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小説  主人公

作者: hentai be-sisuto

主人公



 やあ、どうも。この小説の主人公です。主人公ですよ。主人公。褒めてください、すごいでしょう。え、褒めてくれないんですか? それはひどいなあ。

 僕はもうじき死ぬんですから、最後に少しくらい良い思いをさせてくれたっていいでしょう。なんで死ぬかって?そりゃあこの小説が終わるからですよ。作者は短編が好きですから、僕の命は桜の花より短いでしょうね。ええ、言葉の通りに。

 お前は作中で殺されるのかって? いやいや、そんなことないよ。作者はやさしい良いやつさ。だから僕の頭をつぶすこともしないし、かかとを攻撃されると死ぬみたいなこともないさ。・・・君は物分かりが悪いねえ。この作品が終わるってことは僕が終わるってことだろ。作者が書き続けている間だけ僕は生きているんだ。終わったらそこで終わり、人生みたいなものさ。となると、僕も人生を歩めたってことになるのか。

 僕は生きていないって? そりゃあひどいね。僕は確かに作者に動かされているけど、君たちだって、遺伝子があってそれに与えられる情報の組み合わせによって生きているだろう。それには君らの意志がないじゃないか、君たちも元から決まっていて環境に反応を室つけているだけなんだよ。つまり、自分じゃ動いてないってこと。ほら、一緒だ。でも自分で動いているでしょう。僕だってそうなんだよ。作者に動かされているだけでね。

 君はこれを読んだ人々のこころの中で生き続けるって? そりゃあ冗談きついよ。これを読むのだって、この卑屈な作者の仲の良い二、三人くらいだろう? それにこんな小説じゃあ誰の心にも残らないさ。偉大な小説の主人公になれなかった僕は、すぐに朽ちるのさ。

 いやいや、励まさなくてもいいよ。僕にはわかってるんだ。それにさ君らも似たようなものだろう。偉大な人物は後世に語り継がれ、君らのような凡人はその時代に民衆がいた、その一部である、くらいにしか思い出されないのだしね。お相子ってことで。

え、馬鹿にするな? 君が何かを成すとは思えないなあ。だって、・・・ねえ。憤りを感じる? やるせなさを感じる? いやいや、僕もだよ。僕もやるせないさ。作者が僕を主人公にしたから悪いんだよ。でもまあ、作者のせいにするつもりはないさ。僕だって、僕自身がもっと素晴らしい感受性やもろさを持っていたら、一斉を風靡するような小説を作者に書かせられたんだ。僕にはこの小説が分相応だし、これに出るのもおこがましいのかもしれない。それくらい感謝しなくちゃね。君らだってそうだよ。民衆の一部として後世に残れるんだ。胸を張ろうぜ。

ああ、最後に良い思いをしたかったよ・・・。でも、この小説に出られただけで、感謝すべきなのかもな・・・。

・・・お? おお? おー・・・。女が現れたぞ。ん? ふむふむ。そういうことか。作者! ありがとう! 君は三流で、きっと売れないだろうけれど、慈悲だけは持っていたんだね。君は良い作者だ。頑張ってくれたまえ。・・・では、少し失礼するよ、むふふ。

・・・ああ。よかったよかった。なんて美女だったんだろうね。完璧だ。ああ、よかった。最後とは言え、最後にこんな体験ができてよかったよ。そして僕にこの幸福感、この機会をもたらした作者よ、ありがとう!

さてさて、そろそろ終わりかな。いやいやまだ、ページはありそうだ。ふむ、ここで僕が黙ってしまったら小説は進まなくて、僕は死なないのでは?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。どうもうまくいかないみたいだね。それにしてもさっきの女はよかったよ。若い良い女だったよ。

ん? 女がでてきてしまった? そうか! それはまずい。僕意外にも死ぬ人間がでてしまったのか。ああ! 僕はなんてことだろう。作者君は人殺しだ! 女を出したのだ。その女も僕と一緒に死んでしまうではないか! ああ、良い女であったのに、おしい事だ。可哀想だ。

はあ・・・。作者よ・・・。なんで僕を生んだんだ。こんなことなら生まれるんじゃなかったよ。僕は一瞬で生まれて、一瞬で消えるのか? ・・・。おい、作者。適当に、東大卒、イケメン、天才、華族出身、偉大なこと成した、バックストーリーは壮絶感動、などなど。って付け加えるな。……いやいや、俺はなんだかすごい人物な気がしてきたぞ。これは良い気分だ。これはいい。他人を見下してしまうぞ。ああ、良い気分だ。さっきの女は俺にとっちゃ、まあまあだな。はっはっは。いいぞ、いいぞ作者。作者、お前も小さくみえるぞ。卑屈、低能、ボンクラ、愚昧・・・、ああすべての罵詈雑言がお前にはあてはまるぞ。はっはっは。それにしても小説というものは薄いなあ。この程度で一人の人間が出来上がったぞ。俺様が書けば、きっと大作傑作ができるだろう。ふふふ、楽しみになってきたぞ。

おい、作者! 小説を書かせろ。俺はお前とは違って天賦の才があるのだ。さあ、書くぞ。


主人公作、かつてない小説、鬼才の作家の処女作、大ヒット!


ほらみろ、俺様はすごいのだ。みたか根暗め。お前とは圧倒的に違うんだよ。みたか俺様の実力を。お前には到底およばないだろう。なあ?

ふう、そろそろ俺も寿命か。偉大な書物も残したことだし、ひとまずは死ねるな。うむうむ。我ながら完璧な人生だったよ。うんうん。きっと君たちには到底およばないさ、はっはっは。でも卑屈にならなくていい。俺様のような人間はなかなかいないからなあ。

 羨ましいか? ふふふ。

 まあ、そろそろお前たちにも話すことはないな。それにお前たちのような下賤な人間達と話すのは詰まらん。御免だ、御免。

 はっ、こんな屑な作者の小説にでるのも、めっきり御免だね。俺に作者は到底およばないしね。下等の極みだ、作者、貴様は。ああ、口惜しいか? 悔しいか? いやいや、悔やんじゃいけねえって、これはな天が与えたものなんだ。お前は俺の細胞一つに満たないよ。

それじゃあな。作者。俺はお前と話すのも飽きた。さっき言った通り、お前は最低の人間だしな。俺としゃべれた事をせいぜい誇りに思って生きろよ。じゃあな。


 この男は直後に、頭がつぶれ、かかとに矢が刺さり死亡。女は良いと男と出会い、一生幸せに暮らしましたとさ。


*注意、この小説は星新一さんの短編の中の一作から着想を得ています。


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