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木花咲耶姫神(コノハナサクヤヒメ)

ご都合主義ですので、そこんとこよろしく~。


それでは、どぞー。

目が覚めるとそこはだだっ広い森の中でした。

は? え? なに? どういうこと?

―トンネルを抜けるとそこは雪国でした―って言うなら分かるけど、―目が覚めると森の中でした―って、意味わかんねーよ。

だって、俺は白猫を庇ってトラックに轢かれて・・・


晴「それで・・・死んだはずだ」


そう確かに、身体が冷たくなっていく感覚は今でも鮮明に思い出せる。

あ、やべ・・・思い出したら吐き気がしてきた。

頭を振って気を確かに持つ。

よし、まずは状況の整理をしよう。

俺は確かにトラックに轢かれた。 それは断言できる。

あの感覚が夢だったら、俺の精神はとっくにゲシュタルト崩壊を起こしているだろう。

じゃあ、ここはいったいどこで俺はどうなったんだ?

頭を抱えていると、不意に声が聞こえた。


?「・・・ぃ・・ぅ・・」


晴「!!? だれだ!?」


あたりを見回すがどこにもいない。

しかし、今度ははっきりと聞こえた。 と、言うよりも頭の中に直接響いてくるような感じだ。


?「気がついたようじゃな?」


やっぱり頭の中に直接響いてくる感じだ。

まあ、そんな事はどうでもいい、今欲しいのは情報だ。


晴「あんた、いったい誰だ? どうして姿を現さない?」


?「まあ、落ち着け。 今から説明するからちょっと眠ってもらうぞ」


瞬間、俺の意識は黒く染まった。






次に目を開けると、今度は真っ白い何もない空間に横たわっていた。

ははは、もうこのくらいじゃ驚かないぞ。

とりあえず立ち上がると後ろから声をかけられた。


?「ようやく、お目覚めじゃな」


振り向くと同時に俺は息を呑んだ。

そこには、若干幼さは残るが整った顔立ちに抜群のスタイル、艶のある腰くらいの長さの白い髪、頭には猫耳と腰に尻尾がついた少女が立っていた。

身につけている着物は、黒地に桜の花びらが描かれており夜桜のようだ。

正直、今まで見てきたどんな女の子よりも美しい少女だった。

固まっている俺を見て、少女がニヤニヤしながら、


?「どうしたのじゃ? わらわの美しさに見惚れてしまったのか?」


と、聞いてきた。

だから、素直に思った事を口にした。


晴「ああ、はっきり言って見惚れていた。 君以上に綺麗な女の子は見た事がない」


何より、猫耳装備がデフォだなんて・・・俺のど真ん中ストライクだぜ。

もう死んでもいい・・・あ、すでに一回死んでいたな。

少女は少しだけ頬を朱に染め、?「あ、ありがと」、と言って視線をそらした。

ヤバイ、この子めちゃくちゃ可愛い。

ハッ! 今はそんな事考えている場合じゃなかった。

心の中の邪念を取り払い目の前の少女に質問する。


晴「聞いてもいいかな? ここはどこなんだ?」


?「ここは、おぬしの心の中じゃ」


俺の心の中だって? それじゃ、何でこの子はここに居る?

まさか、俺の妄想が生み出した架空の人物なのか?

いやいや、それはない。

一応二次元と三次元の区別は出来ている・・・・・・・・はず。


晴「じゃあ、次の質問。 ここが俺の心の中だって言うんなら君はどうしてここに居る?」


?「それは、妾がお主に憑いているからじゃ。 だから、ここに居れる」


憑いているってこの子は人間じゃないのか。

まあ、猫耳猫尻尾がついている時点で人では無いと思っていたが・・・


晴「じゃあ、次の?「ちょっと待て」え?」


次の質問をしようとしたら少女に止められた。

見ると、なんだか拗ねているように見える。


?「お主、何故妾の事を聞いてこない?」


こちらをジト目で見つめてくる。 うん、やっぱり可愛いな。

だけど、確かにこちらの素性も明かさないまま質問攻めは不躾だったな。

その事を反省しつつ、自己紹介をする。


晴「俺の名前は星月(ほしつき)晴夜 (せいや)。 晴れた夜って書いて晴夜だ。 君の名前を教えてくれるかな?」


少女は満足そうに頷き、名乗った。


美桜「妾の名前は神咲(かんざき)美桜(みお)。 美しい桜と書いて美桜じゃ。 現代では木花咲耶姫神(コノハナサクヤヒメ)と言ったほうが伝わるかの?」


彼女の言葉を聞いて驚いた。

そりゃそうだ、木花咲耶姫神と言えば桜の神様として有名で、又、火の神として富士山に祀られている。

さらに、富士山の噴火を鎮めるとされ、水の神様としても祀られている。

桜好きでこの名前を知らない人は居ないだろう。

彼女の美しさも木花咲耶姫神と言うなら納得だ。

なんで猫耳猫尻尾がついているかは知らないけど・・・

まあ、相手が神様だからって態度を改めるのは今更なので直さない。


晴「驚いたな。 でもどうしてそんなにすごい神様が俺に憑いたりしたんだ?」


すると、美桜は俯いてポツリ、ポツリと話し出した。


美桜「実はな、妾はお主が助けた白猫なのじゃ」


うん、薄々そんな気はしていたからそこまで驚かない。


美桜「情けない話じゃが、妾はあの時金縛りにあったように身体が動かなくてな。 もうだめだと思った時、お主が助けてくれた」


美桜の話を黙って聞く。


美桜「じゃが、その代わりお主は致命傷を負ってしまった。 まだ、息はあったがどうすることもできない傷じゃった。 じゃから、妾はほとんどの神力を使ってお主を別の世界へと転生させたのじゃ」


やっぱり、俺はあの時死んだのか・・・

そして、美桜のおかげでまた生きられるのか。

俺が俯いたのを見て、美桜は膝をついて頭を下げた。 いわゆる土下座だ。


美桜「すまぬ!! 妾のせいでお主の人生をめちゃくちゃにしてしまった! こんな事で償いになるとは思っておらんが、お主の気が済むまで煮るなり焼くなり好きにしてくれ。 妾はどのような辱めも受けるぞ」


しかし、言ってる事とは裏腹に身体は震えていた。

同時に思う。

ああ、この神様はなんて優しいのだろう。

たかだか一人の人間のために力をほとんど使ってまた生きる機会を作ってくれた。

あれは、俺が勝手にやったことでこの子がここまで気に病む必要は本当はないのだ。

でも、美桜はその事で心を痛めている。

なら、救ってやらないとな。

俺は美桜に近づき、肩に手を触れる。

美桜の身体が一瞬ビクッと跳ねた。

そんな彼女に出来るだけ優しく声をかける。


晴「美桜、顔を上げて」


美桜は恐る恐るといったように顔を上げる。

その表情は今にも泣き出しそうだ。


晴「君はどうなる?」


美桜「え?」


美桜は訳がわからないと言った様子で声を上げた。

神力とは、信仰によって力の強弱が決まるってなんかの本に書いてあったような気がする。

彼女は別の世界に転生させたと言っていた。

と言う事は、彼女を知っている者はこの世界に居ない可能性も出てくる。

だとすると、彼女は消えてしまうのではないか?

そんな考えがよぎってしまった。


晴「この世界、おそらく美桜を知っている人は居ない可能性の方が高い。 そうした場合美桜はどうなる?」


美桜「おそらく、神力が無くなれば消えるじゃろうな。 じゃがいいのじゃ、お主が生きていてくれさえいれば」


そう言って、笑った。

明らかに無理をしている。 触れれば壊れそうなくらい危うい笑顔だ。

本当は消えたくないはず。

だから、抱きしめた。

ここに、存在している事を他でもない俺が証明するために。

いきなり抱きしめられたからか驚いている。

構わずに彼女に向けて言いたかったことを言った。


晴「美桜、ありがとう」


美桜「な、何を言っておるのじゃ? 妾のせいでお主は死んだんじゃぞ?」


美桜は困惑していた。

自分が死んだ原因に対してお礼を述べているのだから無理もない。

でも、それでも、俺は美桜に対して怒りとか憎しみとかそんな感情は湧いてこない。

むしろ、俺の心を埋めていたのは深い感謝の心だった。


晴「確かに俺は美桜を庇った。 でもそれは自分でやったことだし、そのことで悩まれると助けたかいがないってゆうか・・・それに、美桜だって俺の事助けてくれただろ?」


美桜は黙って聞いている。

その頭を優しく撫でながら、彼女に向けて今出来る最高の笑顔を向けた。


晴「美桜、助けてくれてありがとう」


美桜は大きく目を見開き、顔を歪ませて抱きついてきた。

そして、


美桜「ぁ・・ぁあ・・・っう、うぇぇ・・うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」


美桜は堰が切れたように泣き出した。

ずっと、不安だったのだろう・・・

せめて、彼女が泣き止むまでは側に居てあげよう・・・

俺は何も言わず、彼女を優しく抱きなおし優しく頭を撫で続けた・・・











あれからどれくらい経ったかは分からない。

美桜もだいぶ落ち着いたようで、もう泣いてはいなかった。

目は赤く腫れ上がっていたが・・・


美桜「晴夜、お願いがあるのじゃが・・・妾を晴夜の護り神にしてくれぬか?」


護り神・・・守護神とも言って災難から自分を守ってくれる神さまの事だ。


晴「そうすれば、美桜は消えなくて済むのか?」


問題はそこだ、正直美桜が消えなければなんだっていい。

守り神だろうが祟り神だろうがどんと来い。

美桜はコクリと頷いた。


晴「うん、いいよ。 それで美桜が消えないなら」


穏やかに全てを包み込むような笑顔で了承する。

美桜の顔色が明るくなる。

うん、それこそ漫画だったらパァー!とか付きそうな勢いで。

しかし、今度は頬を朱に染めながら俯いてなにやらもじもじしている。


美桜「そ、それでじゃな護り神になるためには誓いの儀式を行わないといけないのじゃが・・・」


美桜の神力があとどれくらいなのかは分からないが早ければ早いほどいいに決まっている。

しかし、肝心の美桜は俯いて指をもじもじといじるだけ。

じれったいので、その儀式の方法を聞いた。


晴「それで? その儀式は何をするんだ? なるべく早い方がいいだろ?」


すると、美桜は意を決したように口を開いた。


美桜「・・・接吻じゃ///」


晴「・・・・・・・は?」


思わず聞き返してしまった。

俺の聞き違いでなければ接吻って言ったか?

美桜は耳まで真っ赤になりながら叫んだ。


美桜「じゃから接吻じゃ!! 妾と晴夜で接吻をしないといけないのじゃ!!」


やっぱり聞き間違いではなかったようだ。

俺と美桜が接吻? いわゆる、まうすとぅまうす、詰まるところのキスをするってことか?

えっ、でも俺キスなんてした事ないし・・・いや初めてがこんなに綺麗な女の子、しかも神様とだなんて願ってもないけど・・・

俺が困惑していると、美桜が見上げてきた。


美桜「妾と接吻するのは嫌か?」


瞳が不安で揺れている。

ここで断れば、美桜は消えてしまう。

それだけは何としても避けなければならない。

だけど・・・


晴「俺なんかでいいのか?」


思わず、そう聞いてしまっていた。

曲がりなりにも神様である美桜と何処にでもいる普通の高校生である俺では釣り合わないと思う。

しかし、そんな俺の思いとは裏腹に美桜は、


美桜「うん、晴夜がいい。 いや、晴夜じゃないとだめなのじゃ!!」


耳まで赤かったのが首まで真っ赤にしながら叫ぶ。

女の子にここまで言わせておいて何もしないのは男じゃないな。

俺も男なら腹をくくるしかないな。

美桜をまっすぐに見つめる。 応えるように美桜も見つめ返してくる。

こうして見ると、本当に綺麗だよな。

流れるような白い髪に、透き通るような白い肌

猫みたいにキラキラ輝く潤んだ大きな蒼い瞳に艶やかな桜色の唇

それらのバランスを考えた上で配置された鼻。

・・・やっぱり綺麗だな。

美桜の腰に手を回し抱き寄せ、小さな顎に手を添え上を向けさせる。

「んっ」っと美桜の口から吐息が漏れるが気にしない。

不意に美桜が口を開いた。


美桜「あの・・・初めてじゃから優しくしてくれ///」


少し意外なカミングアウトをされた。

まあ、俺も初めてだし条件は一緒かな。

二人の距離が近づく。

美桜はすでに瞳を閉じて、触れ合う瞬間を待っている。

ヤバイ、すげぇドキドキする。

今にも心臓が破裂するのではないか?と思うくらい大きな音が聞こえる。

だんだんと近づく・・・

あと少し・・・

そしてついに、その距離がゼロになった。

彼女の柔らかい感触が唇を通して脳を揺さぶる。

それと同時に俺の意識も薄れていった。

薄れゆく意識の中で美桜の声が聞こえた。






美桜「ありがとう、晴夜」







初めてのキスの味はサクランボのような甘酸っぱさだった。


あぁ、顔から火が出そうだ。


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