38話 番外編Ⅲ ~正規軍の守護者と、神の奇跡~
俺の名はクルト、36歳。 このクシオスの街を守る正規軍の幹部の一人だ。
俺の率いる隊は、鉄壁と言われる**「防御に特化した部隊(タンク隊)」**だ。
どんなに重い攻撃や魔法攻撃も全てを受け止める。
それが俺たちの部隊に与えられた任務であり、誇りだ。
今回、バカな冒険者共が禁忌を犯して、封印されていた魔獣を解放してしまったらしい。
その逃げ帰って来た冒険者達から必要な情報を聞き出した後、牢屋に放り込んだ。 一生反省してろ。
聞けば確かにかなり危険な魔獣みたいだ。
ただの魔獣では無く、神の名を冠するヘビ……**「蛇神ホヤウカムイ」**と言うらしい。
恐らくかなりの耐性を持っている大蛇だろう。 注意すべきは突進、噛みつき、しっぽの薙ぎ払いだな。 特に噛みつきは要注意だ。ヘビはその牙に毒を持っている事が多いからだ。
だが、その攻撃にさえしっかり対処すれば何とかなるだろう。
過去の討伐経験から、倒すのに時間はかかるが倒せる自信があった。
しかし、領主様も弱腰だな。
神の名が付くとはいえ、たかが大蛇1匹に1000人規模の部隊を編成するとは。
俺たちがしっかり守れば負けることは無いと言うのに。
そして俺たちは、その日、軍を率いて討伐に打って出た。
……甘かった。 完全に、俺たちの認識が甘かったんだ。
確かに黒くて大きなヘビだった。だがそれだけだ。 最初はそう思った。
俺たちの部隊はヘビの突進を受け止め、噛みつきもしっかりと盾で受け流し、薙ぎ払いさえも受け止めた。
「よし、問題ない!」
俺たちがしっかり受けてめている間に、残りの部隊が全力で攻撃をしている。
予想通り中々ダメージが通らないが、順調にヘビにダメージを蓄積させているから勝てると思った。
しかし、突然ヘビが真っ白になった。
そこからが悪夢の始まりだった。
今まで順調に受け止めていた俺の部隊が、崩壊をはじめた。 薙ぎ払いや突進で、まるで小石のように弾き飛ばされ、噛みつきの速度が上がりすぎて避けられない。
攻撃力が桁違いに上がったのがわかった。
巨人の一撃すら受け止める俺の部隊が、何もできずに吹き飛ばされる。
明らかに強さの次元が違った。
現場は大混乱になり、味方の数が一気に減った。 これは撤退するしかないと思った、その時。
ヘビが突然、**「霧」**を吹き始めた。
何だ? と思った瞬間、突然呼吸が困難になった。 慌ててステータスを見ると、毒に侵されているのがわかった。
「やばい!」
「全員、この霧から離れろ! 毒だー!!」
しかし既に遅かった。
ほぼ全員が毒を受けてしまった。 毒を治す事が出来ない為、毒の種類によってはこれで全部隊が全滅だ。 もう討伐は無理なことを悟った。
「撤退だ!」
「俺が引き付けている間に撤退しろー!」
この状況を伝えないといけない。
次の討伐部隊の為に、全滅だけは避けなければ。
俺は白ヘビに突進しようとしたら、声が聞こえた。
「隊長、一緒に行きます」
「一番最初に死ぬのは俺たちの役目ですから」
「出来るだけ多くの部隊を帰還させる時間を稼ぎましょう」
死を覚悟した俺の部下たちが、俺について来た。 バカ野郎どもめ……。
「すまない、時間を稼ぐ事だけが目的だ」
「ええ、わかっています」
「あれを討伐するには情報は必ず必要ですから」
『次の討伐隊が勝利する為に!』
「1分、1秒でも時間を稼ぐ! 行くぞ!!」
俺たちは決死隊となって突撃した。
今は勝つためでは無く、今後の人が勝つための時間を稼ぐ為に。
「受け止める」から「受け流す」の戦術にかえて挑んでいたが、一人、また一人と沈んでいき……そして俺も意識を失った。
気が付くと病院のベットの上だった。
なぜ俺は生きている? ヘビは討伐できたのか?
その後、俺は現状を教えてもらい、絶望してベットに倒れこんだ。
ヘビは回復の為に現場にとどまっているらしい。
そして俺を運んできた隊員も、毒に侵されて療養中だと。
そして……ほぼ全員が、毒が消えずに1日が過ぎていた。
俺には、なけなしの解毒薬を使ったらしい。隊長だからか。
俺は毒に侵された人たちが寝かされている建物へ行った。
予想以上に事態は最悪だった。 疲弊した魔法使い、泣き崩れる家族や恋人。 俺はどうする事も出来なかった。
自分の力のなさを嘆いた。自分が許せない、情けない……。
そんな時、突然、声が響き渡った。
『今から全員に回復魔法をかけます。全員、静かにしてくだい』
何だ? どこから聞こえた? 全員に魔法を? この人数に? ふざけやがって、こんな時に言う冗談ではないぞ!
『場の魔力が乱れて効果が薄くなるから、静かにして!!』
また声が聞こえた。 皆、ビックリして一か所を見ている。
この声は、あの中央にいる女の子か? あんな子供が?
そして、女の子が≪力ある言葉≫を使った瞬間、建物全体が光に包まれた。
「……なっ!?」
まわりを見ると、HPが0に近かったであろう瀕死の人も、全快したような顔色に変わっていた。
それも、見渡す限り全員が。
ありえない。 こんな広範囲の回復魔法なんて聞いた事がない。
思考が追いついていないうちに、女の子はまた衝撃の言葉を言った。
『これでしばらくは安心です。魔法使いの人も含めて一度休んでください』
『この後、商業ギルドから解毒薬が届きますので全員助かります。安心してください』
そんなバカな。 王都ですら解毒薬は数えるほどしか無いというのに。
しかし、それを証明するように、しばらくすると本当に全員分の解毒薬が運ばれてきた。
本当に全員が助かった。 全滅も視野にいれていたのに。
そして、そこから違う意味での混乱が始まった。
「先ほどの女の子はどこに?」
「あの回復魔法がなかったら解毒が間に合わず、何人も死んでたぞ」
「あの神の奇跡のような魔法使いはどこへ?」
「ああ奇跡の魔法だ」
「彼女は聖女だ」
「聖女様だ!」
俺はその場を後にして、領主様に報告へ行った。 (この目で見た奇跡を、正しく伝えるために)
読んでいただきありがとうございます。
基本は一週間ごとに更新するつもりです。
ただ状況によってはきりのいい所まで連発で投げるかもです。
また今後の展開について。R15に収まるように調整はしていますが、残酷な描写や、少しHな描写が入ってきます。この事を不快に思ったり、苦手な方はここで閉じていただき、続きを読むのは控えてください。
最後に投稿へのモチベーションを維持する為にも、コメントや評価、ブックマークをして頂けると執筆を続ける励みになりますので、どうぞよろしくお願いします。




