散歩と弟子?
神社に住み始めてからそれなりに月日が経った。
諏訪子は信者の願いを叶えるのに忙しそうで朝から出ている。
となると、必然的に暇になってしまうのだ。
修行は毎日、早朝と夕飯の後と決めているので昼間は大体自由時間にしている。
縁側で美桜とまったり過ごすのも悪くは無いが、そればかりだとダメな人になってしまうような気がする。
なので、暇なときはこの国を散歩する事に決めた。
ていうか、もともと散歩が旅に派生しただけでどちらも目的は同じなのだ。
そうと決まれば、神社の人に一週間ほど散歩に行ってくる旨を伝える。
どうせなら、かなり遠くまで行ってみたい。
刀を腰に差し、握り飯を袋に入れて意気揚々と神社を出発した。
神社から5,6km程離れた森の中を歩いているとなにやら森の奥が騒がしかった。
晴「なんだ? 妖怪同士の縄張り争いかなんかか?」
普段なら気にも止めないのだが、この日は唯の気まぐれか気になってしまった。
いい暇つぶしになるだろうし、行って見るかな?
ちょっとした好奇心で森の奥に入っていくと、
「グルルルルルルルゥゥゥ」
?「いや・・・来ないで!」
大体見えるだけでも10匹くらいの狼のような妖怪が少女の姿をした妖怪を取り囲んでいた。
なぜ少女が妖怪だと分かったかと言うと、頭に動物の耳がついていたからだ。
普通の人間だったらまずついていない。
そういえば最近、人型の妖怪も増えてきたって諏訪子が言っていたな。
さて、どうするかね?
このまま、見て見ぬ振りをするのは簡単だがそれでは目覚めが悪い。
?「死にたくないよぅ~」
・・・しょうがないな、助けてやりますか。
妖怪の群れへと突っ込み、鞘ごと一匹のわき腹を殴り飛ばし妖怪少女を庇うように立つ。
いきなりの乱入者に驚いたようだがすぐに陣形を組みなおしこちらを威嚇してきた。
そのうちの一匹が飛び掛ってくる。さっきわき腹を殴った奴だ。
「グガアアアァァ!!」
晴「ハッ!」
今度は鞘から抜いて一閃。
それだけで悲鳴も上げぬまま妖怪は真っ二つになった。
やっぱりこの程度か。 殺す気分でも無いしな・・・とりあえず威嚇して退散してもらうか。
晴「失せろ! 死にたくないならな!!」
これで逃げてくれれば手間が省けるんだけどな。
目の前の妖怪たちに向けて殺気を飛ばす。
すると、徐々に後退していく。 さらに一歩踏み込んだだけで我先にと一目散に逃げ出した。
一息ついて後ろを振り返る。
晴「大丈夫か?」
?「・・・・・・・・」
妖怪少女はこちらを睨みつけたまま黙っている。
茶髪を肩くらいで切りそろえて、服装は髪と同じ色の着物。
頭と腰からそれぞれ耳と尻尾が生えていた。
良く見るとあちこち擦り剥いて、両足からは血が出ている。
晴「ケガしてるじゃないか、待ってろいm「・・・ぅ・・て」えっ?」
なにやら、少女がつぶやいたがよく聞こえなかった。
少女は俯いてプルプルと震えている。
何処か痛いのかと訊こうとすると、顔を上げ叫んだ。
?「どうしてっ!? 何故人間のお前が妖怪を助ける!? あたしは妖怪だぞ?」
えっ?別にただの気まぐれだけど、何を怒っているんだ?
俺は確かに人間だけど、別に妖怪だとか神だとか気にしないけどな。
晴「別に俺が何しようと勝手だろ? それに俺は人間だとか妖怪だとかあまり気にしないんだ」
?「ふんっ! 人間の言葉なんて信用できないな」
晴「ま、しいて言うなら君が死にたくないって言ったからだな」
?「な、あたしはそんなこと言っていない!」
おっ? なにやら顔が赤くなったな。
傷は大したこと無さそうだし、これなら能力だけで十分だな。
自分の傷は楽に治せるが他人の傷となると勝手が違う。
分かりやすくいえば他人の傷を治すのは自分のよりも5倍近く疲れるのだ。
晴「とりあえず、君の傷を治さないとな」
妖怪少女の頭に手を伸ばすが、
?「さ、さわるな!」
爪で思いっきり引っかかれてしまった。
結構深くえぐられたようでかなり血が出てくる。しかもかなり痛い。
?「あっ・・・・!」
つい、思わずといった様子で呆然としている。
あまりにも無神経だったな。 俺は人間、この子は妖怪。
もうちょっと、気を使うべきだった。反省しないと。
能力で自分の傷を治す。血は残ったままなので適当に川でも見つけて洗わないとな。
そして再度、妖怪少女の頭に手を伸ばす。
今度は引っかかれなかったが、固く目を瞑り体を強張らせている。
頭に手を置くと一瞬だがビクッと震えた。
能力を使って全ての傷を治す。
傷口はみるみる塞がっていき、跡形も無く治った。
うん、上出来だな。 他人がケガをする機会なんてそんなに無かったからどこまでできるか不安だったけどこれなら使えるな。
全ての傷が治ったのを確認してから立ち上がる。
晴「よし、もう大丈夫だな。 君の名前は?」
こちらをポカンと見ていた妖怪少女はいきなり問いかけられて戸惑いながらも、
?「名前は無い、今まで一人だったから必要なかった」
う~ん、名無しか。それだと不便だな・・・よし!
晴「それじゃあ、ミアって言うのはどうかな?」
ミア「えっ?」
晴「君の名前だよ、気に入らないかい?」
ミア「ミア・・・あたしの名前・・・」
しばし考えたような素振りをし、それから首を横にフルフルと振った。
それに満足そうに頷き、
晴「それじゃな、俺はそろそろ行くよ。 またな、ミア」
軽く手を振り、また歩きだした。
ミアは戸惑いながらも応えるように手を小さく振っていた。
それから三日間、あちこちを歩き、又は空を飛んで散歩していた。
飛んでも大体歩くのと同じ速度だが・・・
その間にも妖怪に襲われている人を助けたり、妖怪を助けたりしていた。
妖怪は、基本的に話が通じる奴ね。
助けたのに襲い掛かってきた奴は少しの間眠ってもらいました。
恩を仇で返すなんて人間できていないな。 人間じゃないけど。
すると、どうだろう。
助けた妖怪の中にはミアみたいな妖怪も結構いたが、そのほとんどがついてきているではあ~りませんか。
あっちはばれていないと思っているのか振り向くとササッっと木の陰だったり草の陰だったりに隠れてしまう。
まぁ、流石に神社の中までは来ないと思うからほっとくけど。
そろそろ戻らないと諏訪子に何を言われるか分からないな。
晴「そろそろ、帰るか」
美桜「そうじゃな、いい加減帰らんと諏訪子がご立腹じゃと思うしの」
諏訪子は怒らせると危ない。
普通に祟りとか飛ばしてくるし。
まあ、浄化できるから問題ないけどね。
それからさらに三日掛けてミアと出会った森に着いた。
やっとここまで着いたか。
ちなみに、普通について来ています、あの妖怪達。
どうすっかな? どうでもいいか、そうしよう。
いちいち考えていたらきりがないしね。
?「あ、あのっ!」
不意に後ろから声を掛けられた。
この声は知っている。
六日前に聞いた声だ。
晴「やあ、ミア。 また会ったな」
後ろを振り返るとミアが立っていた。
六日前と同じ格好だが、目には警戒心が無いので普通に近づく。
すると、いきなり頭を下げて、
ミア「お願いします、あたしを強くしてください!!」
と、言ってきた。
えっ?強くしろって俺が?
妖怪は年月が過ぎれば次第に力がつく筈だけど。
そこも含めて聞いてみる。
晴「理由は?妖怪は年月が過ぎれば次第に強くなるはずだけどそれじゃあだめなのか?」
ミアは顔を上げこちらを真っ直ぐに見据える。
ミア「生き残るためです」
生き残るためね、確かに今のミアじゃ数で押されてしまえば簡単にやられてしまう。
実際あのときがそうだった。
だから、強くなりたいね・・・
うん、ちょうど暇だったし暇つぶし程度にはなるかな。
答えようとしたとき、
?「「「「「「「「「私(俺)達もお願いします」」」」」」」」」
四方八方から妖怪が出てきて頭を下げた。
それは、俺の後ろをついてきた妖怪達だった。
ミアを含めて総勢10匹の妖怪が集まった。
ちなみに、比率は男4:女6
これには正直驚いた。
まさか皆同じ理由でついてきているなんて普通思わないだろ。
ミアと同じように妖獣がほとんどだがたまにけもみみがついていないのもいる。
これだけの人数が集まるとある程度強くなるまでは格好の餌だな。
晴「着いてきな、修行場を作るから」
そう言って歩き出す。
後ろからはうれしそうな声がちらほら聞こえるがそれもすぐに止むだろう。
ある程度、開けた場所に着くと、半径50メートルの範囲で陣を敷く。
付加するのは掃いと制限。
発動時に陣の中にいた者以外は陣を避けるように暗示をかけ、陣の中に居る者は身体能力とか妖力なんかに制限が掛かる。
ミアたちは若干苦しそうだ。
陣の真ん中に桜の木を創る。周りには止め処なく花びらが舞っている。
見惚れている妖怪達に向かって声を掛けた。
晴「これから一ヶ月間この陣の中で花びらを回避し続けてもらう。どんな手を使ってもいいからとにかく避け続けろ。わかったな? それから、やめたくなったら陣の外に出ればいいが、二度と中には入れない」
これは、修行しているときにやっていた方法で手っ取り早く回避の術と霊力(又は妖力)増大ができる。
すると、ミアの手が上がった。
質問だろうか?
ミア「あの、いきなり体が重くなったんですけどこれは一体?」
晴「これは、陣の効果で範囲内の身体能力や妖力なんかを制限した。この状態でやってもらう」
常に負荷が掛かった状態で体を鍛えると効果が上がるのは、低酸素運動とかと同じ理屈だよね。
ミア「それじゃあ、花びらに当たるとどうなりますか?」
晴「一定時間気絶するくらいの衝撃が走る」
それを聞くと、皆顔が青ざめた。
晴「まあ、死にはしないから安心しろ。 それじゃあ、はじめ!」
パンッっと、拍手を打つとそれなりの量の花びらが舞い踊る。
まるで、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
あ、早速一人被弾した。
花びらが小爆発を起こして、妖怪を吹っ飛ばす。
死んでは・・・・いないな。
陣に治癒の効果でも付けておくかな。
ちなみに、陣には一つの付加しか掛けられないので都合、三重の陣を敷いている。
一時間後、立っているのはミアと狐の妖怪少女だけだった。
どちらも少ない妖力で身体能力を上げて何とか避けていた。
いい頃合いだし、少し休憩するか。
また、パンッと拍手を打つと一斉に花びらが無くなった。
晴「皆が起きるまで休憩しよう」
それを聞くと、二人とも地面にへたり込んだ。
かなり、息が乱れている。
軽い食事の準備をしながら妖怪に話しかけた。
食材は村人を助けたときにもらったものだ。
晴「君の名前と何の妖怪か教えてくれるかい?」
しばらくして、ようやく息が整ったのか佇まいを直してこちらに一礼した。
なかなかに礼儀正しい子だ。
?「私に名前はありません。つい最近、ただの狐から妖狐になりました」
よろしくお願いします、ともう一度頭を下げる。
やっぱり、礼儀正しいな。
うん、礼儀正しい子は好きだしそこはいいけど、
晴「俺が人間だと知った上で近づいたのはなぜ?」
?「それは・・・貴方様なら信用できると思ったからです」
答えとしては赤点だな。
信用という言葉ほど信用できないし。
ま、襲い掛かってきても問題ないからべつにいいんだけどね~。
その間にも、調理の手は止まらない。
今作っているのは、ただ肉と野菜を串に刺して焼いただけの物だ。
普通の火ではなく、能力を使った火なのですぐに焼きあがりいいにおいがし始めた。
においに釣られて起きた子も何人か居るようで周りに集まってきた。
さて、そろそろいいかな?
一つ取って齧り付く。
味を付けていないのに食材本来の味が濃厚でとてもうまい。
晴「よし、いい出来だ。 皆食べていいよ」
そういうと、我先に串を取って齧り付く。
大分お腹が空いていた様で追加で全ての食材をあっという間に平らげた。
ここまで食べっぷりがいいと清々しいな。
皆、体力も完全に回復したようで準備運動を始める者も居る。
晴「今日はこれで帰るけど、毎日顔を出せるわけじゃないからそこんとこよろしくね」
皆に手を振り、神社まで飛んでいくことにした。
これから、あいつらがどんな風に成長するのか楽しみだ。
神社に帰ると、土の槍やら祟りやら鉄の輪が飛んできたのは完全に余談である。
オリキャラが登場しました。
これからも増えていくよ。
感想・要望ございましたらどうぞ
3/12にミアの口調を変更しました。「わたし」→「あたし」




