交渉(1回目)
今回は交渉編、いよいよ大戦が近づいてキターー!
あの妖怪達を鍛え始めてから普通に100年くらいが経った。
だから話飛びすぎって?普通に修行の風景を書いたって楽しくないし読んでるほうもつまらないでしょ?
最初は回避の徹底と妖力の底上げを目標に一ヶ月くらいの予定が防御や受身の練習も増やして、気付けば半年くらいやっていた。
5ヶ月くらいでこの修行に耐え切れなくて3人が逃げ出した。
まあ、頼まれたからやっているだけで別に強制じゃないからいいんだけどね。
それから、回避に重点を置いていたので避けるのは皆出来ている。
なので、今度は二人一組で組み手をやってもらう。
もちろん、修行の第一段階の状態でね。
これを10年ほど続けていると、一気に五人が逃げ出した。
それでも、下級妖怪に負けないくらいにはなっていたから問題は無いだろう。
残ったのは、ミアと名無しの妖狐だけとなった。
さらに、30年続けてどちらも尻尾が3本に増えていた。
この段階で、妖力は中級妖怪と同じくらいにはなった。
そして、これが一番キツイ最後のメニューだ。
一段階の花びらと比べると、は?なめてんの?って言いたくなる密度で花びらが舞う。
そんな状況で俺から一本取るというのが最後の修行だ。
もちろん、協力してもいいし、個人で掛かってきてもいい。
最初の方は、次々と被弾していってこちらに近づくことさえ出来なかったのに30年も経てば攻撃が届くようになった。
もはや、中級妖怪なら軽くあしらえるだろう。
そして、今日も今日とて二人の修行に付き合う。
晴「はい、今日はここまで!」
ミア「うあ~、またダメだった~」
?「諦めちゃだめだよ、次がんばろう?」
ミア「そうだね。 よし、組み手しようよ、姫音!」
姫音とは、狐の妖怪少女の名前で、不便という事で俺が付けた。
本人も大変気に入ってくれたようでめちゃくちゃ尻尾を振っていた。
晴「それじゃ、俺はもう帰るよ、また今度な」
そう言うと、こちらに向かって一礼して、
ミア・姫音「「ありがとうございましたー!」」
元気な声で挨拶してきた。
その声に振り向かず手を振り、神社に向かって飛んだ。
今までのが修行の内容、今度はここ百年の日常を説明しよう。
簡潔に言うと、修行したり、美桜とまったりしたり、諏訪子と模擬戦したり、散歩に出かけたり、人間助けたり、妖怪助けたり、諏訪子に祟り飛ばされたり、宴会したり、月見酒、花見酒、etc…
とにかく、平和だった。
一回手料理を振舞ったら、諏訪子が大変気に入ったらしくそれ以来、神社に居るときは3食俺が作っているのは余談だ。
自分の修行に関しては、どれだけ美桜が憑依していられるかを試すためにずっと憑依しっぱなしで生活してみた。
その姿で人間やら妖怪やら助けていたからだろう、なにやら巷では『猫神様』とか言われているらしい。
しかも、神社に住んでいるから神と間違えられて拝まれる始末。
そのせいで、俺自身が神力を持ってしまった。
って言っても、美桜と比べるとエベレストとマリアナ海溝くらいの差がある。
諏訪子曰く、「別にほっといてもその内信仰する人が居なくなってなくなるんじゃない?」とか言っていた。
それでいいのか、神様?
基本人間だし、信仰も微量だから問題ないだろうけど。
完全に神格化してしまったら面倒だな。
自分の修行では、諏訪子との模擬戦や能力の開発を主にやった。
諏訪子は強かったな~。
流石に大地を創造できるだけあって、地面全体が武器であり、盾になるんだから溜まったもんじゃない。
一回だけ、人妖大戦のおりに使った、花爆『花びらの爆発』を使ったら一瞬で諏訪子をボロ雑巾のようにしてしまい後で思いっきり怒られたのは記憶に新しい。
自分の能力、【癒しと浄化を操る程度の能力】に関しては、あまり出来る事は少ないようだがその分汎用性と応用性が物凄く高かった。
特に日常生活。
浄化を使えば、洗い物をしなくてもいいというのは最高だ。
お風呂に入らなくても体は清潔なままだが、やっぱり日本人だったら湯船に入りたいよね。
という事でお風呂には入っている。
癒しは、心にも体にも効くようで諏訪子の心労を日々癒している。
美桜の【桜花を司る程度の能力】は、戦闘においては修行などを見れば分かると思うが多対一に特化している。それに、神力を桜に変換して出す事で攻撃にも使える。
今なら、千本桜も夢ではない気がする。後で試してみよう。
【火と水を操る程度の能力】はいろいろ使い道があると思うが今は効果としての付加だけに留めている。
桜花の性能がチート過ぎて、あまり考えていなかったのが原因だ。
これから、徐々に考えていこう。
日常生活には惜しみなく使用しているが・・・
それと、前までは髪が伸びてきたら定期的に切っていたが今は伸ばしている。
丁度背中の辺りまで伸びており、後ろで一つに纏めている。
理由?イメチェンがしたかったからさ。
ただそれだけ。
早朝の神社には、風を切る音が響いていた。
音の発生源は境内の中央で晴夜が振るっている刀からだ。
朝食を作る前と夕食後にこうして刀を振るい、剣技に磨きをかけるために毎日行っている。
それも刀を渡された日からなので、途方も無い年月だ。
晴夜が刀を振るう姿はまるで踊っているかのようで、刀の軌跡は朝日に照らされ幻想的に光り輝く。
夜は夜で月明かりが反射して朝とは違った顔を見せてくれる。
永年やってきただけにそれは一つの芸術作品のようで、花火は爆ぜる瞬間が一番美しいようにその一瞬一瞬が見る者を虜にする。
ステップを踏み、まるでリズムをとるように緩急を付け縦横無尽に移動しては刀を振るい続ける。
まるで風に舞う一片の花びらのように、自由な大空へ羽ばたく鳥のように晴夜の剣舞は続いた。
そんな、ある日諏訪子に呼び出された。
晴「諏訪子、なんか用?」
諏訪子は本殿に居て、周りにはミシャクジ様が控えている。
なにやら、真剣な話のようだ。
諏「うん、美桜は?」
美桜「ここにおるぞ」
俺の隣に立つ美桜。
諏「とりあえず、座って」
言われたとおり、諏訪子の対面に座る。
俺達が座ったのを確認すると、一つ一つ説明し始めた。
諏「最近、大和の国が近隣諸国に戦争を仕掛けて信仰を奪っている話は知っているね?」
ここ最近大和の国はいろんなところに戦争を仕掛け、その地の信仰を奪っているらしい。
いつかここにも来るだろうと思っていたが、遂にここまで来たか。
晴「ああ、良く知っているよ。 妖怪の間でも結構噂は広まっているからな」
諏訪子は俺が妖怪を助けている事を知っている。というか、教えた。
なぜって?聞かれたから。
最初は抗議されたが、今では納得してもらっている。
諏「そして、いよいよこの国の信仰も狙ってきたんだ。だけど、あっちも戦争は避けたいみたいで交渉したいと言ってきたんだ」
交渉ね、百戦錬磨の大和の国がそんな平和的解決法を提示してくるかね?
なんだか裏がありそうだな。
美桜「なにやら、キナ臭いのう」
美桜も同じ事を考えているようだ。
晴「諏訪子が俺達をここに呼び出したのは交渉役として行って欲しいってことでいいんだな?」
諏訪子の顔が驚愕に染まる。
諏「え!?どうしてわかったの?」
美桜「諏訪子に招かれてすでに100年は経った。それくらい分かるじゃろ?」
それくらい、もはや家族同然として接してきたのだ。
そんな家族が困っているなら、助けてやるのが当たり前だろ?
晴「場所と日時は決まっているんだよな?」
諏「うん、場所は東側国境付近の相手側の砦、日にちは明日だよ」
明日か、それなら朝一で行った方がいいな。
晴「分かった、一応戦いに備えて準備をしていた方がいいな。備えあれば憂いなしって言うしね」
努めて明るく言ったのだが、今の諏訪子には効果が無かったみたいだ。
俯いて、心なしか震えている。
諏「ごめんね、私達の問題につき合わせたりして・・・、本当ならこんな事頼みたくは無いんだけど・・・」
晴「それは違うぞ、むしろ何も相談してくれなかったらそれこそ怒っていたぞ」
諏「え?」
美桜「妾も晴夜も諏訪子のことを本当の家族のように思っておる。 諏訪子は違うのか?」
諏訪子は顔を上げ、首を左右に振る。
美桜「そうじゃろ? 諏訪子が困っているのにそれを見て見ぬ振りが出来るほどこの100年は浅いものではないはずじゃ」
美桜が諏訪子を抱きしめる。
晴「そういうことだ。だから、心配すんな」
頭を撫でてやると、諏訪子は憑き物が取れたような顔でしっかり頷いた。
次の日の早朝、空は快晴、気候は穏やかでなんとも散歩日和だった。
時間は大体6時くらいだろうか?
場所は境内、今は憑依状態ではないので拝まれる事も無い。
参拝客も落ち着いた頃に諏訪子とミシャクジ様が出てきた。
諏「気をつけて行ってきてね、結果なんてどうでもいいから無事に帰ってきてね」
どうでもいいって自分の国の一大事ですよ?
まあ、それほど大事に思ってくれているんだから文句なんて言えないけど。
諏訪子の頭を撫でてやり、能力で不安と心配を浄化してやる。
晴・美桜「「それじゃあ、行ってくる(ぞ)」」
地を蹴り、晴れ渡った大空へと飛び出す。
諏「いってらっしゃーい!!」
諏訪子は大手を振って、ミシャクジ様は頭を下げて送り出してくれた。
出発してから30分、時速100kmくらいで飛んでいくと砦が見えてきた。
ここからは歩いて近づこう。
はてさて、いったいどんな奴らが居るんだか。
なんだか、無性に楽しくなってきた。
美桜「(なにやら、楽しそうだのう)」
そりゃそうだ、神との戦争の交渉役なんて何回生まれ変わったってまず経験できない。
そういえば、木花咲耶姫神は存在するんだろうか?
ここに居る美桜は木花咲耶姫神だが世界が違う。
美桜「(この世界に木花咲耶姫神は存在せぬよ、それは妾じゃからな)」
ふ~ん、なら憑依しても大丈夫だな。
いざとなったら憑依して逃げるか。
そんな事を考えていると、何時の間にか砦の門まで近づいていて、門番が二人立っていた。
砦からは諏訪子クラスの神力が溢れている。
?「止まれ! 貴様、何者だ? 即刻立ち去れ!!」
え~、何者だ、って聞いてきたり、立ち去れっていったい何がしたいんだこいつは?
なんて、口に出すとこの場で戦争が起こってしまいそうなので言わないけど。
晴「私は諏訪大国の王、洩矢諏訪子の使いのものです。此度は交渉役として馳せ参じました」
そういうと、門番はこちらをジロジロと値踏みでもするかのように見てきた。
そして、鼻で笑った後「ついて来い」と言って中へと入っていった。
・・・・・・この砦吹き飛ばしてやろうか?
いやいや、それは最終手段だ。
いうなれば、奥の手。
ここは、交渉してからでも遅くは無いはず。
素直について行くと中には、一般兵だろうか?何百人もの兵が並んでいた。
しかも、一人一人から神力を感じる。
さらに言うと、嘲笑やら侮蔑の視線を感じる。
一人二人ではない、ほぼ全員から感じられた。
全く持って腹立つ。
美桜「(こんな奴らを相手にしたところできりが無い、さっさと、重鎮の所まで行こうぞ)」
その間を通り抜けある部屋の前で止まった。
おそらく、ここが交渉の場なのだろう。
門番がノックをして口を開く。
?「諏訪大国より交渉の使者が到着いたしました」
?「入りなさい」
意外にも声の主は女性だった。
扉を開け中に入る。
門番はそのまま出て行き、一人一人の顔を確認する。
数はざっと15人、一人一人から外に居た奴らとは比べ物にならないくらいの神力を感じる。
?「どうぞ、御掛けになってください」
晴「失礼する」
一番奥の真ん中に座っている女性、――おそらく天照大神だろうか?――に促され席に着く。
ここでも先ほどと同じように嘲笑や侮蔑の視線を感じる。
天照「本日はよく来てくださいました。私は天照大神。人間、名前を伺ってもよろしいかしら?」
先に名乗ったのが意外だったのか、他の神が少しばかり驚いている。
「人間風情なんかに!」とか聞こえるけど無視しよう。
どうやら、天照は他と違って対等に見ているようだ。
まず、目が違う。
さて、とりあえずこちらも名乗りますか。
晴「諏訪大国の人間代表、星月晴夜です。 よろしくお願いします」
神奈子「八坂神奈子だ。よろしく」
「天鈿女命です。こちらこそよろしく」
どうやら、対面に座っている3柱はこちらを対等に見てくれているようだ。
というか、八坂神奈子は興味が無いと言った様子だ。
他の神は人間なんぞに名乗る名前は無いと思っているのだろう。
口を閉ざしたままだ。
天照「それでは、早速交渉に移りましょう。 こちらが我々の出した条件です」
後ろに控えていた神兵が書状を渡してくる。
さてさて、どんなことが書いてあるのやら・・・
1.諏訪大国の無条件降伏
etc…
オーケー、こいつら交渉なんてはなっからやる気無かったんだな。
諏訪子、交渉以前の問題だったよ。
大体、無条件降伏が頭にある時点でおかしいし。
とりあえず確認だけしてみるか。
晴「天照大神様、一つ聞いてもよろしいでしょうか?これは、全員で議論した結果の条件でしょうか?」
天照「いいえ、貴方から左手側の5柱が考えたものですけど?」
晴「では、この条件を貴女は確認しましたか?」
天照「いいえ。あの、何かご不満な点がありましたでしょうか?」
なにやら不安げな目でこちらを見てくる。
天照は白だな。
ていうか、こいつらが考えたのか。
見ると左手側に座っている奴らはこちらを見てニヤニヤ笑っていた。
これは、もう怒っていいよね?
晴「いいえ。ただ、頭の弱い部下を持つと大変ですね」
笑顔で言ってやった。
場が凍りつく。
どの神も今の暴言に驚いているようだった。
敵地で、しかも神からすればとても弱い人間がそんな言葉を神に向かって吐くのだから驚かない方がおかしい。
最初に解凍したのは、この条件を考えた神たちだ。
?「貴様ッ!それh「うるせーな、交渉の意味も分からないような馬鹿は黙ってろ!」なッッ、キサマ!」
今にも襲い掛かってきそうな、勢いだがそこで天照の制止が掛かる。
天照「おやめなさい!! 理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
晴「本来交渉とは、互いの要求を主張して、最終的な妥結点を話し合う事を指すが、これを読んでみろ」
天照に書状を渡す。
天鈿女命も横から覗く。
二人の顔色が目に見えて青くなっていくのがわかる。
天照「なっ、なっ・・・!!」
もはや言葉も出ないようだ。
晴「理解したか? 大体無条件降伏が頭にある時点で頭が沸いているとしか思えない。そんな奴らとまともな交渉が出来るとは思えないな。 まったく、とんだ時間の浪費だった」
立ち上がり、扉に向けて歩き出す。
天照「ま、待ってください。確かにこちらの非礼は詫びます。ですから、どうか「もう、遅いんだよ」・・・そんな」
晴「これは、条件を考えた奴が悪いがそれを確認しなかったあんたにも責任がある。同じ条件をそちらが呑むって言うんなら考えてもいいが・・・それは出来ないだろう?」
当たり前だ、こんな誰が見ても一方的な要求を呑む奴なんていない。
すると、八坂、天照、天鈿女命以外の神が立ち上がりこちらを威嚇してきた。
そこらの妖怪では存在する事も許されないほどの神力がビシビシ伝わってくる。
?「キサマ、生きて帰れると思うなよ?」
は?生きて帰る?なに寝言ほざいてんだ?
晴「手を出すのは勝手だけど、その行為の意味を中身の無い頭でよく考えろよ? 交渉と言いながら相手の国を馬鹿にするような内容を突きつけておいて、暴言を吐かれたからって殺しましたじゃあ誰がそんな神を崇めると思う? しかも、相手は人間だ。 人間を殺すような神を人間が信仰するとは思えないけどな?」
全員が押し黙る。
人間にここまで言われて、腸が煮えくり返っているだろうけど言ってる事は正論だから手が出せない。
自分の首を絞めていたんじゃあ、笑えないな。
天照「貴女は・・・・・・一体?」
困惑しながら質問してくる天照。
晴「さっきも言っただろ?俺は人間だ、最近では猫神様とか呼ばれているけどな。今ここで手を出さないのはせめてもの情けだ。全く、神が人間に情けを掛けられてどうするよ?」
若干呆れたように言う。
ここで嘲笑や侮蔑の瞳をすればこいつらと同じになってしまう。
扉の前で振り返り、さっきのシリアスな口調はどこへやら、おちゃらけた口調で
晴「それでは、次は戦場でお会いしましょう♪」
そう言い残し、砦を後にした。




