ、見ていない場所なんて数え切れないくらいあるのだ。
急ぐ必要は無い。
ゆっくりと進んでいけば・・・
それから何事も無く食事が終わり、天魔の勧めでその日は天魔の屋敷に泊まった。
翌朝・・・。
朝食を食べ終えて、楓に旅に戻る旨を伝える。
晴「それじゃ、またな」
楓「はい、またいつでもいらしてくださいね」
天狗総出で、見送ってくれるらしい。
別にそこまでしてくれなくてもいいのだが、天狗という種族は変なところで頑固だ。
?「まって!!」
背を向けて歩き出そうとしたところで、後ろから声が掛けられた。
振り向くと昨日ケガを治してやった少女、文がいた。
文は無言で何かを手に握らせると、そのまま走り去ってしまった。
流石子供でも天狗、速いな~。
手を開いて見ると、そこには小さいが綺麗な黒い羽があった。
楓「それはあの子の風切り羽根ですね。 昨日何かしたんですか?」
晴「転んでいたところを助けただけだけど?」
楓「そうでしたか。 それはあの子なりの感謝の気持ちだと思いますよ」
確かに、とても綺麗だし微かに妖力も感じられる。
晴「ま、ありがたくもらっておくよ。 それじゃあな!」
そして、今度こそ山を降りる為に歩き出した。
さあ、次は何処に行こうか?
更新速度が亀にも劣るって言ってたのに、もう20話目・・・
もう一つの方も頑張らなくては!
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