妖怪の山
旅の先では様々な出会いと別れがつきもの
今日も晴夜と美桜は旅を続ける
それでは、どぞー
さて、旅に出てから数百年・・・
そういえば、奈良にでっかい大仏が作られたとかなんとか。
大仏や仏教には毛ほども興味が無いので、相変わらず各地を転々としている。
行く先々で、村があれば一年ほど滞在し新たな土地を求めて旅に出る。
滞在している間は、妖怪から村を守ったり、怪我をしている人を能力で治してやったりと結構忙しいが充実した毎日を過ごしていた。
怪我を治してもらえるし、何より妖怪に怯えなくて済むということで評価がうなぎ昇りになり、そのせいで出て行くときに物凄く止められたのは正直厄介だった・・・
よく、何故そんなに強いのか?なんて質問されたがその度に、
晴「俺には、護り神が憑いているんですよ」
と、答えていた。
このとき知ったのだが猫神の噂は結構根強く残っており、さらに諏訪大戦(今はこう呼ばれている)では単騎で神の大群をあしらったことから武神として信仰を受けているらしく、桜を纏い美しく舞うように戦う姿から、舞桜神と呼ばれていた。
このことにより桜の花は勝利をもたらすとされ、戦いに行く人たちは桜の花を象ったものを身につけて行くらしい。
戦うときは美桜を憑依させ戦っていた(かなり力は抑えた)ので、ここでも猫神様と崇められる始末で困った困った。
10年もそんなことを続けていれば次第に噂も広まって、『護り神(武神)が憑いている人間』というレッテルを貼られていた。
後先考えないで行動した結果がこれだよ。
10年単位で名前を変えているがいつの間にか星月一族とか言われ、行く先々で歓迎されるが初日から超忙しい。
ちなみに今は、人相手に「星月陽」と名乗っている。
本名を簡単に語るほど愚かじゃないはずだけど、星、月、太陽は安直だったかな?
そして、この頃からちらほらと陰陽師の名前も聞くようになってきた。
なんでも、妖怪退治が専門らしくそれで飯を食ってるらしい。
だから、俺の事を陰陽師と呼ぶ人も結構いるが、その度に陰陽師ではない事を説明している。
陰陽師になったら、妖怪と仲良くできないだろう?
妖怪達との交流も忘れない。
猫神と呼ばれているのは同じだが、友好的な妖怪、すぐに逃げ出す妖怪、俺を倒して名を上げようとする妖怪等、様々な奴らがいた。
いろんな奴らを見てきたが、どの妖怪もあの二人に叶う奴は一人として居なかった。
そこんところは素直に誇らしかったな。
いろいろな土地を見てきたが、なかなか条件にあった土地は見つからなかった。
晴「家を作ろうと思い立って早数十年、未だに進歩が無いのはどういうことだ?」
美桜「(それだけ、条件が厳しいと言うことじゃろうな)」
確かに人が決して近づかない場所で、かつ開けた土地などどこを探しても見つからなかった。
晴「はぁ~、ところでここはどこだ?」
適当に歩いていたらいつの間にか山の中にいた。
そこらじゅうから妖怪の気配がするが襲ってくる様子はない。
?「止まれ!そこの人間!!」
上から声が聞こえた。
声がした方を見上げると、黒い翼を生やした5,6人の妖怪がこちらを睨みつけていた。
その姿から、巷でそれなりに噂になっている天狗だと推測する。
?「ここは我々誇り高き天狗の地、妖怪の山だぞ! 侵入者の人間よ、恨むなら自分の行動を恨むんだな」
すると、晴夜の両脇に天狗が降りてきて、腕を拘束し飛んだ。
?「貴様にはこれから地獄を味合わせてから食ってやる。 覚悟するんだな」
その中のリーダーっぽい天狗は顔を歪ませながら笑った。
正直逃げようと思えば逃げ出せるがせっかくだ、このまま流れに身を任せるのもいいかもしれない。
?「ククク、どうやら恐怖で言葉が出ないようだな?」
無言でいる事を勘違いしている天狗を横目で一瞥し、この山を見渡す。
かなり大きな山で、開けた場所も多く見られる。
しかも、妖怪の山という事は、人間がやってくることも無いだろう。
晴「(なあ、美桜? ここなら条件としてはぴったりじゃないか?)」
美桜「(そうじゃな、人間は天狗がいるせいで近づかないしの)」
思いもかけないところで理想の場所を見つけたのに、内心喜んでいると不意に晴夜の腕を掴んでいた手が離された。
体はもちろん重力に従って落下していく。
高度的には落ちても死にはしないだろうけどこちらを見下ろしている天狗の顔がイラッときたので華麗に体を捻って回転しながら着地する。
競技だったら、満点をもらえてもいいくらいだ。
見上げると、天狗は苦虫を噛み潰したような顔で降りてきた。ザマァ。
?「その人間は何者だ?」
声をした方を振り向くと、でかい天狗がいた。2メートルは余裕である。
そのほかにも、さっきの天狗どもとは比べ物にならないくらい大きな妖力を持った天狗がごろごろいる。
?「はっ、そこの人間が妖怪の山に侵入した挙句、我々に対し罵詈雑言の数々を吐いてきたため地獄を味合わせてから始末しようと思い連行した次第でございます」
ピキッっとでも聞こえてきそうなくらい、青筋が立っているのが分かる。
それに、俺はそんなこと言ってねーし。
とりあえず、無駄だと分かっていても弁明しとくか。
晴「罵詈雑言なんて吐いてねーよ。 いきなり呼び止められたと思ったらここまで「口を開くな、人間!!」・・・あ?」
?「人間の分際でその態度、なるほど確かに地獄を味合わせてから最も残酷な方法で殺す事にしよう」
周囲から妖力及び殺気がビシバシ飛んでくる。
しかし、それらは謎の一声で霧散した。
?「何事だ!」
?「「「「「「天魔さま!!」」」」」」
奥から、一人の少女が歩いてきた。
年齢的に見れば俺とほとんど変わらない。
この子も天狗なのか・・・
綺麗な黒髪を肩の辺りで切りそろえて、威厳たっぷりに歩いてくる。
確か、神奈子も最初はそんな感じだったかな?
今じゃ見る影もないけど・・・
天魔と呼ばれた少女は他の天狗と違って妖力の大きさが半端じゃなかった。
周りの天狗全員が頭を垂れている。
それだけでも、かなりの力を保有している事が分かる。
あいつらといい勝負するかもな。
そんな場違いなことを考えていると、
天魔「いったい何事だ? それと、何故人間がここに居る?」
その問いかけに、先ほどのでかい天狗が答える。
?「そこの人間が我々の地に無断で立ち入り、我々を愚弄したのです」
そこまで聞いて、天魔はこちらを射抜くような目つきで睨み、名前を聞いてきた。
天魔「人間、名はなんと言う?」
晴「これから、死ぬ人間の名前を聞いてどうするんだ?」
質問を質問で返してみた。笑顔のおまけつきで。
これ実際にやられるとすっげぇ腹立つんだよね。
それは天狗も例外ではなく、天魔は綺麗な顔を憤怒に染めたが一瞬で先ほどと変わらない表情に戻った。
流石に天狗を束ねているだけはあるな。
一瞬で冷静さを取り戻したよ。
組織の上に立つ者は、常に冷静でいなければならない。
上がしっかりしてないと下が総崩れになってしまうからである。
その点では、この少女は上に立つ資格がある。
天魔「ふん、まぁよい。この人間を連れてきたのは誰だ?」
?「はっ、私でございます」
先ほどのリーダーっぽいのが前に出てきた。
天魔「ならば、お前があの人間を始末しろ。 すぐには殺すな、たっぷり時間を掛けて殺せ」
さっきのリーダーっぽい奴(めんどいから以下ボブ)は晴夜と10メートルほど距離を空ける。
いつの間にか、周りは天狗で埋め尽くされ、あっちこっちから野次が飛んでくる。
ボブ「ククク、せいぜい逃げ惑うんだな」
そう言うと、こちらに向かって突進してきた。
手には剣を持っている。
そして、その剣の切っ先が俺の頬を掠めて鮮血が飛び散る。
ちなみに一歩も動いていない。
どうやら、徹底的に嬲ってから殺すつもりらしい。
ボブ「ククク、さあ逃げ惑え」
そして、人間ならぎりぎりかわせる位のスピードで四方八方から切り込んでくる。
それらをいちいち大げさに避け続ける。
周りからは歓声が上がり、それに気を良くした天狗は若干スピードを上げる。
それでも、まだ普通の人間でもかわせるレベルだ。
しかし、徐々にスピードを上げていっても最初の一閃以降俺は一撃ももらっていない。
徐々にボブの顔に焦りが見えてきた。
周りの天狗たちは、「いつまで遊んでいるんだ!」と囃し立てる。
なんだ、この程度か・・・
晴「弱いな」
つい、口が滑った。もちろんわざとだけど・・・
ボブ「何だと!?狩られる側の分際で俺を愚弄するか!?」
格下と思っている相手に罵倒され、怒りに任せて突っ込んでくる。
ぜんっぜん遅いな。
晴「桜嵐、抜刀!」
居合いの要領で、ボブが持っている剣を粉微塵にする。
もはや柄しか無くなった自分の剣を見て呆然としている。
周りの天狗は唖然とし、天魔も驚いている。
晴「狩る側から狩られる側になる気分はどうだ?」
一歩一歩、まるで首を狩りにくる死神のようにゆっくりと近づく。
ボブはすでに戦意を喪失したようで腰が引け、じりじりと後退している。
晴「そういえば、名前を聞かれていたっけ? 俺は星月晴夜、巷では猫神って言われているな」
霊力、魔力を開放しながら天魔の方に近づき、自己紹介をする。
ボブにはもう用は無い、あんな無様な姿は目を汚すだけだ。
天魔「・・・・・・まさか、舞桜神様!? 妖怪も人間も助け、かの諏訪大戦では単騎で大和の神々を全員戦闘不能にしたという・・・?」
晴「そうそう、それ俺のことね」
顔が真っ青になり、ようやく自分達のやった事を理解する。
しかし、周りの天狗のうちの一人が、
?「嘘を吐くな、貴様には神力の欠片も感じられないではないか!」
晴「嘘じゃねーよ、これが証拠だ」
美桜を憑依させ、ギリギリ妖怪が耐えられる量の神力を開放する。
これでようやく、全員が黙った。
自分達が格上の相手に喧嘩を売ってしまった事、しかもその相手は一瞬で山一つを消し去る事など容易に出来る事を理解した。理解できてしまった。
天魔「舞桜神様とも知らずに数々の無礼、私は如何なる罰も受けましょう。 どうか他の者達のことは許していただきたい」
晴「いや、別に気にしてねーよ。 普段は俺もそこらの人間と変わらねーし、間違えてもしょうがないさ」
天魔「!!、寛大な御心、感謝します」
晴「は~、疲れた。 悪いけど少し寝るわ」
天魔「でしたら、布団を・・・」
晴「いや、いい。 少し庭を借りるぞ」
神力で桜の木を出現させる。
これには、驚くもの、見惚れるものなど様々な反応を見せる。
晴「じゃ~な、天魔。起きたら話でもしようぜ。 あ、あと起こすなよ?」
呆然としている天魔にそう言い、木に寄りかかって目を閉じた。
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