ここは獣人族生活安全課。本日も賑やかです。
私の先輩は動物である。
いや、これは先輩たちに怒られるな…。
訂正します、私の先輩は獣人族のみなさんです。
いちばん偉い部長は、見た目だけが怖い虎族のオリバーさん。
課長はウサギ族で、優しそ〜うに見えて怒らせたらいちばん怖いユードリヤーさん。
すぐ上の先輩は鳥頭…、ちがう!侮辱じゃないから!今のは口を滑らせただけだから…!
せ、先輩に言わないで、お願い…!!
えっーと、鶏族の超超尊敬しているポッピー先輩(これぐらい言っておけばいいか…)と、人間の私、4人で働いている。
ここは、獣人族生活安全課である。
人間と獣人族が同じ場所で暮らすようになって、早30年。
街は馴染んだものの、種族の違いでトラブルが起きることはまだある。
生活に関する相談は、我が獣人族生活安全課に届く。
今日もやってくる住民のために、がんばって働きます!
「ポッピー先輩ぃ〜、暇ですねえ…」
「おいこら人間、暇ならデスクの掃除でもしてろ。お前のデスク汚ねえんだよ」
ポッピー先輩のくちばしがパカパカ動くから、元気だなぁと思いながら、私はひょろりと手を上げた。
「獣人族から人間に対して個人名ではなく、『人間』と呼ぶのは、れっきとした侮辱罪で〜す。オリバー部長、ポッピー先輩のこと、『鶏』って呼んでいいですかー?」
「ああん?舐めてんのか、人間の女のくせに」
「はい、現行犯逮捕ー!生活安全課の職員の言葉とは思えませーん」
「なんだとー!?」
私とポッピー先輩がいつものように揉めそうになった時、パンパンッと手を叩く音がした。
げっ、ユードリヤーさんがいない時に言ったつもりなのに、いつのまにかデスクに戻ってきてる…!
手を叩いた主と目が合って、怖いくらいにっこり微笑まれた。
あ、あとでお説教だ……。
「クーラ、ポッピー、職場で揉め事を起こすなと何度言ったらわかるんだ」
ウサギ族のユードリヤーさんの鋭い前歯がキラリと光って、私はシャキッと背筋が伸びる。
「…まだ揉めてません。あと、先に侮辱したのはポッピー先輩です」
「おお?いい度胸してんじゃねーか、人間」
「ポッピー、彼女のことを人間と呼ぶのはやめろと言っている。警備隊に引き渡すぞ」
「……チッ」
「クーラもだ。ポッピーがキレてくるとわかっているんだから、煽るのはやめなさい」
「はーい…、すみませんでした」
ポッピー先輩はフンッと顔を逸らし、私はしゅんと項垂れた。
ここは獣人族生活安全課。
獣人族のために働くのが主な仕事。
人間と獣人族が同じ場所で暮らすようになったからといって、その溝が簡単に埋まるわけでもなかった。
その前までは、互いに牽制し、互いの土地を譲らず、互いを劣等種だと蔑んで生きてきた過去を帳消しにできるほど、一緒に暮らしてきた歴史は浅い。
私みたいに生まれた時から獣人族との生活が当たり前だった人間からするとよくわからない感覚だが、ポッピー先輩からすると、人間と同じ職場なんてツイてねえ〜、なんだってさ。
それ、古いからやめた方がいいですよ。
というわけで、ポッピー先輩はすぐ突っかかってくる。
「あのぉ、すみませーん」
カウンターに獣人族の方がお見えになって、私は立ち上がった。
「はーい、なんでしょうかー?」
「あの、うちの子が着ている服なんですが、すぐに破けてしまって。不良品じゃないかと思うの」
豚族のお母さんが小さなお子さんを連れてやってきていた。
なんで、生活安全課なんだろ。
…………クレーム入れたいだけかな。
そんなこと考えてもしょうがない。
なぜうちに???という案件ばかりな日々である。
大抵は、人間と揉めたくないから仲裁してくれ、みたいなことが多い。
私とポッピー先輩とは大違いの、優しい住民たちで助かることこの上ない。
たしかに、お子さんの肩まわりの布が裂けてしまっている。
「えーっと、どこのお店で購入されました?」
私は街の地図を広げて、豚族のお母さんに訊いた。
「………この店です」
「あー、この店最近仕入れの布を変えたんですよ。だからかもしれませんね」
私はサンプル用の布を取り出して、豚族のお母さんに2種類を見せる。
「こっちが人間に適している布で、引っ張ってもそこまで伸びません」
おそらくこちらの布が使われている服を、今着ているのだろう。
「たいして、こちらは獣人族に適しているとされる布で、ほら、この通り。すーごく伸びがいいんです」
「本当だわ」
「こちらの布の服をお買い求めかどうかは、こちらの店では判断つかなかったのかなぁと思うのですが」
「あら、そうだったのね。間違ったところで買ってしまって申し訳なかったわ」
「こちらこそ、申し訳ありませんでした。わかりやすく明記してもらうよう、店側にも頼んでみますねー。ちなみに、後者の布がよろしければ、こちらかこちらのお店が確実だと思います」
地図上のお店を指差すと、豚族のお母さんはほっとしたように笑ってくれた。
「よかった、店自体はあるのですね。では、そちらに行ってみようと思います」
「ええ、ぜひ。素敵な服と出会いますように」
「ありがとうございました、職員さん」
「いえいえ、また何かお困りごとがございましたら、いつでも獣人族生活安全課まで〜!」
にっこり営業スマイルとともにお辞儀をすると、おとなーしくしていたお子さんの方が、「バイバイ」と手を振ってくれた。
ええ〜、かわいい〜!癒された〜!
変なクレーマーじゃなくてよかったー!
「はあああ、店にあとでポスターを貼っておくように言ってきまーす…」
私はヘロヘロとデスクに戻って、ドンと椅子に座った。
あそこの店、外観にこだわってるからポスター貼るの嫌がりそうだなぁ…、あーあ、仕事増えた…。
「クーラ、よく対応できたね。随分スムーズだったよ」
「あはは、先輩方に鍛えられてるんで」
ユードリヤーさんの言葉に、私はちからこぶをつくってみせると、ユードリヤーさんはくすくす笑いながらお茶を淹れてくれた。
「はい、お疲れさま」
「うわーん!部長のお茶のついでとはいえ、嬉しいです!ありがとうございますー!!」
いただいたあったかいお茶を一口飲んで、ほっこりする。
「おめえも一言余計なんだよ。それ飲んだら、さっさとポスター渡してこい!」
すぐにイライラ声が飛んできて、せっかくのほっこりタイムを邪魔された。
ほっんとポッピー先輩って面倒だなあ…、口が裂けても言えないけど。
これで私と歳が5個しか変わらないの、嘘だと思う。
人間と獣人族が同じ場所で暮らし始めた時、ポッピー先輩はまだ2歳だったのに、なんで古臭いじいちゃんたちみたいな思想なんだ……。
「……ポッピー先輩が行ってきてもいいと思います。その口の悪さで説得してきてください」
「ああ?なんだと、てめぇ」
「職員のくせに、口悪すぎです!どんな指導を受けたらこうなるんですか、ユードリヤーさん!」
「職員はクビにしにくいから」
「それ理由になってないですっ」
「人間の女、喧嘩売ってんだな??表、出ろ!」
「私はクーラって可愛い名前があるので、人間の女なんて存じ上げませーん!」
「こら、2人!それ以上揉めるなら、2人まとめて摘み出すよ?」
ぎゃあぎゃあ言い合う私とポッピー先輩に、ユードリヤーさんの拳が飛んでくるまで、あと5秒。
「今日も、賑やかだねえ〜」
お茶を啜りながら、部長のオリバーさんの暢気な声がいつものように響くのだった。
了
お読みいただきましてありがとうございました!!
216日目。




