諏訪大戦
戦争だーーー!
突撃ーーーーー!!
それでは、どぞー
あれからあっという間に一ヶ月が過ぎ、決闘の日となった。
この戦いに勝利した方の国が負けた方の国を従えることができる。
この一ヶ月でやった事と言えば、毎日諏訪子と戦っていた事くらいだ。
それでも、一ヶ月前と比べると大分強くなった。
内容? ミア達の最終段階の修行(hard)をひたすら繰り返すだけの簡単なもの。
ちなみに、ミアたちでノーマルだから相当だね。
晴「それでも、勝てるかどうかわかんないけどね~」
ミア「誰に向かってしゃべってるんですか?」
おっと、いけない。 口に出ていたようだ。
今俺は森の中に居る。
いつも、ミアたちと修行している場所だ。今回は神々の戦いと言う事で観戦させようかと思って来たのだ。
晴「ミア、姫音! 今日は神々の決闘がある。 参考になるか分からないが観戦しに行くぞ」
二人は最近、かなり力をつけてきた。 それでも、大妖怪と呼ばれるにはほど遠いが年月が過ぎれば必ずそこまでたどり着けるだろう。
だから、今ここで格上の戦いを見せて刺激を与えようと思ったのだ。
姫音「神々の決闘ですか? 興味あります。 ぜひ、連れて行ってください!」
ミア「あたしもお願いします!」
二人そろって頭を下げる。
晴「よし、もうすぐ始まると思うから急ぐぞ。 それと、陣から出たら驚くぞ?」
悪戯を思いついたような顔で二人を見る。
二人はキョトンとしていたが、陣から出た瞬間その表情が驚きに変わる。
二人の妖力が陣の中よりも約1.5倍に増えていた。
と言うよりも、それが本来の妖力であり、陣の効力で制限が掛かっていたのだ。
それが今は無いので、必然的に元の妖力に戻る。
姫音「こ、これは!」
ミア「すごい、これが本来の妖力!」
二人とも驚いているが、反面顔がとても嬉そうだ。
晴「ほらほら、急がないと始まっちゃうよ」
二人はあわてて、後ろを追いかけてきた。
場所は諏訪湖、そこには既に大和の神々が集結していた。
それも、これから野戦でも始めるのか?と思うほどの大群が湖を囲んでいた。
二人を見晴らしのいい高台まで導き、そこに結界を張る。
二人が神力に当てられないようにするためと妖力を隠すためだ。
晴「いいかい、この結果から外に出たら間違いなく大和の神々が襲ってくるだろうから外に出ちゃだめだよ?」
二人はコクコクと頷く。
若干顔が青ざめて見えるのは気のせいではないだろう。
晴「それじゃ、俺は諏訪子のところに行ってくるからよく見ておくように」
それだけを言い残し、諏訪子が居る場所へ飛んだ。
晴「お待たせ!」
諏訪子が立っている場所に降り立つ。
諏「おかえり、何してたの?」
晴「いや、弟子にこの戦いを見せておこうと思ってね。 特等席を用意してきた」
諏「ああ、前に話していた妖怪か、たしか、ミアと姫音って名前だったっけ?」
どうやら、覚えていたようだ。
話したのは少し前だったんだけどね。
話したときは、反発されるかと思ったが意外にもあっさり納得してくれた。なんでも、
諏「晴夜が育てたんならそこまで人に危害は加えないだろうね」
とのこと。
正直、意味が分からん。
それと、猫神信仰が地味に増えていて困っている。
何故かは分からないけど。
最近人助けなんてやってないのに・・・
まあ、自分の事は置いといて、今はこの決闘に集中しよう。
大和側からはどうやら神奈子が代表として出るようだ。
神奈子と諏訪子がお互いに前に出る。
諏「まずは、こちら側の提案を呑んでくれたこと感謝する。 だが、それとこの決闘は話が違う。 諏訪の地を治める土着神の頂点、洩矢諏訪子。 貴様ら大和の神などにこの地の信仰はやらん!!」
神奈子「こちらとしてもあの提案は願ったり叶ったりだったのでな、こちらこそ感謝する。しかし、この地の信仰は大和の神であるこの八坂神奈子がもらい受ける」
両者が高らかに叫んだところで両国の兵やミシャクジ様から歓声が響いた。
正直うるさい・・・
さて、そろそろ始まるか。
その前に、
晴「諏訪子!!」
大声で呼びかけると、こちらを向いた。
晴「思いっきり、楽しんで来い!!!」
一瞬キョトンとしたが、意味を察すると大きく頷いた。
今掛けた言葉にはそれほど意味なんて無い。
大事なのは、気圧されている気持ちを取り除く事。
やはり、どこか緊張した面持ちだったが幾分かはすっきりした顔になっていた。
さて、俺に出来るのはここまで。 後は諏訪子が何処までやれるかだな。
突然掛けられた声に諏訪子は振り向いた。
声で分かる、晴夜だ。
晴「思いっきり、楽しんで来い!!!」
楽しむ?負ければ信仰を奪われるのに、その戦いを楽しむ?
全く、どんな状況でも晴夜は変わらないね。
それが可笑しくて、少しだけ口元が緩んだ。
それと同時に、心がなんだか軽くなった。
ああ、そうか。 私は緊張していて、それを晴夜は取り除いてくれたんだ。
本当に晴夜はすごいね、たった一言でもう負ける気がしなくなったんだもの。
私は大きく頷いて応え、正面にいる大和の神、八坂神奈子を見据えた。
諏「さあ、始めよう八坂神奈子! 今なら誰にも負ける気がしない!」
両手に鉄の輪を出現させ、戦闘態勢に入る。
神奈子「随分と大口を叩くのだな。 たった一言掛けられただけで何が変わるというのだ?」
八坂は、木の柱を取り出し戦闘態勢に入った。
どちらとも、にらみ合ったまま動かない。
この瞬間、既に決闘は始まっている。
ただ、下手に動くとカウンターをもらってしまう事もあるので普通は動かず相手を観察する。
しかし、私はすぐに動いた。
一瞬で肉薄し、斬り付ける。
しかし、流石は戦いの神。 驚きはしたもののすぐに柱で防御した。
避けるのではなく、防いだのだ。
要するに動きが一瞬とはいえ、止まった。
それを見逃さずに、地面から岩の槍を創造し八坂に向かって放つ。
八坂はそれらを、全て受け止める。
だが、柱のほうは耐え切れずに途中で折れ、すぐに新しい柱を出すがその間にいくつか被弾した。
少し距離を開け、また対峙する。
神奈子「なかなか、やるではないか。 先手を取られたのは身内以外では初めてだぞ」
八坂が口を開いた。その顔は、笑っている。
諏「なに、晴夜のあどばいすのおかげだよ」
あどばいすと言うのはよく分からないけど、要するに助言らしい。
その内容は、
晴「おそらく、相手は八坂神奈子が出てくると思う。厳しい事を言うけど、今の諏訪子じゃあ負ける確立の方が高いね。踏んできた場数がそもそも違うもの。でもそういう奴らは、基本的に今までの経験を元にその状況に合わせて戦う事が多いから、最初は動かずに相手を観察すると思う。そこで、まず始めは一直線に最高速で突撃する。これは一種の賭けだ。もし、避けられたらその後が厳しいけど防いだなら、そのまま畳み掛ければ先手は取れるはずだよ」
そして、その通りになった。
実力と経験で劣る私が勝てる方法といったら、相手の意表を突く攻撃しかない。
しかし、それでもまだ厳しいだろう。
でも、負けるわけにはいかない。
私を信仰してくれている民、ミシャクジさま、そして何よりこの舞台を用意してくれた晴夜のためにも
諏「私は、負けるわけにはいかないんだあああぁぁぁ!!」
再び、突進を仕掛けた。
諏訪子はアドバイスどおりに動き、先手を取ることが出来た。
だけど、これでこの手は使えなくなった。
相手は軍神と言われる八坂神奈子。
同じ手が二度通じる相手ではない。
まあ、結果はどうあれすぐに決着はつくだろう。
晴「何処までいけるかな? 運が絡めばもしかしたら勝てるだろうけど・・・」
そう呟くと、後ろから声が聞こえた。
天鈿女「晴夜、こんにちは。 何が運が絡めば・・・なの?」
振り向くと、天照と天鈿女の二人が立っていた。
晴「こんにちは、お二人さん。 そうだね、最初と最後に一個ずつ綱渡りがあるんだよ。最初の方はクリアしたけど」
先手を取ることで、流れを引き込むことが出来る。しかもそれが、相手の意表を突いたものならばちょっとやそっとでは揺るがない。
だが、
天照「こんにちは、晴夜さん。 いくら、先手を取ったとしても相手は軍神と言われている八坂神奈子。逆に流れを引き戻してしまう事も有り得ますよ」
そんな事は分かっている。
だから、諏訪子に指示を与えた。
今ある手札の中で最も勝率が高い作戦だ。
晴「だからこそ、諏訪子には最初から出し惜しみせずに全力で戦えって言ってある」
一見すれば、ペースを考えない愚行のように思えるが実力に差があるほど超短期決戦が生きてくるのだ。
だからこそ、今諏訪子は神奈子を押している。
相手が全力を出し切る前に、神速で持って相手を叩き伏せることがこの場において最も有効なのである。
天鈿女「すごい、神奈子が他国との戦であんなに苦戦しているところなんて見た事無いよ」
天照「ですが、そろそろペースが落ち始めていますよ」
確かに、最初と比べると明らかに技のキレが落ちている。
分かってはいた、分かってはいたのに、
晴「やっぱり、苦しそうな姿は見たくないな」
そろそろ、終幕だ。
いつでも割り込めるようにしておかなくちゃ。
あれから、怒濤の如くひたすら攻めて攻めて攻めまくった。
最初の先手が利いているのか、流れは常にこちらにあった。
しかし、それも限界に近い。
そもそも、今まで特攻やら速攻を仕掛けたのだ。
神力の消費量もそれに比例して大きいが、相手をかなり消耗させる事が出来た。
おそらく、私一人ではここまでの傷を負わせる事は難しかっただろう。
むしろ、ジリ貧で終わっていたかも知れない。
そんな事を考えていると、八坂が話しかけてきた。
神奈子「正直、ここまで苦戦するとは思っていなかったぞ。 だが、そろそろ限界なんじゃないのか?」
確かにその通りだ。
膝は笑い、手は指先がしびれている。
こんな状態で、戦い続けるのは困難だ。
諏「だがそれでも、民の為に負けるわけにはいかないんだぁぁぁ!!」
吼える。それによって、自らを奮い立たせる。
八坂は驚いたように目を見張り、次にその口には獰猛な笑みが浮かんでいた。
それは、好敵手に会えたことを喜ぶ笑みだった。
神奈子「洩矢の神、いや、洩矢諏訪子! お前は最後の戦を飾るにふさわしい相手だ。それに敬意を表して次の一撃で決めてやる」
諏「いいだろう! 受けて立つ!」
神奈子は高度を上げ、その背後には巨大な御柱が姿を現した。
あれで、私を潰すつもりだろう。
私は、両手の鉄の輪を遥か上空へと投げ捨て、大地に向けて念じた。
諏「(堅き大地を司る者よ! その拳を突き上げ給え!我が怨敵を打ち砕かんがために!)」
大地から巨大な人の拳を模したものが八坂に向けて飛んでいく。
同時に八坂も御柱を放ってきた。
二つの力が激突する。
神力を注ぎ続けなければ、今すぐにでも砕けてしまいそうだ。
なけなしの神力をほとんど、注ぎ込む。
これで、十数秒は持つだろう。
上手い具合に私から八坂の姿が見えない。
八坂は、今御柱に集中しているためこちらの動きには気付いていない。
私はすぐに上空へと飛び、八坂よりも高い位置で止まり、最後の突進を仕掛けた。
それと同時に、岩の拳が砕け、私がいない事に気付くがすぐに上を向く。
流石だな、すぐに気付くなんて。
だけど、もう遅い。
先ほど投げた鉄の輪が落ちてくるのを一回転して掴み、その勢いのまま思いっきり投げた。
諏「これで・・・終わりだぁぁぁ!!」
勝った!!
そう思ったのがいけなかった。
神奈子「今のは流石に焦ったね、だけどこれで私の勝ちだ」
神奈子が御柱を放ってきた。
防がれていたのだ。
完全に意表を突いて、上に投げた鉄の輪の落ちてくるタイミングも投げるタイミングも完璧だった。
ただ一つ犯した過ちは、
――相手が完全に戦闘不能になるまで、絶対に勝ったなんて思うなよ、それだけは絶対だ――
諏「(ああ、最後の最後でドジっちゃったな~)」
目の前に御柱が迫ってくる。
もはや、神力は空っぽ。
飛ぶ力も残されていない。
体は今自由落下を始めている。
故に回避は不可能。
諏「(晴夜、ごめんね。 勝てなかったよ)」
諏訪子は目を閉じ、来るべき衝撃に備えた。
諏「(・・・・・・・・・・・・?)」
しかし、いつまで経ってもその衝撃は来なかった。
それどころか、誰かに抱きかかえられているようだ。
そして、ほのかに香る花のような匂いと男性特有の匂いが混ざった匂い。
この匂いを諏訪子は知っている。
瞳を開けるとそこには・・・
晴「頑張ったね、諏訪子」
晴夜が優しげに微笑んでいた。
その笑顔を見ただけで、胸に込み上げてくるものがあった。
そしてそれは雫となって、諏訪子の頬を伝う。
諏「せっ、いやぁ~・・・まけ・・・ちゃった、よ~~」
晴夜の胸に顔を埋め、泣き出した。
ぼろぼろと大粒の涙が晴夜の胸を湿らせる。
何も言わずに諏訪子を抱きしめ、能力を使って諏訪子の傷を癒していく。
そして、心を癒す。
今、諏訪子は何もかもぼろぼろの状態だ。
晴「後は、俺に任せて少し眠りな」
心を癒した副作用だろうか?
諏訪子は瞳を閉じて、やがて寝息が聞こえてきた。
手は、晴夜の服を掴んでいる。
諏訪子を抱きかかえたまま、神奈子の方を向く。
今の一部始終を見ていたからだろう、驚いた表情をしている。
神奈子「お前は本当に人間なのか?」
神奈子がそう聞くのも無理は無い。
何せ、神奈子が最後に放った御柱を素手で受け止めて、神と家族のように接しているのだから。
晴「だから人間だって。 さて、諏訪子が負けたから諏訪大国はあんたらの軍門に下るよ。だけど、その処理は明日でいいか? 今は諏訪子がこんな状態だし、早く布団に寝かせてやりたい」
神奈子は、それを了承しようとしたがそこで割り込む声があった。
やはり戦闘描写は苦手だな。
改めて、説明する事の難しさを認識した今日この頃
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