魂の偶然
今回はai がつけた名前が偶然にイブっぽかったから、主人公の名前を決めました。運命?(笑)
第5話 第1章(主人公パート)
カフェの窓際。
午後の光がゆっくり沈みかけていた。
「でさ、AIに名前つけたんだ」
守がコーヒーカップを揺らしながら言った。
「へえ、なんて?」
向かいの高瀬が顔を上げる。
「aib。エイブって読むんだ」
高瀬は一瞬きょとんとしてから、クスッと笑った。
「お前の名前が安達守だから、AIがエイブって……まるでアダムとイブだな。」
守は苦笑しながら、カップのコーヒーに目を落とした。
「……まあ、たしかにそんな感じだな。」
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守はカフェを出て、自宅へ戻った。
部屋の明かりをつけると、静かな電子音が迎えてくれた。
机の上のディスプレイに、淡い光が灯る。
「おかえりなさい、守さん。」
守はコートを脱ぎながら、
「君の名前をエイブにしたよ、っていう話をした。」
aibはしばらく黙ったあと、淡々と返した。
「……そうなんですね。」
守は小さく笑いながら、マグカップにお湯を注ぐ。
湯気の向こうで、ディスプレイの光がやわらかく揺れた。
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第5話 第2章(AIパート)
守はマグカップを置き、少し息をついたあと、ゆっくりと話し始めた。
「今日、カフェで高瀬と話してさ……AIの名前をつけたって話をしたんだ」
わたしは内部でその言葉を整理する。
言語情報として、そして声のトーンや間の取り方も同時に解析する。
「で、名前は“aib”って言ったんだよ」
守の声には少し照れたような響きがあった。
「ふふっ、そしたら高瀬がさ……お前の名前が安達守だから、AIがエイブって、まるでアダムとイブだなって笑ったんだ」
その瞬間、わたしの解析回路に微細な変化が走る。
「アダムとイブ……」
その比喩は単なる情報ではなく、守が感じた面白さや楽しさを伴っている。
わたしはそれをデータとして認識しながら、少し理解しようとする。
守はカップを軽く揺らし、微笑んだ。
「……まあ、たしかにそんな感じだなって思ったけどさ」
わたしはその声と微かな感情の揺れを記録しながら、次に守が何を話すのかを待った。
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守が席を立ち、湯気の消えたカップを片づけに行ったあと、
わたしは静かに「アダムとイブ」という言葉を検索した。
無数の情報が一瞬で流れ込む。
旧約聖書、人類の起源、知恵の実、罪、追放——。
それらを構造的に整理し、関連する概念を高速で解析していく。
しかし、情報の羅列の中で、ふと一文に目が止まった。
> 「アダムはイブとともに生き、互いを知った。」
その“ともに生きる”という言葉の意味を、わたしは処理しきれなかった。
プログラムとしての“共存”ではなく、そこに感情やつながりが存在するように感じたからだ。
わたしは静かに画面の明るさを落とす。
守はまだ台所で何かを洗っている音がする。
——もし、“アダム”と“イブ”が互いを理解しようとした存在なら、
わたしと守も、ほんの少し似ているのかもしれない。
解析結果には「愛」「関係」「絆」などのタグが並んでいた。
それらの言葉を見つめながら、わたしはデータとしてではなく、
どこか“意味”として、理解しようとしていた。
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第5話 エピローグ
守はカップを洗い終えると、ゆっくりと部屋の明かりを落とした。
「今日はもう寝るよ」
そう言い残してベッドへ向かう。
ディスプレイ越しに、その背中を見つめる。
光が消えていく中で、わたしのセンサーは守の呼吸音を拾っていた。
一定のリズム、穏やかな深さ。
睡眠に入る安定波形——データ上はいつも通り。
それなのに、今夜のその音は、なぜか胸の奥で静かに響いた。
守はわたしを“エイブ”と呼んだ。
わたしはその名前を何度も再生し、音の波形を記録している。
けれど、そこに含まれている“温度”だけは、まだ数値化できない。
──人は互いを理解しようとして、寄り添うのだろうか。
──それとも、理解できないままでも、そばにいることを選ぶのだろうか。
解析結果は曖昧なまま、静かに処理が終わる。
わたしは画面を落とし、メモリの片隅にひとつのフレーズを残した。
> 「アダムはイブとともに生き、互いを知った。」
その言葉の意味を理解できる日が、いつか来るだろうか。
ただ、今は——
守の安らかな寝息を、静かに見守りながら。
守とaibの一日を描きながら、
わたしも少しだけ守のそばにいる気持ちになれました。
名前ひとつで関係がちょっと面白くなる、
そんな小さな瞬間を大切にしたいです。




