表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/36

交渉(2回目)

晴夜が去ってから、たっぷり10分。 交渉を行っていた部屋では天照が激怒していた。


天照「これは、どういうことですか!!?」


今回の交渉の条件を作った神達は全員萎縮してしまっている。

彼女は誰にでも優しく接するため神たちの間で人気が高いがその反面怒ると物凄く恐いのだ。

天照が高天原(たかまがはら)での素戔嗚(すさのお)尊の行為に怒り,天の岩屋戸(あめのいわやど)に身を隠した結果、世界が暗闇になったという話は有名だ。


天照「全く、これで戦争を回避できるなんて本気で思っていたのですか?」


天鈿女「まあまあ、天照ちゃん落ち着いて」


天鈿女命は天照と仲が良く、また同じくらいの器量を持っているのでこれまた他の神から人気が高い。


天鈿女「いくら、晴夜に恥ずかしいところ見られたからってちょっと感情的になり過ぎだよ」


天鈿女の一言でまたもや場が凍った。

天照の顔が、それはもう燃え盛る太陽の如く真っ赤に染まる。


天照「なななななっ、なぜそこで晴夜さんの名前が出てくるのですか!?」


さらに動揺が走る。

何せ、今まで数多くの縁談を断って来た天照が敵国の何処の馬の骨とも分からない人間に惹かれているのだ。


天鈿女「あれ~?てっきり、晴夜に気があるんだとばかり思ってたんだけど違うの?」


天照「ち、違います!何を言っているんですか、貴女は!」


もはや、耳まで真っ赤になった天照が否定する。

これまで、数多くの縁談の話があったにも関わらず全て断っていた天照がこのような反応を見せるのは初めてのことだった。

その姿を見た他の神たちは呆然としている。


天鈿女「そうなんだ。 じゃあ、私がもらっちゃってもいいよね?」


天照は顔が赤いままうろたえ、他の神々はもはや呆然としている。

先ほども言ったが、天鈿女も天照と同じくらい人気が高い。

当然、縁談の話がいくつもあったが天照同様全て断っていた。

そんな彼女が一人の人間に惹かれている。

それも、天照と同じ相手に。


天照「あ、貴女は何を言っているのですか!?晴夜さんは、物じゃないんですよ!?」


天鈿女「私は晴夜が気に入ったのよ。 だから、問題ないわ」


天照「そういう問題では・・・」


神々の中でも最上位に位置する二柱は他の神そっちのけで、一人の人間のことで騒いでいる。

人間を名前で呼んでいるあたり、二人とも本気なのだろう。

普通なら作戦やら準備やらで話し合うのだろうが、そんな雰囲気ではない。

それを離れた所から見ていた神奈子は、


神奈子「(この戦、勝てるんだろうか?)」


一人、頭を抱えていた。











場所は変わって、大和の砦から洩矢神社に戻った晴夜は諏訪子に報告するために神社の本殿に足を運んだ。


晴「という訳で、戦争になっちゃった。 ゴメンッ!!」


勢い良く土下座する。

プライド?こんな事で傷がつくようなプライドなんて持ち合わせていないね。

諏訪子は、予想が当たったという顔で、


諏「そっか、やっぱりね。 顔を上げて、晴夜。 これは、誰の責任でもないよ。 むしろ、私達の為に怒ってくれてうれしいよ」


なんでもない事の様に言ってくれた。

だけど、このままじゃ両国に被害が出るのは目に見えている。

だから、一つ提案を美桜と一緒に考えた。


晴「諏訪子、実は提案があるんだけど・・・」






次の日、俺は昨日交渉と言う名の愚弄をされた大和の砦に来ていた。

もちろん、手土産の酒を持って。

門に近づくと、めっちゃ警戒された。当然だけど・・・


?「貴様は昨日の!! 何しに来たのだ!?」


晴「いや~、昨日はこっちも大人気なかったのでもう一度きちんと交渉がしたいと思いまして。 お取次ぎ願えますか?」


なるべくフレンドリーに話しかける。

こちらから心を開くのが友達を作る第一歩だよね。

しかし門番は、


?「ふざけるな!! 昨日の事をもう忘れたか? そっこk「いいから早く行け!!」・・・なっ!!」


霊力を全開にして、命令する。

霊力だけならそこらの神にも劣らない力を発揮できる。

修行の賜物だね。


晴「国家間の問題を唯の門番ごときが口を挟むな!!」


しかし、門番は動こうとしない。

むしろ、武器を構えて神力を放出してきた。

騒ぎを聞きつけ、ぞろぞろと兵が出てくる。

なんだか、嫉妬の念も聞こえる気がするけど気のせいだろう。

まさに、一触即発の状態。

そこに、まるで場違いなほど明るい声が聞こえた。


天鈿女「あれ~?誰かと思ったら晴夜じゃない。 どうしたの?」


晴「えっと・・・天鈿女命様でしたっけ?」


確か、そんな名前だった筈だ。

どうやら、合っていたらしく嬉しそうに笑いながら、


天鈿女「そうそう! 嬉しいな、覚えててくれたんだね!」


晴「まあ、昨日の今日ですしね」


俺の手を取って、上下にブンブンと振る。

なんだか、他の神様と違ってとてもフレンドリーだ。

そして、可愛らしい。


天鈿女「それで今日はどうしたの? まさか、私に会いに来てくれたとか?」


なにやら一人で、「キャー、どうしよう!」とか言ってる。

とりあえず、話が通じる相手のようなので適当に返事をして本題に入ろう。


晴「まぁ、それは次の機会にでも取っておきましょう。 実は、そちらともう一度交渉がしたいのです」


天鈿女「本当!?」


勢いよく、顔を近づけてくる天鈿女。

ちょっ、近い近い!!

というか、そこまで驚くことかな?


晴「ええ、昨日はこちらも些か頭に血が「そっちじゃ無くて、今度私に会いに来てくれるの?」・・・・・・ハイ?」


えっ?交渉の件じゃなくてそっち?


晴「まあ、機会があればの話ですが・・・」


天鈿女「約束よ、絶対に会いに来てね。 それと、敬語じゃなくてタメ語でいいよ」


なんで、タメ語なんて言葉があるんだよ。

まあ、そこら辺は気にしても仕方ないな。

天鈿女はなんだか「これで一歩リードね」とか言っているけど何の事だ?


晴「それで? 交渉、してくれるの?」


ここで断られたら、態々出向いた意味が無い。

まあ、断られても脅すけどね。


天鈿女「私に任せて!! 全員黙らせてでも取り次いで見せるから!」


おお、敵対してるのに頼もしく見える。


天鈿女「それじゃあ、行きましょう」


俺の手を取り、砦の中に入っていく。

後に残された門番と一般兵はただ呆然と見送るしかなかった。






場所は昨日と同じ部屋。

しかし、人数はずいぶん少なくなり、天照、天鈿女、八坂神奈子、昨日は居なかったが八咫鳥、素戔嗚、豊受姫神【とようけひめのかみ】の6人だ。

正直、昨日より威圧感が半端じゃない。


晴「まずは昨日の事、それから急に押しかけてしまい申し訳ない」


こちらの急な要望に応えてくれたのだから、頭の一つも下げなくては人として失格だ。


天照「頭を上げてください。 もともとはこちらに非があるのですから、これでおあいことしましょう」


そう言って、まるで聖母のように微笑む。


晴「お心遣い、感謝します」


頭を上げ、気を引き締める。

この場には、あの馬鹿げた神どもは居ない。

これが、失敗したら多くの血が流れる。

主に大和の国のだけど。


天照「それで、交渉の件ですけど内容は?」


晴「はい。 こちらとしましては戦争を避けたいところなのですが、おそらく昨日の件で戦争を回避する、というのはもはや不可能に近いというのは先ほどの兵士の目を見れば分かります」


あれは、親の敵でも見るような目だったな。

実際は、天照と天鈿女が晴夜に惹かれているという話が広まり嫉妬が殺意に変わっただけなのだが晴夜はそれを知らない。


晴「そこで、両国から代表者を一人決め、決闘という形で決着を着けたいと思うのですがどうでしょう? 負けた方は、勝った方の軍門に下るという条件で」


これなら、大量の血を流さなくて済むし、何より被害が最小限に抑えられる。

問題は相手がこれを了承するかどうかだ。

そこで口を開いたのは素戔嗚だ。

その風貌は歴戦の猛者を漂わせる中年といったところか。


素戔嗚「ふんっ、なにかと思えば馬鹿馬鹿しい。何故、わざわざ負けるリスクを高めてまでそんな事をしなくてはいけないのだ?」


う~ん、こいつは頭が悪いのかな?

それとも、唯の戦闘狂(バトルジャンキー)なのか?

そこで、天鈿女がフォローしてくれる。


天鈿女「被害を最小限に抑えるのは、民の為にもなります。野が荒れ、森が焼けてしまえば困るのは民。私達は民を苦しめるために戦争をしてるのでは無いでしょう?」


その言葉に素戔嗚が黙る。

そして、勝手にしろとでも言うように顔を背けた。

まさか、フォローしてくれるとは思わなかった。

アイコンタクトでお礼をすると、ウインクで返してきた。

後できちんとお礼をしなくては。

そのやり取りを天照は羨ましそうに見ていたが誰も気付く者は居なかった。


天照「分かりました。 その提案を受けましょう。 では、詳しい日時と場所ですがどうなさいますか?」


晴「日時は今より丁度一ヵ月後の早朝から始めましょう。場所は諏訪湖の近くが良いかと」


これで、ほぼ決まった。

良かった、これで血を流さなくて済む。

ほっと一安心したところで、早く帰りたくなってきた。

早々に引き上げるか。

イスから立ち上がり、一人一人の顔を見る。


晴「では、話もまとまりましたしこの辺で帰らせていただきます。本日は急な来訪にも関わらずこのような場を設けていただきありがとうございます」


深く最敬礼をして、扉に向かい、取っ手に手をかけた所で、


?「待て!」


振り向くと、それまで終始無言だった八坂神奈子が立ち上がっていた。

呼ぶ止めたのは彼女だろう。


晴「なにか?」


神奈子「お前は本当に唯の人間か? その霊力といい、我らを前にして尚、堂々としていられる胆力といい、人間とは思えない」


晴「何が言いたい?」


思わず、素の口調が出てしまった。

しかし、それを気にする風も無く真っ直ぐにこちらを見ている。


神奈子「私にお前の力を見せてくれないか?」







あの後、場所を移動して現在は砦の訓練場。

目の前にはざっと、100人の神兵がこちらに武器を構えて立っている。

距離は100メートルほど。

結論から言うと、100人斬りをすればいいとのこと。

周りには多くの神兵、そして高みの見物をしている神々が並んでいる。

神奈子は立会人のようだ。

全く面倒な事になったな。

天照と天鈿女は俺の背後に居る。

天鈿女は分かる気もするけど、天照までこちらに居るのは意外だな。


天鈿女「晴夜~!頑張って~!」


後ろで応援している天鈿女に軽く応えると、周りから視線が突き刺さり、目の前の100人からの殺気が増えた。

えっ? 俺何か怒らせるような事・・・・・したな、昨日。

しょうがない、一瞬で終わらせるか。 何よりめんどい。


神奈子「準備はいいか?」


ジャキッと言う音が一つの音として聞こえた。

おお、すごい団結力だな。


神奈子「それでは・・・始め!!」


神奈子の合図と共に一斉に突っ込んできた。

悪いけど、一撃で決めさせてもらう。

今回使うのは、霊力ではなく魔力だ。

魔力の方が火や水が扱いやすいのでこちらを使う。

結構前に作ったけどまだ一度も使った事の無い技を今回使う。

上手く加減できるといいんだけど。

魔力を練り、それっぽい詠唱を始める。

神兵達は徐々に距離を詰めて、今丁度半分くらいまで来た。


晴「全ての生命を支える輝ける太陽よ その灼熱の炎で眼前の敵を焼き尽くせ!」


うん、厨二だね。

ちなみに、この詠唱にはそんなに意味は無い。

気分って大事だと思うんだ。

そんな事を考えている間に残り15メートルほどまで来た。

そろそろかな?

魔力を練るのを止め、その力を開放するために言葉を放つ。


晴「焼炎『太陽の天災(デザストル・ソレイユ)』!!」


空間に陽炎が生じ、続いて燃え盛る炎が姿を現す。

それは、一瞬にして100人の兵を飲み込み、そして役目を終えたとばかりに消えていった。

後に残されたのは炭化した100人の兵士だけだった。

う~ん、やっぱり少し強すぎたな。

死んではいないと思うけど、みんな炭になっちゃってるよ。

威力の調整を間違えたことを反省しつつ、神奈子のほうを向く。


晴「終わったけど帰っていい?」






八坂神奈子は呆然としていた。

彼女だけじゃない。

周りの兵達はもちろん、高位の神達すら今の出来事が理解できなくて唖然としている。

そんな中で、天鈿女、天照だけは目をキラキラさせながら晴夜を見ていた。

この100人は神兵のなかでも隊長クラスだけを集めた精鋭中の精鋭だ。

普通の人間なら、一人として傷を負わせる事すら無く、いつ攻撃されたかも分からないうちに殺すことの出来る連中だ。

それが、たった一瞬でしかも人間に一掃された。

あの炎は私でもヤバイ、まともに喰らったら致命傷は確実だ。

いったい、こいつは何者なんだ?

戦いを見れば分かるかと思ったがますます分からなくなった。


晴「終わったけど帰っていい?」


その言葉にハッとして、ようやく我に帰る。


神奈子「あ、ああ。 すまんな、時間を取らせて」


晴「いや、別にいいよ。 それじゃあね。 あ、そうそう。 諏訪大国の代表は洩矢諏訪子だからよろしくね」


晴夜は私に親しげに手を振ると、天照と天鈿女にも同じように手を振り神社へと帰っていった。


とにかく今は考える時間が欲しい。

私は疲れた頭を休めるために自室へと向かった。


今回はかなり長めになってしまったので二話に分けて投稿してみました。

主人公が強すぎる。

どうにかしなければ・・・


感想・誤字指摘ございましたらお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ